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螺旋

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海翔の部屋を後にして自室に戻り泣きながら眠ってしまった朋は、寮の中に賑やかに響く声で目を覚ました

 あぁ・・・陸たちが帰ってきた

窓から差し込む街灯の明かりに腕時計をかざすと、夜の10時を過ぎている

「今からラーメンかよ」

呟きながら身を起こすと大きくため息をついた

「行きたくないなぁ」

犬飼と顔を合わせたら露骨な態度を取ってしまう自分が容易く想像できてしまう
どんな言い訳を聞いても、「なるほどね」と軽く返せる訳がない
 
 よりによって海翔の目の前で あの人頭おかしいんじゃねーの?

心の中で悪態をつきながら立ち上がると、着替えようとパーカーのジップに手を伸ばした

 あ・・・そうだ・・・これ、海翔の・・・

パーカーを着た朋を見て目を細めた海翔の顔を思い出し、胸がギュッと痛んで呼吸ができない
ゆっくりとパーカーを脱ぐと、それを胸の前で抱きしめながら鼻先を埋める

 海翔の匂い

目を閉じて海翔を感じたあの時、海翔はどんな表情をしていたのだろうか
愛しそうな顔を想像していたが、もしかしたら泣いていたかもしれない。苦しそうに眉間に皺を寄せていたかも知れない。でも、いつだって海翔は、朋にそういう顔を見せてくれない
あの日食堂で、退院した海翔が口を開いた時だってそうだった

信じてると言った言葉の裏の、信じて欲しい気持ちを、海翔に伝えたかった

 どんな海翔だってありのままを受け入れるのに

喉もとが微かに震えまた泣きそうになるのを朋はグッと堪える

 僕が泣いてばかりいるから、海翔が泣けないんだ

本当は部屋に閉じこもって犬飼に会わないで過ごす方法を考えたかった
いっその事、海翔を部屋から引きずり出して2人でこの状況から逃げ出したかった

『今日だけは』と絞り出すように言った海翔の声を思い出す

 僕らが逃げる理由なんてない

お互いがたった1人に抱いたこの想いが間違いだなんて誰にも言わせない
その想いから生まれる不安も嫉妬も怒りも全部肯定してみせる

朋はパーカーから顔を上げると、ベッドの上にそっとパーカーを置いて着替え始めた

きっと犬飼はあの3人の前でさっきの話に触れる事はしないだろう
何か言いた気な視線を朋に向けても素知らぬ顔をすればいい

 絶対に泣かない

着替え終わると、朋はゆっくり深呼吸をしてから海翔のパーカーを手に取り袖を通す
さっきまでそこにあった海翔の温もりを思い出しながらジップを上げると、ゆっくりとドアを開けて廊下に出る
食堂から聞こえる賑やかな話し声から隔離されたようにひっそりとした冷たさに満たされた廊下で、朋は海翔の部屋を振り返る
閉ざされたドアをこじ開けて海翔の腕に包まれたい
でも、今夜は僕が海翔の盾になる

朋は唇をギュッと噛みしめて食堂への階段へと向きを変えた
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