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羽音 6
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犬飼が温めた食事をテーブルに並べていると、奥の階段から黒木と七尾が言葉を交わしながら降りてきた
「犬飼さん、遅くなってすいません。俺、寝ちゃったみたいで」
七尾が人懐っこい笑顔でテーブルの席につく
「いえ、今夜はなかなか仕事が終わらなくて」
犬飼は自分でも驚くほど自然に笑顔で答えた
ご飯持ってきますね、と犬飼がキッチンに戻ると、背後で黒木が
「ほら、お前も手伝うんだよ!」と七尾に言いながらキッチンに入ってきた
「いいですよ、お疲れでしょうから」
「あいつは寝てたから疲れてないですよ」
黒木が屈託なく笑いながら犬飼から茶碗を受け取る
「え、俺は何運ぶの?」
「じゃぁ、七尾君は味噌汁を」
犬飼はそう言うと味噌汁の入った器を七尾に渡した
「熱いですよ」
「ほんとだっ!あちちち」
七尾はそう言いながら摺り足でテーブルに戻っていく
「私は洗い物をしてますから、足らないものがあったら言ってください」
キッチンから声をかけると、
はーい!いただきます!と返事が聞こえた
洗った食器を片付けていると、食堂から二人の楽しげな声が聞こえてきた
犬飼が食堂の方に目を向けると、すでに就寝している仲間に遠慮しているのか、頭を寄せ合い声を潜めてクスクスと笑ながら食事をしている
穏やかで優しい時間だ
犬飼は静かに通りすぎる蝶の羽音のような密やかな二人の笑い声に、ふとそう思った
多分二人は、理屈ではなくお互いが求めていた心の拠り所を相手に見つけたのだろう
それを愛と呼ぶのであれば、もっと深くもっと強く自分の気持ちを伝えたいと思うのは自然な事なのかもしれない
でも
犬飼はあの日逃げるようにその場を去った自分を思い出す
同性同士の恋愛が異性同士のそれと同じように当たり前には世間に受け入れられていない事も、彼らはちゃんと分かっているはずだ
秘めた思いを隠しながら、真夜中までじっと息を潜めている彼らを思うと、不覚にも切なさが込み上げてきた
いい子たちなんだ
犬飼は二人の穏やかな時間の中に身を置いて初めて、あの夜、自分がとんでもない事実を知ってしまったと慌てふためいた事を恥じた
どんな目で見ればいいのかとか、どう接すればいいのかとか、そんな考えは全く必要ないのだ
彼らがテーブルで自然に笑い合っているように、自分も自然に彼らを受け入れてあげればいい
きっとそれが彼らが望んでいる『管理人の犬飼さん』だから
「ごちそうさまでした」
ようやく片付けを終えてタバコを手に取った犬飼は急に声を掛けられて驚いた顔で振り返った
「あ、犬飼さん驚かせちゃった」
七尾がいたずらな顔で笑いながら、食器を流しに置くとトレーナーの裾を捲りあげた
「あ、いいですよ。明日まとめて洗いますから」
「大丈夫です。犬飼さん引き止めちゃったし」
七尾の後からキッチンに入ってきた黒木も自分の分の食器を置いて七尾の横に立つと
「俺が拭くから明良、洗って」
と、七尾の耳元で囁いた
ふふっ、と七尾が小さく笑って、勢いよく水を出す
犬飼はその笑顔につられるように笑うと手にしたタバコを窓辺に戻して二人に近づき
「内緒なんですけどね」
と、小声で話しかけた
「えっ?」
二人は同時に驚いたような声をあげる
「冷蔵庫に3つだけプリンが入っているんです。食べませんか?」
「食べます!!」
水音に紛れながら、キッチンに3人の小さな笑い声が響いた
「犬飼さん、遅くなってすいません。俺、寝ちゃったみたいで」
七尾が人懐っこい笑顔でテーブルの席につく
「いえ、今夜はなかなか仕事が終わらなくて」
犬飼は自分でも驚くほど自然に笑顔で答えた
ご飯持ってきますね、と犬飼がキッチンに戻ると、背後で黒木が
「ほら、お前も手伝うんだよ!」と七尾に言いながらキッチンに入ってきた
「いいですよ、お疲れでしょうから」
「あいつは寝てたから疲れてないですよ」
黒木が屈託なく笑いながら犬飼から茶碗を受け取る
「え、俺は何運ぶの?」
「じゃぁ、七尾君は味噌汁を」
犬飼はそう言うと味噌汁の入った器を七尾に渡した
「熱いですよ」
「ほんとだっ!あちちち」
七尾はそう言いながら摺り足でテーブルに戻っていく
「私は洗い物をしてますから、足らないものがあったら言ってください」
キッチンから声をかけると、
はーい!いただきます!と返事が聞こえた
洗った食器を片付けていると、食堂から二人の楽しげな声が聞こえてきた
犬飼が食堂の方に目を向けると、すでに就寝している仲間に遠慮しているのか、頭を寄せ合い声を潜めてクスクスと笑ながら食事をしている
穏やかで優しい時間だ
犬飼は静かに通りすぎる蝶の羽音のような密やかな二人の笑い声に、ふとそう思った
多分二人は、理屈ではなくお互いが求めていた心の拠り所を相手に見つけたのだろう
それを愛と呼ぶのであれば、もっと深くもっと強く自分の気持ちを伝えたいと思うのは自然な事なのかもしれない
でも
犬飼はあの日逃げるようにその場を去った自分を思い出す
同性同士の恋愛が異性同士のそれと同じように当たり前には世間に受け入れられていない事も、彼らはちゃんと分かっているはずだ
秘めた思いを隠しながら、真夜中までじっと息を潜めている彼らを思うと、不覚にも切なさが込み上げてきた
いい子たちなんだ
犬飼は二人の穏やかな時間の中に身を置いて初めて、あの夜、自分がとんでもない事実を知ってしまったと慌てふためいた事を恥じた
どんな目で見ればいいのかとか、どう接すればいいのかとか、そんな考えは全く必要ないのだ
彼らがテーブルで自然に笑い合っているように、自分も自然に彼らを受け入れてあげればいい
きっとそれが彼らが望んでいる『管理人の犬飼さん』だから
「ごちそうさまでした」
ようやく片付けを終えてタバコを手に取った犬飼は急に声を掛けられて驚いた顔で振り返った
「あ、犬飼さん驚かせちゃった」
七尾がいたずらな顔で笑いながら、食器を流しに置くとトレーナーの裾を捲りあげた
「あ、いいですよ。明日まとめて洗いますから」
「大丈夫です。犬飼さん引き止めちゃったし」
七尾の後からキッチンに入ってきた黒木も自分の分の食器を置いて七尾の横に立つと
「俺が拭くから明良、洗って」
と、七尾の耳元で囁いた
ふふっ、と七尾が小さく笑って、勢いよく水を出す
犬飼はその笑顔につられるように笑うと手にしたタバコを窓辺に戻して二人に近づき
「内緒なんですけどね」
と、小声で話しかけた
「えっ?」
二人は同時に驚いたような声をあげる
「冷蔵庫に3つだけプリンが入っているんです。食べませんか?」
「食べます!!」
水音に紛れながら、キッチンに3人の小さな笑い声が響いた
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