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蜜月
賑やかな休日
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その後、結局女神に一仕事押しつけられてしまった。冷蔵庫に戻って、稲継先輩に事情を話せば簡単に引き受けてくれそうだが、何度も同じ手を使うのは止めておいた。
先輩が「片付けなら俺一人でも大丈夫だぞ」と言い出したが、もちろん却下して二人で点呼後の旧館に居残った。
夜中まで酔っ払いが居座ると思っていたのだが、霧夜氏が指定席で正月も変わらず読書に励まれているおかげで、担任たちは酒盛りの場所を変えてくれたらしく、オレらはすぐに片付けを終わらせ部屋に戻る事が出来た。
翌日、どこで調達したのか、大型のバイクで女神が帰還しやがったので、オレらは極力旧館には近づくまいと胸に誓う。そう何度も雑用を押しつけられてたまるか。
帰ってくるだろうと予測して、食堂を片付けた後、しっかりと数日分の食料を調達しているので抜かり無しだ。
準備万端で先輩と二人、コタツでイチャつきながら過ごそうと思っていたが「ストーブ切れたー! 金城早く灯油入れてきてー!!」と山センが転がり込んで来て邪魔をされ、オレの慎ましい正月休みの予定は崩れ去った。
二年に合流すると、山セン以外の全員が二日酔いで死んでいたのだが、灯油を補充しに行った先輩が予期せぬ知らせを持って帰って来てしまう。霧夜氏と出くわし、二年がどこで過ごしているのか尋ねられ答えてしまったらしい。
「お前らの顔を見てないから、ここを見に来るって言ってたぞ」
「昨日の点呼の時にオレらも居たよ! その時に見てよ!」
点呼は担任が取り、霧夜氏は定位置で読書中だった。残念な事に一度も手元の文庫本から視線を逸らせなかったのだろう。
冷蔵庫というかオレらが居る階は、暗黙の了解で教師は入って来ないのだが、それは圏ガクの生徒(元生徒の教師も含む)が勝手にルールを作っているだけで、当たり前だが生徒が占拠して自由に使っていい訳ではない。ましてや、未成年が校内にアルコールを持ち込み、教師を見習い宴会をやっているなど以ての外だ。
部屋を片付け証拠隠滅するよう言ったが、休みはまだ一日残っていると山センが主張し、霧夜氏を階段のすぐ近くの廊下、先輩の部屋の前で迎え撃つと言い出した。冷蔵庫がバレなくても、先輩の部屋がおとりにされる可能性を考え、なんとか階段の踊り場に二年を追い出し、オレと先輩も震えながら一緒に待っていたのだが、霧夜氏が来る気配は全くなかった。
一時間ほど経った頃に、見てこいと偵察を命じられて校内を探すと図書室で霧夜氏を発見したが、もちろん全力で読書中だった。
わざわざ教師を呼び寄せる必要があるのかと疑問に思ったが、廊下で震えて過ごすのに限界を感じ、オレは霧夜氏に声をかけた。
「あぁ、夷川君ですか。もう少ししたら出向きますね」
ストーブ一つ点けず、廊下よりはマシだろうが冷え切った図書室で、霧夜氏はそう言って微笑み、日が暮れるまで読書をし続けた。
阿呆みたいに何時間も廊下で過ごしたオレたちは、これ以上傷口を広げまいと、霧夜氏が図書室から出て来るのを扉の前で待ち、しっかり挨拶をして翌日の平穏を確保した。
ほぼ丸一日、寒い廊下で緊張しながら過ごした反動か、正月休み最後の一日は温かい冷蔵庫でまったりとしか形容出来ない過ごし方をした。矢野君のリクエストに応えて芋焼き職人をしたり、花札っていう和製のトランプ? みたいなゲームをして遊んだりして、割と楽しかった。
「金城先輩は春からマッポっすか」
「ん? んー、そう、だな?」
オレの焼いた芋を頬張りながら矢野君が尊敬の眼差しを先輩に向けるが『マッポ』がなんなのか分かっていない(多分警察官の事だろう……たぶん)先輩が首を傾げながら曖昧に頷いている。
まあ、二人で過ごす時間を奪われたと言えばそうなんだが、不思議と不快ではなかったのだ。先輩がオレ以外の奴と話しているのを見るのも好きだなと、自分の中に生まれた妙な余裕のような感覚を自覚しながら休みを満喫した。
先輩が「片付けなら俺一人でも大丈夫だぞ」と言い出したが、もちろん却下して二人で点呼後の旧館に居残った。
夜中まで酔っ払いが居座ると思っていたのだが、霧夜氏が指定席で正月も変わらず読書に励まれているおかげで、担任たちは酒盛りの場所を変えてくれたらしく、オレらはすぐに片付けを終わらせ部屋に戻る事が出来た。
翌日、どこで調達したのか、大型のバイクで女神が帰還しやがったので、オレらは極力旧館には近づくまいと胸に誓う。そう何度も雑用を押しつけられてたまるか。
帰ってくるだろうと予測して、食堂を片付けた後、しっかりと数日分の食料を調達しているので抜かり無しだ。
準備万端で先輩と二人、コタツでイチャつきながら過ごそうと思っていたが「ストーブ切れたー! 金城早く灯油入れてきてー!!」と山センが転がり込んで来て邪魔をされ、オレの慎ましい正月休みの予定は崩れ去った。
二年に合流すると、山セン以外の全員が二日酔いで死んでいたのだが、灯油を補充しに行った先輩が予期せぬ知らせを持って帰って来てしまう。霧夜氏と出くわし、二年がどこで過ごしているのか尋ねられ答えてしまったらしい。
「お前らの顔を見てないから、ここを見に来るって言ってたぞ」
「昨日の点呼の時にオレらも居たよ! その時に見てよ!」
点呼は担任が取り、霧夜氏は定位置で読書中だった。残念な事に一度も手元の文庫本から視線を逸らせなかったのだろう。
冷蔵庫というかオレらが居る階は、暗黙の了解で教師は入って来ないのだが、それは圏ガクの生徒(元生徒の教師も含む)が勝手にルールを作っているだけで、当たり前だが生徒が占拠して自由に使っていい訳ではない。ましてや、未成年が校内にアルコールを持ち込み、教師を見習い宴会をやっているなど以ての外だ。
部屋を片付け証拠隠滅するよう言ったが、休みはまだ一日残っていると山センが主張し、霧夜氏を階段のすぐ近くの廊下、先輩の部屋の前で迎え撃つと言い出した。冷蔵庫がバレなくても、先輩の部屋がおとりにされる可能性を考え、なんとか階段の踊り場に二年を追い出し、オレと先輩も震えながら一緒に待っていたのだが、霧夜氏が来る気配は全くなかった。
一時間ほど経った頃に、見てこいと偵察を命じられて校内を探すと図書室で霧夜氏を発見したが、もちろん全力で読書中だった。
わざわざ教師を呼び寄せる必要があるのかと疑問に思ったが、廊下で震えて過ごすのに限界を感じ、オレは霧夜氏に声をかけた。
「あぁ、夷川君ですか。もう少ししたら出向きますね」
ストーブ一つ点けず、廊下よりはマシだろうが冷え切った図書室で、霧夜氏はそう言って微笑み、日が暮れるまで読書をし続けた。
阿呆みたいに何時間も廊下で過ごしたオレたちは、これ以上傷口を広げまいと、霧夜氏が図書室から出て来るのを扉の前で待ち、しっかり挨拶をして翌日の平穏を確保した。
ほぼ丸一日、寒い廊下で緊張しながら過ごした反動か、正月休み最後の一日は温かい冷蔵庫でまったりとしか形容出来ない過ごし方をした。矢野君のリクエストに応えて芋焼き職人をしたり、花札っていう和製のトランプ? みたいなゲームをして遊んだりして、割と楽しかった。
「金城先輩は春からマッポっすか」
「ん? んー、そう、だな?」
オレの焼いた芋を頬張りながら矢野君が尊敬の眼差しを先輩に向けるが『マッポ』がなんなのか分かっていない(多分警察官の事だろう……たぶん)先輩が首を傾げながら曖昧に頷いている。
まあ、二人で過ごす時間を奪われたと言えばそうなんだが、不思議と不快ではなかったのだ。先輩がオレ以外の奴と話しているのを見るのも好きだなと、自分の中に生まれた妙な余裕のような感覚を自覚しながら休みを満喫した。
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