『逆行。』

篠崎俊樹

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最終話。

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     FIN
 二月まで雪をかぶっていた、高知城の天守閣は、すでに、その降り積もった雪をすっかり溶かしてしまっている。
 二〇二三年三月下旬、ジミーはその地に降り立った。高知空港から、タクシーで三十分ほどのところに、竜馬像の建つ桂浜がある。
 本州では未だに寒い日が続いているというのに、南国高知は、半袖の開襟シャツでも十分の陽気だった。
 桂浜を少しだけ歩き、竜馬銅像前で亜季の遺骨の入った白木箱を眺めながら、ジミーが考えたのは、社会への再報復という、およそ常人離れした選択肢だった。絶対にやってもせる。彼の神経は壊れてしまい、完全に壊死と枯渇に至っていた。
     *
 四日後、大阪のなんばに降り立ったジミーは、繁華街のど真ん中に、一つ、事務所を作った。これが、彼の始めたビジネスの拠点だ。人を闇へと葬り去ることが、ジミーの出した結論であり、仕事だったのである。
 オフィスの固定電話が最初に鳴ったのは、立て看板を立てた翌日のことだ。
 決して高級とは言えない葉巻を銜えて、先端に火を点け、燻らし、片手で銃を弄りながら、彼が電話応対する。
「はい。分かりました。江崎さんですね?堂島?……はい。では、三日後に、ターゲットの大黒を殺します。銃殺いたしますので、よろしくお願いいたします。それでは失礼します」
 怜悧なジミーは電話を切った。統合失調症の彼は、その優秀な頭脳を、作家活動に使わずに、殺人に用いることにしたのだ。
     *
 昼間からでも派手な電飾看板が目立つ道頓堀の河岸に、大黒謙介の遺体が投げ込まれていたのは、三日後のことだった。大黒は頭を拳銃のようなもので撃ち抜かれて、遺棄前にすでに即死した模様だった。
     * 
 成功報酬二百万をきっちりキャッシュで受け取ったジミーのオフィスに、大阪府警捜査一課の刑事三人がやって来たのは、現金受け渡しが終わった翌日のことだった。
     *
「出てこい、君島!容疑はすでに固まってる。逮捕状も取った。無謀な逃亡しても、駄だ」
 事務所外から、警察官が盛んに呼びかけるが、オフィスには、頑丈に施錠がしてあった。
 ビル管理人が、
「ここ、個人の事務所だからね。警察の方でも、家宅捜索令状がない限り、鍵は渡せないよ」
 と言って、笑った。ジミーとグルになっているのは、言うまでもない。互いに、共犯関係だった。
 完全に捜査に行き詰まった警察を尻目に、ジミーはどこか遠くへと、高跳びしたようだった。それから先の彼の行方を、杳として誰も知らない。また、ジミーの存在自体、蒸発したように消えてしまった。この事件は、まさに、藪の中だった。真相は、闇だ。
                                  (了)
 




 
 



















 
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