君の唇がさよならと告げる前に

HAZZA

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深淵 6

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野球部員たちの廊下を歩く音が聞こえなくなると、海翔は壁を支えにしてゆっくりと立ち上がった

「海翔、大丈夫?」

「生徒会長おっかねーな」

頭の中で脈打つような痛みに耐えながら顔を上げると、目の前に今にも泣き出しそうな朋の顔があった

「薬、飲まなかったの?」

朋が責めるような口調で言いながら足元がおぼつかない海翔の体を支えた

「忘れた、寮に」

「だから僕が言ったのに」

「ごめんごめん」

海翔は朋の頭をクシャっと撫でると、落としてしまった鞄を拾って肩に掛け、ズボンに付いた埃を払った

「これから生徒会の仕事だろ?」

「うん・・・でも、一緒に帰るよ」

「ちゃんと仕事しろ」

「僕も帰る」

「大丈夫だから。電車で帰るよ」

「でも・・・」

「いいから、早く行けよ」

「うーん・・・」

朋は駄々っ子のように海翔の制服の裾を掴むと左右に振って

「じゃあ、昇降口まで」と拗ねた声で言った

壁から体を離して歩き出した海翔を気遣いながら昇降口まで付き添うと、朋は下駄箱から靴を出して履き替えている海翔に念を押す

「途中で具合悪くなったら電話してね」

「はいはい」

「寮に着いたら報告してね。スタンプだけでもいいから」

「分かったから」

海翔が笑顔を見せるとようやくほっとした表情になった朋は、素早く周りを見回して誰も居ないのを確認すると、海翔の唇にキスをした

「やっ・・・お前頭おかしいんじゃねーの?」

慌てて朋から離れながら海翔が呆れた顔で朋を見る

「へへっ」

朋は満足げに笑うと

「じゃあ、連絡よろしくね!」

と手を振って生徒会室へと戻っていった

「ほんと、馬鹿」

海翔は1人呟くと、喉の乾きを感じながら昇降口から外に出ていった
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