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深淵 3
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海翔が書店のバイトを終えて外に出ると街はすっかり真夜中の暗闇に染まっていた
いつもと違う業務を頼まれたのに加え、閉店後に店長の長話に付き合わされてしまったからだ。
夕方に店に入ると、バックヤードから出てきた店長が申し訳なさそうな声で、
「今日日勤のパートさんが休んじゃってね入荷した分のチェックが終わってないんだよ」
と言いながら指差した壁際には段ボールが6箱積まれたままになってた。
「これのチェックをお願いしたいんだけど・・・」
店長が細かい文字がびっしり書かれた納品書を数枚、海翔に手渡す。
「これ、中原くん大丈夫かな?目に負担かかるかなぁ…」
店長が聞き辛そうに声を潜めて、海翔の表情を伺った。
あー眼鏡忘れたなぁ
海翔はそう考えながら、「出来るところまででいいなら」と、納品書を受け取る。
「もちろんもちろん!助かるよー」
店長はホッとした顔になって立ち上がり、くれぐれも無理しないようにと海翔の肩を叩いて売り場へ出ていった。
夜風を切るように自転車を走らせる
細かい文字を見続けていたせいで右目が時々霞む。
ヤバイかも、これ
自転車のスピードを少し落としながら夜空を仰ぐと黄色く滲んだ満月が見える。
坂道を上りきり辿り着いた寮は、外灯が灯されていたがしんと静まり返っている。
寮生が全員帰宅するまでは待機が義務付けられている犬飼は、もう帰ってしまってるはずだ。
「信頼を裏切ったら痛い目に合いますからね」
入寮式の後の夕食で海翔たちは寮の合鍵を、内緒で、と渡された。
犬飼の口調はいつも丁寧なのに行動が伴っていない。初めてキッチンの奥でタバコをふかしている犬飼を目にした時は呆れて佇んでしまった。
今夜はオムライスだっけ?
海翔は空腹を感じながら、音を立てないように玄関の鍵を開け、シンと冷たい暗がりの中廊下を歩き食堂に向かう。
起きていれば嬉しそうに出迎えてくれる朋の姿はない。
寝たのかな
真っ暗な食堂の電気を灯すとテーブルの上に一人分の夕食が置かれていた。
それを電子レンジで温めようと手に取った海翔から不意に笑みがこぼれる。
レンジの中に放りこまれたオムライスの上には、大量のケチャップで『ばか』と書かれていた。
いつもと違う業務を頼まれたのに加え、閉店後に店長の長話に付き合わされてしまったからだ。
夕方に店に入ると、バックヤードから出てきた店長が申し訳なさそうな声で、
「今日日勤のパートさんが休んじゃってね入荷した分のチェックが終わってないんだよ」
と言いながら指差した壁際には段ボールが6箱積まれたままになってた。
「これのチェックをお願いしたいんだけど・・・」
店長が細かい文字がびっしり書かれた納品書を数枚、海翔に手渡す。
「これ、中原くん大丈夫かな?目に負担かかるかなぁ…」
店長が聞き辛そうに声を潜めて、海翔の表情を伺った。
あー眼鏡忘れたなぁ
海翔はそう考えながら、「出来るところまででいいなら」と、納品書を受け取る。
「もちろんもちろん!助かるよー」
店長はホッとした顔になって立ち上がり、くれぐれも無理しないようにと海翔の肩を叩いて売り場へ出ていった。
夜風を切るように自転車を走らせる
細かい文字を見続けていたせいで右目が時々霞む。
ヤバイかも、これ
自転車のスピードを少し落としながら夜空を仰ぐと黄色く滲んだ満月が見える。
坂道を上りきり辿り着いた寮は、外灯が灯されていたがしんと静まり返っている。
寮生が全員帰宅するまでは待機が義務付けられている犬飼は、もう帰ってしまってるはずだ。
「信頼を裏切ったら痛い目に合いますからね」
入寮式の後の夕食で海翔たちは寮の合鍵を、内緒で、と渡された。
犬飼の口調はいつも丁寧なのに行動が伴っていない。初めてキッチンの奥でタバコをふかしている犬飼を目にした時は呆れて佇んでしまった。
今夜はオムライスだっけ?
海翔は空腹を感じながら、音を立てないように玄関の鍵を開け、シンと冷たい暗がりの中廊下を歩き食堂に向かう。
起きていれば嬉しそうに出迎えてくれる朋の姿はない。
寝たのかな
真っ暗な食堂の電気を灯すとテーブルの上に一人分の夕食が置かれていた。
それを電子レンジで温めようと手に取った海翔から不意に笑みがこぼれる。
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