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海翔と朋 5

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 変な奴

朋は歩きながら、『八代』と名乗った彼の事を思い出そうとしたが、もう顔さえも思い出せず苦笑いした

 それどころじゃないし

暫く歩き続け、角を曲がって寮の門を視線に捉えると足を速めて門を通った

 犬飼さん、まだいるのかな

シュークリームを二つしか買わなかった事を少し後悔しながら玄関を開ける

「ただいまー」

静まり返った玄関に朋の声が響いた

玄関の扉の鍵が開いていたという事は、犬飼がいるはずなのに、いつもキッチンから聞こえる『おかえりなさい』という声が聞こえなかった

 海翔に何かあったのかな・・・

急に不安になった朋は急いでスニーカーを脱ぐと、そのまま走って2階の海翔の部屋へ向かった

階段を上がり海翔の部屋の前に立つと、少しドアが開いていた

「海翔?犬飼さん?」

声を潜めてそっとドアを開け部屋の中に入ると、ベッドで寝ている海翔と、その横に置かれた椅子に座りベッドにうつ伏せになっている犬飼の背中が見えた

 2人して寝ちゃってるんだ・・・

少しホッとした朋は、足音をたてないようにゆっくり2人に近づいて犬飼の背後から海翔の寝顔を覗き込んでハッと息を飲んだ
毛布の上に出ている海翔の手を犬飼が握り締めているように見えた

 えっ?

息もできないほど、鼓動が速くなる

何かの見間違いかと思い目を凝らしたが、間違いなく2人は手を握り合っていた


「え・・・なにこれ・・・」

苦しくなる呼吸を抑えるように胸元のワイシャツをギュッと掴んで朋が呟くと、その声に気付いて顔を上げた犬飼がベッドから体を起こして振り返った

「あ・・・朋くん、おかえりなさい」

いつもと同じ優しい笑顔の犬飼に、朋は言葉を返す事ができずに後ずさる

「ん?朋くん、どうかしましたか?」

明らかに動揺している朋に気付いて、犬飼が心配そうな顔をして立ち上がった
海翔の手を握っていた犬飼の手が自然に離れる
まるで、手を握っていた事を忘れていたかのように

「朋くん?」

言葉を失ったまま立ちすくんでいる朋に犬飼が手を伸ばした瞬間

「う・・ん」と、海翔が目を覚ました

海翔は眩しそうに顔をしかめながら目を開けると、朋に気付いて上半身を起こした

「朋、お帰り。生徒会、終わった?」

朝、寮を出てから帰ってくるまで、ずっとずっと聞きたかった海翔の声に、朋は一瞬顔をゆがめて海翔に駆け寄ると海翔にギュッと抱きついた

「え?なになに?なんだよ、朋」

海翔は驚いて目を大きく見開いたが、抱きついた朋の肩が小さく震えているのに気付くと、ゆっくりと朋を抱きしめた

「泣き虫くん、何かあった?」

朋は海翔の胸に顔を押し付けたまま何も言わずに小さく首を振った

そんな2人の様子を暫く見つめていた犬飼が

「じゃぁ、私は仕事に戻りますね」と、そっと2人に声をかけた


「朋くん、お昼ご飯は・・・」

犬飼が言葉を言い終わるより早く

「いらない」と、朋が答えた

「そうですか・・・」

朋の不機嫌な声に戸惑いながら、犬飼は、じゃあ下にいますから・・・と言い残して部屋を出て行った

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