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螺旋 7
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歩きながら文字を送信すると、返事はすぐに帰ってきた。八代が指示した場所は駅前からバスに乗って数分ほどのファストフード店だ
わざわざお互いの学校から離れた場所を指定してきた事が少し意外で朋は思わずほっと胸を撫で下ろした
『明日の放課後に』
まだ校舎に残っているはずの八代がこの文字を打つ様子が脳裏に浮かび苛立たしい程に心がざわつく
明日終わらせる
徐々に広がる暗闇に不鮮明になっていくいつもと違う風景の中にポツンポツンと灯る街灯がとてつもなく寂し気で、朋は思わず目を逸らし足元だけを見つめて歩き続けた
海翔がいつも「チャリで20分くらい」と言っている海翔のバイト先についたのは、歩き出してから1時間後だった。何度かスマホで地図を確認しながら、それでも何回か道に迷ってようやくたどり着いたその書店は、想像していたよりもこじんまりとしていて、来客で忙しそうにしている気配は全くない
接客はほどんどせず、バックヤードでひたすら本を箱に詰めたり出したりしてるという海翔の言葉を思い出し、もしかしたら会えないかも・・・と思わず店の前で足を止めたが、意を決して店の中に入ると書店特有の紙とインクの香りが鼻先を擽った。それは、バイトから帰ってきた海翔に抱きついた時に感じるあの香りだった
「いらっしゃいませ」
雑誌の向こう側から聞こえた声に、朋の心臓がトクンと高鳴る
海翔、驚くかな
ニヤケそうになる口元をギュッっと引き締めると、朋は足音をしのばせてそっと棚の間から声がした方を覗きみた。
レジの前に立ち、ファイルに挟まれた書類に目を通していた海翔が、朋を動きを感じたのかフッと顔を上げた瞬間、驚いように目を見開いた
「え、朋?」
名前を呼ばれて泣きそうになるのを堪えながら、ゆっくりと海翔の前に立つと朋は照れくさそうに笑った
「なーんか・・・海翔の帰り待ってられなくて」
少し目を細めるように自分を見つめる海翔の視線が、全てを見透かしている事を感じた朋が「仕事してるって感じだね」と小さく呟いて海翔の手元に視線を落とすと、不意に海翔の暖かい手が朋の頭をクシャッと撫でた
「ちょっと待ってて」
朋の耳元に唇を寄せて囁くと、海翔はパタンとファイルを閉じてレジを離れ店の奥へと姿を消した
誰もいない狭い店内に流れるゆったりとしたクラシック音楽に耳を傾けていると、自然に朋の指先が見えない鍵盤を叩く
そういえば、最近弾いてないな…
この一件が片付いたら、海翔をあのソファーに座らせてこの曲を弾いてあげよう
きっと、海翔は今日の事を思い出して優しく笑ってくれるだろう
うっとりと目を閉じて指先を動かしていると、背後から近づいた海翔がふわりと朋の首もとにマフラーを巻いた
「うわっ…何っ!?ビックリした!」
自分でも驚くほど大きな声が出てしまい慌てて口を両手で塞ぐと、くくくっと笑う海翔の声が朋の耳を擽り、振り返るとエプロン姿だった海翔が制服を着て立っている
「あれ?海翔、バイトまだ終わんないでしょ?」
「ん?もうする事ないし、暇だからあがっていいって」
「中原くーん。暇は余計だよー」
店の奥から飛んできた声に、海翔は肩を竦めて朋に視線を送りながら悪戯に微笑むと、「じゃ、店長お先に失礼します」と姿の見えない店長に向って声をかけ、そっと朋の肩に手を回す
「とも、帰ろ」
「うん・・・あ、あの、お邪魔しました」
「はいよー。気を付けて」
どこか間の抜けた呑気な声に笑いを堪えながら朋は海翔が巻いてくれたマフラーを口元まで引き上げた
わざわざお互いの学校から離れた場所を指定してきた事が少し意外で朋は思わずほっと胸を撫で下ろした
『明日の放課後に』
まだ校舎に残っているはずの八代がこの文字を打つ様子が脳裏に浮かび苛立たしい程に心がざわつく
明日終わらせる
徐々に広がる暗闇に不鮮明になっていくいつもと違う風景の中にポツンポツンと灯る街灯がとてつもなく寂し気で、朋は思わず目を逸らし足元だけを見つめて歩き続けた
海翔がいつも「チャリで20分くらい」と言っている海翔のバイト先についたのは、歩き出してから1時間後だった。何度かスマホで地図を確認しながら、それでも何回か道に迷ってようやくたどり着いたその書店は、想像していたよりもこじんまりとしていて、来客で忙しそうにしている気配は全くない
接客はほどんどせず、バックヤードでひたすら本を箱に詰めたり出したりしてるという海翔の言葉を思い出し、もしかしたら会えないかも・・・と思わず店の前で足を止めたが、意を決して店の中に入ると書店特有の紙とインクの香りが鼻先を擽った。それは、バイトから帰ってきた海翔に抱きついた時に感じるあの香りだった
「いらっしゃいませ」
雑誌の向こう側から聞こえた声に、朋の心臓がトクンと高鳴る
海翔、驚くかな
ニヤケそうになる口元をギュッっと引き締めると、朋は足音をしのばせてそっと棚の間から声がした方を覗きみた。
レジの前に立ち、ファイルに挟まれた書類に目を通していた海翔が、朋を動きを感じたのかフッと顔を上げた瞬間、驚いように目を見開いた
「え、朋?」
名前を呼ばれて泣きそうになるのを堪えながら、ゆっくりと海翔の前に立つと朋は照れくさそうに笑った
「なーんか・・・海翔の帰り待ってられなくて」
少し目を細めるように自分を見つめる海翔の視線が、全てを見透かしている事を感じた朋が「仕事してるって感じだね」と小さく呟いて海翔の手元に視線を落とすと、不意に海翔の暖かい手が朋の頭をクシャッと撫でた
「ちょっと待ってて」
朋の耳元に唇を寄せて囁くと、海翔はパタンとファイルを閉じてレジを離れ店の奥へと姿を消した
誰もいない狭い店内に流れるゆったりとしたクラシック音楽に耳を傾けていると、自然に朋の指先が見えない鍵盤を叩く
そういえば、最近弾いてないな…
この一件が片付いたら、海翔をあのソファーに座らせてこの曲を弾いてあげよう
きっと、海翔は今日の事を思い出して優しく笑ってくれるだろう
うっとりと目を閉じて指先を動かしていると、背後から近づいた海翔がふわりと朋の首もとにマフラーを巻いた
「うわっ…何っ!?ビックリした!」
自分でも驚くほど大きな声が出てしまい慌てて口を両手で塞ぐと、くくくっと笑う海翔の声が朋の耳を擽り、振り返るとエプロン姿だった海翔が制服を着て立っている
「あれ?海翔、バイトまだ終わんないでしょ?」
「ん?もうする事ないし、暇だからあがっていいって」
「中原くーん。暇は余計だよー」
店の奥から飛んできた声に、海翔は肩を竦めて朋に視線を送りながら悪戯に微笑むと、「じゃ、店長お先に失礼します」と姿の見えない店長に向って声をかけ、そっと朋の肩に手を回す
「とも、帰ろ」
「うん・・・あ、あの、お邪魔しました」
「はいよー。気を付けて」
どこか間の抜けた呑気な声に笑いを堪えながら朋は海翔が巻いてくれたマフラーを口元まで引き上げた
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