『逆行。』

篠崎俊樹

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第16話。

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 ジミーが内回りの山手線に乗り、約束場所である新宿駅前の大型カメラ店前で、亜季を待つ。都会地とあって、人は山ほどいる。いろんな人間の目が行き交う。待つときは、時間潰しもできる。元々、統合失調症の彼は、思索が好きだ。何かを思うことが多い。本来的に、内向性が高いのだ。だから、作家になりたい。元々、文筆が好きなのだった。
 彼女は、約束の午前十一時きっかりに来た。長い髪は、綺麗にまとめられている。濃い香りが漂ってきた。
「待った?」
「今、来たところ。……じゃあ、行こうか?」
 そろって歩き出す。実際、アスファルトは、焼けるように熱い。また、熱が反射すると、辺りの気温は、一気に上がる。
 新宿から、山手線に乗った。代々木、原宿などの駅を経て、東京駅に着く。東京駅から舞浜まで、JRが直通で一本出ている。
 優に一時間くらい、電車に乗りっぱなしだ。トイレが我慢できない。長時間だから、クタクタに疲れる。
 京葉線の車内は、スマホをいじる人たちが多い。皆、手元を見ている。ジミーたちは、並んで座っていた。特に不審な点はない。
 そんな二人を、さっきから一緒に電車に乗り込んでいた、一人の私服警官がじっと見つめている。見られている方は、全く意識していない。気付かないのだろう。全く、この危ない追っ手に気付いてない。また、分からないのだろうと思う。
 ジミーと亜季の香りが、密に混じり合う。二人の様子を見つめている私服警官は女性だ。
 片桐華が、携帯していた無線機に向かって言う。手元に付けていて、すぐに声を放つ。
「マル被は舞浜行きの京葉線車内にいます。特に不審な点はありません」
 ――了解。
 どうやら、応答しているのは、八田らしい。すぐに、声を返す。
 ――よし。監視続けろ!
「了解」
 三十を過ぎてはいるものの、華は刑事課の刑事にしては珍しく女性で、若かった。窮屈なスーツに身を包み、似合わない格好をして、尾行している。気付かれてないから、いいのだ。勘付かれれば、一発で終わりだ。そう確信していた。
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