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亀裂 5

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2人が階段を下りると、薄暗くなった食堂のテーブルの上に料理が置いてあるのが分かった

「まじ腹減った」

海翔がそう言いながら部屋の明かりをつけると、テーブルの上にあったメモを手にしてプッと吹いた

「なに?」

大きな掃き出し窓のカーテンを閉めながら朋が振り向く

「鍋におでん」

と、言いながら海翔がそのメモを朋に見せると、「名言っぽい」と朋がぎこちなく笑った

 まぁ、すぐに今まで通りって訳にもいかないか・・・

海翔はキッチンへ入ると鍋に火をつけた
一緒に入ってくるだろうと思っていた朋がなかなか姿を現さないのを不審に思い、チラリと食堂を覗くと、朋はピアノの前に座って鍵盤の蓋を開けたところだった

 機嫌は直ったみたいだな

すぅーっと小さく息を吸う音が聞こえた後、ゆっくりとピアノの音色が流れる

海翔は鍋の前に戻ると目を閉じてピアノの音に耳を傾けた

初めて朋と会ったのは、入寮前の説明会だ

親同士深々と頭を下げて挨拶を交わしている横で、海翔たち小さく会釈しあっただけで目も合わせなかった
視線を泳がせながら、何となくお互いを観察しているような妙な緊張感があった

身長は海翔より少し低く、癖のあるゆるやかにうねった細い髪、スラリと伸びた手足と白い肌
時々チラリ両親に向ける眼差しが、何だか怯えた子犬のように見えた

内覧を終えて食堂に戻った時、ピアノの前で両親に咎められ俯いた朋の切ない表情を見て海翔の胸が激しく痛んだ

あの痛みは今でもはっきりと覚えている

説明会が終わった時、犬飼が朋に向けて合図を送った瞬間に見せた朋の笑顔にそれまで誰にも感じた事のない愛しさを感じた自分に海翔は動揺した

自宅に帰ってからもあの笑顔が忘れられず、悶々と眠れない夜に何度も寝返りをうった

 こんなのおかしいだろ・・

そう否定すればするほど朋の存在が自分の中で大きく育っていくのを止める事が出来ないまま、入寮の日、海翔は朋と再会する

「よろしくね」

初めての夕食で海翔の隣に座った朋は小さな声で話かけてくると遠慮がちに手を差し出した

「よろしく」

胸の高鳴りを悟られないように低い声で答えながらそっと握った朋の手は想像していたよりも華奢で小さかった

 この手を、朋を、朋の全てを自分のものにしたい

海翔はその瞬間、ずっと自分を苦しめてきた感情を素直に認めた

 ダメだ・・俺、本気でこいつのこと好きだ

嬉しそうに目を細めながら海翔の顔を見つめた朋を抱きしめたい衝動に駆られながら海翔はそっと朋の手を離した

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