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蜜月
暴力教師との付き合い方
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先輩の補習が決定した翌日。昼休みくらい一緒に過ごしたいと思ったのだが、余計な事をしてしまいそうだったので、誘惑を振り切り何故か意外そうな顔をする皆元と昼飯を食った。休み明けの食生活は、自分が家畜である実感を強烈にもたらしてくれる。美味しい物を食べる、それだけで人間の幸せは飽和するのだ。食えれば問題ないと製造された缶詰の味が、どれほど幸福な時間(冬休み)を送っていたのかを突きつけてくる。
接種するのに苦痛を伴うエネルギー源を腹に入れ、力が出るはずもないので力なく立ち上がろうとすると、背中に何かがのし掛かってきて再び着席した。
「えべっさん、どこ行くの?」
花のような甘ったるい臭いが服からするスバルが、オレの首に巻き付いてくる。手には美味しそうな新館で販売されているサンドイッチ! 断じて羨ましくない! 全力の強がりを胸中で繰り広げながら、鬱陶しいクラスメイトを引き剥がす。
「職員室」
同じ家畜同士の絶対的な格差を前にオレの腹が猛抗議をしてくるが、華麗にスルーして省エネで答えると、目がチカチカするような派手なスバルはガバッと立ち上がり、オレの視界で微動だにしないサンドイッチを放置し、思い切り背中に飛び乗ってきた。
「じゃあオレっちも行ってやってもいいよ」
何が面白いのか、スバルは無駄に上機嫌な様子で絡みやがる。馬鹿力で首と胴に回された手足を自力で振り切るのは無理なので、向かいに座る皆元に助けを求めた。
「呼び出しなんてあったか?」
食後の眠気を隠さない身内は、めんんどくさそうにスバルを剥がしながら言う。呼び出しを食らう時は割と一蓮托生なので、皆元もスバルと同じくついて来ようとする気配が窺えた。
「ちょっと去年の清算してくる」
去年という言葉ですぐに気付かれたようで「野村か?」と言い当てられてしまう。誤魔化さなければいけない理由もない。素直に頷くと、暴れるスバルを締め上げ『行ってこい』と視線をくれる。
「上手くやれよ。あのオッサンかなり面倒だからな」
奴の木刀は指導している時のみブン回されているのではない。気に入らない事があれば物や生徒をぶっ叩く、正真正銘の社会不適合者だからな。まともな教師でないのは明白なので、正直もう何をやっても遅い気しかしないが、先輩や小吉さんと約束したので形だけでも謝罪しようと決めたのだ。憂鬱さを見抜かれ苦笑する皆元に見送られ、文句を言いながらも美味しそうにサンドイッチを頬張るスバルを無視して、オレは一人で食堂を出た。
職員室は先輩の部屋や冷蔵庫がある棟の一階にある。食堂や教室棟と違い、生徒がたむろしている事はないので、すんなり目的地に到着してしまう。道中誰かに絡まれたら、それを言い訳にしてうやむやにしようと思っていたが無念だ。
「失礼します」
木刀で頭をかち割られる覚悟を決めて扉を開くと、在室していた教師が一斉にこちらへ視線を向けてきた。開いた扉を閉めたくなる衝動に駆られるが、嫌な事はさっさと済ませてしまおうと、諦めの悪い自分を溜め息と一緒に吐き出し、職員室へ踏み込む。
最後の望みである野村の不在を確かめる為、室内を見渡すと親の仇でも見つけたような視線を向けてくるオッサンと目が合ってしまった。
「夷川……いい度胸じゃねぇか」
生徒に対する第一声としては間違いなく赤点だろう。オレが真っ直ぐ野村の元へ向かうと、木刀の柄を握りながら唸るような声で威嚇される。問答無用でぶっ叩かないのは、他の教師の目を気にしているから……なんだろうな一応。間違っても授業が終わった後の教室を謝罪の場に選ばなくてよかったと、自分の選択を褒めてやりたい。
「食堂で蹴り飛ばして、すいませんでした」
単刀直入に謝罪を口にすると、野村はニヤッと黄色い歯を見せて笑いやがった。
「反省してるようには見えんなぁ。本当に悪かったと思ってるのか、お前」
木刀の先で脛を叩かれる。地味に痛い。
「金城先輩の点数が実力だと言う事は間違いないので、カンニングは先生の誤解だと説明すればすぐに解決できました。オレの短気がそれを邪魔しました。反省しています」
小吉さんに指摘された通りに謝罪理由を述べると、野村は一瞬呆けたような顔をしたが何かを思い出したように顔色を変えた。同時に思わず痛みで呻きそうになったが耐える。野村が木刀ではなく、容赦のないつま先を脛にぶち込んできたのだ。
「何が誤解だ。絶対にやってんだよ! また赤点取りやがったんだからな! それがカンニングをやった証拠だろうが!」
ドス黒い顔を紅潮させた野村は、机をバンバン叩きながら唾を飛ばす。
「反省してんなら言い直せ! 金城のカンニングを誤魔化して先生に恥かかせて申し訳ありませんでしたってな」
目の前のクズとは逆にオレの怒りは体を冷やしていく。あとは爆発するのみ、膨れ上がった感情を冷静に俯瞰して、反省室に直行だなと自嘲した。
接種するのに苦痛を伴うエネルギー源を腹に入れ、力が出るはずもないので力なく立ち上がろうとすると、背中に何かがのし掛かってきて再び着席した。
「えべっさん、どこ行くの?」
花のような甘ったるい臭いが服からするスバルが、オレの首に巻き付いてくる。手には美味しそうな新館で販売されているサンドイッチ! 断じて羨ましくない! 全力の強がりを胸中で繰り広げながら、鬱陶しいクラスメイトを引き剥がす。
「職員室」
同じ家畜同士の絶対的な格差を前にオレの腹が猛抗議をしてくるが、華麗にスルーして省エネで答えると、目がチカチカするような派手なスバルはガバッと立ち上がり、オレの視界で微動だにしないサンドイッチを放置し、思い切り背中に飛び乗ってきた。
「じゃあオレっちも行ってやってもいいよ」
何が面白いのか、スバルは無駄に上機嫌な様子で絡みやがる。馬鹿力で首と胴に回された手足を自力で振り切るのは無理なので、向かいに座る皆元に助けを求めた。
「呼び出しなんてあったか?」
食後の眠気を隠さない身内は、めんんどくさそうにスバルを剥がしながら言う。呼び出しを食らう時は割と一蓮托生なので、皆元もスバルと同じくついて来ようとする気配が窺えた。
「ちょっと去年の清算してくる」
去年という言葉ですぐに気付かれたようで「野村か?」と言い当てられてしまう。誤魔化さなければいけない理由もない。素直に頷くと、暴れるスバルを締め上げ『行ってこい』と視線をくれる。
「上手くやれよ。あのオッサンかなり面倒だからな」
奴の木刀は指導している時のみブン回されているのではない。気に入らない事があれば物や生徒をぶっ叩く、正真正銘の社会不適合者だからな。まともな教師でないのは明白なので、正直もう何をやっても遅い気しかしないが、先輩や小吉さんと約束したので形だけでも謝罪しようと決めたのだ。憂鬱さを見抜かれ苦笑する皆元に見送られ、文句を言いながらも美味しそうにサンドイッチを頬張るスバルを無視して、オレは一人で食堂を出た。
職員室は先輩の部屋や冷蔵庫がある棟の一階にある。食堂や教室棟と違い、生徒がたむろしている事はないので、すんなり目的地に到着してしまう。道中誰かに絡まれたら、それを言い訳にしてうやむやにしようと思っていたが無念だ。
「失礼します」
木刀で頭をかち割られる覚悟を決めて扉を開くと、在室していた教師が一斉にこちらへ視線を向けてきた。開いた扉を閉めたくなる衝動に駆られるが、嫌な事はさっさと済ませてしまおうと、諦めの悪い自分を溜め息と一緒に吐き出し、職員室へ踏み込む。
最後の望みである野村の不在を確かめる為、室内を見渡すと親の仇でも見つけたような視線を向けてくるオッサンと目が合ってしまった。
「夷川……いい度胸じゃねぇか」
生徒に対する第一声としては間違いなく赤点だろう。オレが真っ直ぐ野村の元へ向かうと、木刀の柄を握りながら唸るような声で威嚇される。問答無用でぶっ叩かないのは、他の教師の目を気にしているから……なんだろうな一応。間違っても授業が終わった後の教室を謝罪の場に選ばなくてよかったと、自分の選択を褒めてやりたい。
「食堂で蹴り飛ばして、すいませんでした」
単刀直入に謝罪を口にすると、野村はニヤッと黄色い歯を見せて笑いやがった。
「反省してるようには見えんなぁ。本当に悪かったと思ってるのか、お前」
木刀の先で脛を叩かれる。地味に痛い。
「金城先輩の点数が実力だと言う事は間違いないので、カンニングは先生の誤解だと説明すればすぐに解決できました。オレの短気がそれを邪魔しました。反省しています」
小吉さんに指摘された通りに謝罪理由を述べると、野村は一瞬呆けたような顔をしたが何かを思い出したように顔色を変えた。同時に思わず痛みで呻きそうになったが耐える。野村が木刀ではなく、容赦のないつま先を脛にぶち込んできたのだ。
「何が誤解だ。絶対にやってんだよ! また赤点取りやがったんだからな! それがカンニングをやった証拠だろうが!」
ドス黒い顔を紅潮させた野村は、机をバンバン叩きながら唾を飛ばす。
「反省してんなら言い直せ! 金城のカンニングを誤魔化して先生に恥かかせて申し訳ありませんでしたってな」
目の前のクズとは逆にオレの怒りは体を冷やしていく。あとは爆発するのみ、膨れ上がった感情を冷静に俯瞰して、反省室に直行だなと自嘲した。
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