57 / 64
第57話。
しおりを挟む
57
膨大な数の住居を、一軒一軒回っていく。手が掛かる作業だった。
昼過ぎになり、残り二十軒ほど回れば捜索完了となった。もうすぐ、終わりだ。
可奈は、軽い昼食をパトカーの中で取った後、気を引き締めて、捜索を続ける。
*
午後三時過ぎ、一番山奥の一軒家だけが残った。
おそらく、いるとしたら、あそこしかないと思えた。
そっと拳銃に手をやった可奈が、捜索のパートナーである男性保安官二人と計三人で、一気に踏み込むことにした。
玄関の呼び鈴を鳴らした可奈が言う。
「失礼いたします。警察の者ですが。……北川さんのお宅でよろしいでしょうか?」
反応が返ってこない。留守なわけがないと思いながら、怪しいと踏んだ彼女が、もう一度呼び鈴を鳴らし、
「北川さん……北川さーん」
と呼んだ。その時、背後でパンパーンという銃声が聞こえてきて、思わず身を伏せた後、振り返ってみる。
背後に、人間二人が立っていた。
「あなたは?」
可奈が問うと、銃を構えている男の方が、
「名前は言えない」
と言う。
大型銃をこちらの方に差し向けている女に、可奈が言った。
「警察です。職務質問よ。名前を名乗りなさい!」
「……」
無言だったので、ああそうか、と合点がいった彼女が言う。
「あなたたちが、君島次郎と大島亜季ね?」
二人は、相変わらず無言だ。可奈は、データに載っていた二人の顔写真を、脳裏に思い浮かべた。確かに、目の前の二人は整形している。しかし、整形手術でも変えられないのが、顔の基本的なプロットだ。
彼女には分かる。目の前にいる男女二人組の薄ら笑う顔の奥底には、想像を絶するような悪魔が潜んでいることを。
とりあえずといった感じで、
「あなたたちを銃刀法違反の現行犯で逮捕します」
と言って、
「来なさい!」
と、督促した。
「刑事さん」
男の方が言う。
「いやって言ったら……どうする?」
次の瞬間、男の銃が火を噴いた。弾丸が可奈の左胸に、思いっきり当たる。可奈が負傷して、呻いた。
付き添いの保安官二人が、慌てて銃を取り出して、構えようとすると、女の持つ大型銃が火を噴いた。弾丸が命中する。二人とも打ち所が悪かったらしく、たちまち地面に倒れ込んだ。
可奈は、のたうち回った後、息絶えた。男が、
「俺たちは、絶対捕まらない」
と一言言った。その後、
「じゃあな。間抜けな刑事さん」
と捨て台詞を吐き、保安官の男のポケットを弄って、パトカーの鍵を奪い取った。そして停めてあった覆面パトカーを奪って、シドニー市街へと逃走した。
可奈は死んでいる。現地の捜査本部の人間が不審に思い、現場に駆け付けたのは、二人が逃走してから、約三十分後のことだった。全てが、後の祭りだ。警察サイドの大敗北だった。
膨大な数の住居を、一軒一軒回っていく。手が掛かる作業だった。
昼過ぎになり、残り二十軒ほど回れば捜索完了となった。もうすぐ、終わりだ。
可奈は、軽い昼食をパトカーの中で取った後、気を引き締めて、捜索を続ける。
*
午後三時過ぎ、一番山奥の一軒家だけが残った。
おそらく、いるとしたら、あそこしかないと思えた。
そっと拳銃に手をやった可奈が、捜索のパートナーである男性保安官二人と計三人で、一気に踏み込むことにした。
玄関の呼び鈴を鳴らした可奈が言う。
「失礼いたします。警察の者ですが。……北川さんのお宅でよろしいでしょうか?」
反応が返ってこない。留守なわけがないと思いながら、怪しいと踏んだ彼女が、もう一度呼び鈴を鳴らし、
「北川さん……北川さーん」
と呼んだ。その時、背後でパンパーンという銃声が聞こえてきて、思わず身を伏せた後、振り返ってみる。
背後に、人間二人が立っていた。
「あなたは?」
可奈が問うと、銃を構えている男の方が、
「名前は言えない」
と言う。
大型銃をこちらの方に差し向けている女に、可奈が言った。
「警察です。職務質問よ。名前を名乗りなさい!」
「……」
無言だったので、ああそうか、と合点がいった彼女が言う。
「あなたたちが、君島次郎と大島亜季ね?」
二人は、相変わらず無言だ。可奈は、データに載っていた二人の顔写真を、脳裏に思い浮かべた。確かに、目の前の二人は整形している。しかし、整形手術でも変えられないのが、顔の基本的なプロットだ。
彼女には分かる。目の前にいる男女二人組の薄ら笑う顔の奥底には、想像を絶するような悪魔が潜んでいることを。
とりあえずといった感じで、
「あなたたちを銃刀法違反の現行犯で逮捕します」
と言って、
「来なさい!」
と、督促した。
「刑事さん」
男の方が言う。
「いやって言ったら……どうする?」
次の瞬間、男の銃が火を噴いた。弾丸が可奈の左胸に、思いっきり当たる。可奈が負傷して、呻いた。
付き添いの保安官二人が、慌てて銃を取り出して、構えようとすると、女の持つ大型銃が火を噴いた。弾丸が命中する。二人とも打ち所が悪かったらしく、たちまち地面に倒れ込んだ。
可奈は、のたうち回った後、息絶えた。男が、
「俺たちは、絶対捕まらない」
と一言言った。その後、
「じゃあな。間抜けな刑事さん」
と捨て台詞を吐き、保安官の男のポケットを弄って、パトカーの鍵を奪い取った。そして停めてあった覆面パトカーを奪って、シドニー市街へと逃走した。
可奈は死んでいる。現地の捜査本部の人間が不審に思い、現場に駆け付けたのは、二人が逃走してから、約三十分後のことだった。全てが、後の祭りだ。警察サイドの大敗北だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
グレイマンションの謎
葉羽
ミステリー
東京の郊外にひっそりと佇む古びた洋館「グレイマンション」。その家には、何代にもわたる名家の歴史と共に、数々の怪奇現象が語り継がれてきた。主人公の神藤葉羽(しんどう はね)は、推理小説を愛する高校生。彼は、ある夏の日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)と共に、その洋館を訪れることになる。
二人は、グレイマンションにまつわる伝説や噂を確かめるために、館内を探索する。しかし、次第に彼らは奇妙な現象や不気味な出来事に巻き込まれていく。失踪した家族の影がちらつく中、葉羽は自らの推理力を駆使して真相に迫る。果たして、彼らはこの洋館の秘密を解き明かすことができるのか?
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
Reincarnation 〜TOKYO輪廻〜
心符
ミステリー
並行して発生した4つの凶悪連続殺人事件。
警視庁史上最悪の事態を迎えた東京。
富士本を頭に、紗夜、咲、淳一、豊川。
新たな仲間や咲を助ける不思議な味方。
更にトーイ・ラブを中心とする、ティーク、T2、ヴェロニカ、マザーシステムのアイ。
そして、飛鳥組 組長 飛鳥神。
信頼を武器に、命をかけてシリアルキラーに挑む。それに絡み付く別の敵の存在。
様々な想いと運命が交錯し、予想もしない謎が解き明かされる。
かつてない最悪の構図への挑戦です。
ラストまで、その運命を見届けて下さい。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる