『狂気の天才、ボナパルト』

篠崎俊樹

文字の大きさ
上 下
1 / 1

『狂気の天才、ボナパルト』

しおりを挟む
 一七六九年、地中海のコルシカ島において、一人の狂気の天才が生まれた。その名は、ナポレオン・ボナパルト。のちのフランス皇帝、ナポレオン一世だ。元々、生まれつき、今でいうところの統合失調症気味だったボナパルトは、フランス貴族で、修道院教育を経て、陸軍幼年学校、陸軍士官学校を経、エリート軍人の道をたどる。成績優秀。切れ者で、抜群の頭脳と才覚。申し分ない。また、彼が修めた大砲は、のちに、フランスが、諸国に対して、侵略戦争を企てる際に、大きな威力を発揮した。ボナパルトは、砲兵科の生徒だったのだ。しかも、繰り返すように、優秀だった。国費で入り、抜群の成績で卒業。彼ほどの切れ者、強者はいない。
 また、ボナパルトは、陣地を構築して、戦争を上手く運ぶことにおいて、天才的な素質を持っていた。これは、陸軍士官学校時代にも、磨いた技術の一つであった。また、書物を読むこともよくし、博学英才。申し分ない青年軍人だ。また、小説家としての活動も、若年期からやっていた。才能という意味では、誰にも引けを取らない人間だった。
 一七九三年前後、ボナパルトが大尉に昇格した直後、ヨーロッパは、諸国がフランス政府に対して、第一次対仏大同盟を盟約しており、フランスは孤立していた。仮想敵国となっていたのだ。また、仏国内に、革命の嵐が吹き荒れ、大混乱に陥っていた。革命は、粛清に次ぐ粛清を行い、大量の処刑者を出した。
 当時、制海権を握っていたイギリスが睨みを利かせ、オスマン帝国も健在で、フランスは、内外から、挟撃状態となっていた。いわゆる、挟み撃ち、包囲網ができていたのである。ボナパルトは、イギリスのホレーショ・ネルソンに大敗し、フランス艦隊は、壊滅的な打撃を受けた。
 だが、悪運は強かったのだ。故国フランスにおいて、人民は、彼を歓迎し、クーデターを敢行して、統領政府を樹立、第一統領に就任する。その折、第二次対仏大同盟が成立、フランスは再び、窮地へと立たされた。
 だが、そこで、ボナパルトは、第一統領となった権勢を使って、反転攻勢に出、ヨーロッパ諸国を次々と平定し、大占領政策を取る。また、かの有名なナポレオン法典を作り、内政面でも、尽力した。彼の功績は、殊更、軍事面においてだけではなかったのである。また、フランス銀行の設立にも尽力した。
 そののちの征服戦争でも、敗北の経験はあったものの、悉く、勝利し、植民地なども随時獲得していき、帝国の版図を確実に広げていった。そして、ボナパルトにとって、最高の栄誉が訪れた。一八〇四年十二月二日、有名すぎるぐらい有名で、誰もが知る「ナポレオンの戴冠」が行われた。絶頂であった。これ以上、彼の人生において、絶頂はなかった。
 ただ、以後、彼の運命は、ボールが坂を転げ落ちるように、転げ落ちていく。ヨーロッパ諸国が、第三次対仏大同盟を締結し、フランスを亡き者にしようとしたのだ。その大同盟は、締結の効を奏し、フランスは敗北に次ぐ敗北を繰り返す。そして、わずかな期間で、フランス帝国は崩壊、ボナパルトをめぐる状況も極度に悪化した。
 そして、転げ落ちたボナパルトは自殺を企図したのち、失脚し、一八一五年、エルバ島を脱出、それからが、いわゆる百日天下だった。のち、彼はイギリス政府によって、セントヘレナ島に幽閉される。
 最後に、一度は、帝国の最高位にまで上り詰めたこの男の死因を述べて、この短編小説を結ぶこととしよう。ボナパルトの遺体は解剖され、死因は、潰瘍とガンであって、胃ガンが直接の死因と公表されたが、ヒ素による暗殺の可能性もあったらしい。これが、人臣最高位を極めた男の最期であり、不幸極まりない結末でもあった。人の運命というのは、どうも分からないらしい。少なくとも、この男に関しては、それが着実に言える。そう言い添えて、この稿を結ぶこととする。
                                 (了)

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

日は沈まず

ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。 また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。

奇妙丸

0002
歴史・時代
信忠が本能寺の変から甲州征伐の前に戻り歴史を変えていく。登場人物の名前は通称、時には新しい名前、また年月日は現代のものに。if満載、本能寺の変は黒幕説、作者のご都合主義のお話。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

浅井長政は織田信長に忠誠を誓う

ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

新・大東亜戦争改

みたろ
歴史・時代
前作の「新・大東亜戦争」の内容をさらに深く彫り込んだ話となっています。第二次世界大戦のifの話となっております。

鈍亀の軌跡

高鉢 健太
歴史・時代
日本の潜水艦の歴史を変えた軌跡をたどるお話。

処理中です...