君の唇がさよならと告げる前に

HAZZA

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まなざし

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懐かしい日々を思い出しながらぼんやり窓の外をながめていた犬飼は、流れる景色の中の見慣れた街並みに気づき、海翔の手をそっと離した後、肩の位置を気にしながら「海翔くん」と、小さな声で呼びかけた

海翔の薄く開いた唇から穏やかな寝息が漏れる

「海翔くん、そろそろ着きますよ」

犬飼の何度目かの呼びかけで、海翔は
「うう…ん」と犬飼の肩に預けていた頭を起こした

「門の前でいいですか?」と問いかける運転手に
犬飼は「中に入ってください」と答えてから、
「大丈夫ですか?」
と、海翔の顔を伺った

「あー…うん…眠くてよく分かんない」

目を閉じたまま首を左右に曲げながら言った海翔に苦笑した
相変わらず顔色はよくない

 すぐに休ませてあげないと

タクシーは寮の門を入る

犬飼が腕時計を確認すると18時前だった 

「今日は遅くなるから、犬飼さん帰ってていいよ」
と、今朝朋が言っていたのを思い出しかながら、これからの仕事の段取りを考えた

犬飼は玄関前に停車したタクシーから降りると、反対側のドアに回り海翔を降ろし、相変わらず足元がおぼつかない海翔を支えながら運転手にお礼を告げた

玄関前にたどり着き、「今開けますから」と、エプロンのポケットから鍵を出そうとしたその時、誰もいないはずの寮の中から、パタパタと玄関に向かって来る足音が聞こえ、ガチャっと乱暴にドアが開いた

スリッパのままドアを開けて飛び出してきたのは、朋だった

「海翔!!!!」

突然朋に抱きつかれて、海翔の体がグラリと後ろに傾く
犬飼が慌てて海翔の背中に手を添える

「朋…」

海翔の表情が不意に和らぐと、困ったように眉を潜めながら優しく朋を抱き締めた

「全然連絡来ないし、電話しても出てくれないし…」

海翔の胸に顔を押し付けたまま言葉を失った朋の肩が小さく震えている

「ごめん、朋…泣かないで」

この二人は、今まで見てきた誰とも違う

温かさと切なさが入り雑じった感情に襲われて不意にもらい泣きしそうになった犬飼だったが、その感情を押し戻すように「中に入りましょう」と二人の背中にそっと手を置いてから、先に寮の中へ入っていった

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