『逆行。』

篠崎俊樹

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第44話。

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 各々診察室を出たジミーと亜季は、受付で清算を済ませてから、少し距離を置いて病院のビルを出た。
 まず建物を抜け出したのは、亜季の方だった。黒の帽子を目深く被り、グレイのサングラスを掛けた彼女は、すっかり本来の自分を取り去ってしまっている。
 それから十五分ほどで、ジミーがビルを出た。彼は全身、黒一色で決め込んでいる。黒いポロシャツに、同色のトレパンが、様になっていた。黄色いサングラスをおでこに押し上げて、辺りを注意深く見渡す。
 二人が落ち合ったのは、潜伏先のLのロビーだった。
「明日だろ、手術?予約、何時に入れた?」
「午後二時半」
「え?……俺も同じ時間なんだけど……」
「偶然じゃない?」
「なら、いいけどな」
「でも、同時間帯手術って、最高のアリバイ作りよね?」
「ああ。確かにな」
 二人が笑い合った。それぐらい、犯罪というのは、犯す側にとって痛快なのだ。
 いつしか共犯者である亜季も、そんな気持ちを心底味わうようになっていた。
ジミーの行くところなら、どこまででも逃げ延びてやると、最近、彼女はずっと考えている。
 明日手術したら、すぐにパスポートを偽造して、オーストラリアへと逃げ延びるつもりでいた。なるだけ、遠くに高跳びした方がいい。
 二人は、逃亡先での生活のことを考えながら、その夕、一緒に外食した。
 金は十分ある。当面、心配はない。
 もう日本には戻らないし、戻ることもない。二人の意中は、すでに固まっていた。揺らぐことも、まずない。
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