上 下
10 / 51

羽音

しおりを挟む

寮から学校まで、海翔はほぼ毎日自転車で通っている
朝夕の混み合う電車にどうしても馴染めなかったからだ

電車で通えば15分で通える距離を、大きく遠回りするしかないルートで40分ほどかけて登校している

 15分耐えれば部屋に戻れる

そう思って電車に乗り込んだが、電車が動きだしてすぐ自分の判断を悔やんだ

小刻みな電車の振動に耐えがたい程気分が悪くなってきた

夕方近い電車内は、さほど混んではいなかったが座席に空きはなかった
入り口近くの手すりにつかまって立っていた海翔は、他の乗客に気分の悪さを気付かれないように背中を緊張させたままで目を閉じた

電車が揺れる度襲ってくる痛みと気持ち悪さでギュッと手すりを掴んでいる手のひらが汗で湿っていく

さり気ない角度で目を閉じていた顔が徐々に下を向いてしまう

1つ目の駅への到着を知らせるアナウンスが流れた。海翔が降りるのはその次の駅だ

 ここで降りるしかない・・・

頭ではそう考えているのに体が全く動かない
一歩踏み出せば力なく倒れてしまいそうだった

 マジでやばい・・

「僕も一緒に帰る」と言った、朋の泣きそうな顔を思い出した

 頼めばよかったかも

電車が速度を落とし、降車する人々が入り口付近へと集まってくる

電車が完全に停止する直前のブレーキに海翔の体が大きく傾いて、隣に立っていた男性らしき乗客にぶつかってしまった

「す、すいません」

海翔が顔も上げずに小さく謝罪すると、突然その男が手すりを握っていた海翔の手首を強い力で掴むと

「降りて」

と耳元で囁き、扉が開くと同時にそのまま海翔を電車から引きずるように降ろした

「うっ・・・」

海翔は抵抗する思考も力もなく、もつれる足でその男に従いながら、ぼやけた視界に半歩前を歩く男の茶色いスエードの靴を映した


「ここに」

男が急に立ち止まり海翔の体に手を添えるとホームのベンチに座らせる

「待っていて下さい」

そういうと、さっき見えていたのスエードの靴が遠ざかって行った

 助けてくれた・・・のかな

駅員でも連れてくるのだろうか・・・
海翔が大きく息を吸い込みながら両ひざに肘を立てて両手で顔を覆うと、駅のホームのざわめきさえも、もう耳には入ってこなかった

程なくして、近づいてきた足音に気付きほんの少し目を開けて見ると、さっきと同じ靴が見えた
男は海翔の隣に座ると
「飲みますか?」とミネラルウォーターのペットボトルを差し出した

「ありがとうございます・・・」

顔を上げれないまま俯いてペットボトルを受け取った時、海翔の視界に見覚えのある黒い生地が見えた

「えっ?」

思わず顔を上げて、初めてその男の顔を見る

「相当具合悪そうですね」

困ったような表情で海翔の顔を覗き込んだ男は、犬飼だった








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

セラフィムの羽

瀬楽英津子
BL
闇社会のよろず請負人、松岡吉祥は、とある依頼で美貌の男子高生、寺田亜也人と出会い、一目で欲情した。亜也人を強引に手に入れ、自分の色に塗りかえようとする松岡。しかし亜也人には忠誠を誓った積川良二という裏番の恋人がいた。 見る者を惑わす美貌ゆえに、心無き者の性のはけ口として扱われていた亜也人。 松岡の思惑を阻む恋人の存在と地元ヤクザとの関係。 周りの思惑に翻弄され深みに嵌っていく松岡と亜也人。

俺と父さんの話

五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」   父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。 「はあっ……はー……は……」  手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。 ■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。 ■2022.04.16 全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。 攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。 Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。 購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

Candle

音和うみ
BL
虐待を受け人に頼って来れなかった子と、それに寄り添おうとする子のお話

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

眺めるほうが好きなんだ

チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w 顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…! そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!? てな感じの巻き込まれくんでーす♪

処理中です...