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羽音 4
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今日1日、街を眩しく照らしていた陽がゆっくりと姿を消していく
犬飼は耳元で海翔の吐息を感じながら、まだその役割を果たし切れていない街並みの灯りを目で追っていた
動いたり止まったりを繰り返している車の中で、海翔の前で組まれていた手が離れてパタリと犬飼の腿に置かれた
熟睡してるみたいだな
野球をしていたとは思えない、すらりとした長い指先が美しい手だった
犬飼はバックミラーで運転手の様子を伺いながら、気付かれないようにそっと腕をずらして自分の手を海翔の手に重ねた
熱く熱を持っているかと思っていた海翔の手は氷のように冷たかった
夜に熱がでるかもしれない・・・
自分の手にほんの少し力を入れて海翔の手を包み込んだ
犬飼があの高校の寮で働くようになってもう6年目になる
働いていたイタリンアン料理店が突然閉店になり、職を失って路頭に迷い、その求人に飛びついたのは『住み込み可能』と書かれていたからだった
男子校の寮なのだから、ただ好きな料理を作って多少の雑用をこなせば、前職のような煩わしい上下関係や人間関係はないだろうという思惑もあった
初めて受け持った入寮生徒は11人で、この6年間で一番多い人数ではあったが、住み込みで仕事を始めてから数カ月は、淡々と仕事をこなすだけの気楽な毎日だった
何をしているんだ?
そう感じるようになったのは、ちょうど生徒たちにとっても犬飼にとっても初めての夏休みを寮で過ごしていた時期だった
様々な部活動でそれぞれが忙しくしてる寮生たちだったが、夏休みに入った頃から夜中に廊下を行ったり来たりしている音が度々聞こえるようになった
まぁ夏休みだし、それに全員高校生だ。部活だけじゃなく語りあったりゲームをしたり・・そういう楽しみだってあるはずだろう・・・としか思っていなかった
だが、ある日、犬飼は見てしまう
深夜過ぎ、喉が渇き部屋から出てシンとした廊下を音を立てないように歩いていた時だった
ほんの少しドアが開いている部屋からボンヤリと薄明かりが漏れているのが見えた
真夏独特のムシムシした寝苦しい夜だった
各部屋にはエアコンが完備されているが、温度調整の為に犬飼も部屋のドアを少し開けておく事があった
開けたまま寝たのか
そう思いながらそのドアを通りすぎた瞬間聞こえてきた音に、犬飼は思わず立ち止まってしまった
「あ・・・・あぁ・・・あん・・・」
甘く淫らな声だ
そして、その声の主は明らかにその部屋で生活している生徒のものだった
犬飼は立ち止まったまま暫く混乱する頭の中であらゆる可能性を考えていた
自分だって高校生の頃、友人たちとこっそりAVを観た経験くらいある。きっとそういう類だ・・・
納得したようにフッと笑うと、そのまま階段を降りようと一歩足を進めた
「いや・・・・まって・・・・」
「ダメ・・・待たない・・・」
立ち去ろうとした犬飼を引き留めるように、艶めかしい喘ぎ声が漏れてくる
まじか・・・
何とも表現できない感情が腹の底から湧いてきて鳥肌が立つ
見てはいけない、と脳の中の信号が赤く点滅しているのに犬飼は導かれるように振り返ると少し開いたドアに近づきそっと覗き込んだ
寮の個室はどの部屋も同じ造りのワンルームだ
入り口から覗くと部屋全体が見えてしまう
薄明かりの灯る部屋の中、壁際に備え付けられたベッドの上で裸で抱き合う2人の生徒の姿が見えた
一瞬で全てを理解するのは十分だった
こんな事って・・・
犬飼は慌てて踵を返すと逃げ去るように階段を下りた
今まで生きてきて、同性同士の愛の営みなどあらゆるメディアを通じて理解しているつもりだった
だが目の当たりにしたのは初めてだ
あり得ない
男同士で?高校生が?この寮の中で?
理解する事を拒む自分の感情が、嫌悪なのか軽蔑なのかさえ分からなかった
ただ、それが受け入れられないという否定的な感情なのは間違いなかった
どうしたらいいんだよ、俺は・・・
見てしまったものをなかった事に出来ないほど、2人が抱き合っていた姿はいつまでも犬飼の脳裏から離れなかった
犬飼は耳元で海翔の吐息を感じながら、まだその役割を果たし切れていない街並みの灯りを目で追っていた
動いたり止まったりを繰り返している車の中で、海翔の前で組まれていた手が離れてパタリと犬飼の腿に置かれた
熟睡してるみたいだな
野球をしていたとは思えない、すらりとした長い指先が美しい手だった
犬飼はバックミラーで運転手の様子を伺いながら、気付かれないようにそっと腕をずらして自分の手を海翔の手に重ねた
熱く熱を持っているかと思っていた海翔の手は氷のように冷たかった
夜に熱がでるかもしれない・・・
自分の手にほんの少し力を入れて海翔の手を包み込んだ
犬飼があの高校の寮で働くようになってもう6年目になる
働いていたイタリンアン料理店が突然閉店になり、職を失って路頭に迷い、その求人に飛びついたのは『住み込み可能』と書かれていたからだった
男子校の寮なのだから、ただ好きな料理を作って多少の雑用をこなせば、前職のような煩わしい上下関係や人間関係はないだろうという思惑もあった
初めて受け持った入寮生徒は11人で、この6年間で一番多い人数ではあったが、住み込みで仕事を始めてから数カ月は、淡々と仕事をこなすだけの気楽な毎日だった
何をしているんだ?
そう感じるようになったのは、ちょうど生徒たちにとっても犬飼にとっても初めての夏休みを寮で過ごしていた時期だった
様々な部活動でそれぞれが忙しくしてる寮生たちだったが、夏休みに入った頃から夜中に廊下を行ったり来たりしている音が度々聞こえるようになった
まぁ夏休みだし、それに全員高校生だ。部活だけじゃなく語りあったりゲームをしたり・・そういう楽しみだってあるはずだろう・・・としか思っていなかった
だが、ある日、犬飼は見てしまう
深夜過ぎ、喉が渇き部屋から出てシンとした廊下を音を立てないように歩いていた時だった
ほんの少しドアが開いている部屋からボンヤリと薄明かりが漏れているのが見えた
真夏独特のムシムシした寝苦しい夜だった
各部屋にはエアコンが完備されているが、温度調整の為に犬飼も部屋のドアを少し開けておく事があった
開けたまま寝たのか
そう思いながらそのドアを通りすぎた瞬間聞こえてきた音に、犬飼は思わず立ち止まってしまった
「あ・・・・あぁ・・・あん・・・」
甘く淫らな声だ
そして、その声の主は明らかにその部屋で生活している生徒のものだった
犬飼は立ち止まったまま暫く混乱する頭の中であらゆる可能性を考えていた
自分だって高校生の頃、友人たちとこっそりAVを観た経験くらいある。きっとそういう類だ・・・
納得したようにフッと笑うと、そのまま階段を降りようと一歩足を進めた
「いや・・・・まって・・・・」
「ダメ・・・待たない・・・」
立ち去ろうとした犬飼を引き留めるように、艶めかしい喘ぎ声が漏れてくる
まじか・・・
何とも表現できない感情が腹の底から湧いてきて鳥肌が立つ
見てはいけない、と脳の中の信号が赤く点滅しているのに犬飼は導かれるように振り返ると少し開いたドアに近づきそっと覗き込んだ
寮の個室はどの部屋も同じ造りのワンルームだ
入り口から覗くと部屋全体が見えてしまう
薄明かりの灯る部屋の中、壁際に備え付けられたベッドの上で裸で抱き合う2人の生徒の姿が見えた
一瞬で全てを理解するのは十分だった
こんな事って・・・
犬飼は慌てて踵を返すと逃げ去るように階段を下りた
今まで生きてきて、同性同士の愛の営みなどあらゆるメディアを通じて理解しているつもりだった
だが目の当たりにしたのは初めてだ
あり得ない
男同士で?高校生が?この寮の中で?
理解する事を拒む自分の感情が、嫌悪なのか軽蔑なのかさえ分からなかった
ただ、それが受け入れられないという否定的な感情なのは間違いなかった
どうしたらいいんだよ、俺は・・・
見てしまったものをなかった事に出来ないほど、2人が抱き合っていた姿はいつまでも犬飼の脳裏から離れなかった
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