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海翔と朋 2

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「じゃあ、海翔君の退院を祝して」

テーブルに着いた寮生たちを見回しながら、犬飼がグラスを持ち上げて言った

「乾杯」

寮生たちは控え目な声を出すとそっとグラスを合わせる

祝いの席とは思えないほど静かな夕食だった
朋は『フォローしますから』と言っていた犬飼のフォローを待ったが犬飼は澄ました顔で箸を進めている

 どうすんだよ、これ

そんな犬飼をチラチラを見ながら、陸が心の中で舌打ちをした時、目の前に座っていた海翔が静かに箸を置くと口を開いた

「あの・・・」

全員が一斉に箸を止めて海翔を見た

「退院したら、ここで何を言おうかずっと考えてた」

誰に言うのでもなく、テーブルの一点を見つめながら海翔が続ける

「俺は今の状況を嘆いたりしてないから・・・・」

海翔はゆっくり顔を上げた

「野球は好きだけど、もう野球は出来ないって事、悲観してないんだ・・」

言葉を選ぶように1人1人の顔を見ながら海翔は少し困ったように笑った

「うまく言えないな・・・」

「大丈夫ですから。続けてください」

犬飼が優しく先を促す

「うん。正直言うと、野球からも親からも解放されてホッとしてる。本当に、ホッとしてる・・・」

自分の気持ちを確かめるように繰り返すと、海翔は小さく微笑んでから犬飼を見て

「だから・・・改めて、よろしくお願いします」と、頭をさげた

「こちらこそ」

と、犬飼が柔らかい声で答える

「みんなも・・・よろし・・・・」

海翔がハッとしたように言葉を止めた
俯いて聞いていた全員が顔を上げて海翔の視線を辿ると、海翔の横に座っていた朋だけが俯いたまま声を殺して泣いていた
くせ毛の柔らかな髪が小刻みに震えている

「広瀬くん・・・」

朋の顔を覗き込むようにして、海翔はそっと朋の名前を呼んだ

「あ・・・あの、ごめん・・・ぼく・・・・」

朋は慌てたように涙をゴシゴシと拭くと、顔を上げずにガタンと椅子を鳴らして立ち上がり、その場から逃げるようにテーブルから離れ階段を駆け上がっていった

「どうしよう」

海翔が犬飼に困った顔で問いかけた

「朋君自身も部活の件で色々ありましたから・・・今日はそっとしておきましょう」

犬飼はそう言うと、ゆっくり立ち上がり

「じゃ、食事早く召し上がって下さい。冷めちゃいますから」と促した

「そうだよ、食おうぜ」

悠太が明るい声で言うと、海翔も小さく頷いて再び箸を動かした

「あ、そういえば、中原・・・」
陸がから揚げを頬張りながら海翔を見て言った

「海翔でいいよ」

「そ・・・そうか?じゃぁ・・海翔、朋、生徒会長になったの知ってるか?」

「え・・・?」

「先週の校内選挙でさ、生徒会の運営部員になったんだけどその後新しい生徒会長の留学が決まっちゃってさ。代理を立てる事になったらしいんだけど、その生徒会長が何故が朋推しで、生徒会長代理に任命されたらしいぜ」


「へぇ・・・大変だな」

「大変っつーか、うちの生徒会長っつったら、学校のボスだぜ。教師も頭上がんないらしい」
手を伸ばして取った醤油を餃子にかけながらそう言った陸が、ふとその手を止めてキッチンへ向かった犬飼の背中に声をかけた

「てかさ、犬飼さん、何なの今夜のメニュー」

陸の言葉に全員が手を止めてまじまじとテーブルの料理を見回した

から揚げ、ぎょうざ、ハンバーグ、刺身、オムライス
レストランのメインメニューを上から順番に並べたようなラインナップだ

「あぁ・・・今夜のメニューは・・・」

クルリと振り向き、犬飼が得意気な顔で言った

「入寮する前のアンケートで、皆さんが書いた好きな食べ物を全部作ってみました」

「うわぁ・・・・」

雅也が呆れたような声を出して

「すげーっていうか、雑っていうか・・・」と呟いた

海翔がプッと吹き出すと

「朋君はお寿司って書いてあったんですけどね、予算的にお寿司は厳しかったのでお刺身です」

そう説明すると、キッチンへ入っていった

「早く食べないと、全員で皿洗いですよ」

と、キッチンから声が聞こえて、海翔たちは顔を見合わせると慌てて料理を口の中に放り込んだ





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