転生令嬢の幸福論

はなッぱち

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第三章

激怒してやりました。

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「なんですか……この部屋は!」

 扉が開かれると同時に私は叫びました。中にいた女性も、隣りに立っていたユリア様も、一様に驚きます。「どうしたのよ」と問うユリア様の声を無視して、私は部屋へと踏み入りました。

 動揺するシスターを押しのけ、手当たり次第に引き出しを開きます。机に箪笥、鏡台からも全て引き出し、中身を床にぶちまけます。

「な、なんなの貴女!」

 シスターの一人が、悲鳴のような声を張り上げます。私はぶちまけた中に、常用されているのを物語る実に艶やかな色をした独特のパイプを数本見つけ、煮えくり返るお腹に宿る怒りが更に爆発を繰り返しました。

「貴女に教えてさし上げる名前など持ち合わせませんわ」

 腕をまくりベッドに手を掛けます。シーツを剥ぐ程度では済まないでしょう、気合いを入れて安っぽいスプリングに手を掛け、一時淑女である事を放り投げ、思い切りひっくり返してやりました。

「ユリア様、これはどうゆう事ですの」

 私は目の前の光景を心を無にして眺めます。ベッドの下に隠されていた大量のマールマールは、部屋中に染み込んでいた甘ったるい臭いを更に濃厚に上書きしました。

 ユリア様が答える前に私はマールマールを両手で掴み取り、暖炉の中に投げ入れます。小さな炎が乾燥したマールマールを一瞬で灰に変えます。シスターからは悲鳴が上がり、更にベッドと暖炉の間を往復しようとする私に掴み掛かってまいりました。

「止めなさいよ! これは私のよ! これがいくらするか分かってるの!」

 血相を変えたシスターを真正面から睨み付けてやります。美しい女性ではありますが、病的なまでに白い肌も、ヘアオイルでは隠せない艶の抜けた髪も、何度も充血しているのが分かる濁った目も、全てがマールマールの常用を物語っています。私は腰を入れてシスターの右頬を平手でぶちました。

「貴女こそ、これが何だか分かっていらっしゃるのかしら」

 手のひらが痛くて、それが更に腹立たしく、返す手の甲で左頬もぶってやります。床に崩れ落ちたシスターは、それでもマールマールを守ろうと、私の足に掴み掛かりました。

「今の貴女を人だとは思えません。ですから『失礼致します』とは申しませんわ」

 私は腰に捲かれたベルトを外して、シスターの腕を背中に回し、それで締め上げます。逃げられないよう、足で押さえて全体重をかけ締め上げますと、シスターは悲鳴を上げ始めました。

「ユリア様! 助けてっ! 痛い、いたいっ」

 あら大変! 禁断症状が出ているのかもしれません。

 私は心を鬼にして、引き出しの中にあったのでしょう、適当な長さの布をシスターに噛ませます。あまり清潔そうには思えない物でしたが緊急時です、仕方ありません。マールマールに比べれば、雑巾の方がよっぽど人道的です。
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