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喧騒 2
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朋のピアノの音で目覚めた海翔が欠伸をしながら階段に向かうと、食堂から朋と犬飼の話し声が聞こえた
よかった・・・
内心ホッとしながらゆっくり階段を下りると、それに気づいた朋が振り返り
「海翔おはよー」と屈託のない笑顔を見せた
「おはようございます」
朋の前に座ってコーヒーカップを手に持っていた犬飼が、それをトンとテーブルに置くと立ち上がった
「おはようございます」
海翔は犬飼に返事をすると、座っている朋の頭に手を乗せながら隣の席についた
「朋、おはよ」
朋に顔を寄せて耳元で囁くと、朋は首をすくめて、くすぐったい、と笑った
「お前、さっきピアノ弾いてなかった?」
犬飼が温めてきた朝食を受け取りながら海翔が朋に尋ねる
「弾いてた」
「あ、そ。夢かと思った」
「夢にも僕出てくる?」
「さあね」
海翔が意地悪く笑うと、朋はサッと海翔の皿の上にあったミニトマトをつまんで自分の口に放り込んだ
「サンキュ」
「ふふふふ」
顔を見合わせて笑っている2人に、犬飼が呆れた声を出した
「朋君ダメですよ。海翔君にちゃんとトマト食べさせないと」
海翔はトマトが苦手なのだ
「いいの、僕、甘やかしたい人だから」
「よく言うよ」
海翔はコツンと朋の頭を叩くと、また席についた犬飼に
「陸たち何時に帰ってくるんだっけ?」と尋ねた
「恐らく夜遅くだと思いますよ」
「ふーん・・・犬飼さん帰るの?」
「いえ、さっき陸くんから『ラーメン食べたい』ってSNSが来たので帰るのを待って作ります」
「ラーメンやった!」
口いっぱいにトーストを頬張りながら朋はそう言うと、カフェオレで流し込みながら立ち上がった
「あれ?朋、今日早いんだっけ?」
「うん、生徒指導の日だから」
「あーそっか・・・」
「ごちそうさま!」
音を立てて椅子を戻すと、ソファーに置いたリュックを片方の肩に掛けながら
「じゃぁ、海翔、先に行くね!」と海翔を振り返った後部屋を出ようとした
「朋!」
海翔が慌てたように朋を呼び止める
「ん?」
「あの・・・あいつ気をつけろよ」
珍しく海翔が口ごもる
「あいつ?」
「深見沢の・・・」
「あぁ・・・」
立ち止まったまま海翔の言葉を頭の中で反芻するように視線を泳がせていた朋は、海翔の言いたい事を理解してフッと微笑むと、掴んでいたドアノブから手を離し、海翔の元へ戻りその唇にゆっくり唇を重ねた後
「大丈夫だよ」と耳元で囁いた
「何かあったら・・・」と言いかけた海翔の頭を軽く叩くと
「分かった分かった」と笑いながら、いってきまーす!と部屋を出て行った
朋の後ろ姿を見つめていた海翔が、フーッとため息をついてテーブルの方に向き直ると、じっと自分を見つめている犬飼と目が合った
「あ・・・」
静かな犬飼の視線に、海翔は急に居心地の悪さを感じて犬飼から目を逸らすと、黙って俯き箸を動かした
「海翔君」
意味ありげな声色の犬飼に、暫く俯いていた海翔は降参したように箸をおくと
「はいはい、分かりました」と顔を上げた
「朋君に話したんですね?」
「うん、話した」
「言わないでとお願いしたのに」
「それ・・は・・ごめん」
神妙な顔で頭を下げた海翔の向こうで、犬飼の小さな笑い声が聞こえた
「あれ・・・怒ってない?」
「怒ってないですよ。海翔君なら話すだろうな、と思っていました」
「なんだよそれ」
そう言いながら海翔は安心したような笑顔を見せた
「私は朋君から海翔君を奪うつもりは無いと伝えておきました。朋君の事も好きだと」
「え・・・そうなんだ・・・」
思わぬ犬飼の言葉にどんな反応をしたらいいか分からず、海翔は手元のコーヒーカップを手にした
朋の事を想って眠れない夜を過ごした日々を思い出す
「それで・・・いいの?」
手元を見つめながら、海翔がボソッと言った
「いいです。それで」
顔を上げた海翔に見せた犬飼の笑顔に、海翔は何故かまた胸が痛んだ
それを悟られないように目を逸らすと、黙ってコーヒーカップに口をつけた
「ところで」
そんな海翔の胸の内を察したように犬飼が話題を変える
「気をつけろ、って何ですか?」
「あぁ・・・」
海翔は犬飼に話していいのか、と一瞬躊躇したが、朋に万が一何かあったら・・・と思い直し、朋につきまとっている八代という名前の男子高校生の話をした
犬飼は口を挟まず静かに頷きながら海翔の話を聞き終えると、そうですか・・と小さくため息をついて顔を上げた
「多分私は彼を知っています」
「え?」
「見慣れない制服の男の子を寮の近くで・・・何度も」
「まじか・・・」
「ここの誰かを待っているのかな?と声をかけようと思った事もありましたが、待っている感じでもなかったので声はかけませんでした」
「朋・・・大丈夫かな・・・」
心配そうな顔でテーブルの上に置かれていたスマートフォンに手を伸ばした海翔を諭すような声で
「大丈夫ですよ」と目を細めた
「何でそう言い切れるんだよ」
そんな犬飼に、苛立ちが混じった声で海翔はそう言うと険しい目を向けた
「俺の『好き』は、あいつの為なら人殺しだって出来る、そういう『好き』なんだ」
「海翔君・・・」
「もしかしたら、八代って奴だってそうかも知れないだろ?」
突然自分に突きつけられた刃に犬飼は黙り込んだ
何て目で俺を見るんだ
自分の気持ちと向き合う事に恐れをなしてばかりの俺に、どうしてそんなまっすぐな思いを見せつけてくるんだ
犬飼はそう叫びそうになるのをグッと押さえて
「事態を軽く見ている訳ではありませんよ」と低い声で言った
「もちろん、私もこれからは朋君の身辺に注意するつもりでいます、だから・・・」
「別に」
犬飼の言い訳のような言葉を海翔が遮った
「別に犬飼さんを責めてる訳じゃないよ。ただ・・・」
そこまで言うと、海翔は息を整えるように言葉を切ってカップの底に残ったコーヒーを飲み干すと、自分に言い聞かせるような密やかな声で
「俺は朋が大事なんだ・・・誰にも触れさせたくない・・・それだけ」と呟くと、フッと笑って席を立った
「犬飼さんの『好き』と俺の『好き』って、やっぱ違うんだな」
ゆっくりと視線を上げてそう言った海翔の言葉に犬飼の胸が小さく脈打った
今何かを言わないと海翔を失ってしまうような焦りを感じて思わず椅子から立ち上がったが、何も言葉が出てこない
言葉にならない思いが胸の中で絡まっていく感覚に、犬飼は握り締めた自分の手を見つめた
「海翔君・・・」
「ごめん」
「え・・・?」
「俺、今、八つ当たりしてる」
犬飼がそっと視線を海翔に戻すと、海翔は困ったような顔で笑みを浮かべて首をすくめた
「そろそろ学校いくよ」
「あ・・・そうですね・・・」
海翔の言葉に犬飼は曖昧な笑顔を見せた
「力になれる事があったら・・・言ってください」
「犬飼さん・・・」
「夜はラーメンですよ」
「・・・うん」
声は平静を保っていたが、犬飼の手が強く握り締められているのを海翔は見逃さなかった
もしかしたら自分は今、犬飼を傷つけてしまったかもしれない・・・と深く後悔しながら、海翔は、行ってきますと小声で言うと、その場から逃げるようにリュックを持ち上げて食堂を後にした
「いってらっしゃい」
犬飼の声を背中で聞きながら、海翔はギュッと奥歯を噛みしめた
よかった・・・
内心ホッとしながらゆっくり階段を下りると、それに気づいた朋が振り返り
「海翔おはよー」と屈託のない笑顔を見せた
「おはようございます」
朋の前に座ってコーヒーカップを手に持っていた犬飼が、それをトンとテーブルに置くと立ち上がった
「おはようございます」
海翔は犬飼に返事をすると、座っている朋の頭に手を乗せながら隣の席についた
「朋、おはよ」
朋に顔を寄せて耳元で囁くと、朋は首をすくめて、くすぐったい、と笑った
「お前、さっきピアノ弾いてなかった?」
犬飼が温めてきた朝食を受け取りながら海翔が朋に尋ねる
「弾いてた」
「あ、そ。夢かと思った」
「夢にも僕出てくる?」
「さあね」
海翔が意地悪く笑うと、朋はサッと海翔の皿の上にあったミニトマトをつまんで自分の口に放り込んだ
「サンキュ」
「ふふふふ」
顔を見合わせて笑っている2人に、犬飼が呆れた声を出した
「朋君ダメですよ。海翔君にちゃんとトマト食べさせないと」
海翔はトマトが苦手なのだ
「いいの、僕、甘やかしたい人だから」
「よく言うよ」
海翔はコツンと朋の頭を叩くと、また席についた犬飼に
「陸たち何時に帰ってくるんだっけ?」と尋ねた
「恐らく夜遅くだと思いますよ」
「ふーん・・・犬飼さん帰るの?」
「いえ、さっき陸くんから『ラーメン食べたい』ってSNSが来たので帰るのを待って作ります」
「ラーメンやった!」
口いっぱいにトーストを頬張りながら朋はそう言うと、カフェオレで流し込みながら立ち上がった
「あれ?朋、今日早いんだっけ?」
「うん、生徒指導の日だから」
「あーそっか・・・」
「ごちそうさま!」
音を立てて椅子を戻すと、ソファーに置いたリュックを片方の肩に掛けながら
「じゃぁ、海翔、先に行くね!」と海翔を振り返った後部屋を出ようとした
「朋!」
海翔が慌てたように朋を呼び止める
「ん?」
「あの・・・あいつ気をつけろよ」
珍しく海翔が口ごもる
「あいつ?」
「深見沢の・・・」
「あぁ・・・」
立ち止まったまま海翔の言葉を頭の中で反芻するように視線を泳がせていた朋は、海翔の言いたい事を理解してフッと微笑むと、掴んでいたドアノブから手を離し、海翔の元へ戻りその唇にゆっくり唇を重ねた後
「大丈夫だよ」と耳元で囁いた
「何かあったら・・・」と言いかけた海翔の頭を軽く叩くと
「分かった分かった」と笑いながら、いってきまーす!と部屋を出て行った
朋の後ろ姿を見つめていた海翔が、フーッとため息をついてテーブルの方に向き直ると、じっと自分を見つめている犬飼と目が合った
「あ・・・」
静かな犬飼の視線に、海翔は急に居心地の悪さを感じて犬飼から目を逸らすと、黙って俯き箸を動かした
「海翔君」
意味ありげな声色の犬飼に、暫く俯いていた海翔は降参したように箸をおくと
「はいはい、分かりました」と顔を上げた
「朋君に話したんですね?」
「うん、話した」
「言わないでとお願いしたのに」
「それ・・は・・ごめん」
神妙な顔で頭を下げた海翔の向こうで、犬飼の小さな笑い声が聞こえた
「あれ・・・怒ってない?」
「怒ってないですよ。海翔君なら話すだろうな、と思っていました」
「なんだよそれ」
そう言いながら海翔は安心したような笑顔を見せた
「私は朋君から海翔君を奪うつもりは無いと伝えておきました。朋君の事も好きだと」
「え・・・そうなんだ・・・」
思わぬ犬飼の言葉にどんな反応をしたらいいか分からず、海翔は手元のコーヒーカップを手にした
朋の事を想って眠れない夜を過ごした日々を思い出す
「それで・・・いいの?」
手元を見つめながら、海翔がボソッと言った
「いいです。それで」
顔を上げた海翔に見せた犬飼の笑顔に、海翔は何故かまた胸が痛んだ
それを悟られないように目を逸らすと、黙ってコーヒーカップに口をつけた
「ところで」
そんな海翔の胸の内を察したように犬飼が話題を変える
「気をつけろ、って何ですか?」
「あぁ・・・」
海翔は犬飼に話していいのか、と一瞬躊躇したが、朋に万が一何かあったら・・・と思い直し、朋につきまとっている八代という名前の男子高校生の話をした
犬飼は口を挟まず静かに頷きながら海翔の話を聞き終えると、そうですか・・と小さくため息をついて顔を上げた
「多分私は彼を知っています」
「え?」
「見慣れない制服の男の子を寮の近くで・・・何度も」
「まじか・・・」
「ここの誰かを待っているのかな?と声をかけようと思った事もありましたが、待っている感じでもなかったので声はかけませんでした」
「朋・・・大丈夫かな・・・」
心配そうな顔でテーブルの上に置かれていたスマートフォンに手を伸ばした海翔を諭すような声で
「大丈夫ですよ」と目を細めた
「何でそう言い切れるんだよ」
そんな犬飼に、苛立ちが混じった声で海翔はそう言うと険しい目を向けた
「俺の『好き』は、あいつの為なら人殺しだって出来る、そういう『好き』なんだ」
「海翔君・・・」
「もしかしたら、八代って奴だってそうかも知れないだろ?」
突然自分に突きつけられた刃に犬飼は黙り込んだ
何て目で俺を見るんだ
自分の気持ちと向き合う事に恐れをなしてばかりの俺に、どうしてそんなまっすぐな思いを見せつけてくるんだ
犬飼はそう叫びそうになるのをグッと押さえて
「事態を軽く見ている訳ではありませんよ」と低い声で言った
「もちろん、私もこれからは朋君の身辺に注意するつもりでいます、だから・・・」
「別に」
犬飼の言い訳のような言葉を海翔が遮った
「別に犬飼さんを責めてる訳じゃないよ。ただ・・・」
そこまで言うと、海翔は息を整えるように言葉を切ってカップの底に残ったコーヒーを飲み干すと、自分に言い聞かせるような密やかな声で
「俺は朋が大事なんだ・・・誰にも触れさせたくない・・・それだけ」と呟くと、フッと笑って席を立った
「犬飼さんの『好き』と俺の『好き』って、やっぱ違うんだな」
ゆっくりと視線を上げてそう言った海翔の言葉に犬飼の胸が小さく脈打った
今何かを言わないと海翔を失ってしまうような焦りを感じて思わず椅子から立ち上がったが、何も言葉が出てこない
言葉にならない思いが胸の中で絡まっていく感覚に、犬飼は握り締めた自分の手を見つめた
「海翔君・・・」
「ごめん」
「え・・・?」
「俺、今、八つ当たりしてる」
犬飼がそっと視線を海翔に戻すと、海翔は困ったような顔で笑みを浮かべて首をすくめた
「そろそろ学校いくよ」
「あ・・・そうですね・・・」
海翔の言葉に犬飼は曖昧な笑顔を見せた
「力になれる事があったら・・・言ってください」
「犬飼さん・・・」
「夜はラーメンですよ」
「・・・うん」
声は平静を保っていたが、犬飼の手が強く握り締められているのを海翔は見逃さなかった
もしかしたら自分は今、犬飼を傷つけてしまったかもしれない・・・と深く後悔しながら、海翔は、行ってきますと小声で言うと、その場から逃げるようにリュックを持ち上げて食堂を後にした
「いってらっしゃい」
犬飼の声を背中で聞きながら、海翔はギュッと奥歯を噛みしめた
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