圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

冬休みの終わりと置き土産

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 休みが終われば日常が戻ってくる訳で、残りの冬休みは奉仕作業と圏ガクの掃除であっと言う間に過ぎ去った。

 校舎や旧館の掃除中、残留一年と顔を合わせたが、思わずどうしたんだと聞いてしまいそうになる程(もちろん聞いてないが)見るからにあちこちガタガタで、先輩の心配は本気で無用だった。

 稲継先輩に聞けば、香月を筆頭に女神が俗世へ帰還する前にリベンジしようとして、返り討ちにあったらしい。正面から挑んだ訳ではなく卑怯な手を使ったのだろう、性根が腐っていると追加で指導があったおかげで、奴らは満身創痍で冬休みを終えてくれた。香月らに絡まれるという無駄な労力を消費せずに済んだので、色々と思う所はあるが女神には一応感謝しておこう。

 借りた物は返さないといけないので、コタツも石油ストーブも元あった場所に戻し、冬休みの終わりを身を以て実感しながら最後の一晩を過ごす。

「セイシュン、寒くないか?」

 コタツは快適だが、身を寄せ合って暖を取るのも良い。オレを抱きしめる先輩が耳元で呟く。大丈夫と返事をして、冷たい先輩の手を握った。

「明日からまた学校始まるのかー」

 正確には明日ではなく明後日だが、他の奴らが戻ってくるので、日常的にここで寝起き出来るのは今日で最後。

 すると、何も言わず先輩は腕に力を入れた。先輩は口より体の方が素直なのだ。笑いそうになるのを堪え、体の力を全部抜き、全力で先輩にもたれてやった。

「毎日とは言わないけどさ、週末だけじゃあなくて平日も来ていい?」

「ん、そうだな……」

 珍しく反対されない。まあ、そりゃそうか。先輩が圏ガクで生活するのは、後二ヶ月ほど、いや二ヶ月切っている。その上、授業が始まれば、休みの時と違って日中一緒に過ごす事はない。昼休みや放課後、細々した時間を切り取り、大切に過ごさなければならない。

 一分一秒が貴重。大袈裟だが、大袈裟じゃあない……それなのに、それすら大きく削られる事態が待っていた。




「ホウカゴホシュウニナッタ?」

 新学期初日の昼休み、オレの分まで新館で弁当を調達してきた先輩が、理解出来ない言葉を口にした為、おうむ返しに思わず疑問符が付いた。

 卒業を間近に控え、卒業後の進路も決定した先輩は、ほぼ自由時間みたいな新学期を送るはずなので、冬休みに近い形で一緒に過ごせると思っていた矢先、申し訳なさそうな顔をした先輩は無理やりに笑って見せようとした。

「ん、それが冬休みの課題が、その、すっかり忘れちまってたんだな。それを先生に言ったら激怒されて、放課後が補習になっちまった」

「なんでそんな! 課題なんか出てたのかよ! どうして言わなかった!?」

 つい声が荒ぶる。シュンとした先輩が「だってなぁ」とこちらを覗うような視線を寄越しながら答える。

「セイシュンと一緒にやればいいって思ってたんだ。それなのに、セイシュンが全く始めないから、つい存在を忘れてたんだ。お前だってやってなかっただろ」

「オレはやってるよ! 当たり前だろ!」

「何言ってるんだ、俺は知ってるぞ。休みの間は一緒だったんだからな。セイシュンが勉強をしている所なんて一度も見てない」

「課題なんて出た日に片付けたよ。貴重な冬休みに余計な事やらなくていいように」

 先輩はしばし絶句すると、一呼吸置いて「すまん」と謝った。オレも一度大きく息を吐いて気持ちを落ち着ける。

「オレの方こそ、ごめん。先輩に課題がないか確認するべきだった」

 先輩の状況を考えて、ないと思い込んでいたオレの落ち度だ。

「補習ってどれくらいかかりそう?」

 やっていなかった課題をやるだけなら、試験対策をした時と同じように就寝までの時間を使えば、数日で片付けられるだろう。冬休みは夏ほど長くない、課題の量も多くはないはずだ。

「一週間……くらい、かな」

「じゃあ、二日で終わらそう。オレも手伝うから」

 オレがそう言うと、先輩は難しい表情をして「実は」と言いにくそうに付け足す。

「後輩の手は借りるなって釘を刺された。セイシュンを頼らず一人でやってみろって言われてる」

 文句を言おうとしたが、言葉になる前に全てを飲み込む。勉強の仕方はオレなりに教えたつもりだ。

 自分の中に籠った熱を吐き出すように息を吐く。

「分かった。補習が終わるまで大人しく待ってる」

 先輩は困ったように笑って「頑張るよ」と自信なさげに言いやがった。
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