圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み

欲求不満

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 先輩も手伝ってくれると言うので、予定の2時間前から作業をする事になったのだが、それでもおっぱいに目が眩んでる奴には敵わなかった。図書室ではオレの共犯が既に本の山と格闘していた。

「あん? てめぇ何しに来やがっ……金城先輩ッ! おはようございます!」

 稲継先輩はオレの隣に先輩の姿を確認すると、先生相手でも滅多に見せない折り目正しい挨拶をして見せた。先輩が自分も片付けを手伝うと話している間も、稲っちは失礼がないようにだろうか、背筋をピンと伸ばし真剣な表情をして、小気味よい短い返事で答えている。体育会系な先輩後輩のお手本みたいな二人を見て、オレはなんとも居心地が悪かった。

 圏ガクでは三年は神……なんてのは、まあ大袈裟な言い方だが、絶対的な上下関係は存在する訳で、その最下層である一年のオレが三年の先輩と並んで、二年である稲継先輩と向かい合うのは、どうにも気まずい。稲継先輩がいつもの調子ならあまり気にならないが、今みたいに明らかに下手に出られると、正直この場で土下座待機すべきか迷うレベルで混乱してしまう。

 それを知ってか知らずか、先輩は会話を必要最低限にして切り上げ、すぐに作業に取りかかってくれた。率先して床を埋め尽くす本に手を伸ばす先輩の後は追わず、オレは先に緊張の解けた稲継先輩の元へと足を向け、いつもの調子で挨拶を済ませる。

「おい、夷川。さすがに金城先輩に手伝って貰う訳にはいかねぇだろう。お前から説得しろ」

 さっきは先輩の「大変そうだから手伝うよ」の言葉に「ありがとうございます!」って景気よく返事してたくせに、作業に入ろうとするオレを引き止め稲継先輩はそう耳打ちしてきた。

 確かに無関係の先輩を巻き込んでいるのは事実だ。でも、先輩の好意に甘えないと、日中を一緒に過ごす事が出来ない。いや待て、その理屈でいけば、先輩だけでなく女神も無関係じゃあないか。

「いや、女神はいないと駄目だろ。むしろ、その為にいるんだから」

 ここはオレと稲継先輩の二人で片付けるべきだと力説すれば、驚いたような顔をして勝手な事を言い出したので「元にあった状態へと片付ける作業は、あの二人に手伝って貰う理由がない」と主張する。

「おれら二人でやると年越すぞ」

 もっともだ。それは女神が来るまでに証明されている。

「それが分かってるなら、人手をわざわざ断る必要ないだろ。別に先輩はオレらみたいに創造と破壊を繰り返したりしないよ」

 先輩が既に手伝ってくれているという、既成事実も付け足すと、稲っちは諦めたように本心を語り出した。

「四人で片付けたら、さすがに、すぐに終わっちまうだろーが! そうなったら……その、アレだ」

「女神がここにいる理由がなくなる?」

 言葉を濁した稲っちだったが、その後をしっかり引き継いで口にしてやると、キッと睨んできやがったがヤケクソ気味に頷いて見せた。

 女神と会う為に、夏休みをこんな山奥の学校で過ごしている稲継先輩にとっては、先輩の手伝いはその貴重な時間を削り取ってしまう脅威と言えた。

「二人で何の相談だ?」

 背後でごにょごにょやってるオレらを気にして、先輩は手にした本を机に置くとこちらに戻って来た。稲継先輩の純情なんだか不純なんだか分からない現状を面白可笑しく説明しようと試みたが、本人の妨害によって阻まれてしまった。

 結局、いつまで経っても始めようとしないオレらに、先輩が指示を出して作業は開始された。

 先輩を連れて来てしまった後ろめたさから、破壊神の本領を発揮して見せたのだが、早々に単独の作業からは干され、先輩という指揮官の下に配属となった。

 上官殿の手腕は女神と同等で、右へ左へ指示通り動けば、オレが破壊神として稼いだ時間もアッと言う間に取り戻して、着々と床の面積が増えていった。

 もちろん、稲継先輩の顔には諦めの色がどんどん濃くなっており、どうしたものかと気を揉んだ。女神と先輩が揃った状態でこのペースが続けば、今日中は難しいとしても、明日には片付けが終わってしまいそうなのだ。

「思ったより早く片付きそうだな」

 手を止めて室内を見回す先輩が零した一言で、稲継先輩の表情から怒りや焦りといったモノが剥がれ落ち、燃え尽きたような真っ白い顔で「そうですね」と呟くのを見て、オレはようやく重い腰を上げ、すぐに戻ると言って図書室を出た。

 森で鳴く虫の声しか聞こえない廊下を走り、階段を駆け下りる。向かったのは、いつも女神が校舎の出入りに使っている正面玄関だ。

 玄関脇の来客用カウンターに置いてある時計で時刻を確認していると、校門から機嫌のよさそうな軽トラのエンジン音が聞こえてきた。軽トラは一直線にここへ向かって来ている。夏休みに来客なんてないだろうから(今日も本の搬出に使うので)わざわざ車庫に入れる必要はない。玄関の扉を開いて女神を出迎えた。

 女神は挨拶の後に、どうしてオレがここにいるのか尋ねてきたが、行き当たりばったりで図書室を飛び出したオレは即答出来なかった。

「あれ、これは……どうするんですか?」

 適当に話をして、的確な質問を思いつくまで時間を稼ぐつもりだったが、何故かトラックの荷台を埋める段ボールを目にして、思わず素で聞いてしまった。

「これは新しい本だ。まあ、これも中古品なんだがな。これが年末までの先生の糧になる」

 オレらが崩した本の山を持って帰り、新しく本の山を作るのだと言う。霧夜氏ほどの活字中毒の糧となれば、これ一台に乗っている限りではなさそうだ。更に聞けば、元にあった分と同量の本を用意しているとの事。

「質より量の人だからな、先生は」

 苦笑しながらも、嬉しそうに段ボールを荷台から下ろし始めた女神を手伝い、玄関先に段ボールを積み上げた。

「あぁ、これは私が運ぶから、そのままでいい。君らに手伝って貰うのは、君らが崩してくれた古い方の本だけで十分だ」

 本の入れ替えは自分の仕事だからと、女神は軽トラの助手席からバッグを取り出し、積み上げた段ボールには見向きもせず図書室へ歩き出してしまった。オレは山と積まれた一つを開き中身を覗く。

 思った通り、本の背表紙はバラバラ。タイトルを見るにジャンルすら何一つ統一感がない。ジャンル分けするのも一苦労だろう。女神一人でやっていたら、それこそ丸々一夏終わってしまいそうな量だ。

「これは大変だ……文芸部にも手伝わせないとな」

 オレと先輩は、古い本の片付けを手伝い終えたら、女神の言葉に甘えて退散するとしよう。後は稲継先輩の頑張り次第だな。本人を目の前に妄想を膨らませ鼻血吹き出して、貴重な時間を浪費させないよう注意しておかねば。

 稲継先輩の険しい恋路に少しばかり希望が見えてきたので、大手を振って先輩の元へ帰れる。図書室の片付けが終わったら、先輩と何をして遊ぼうか考えると、自然と足が軽くなってオレはまた廊下を走り出していた。

 女神が到着後の作業は、二手に分かれてする事になった。古本屋に送るらしい古い本は、きちんと整理した形で梱包するようで、女神と稲継先輩は主に選別と箱詰めをしている。

 残ったオレと先輩は、ぶちまけられた床の本を選別しやすいようにザックリまとめる事と、出来上がった段ボールを軽トラまで運ぶ係になった。

 クソ暑い中を段ボール抱え、玄関と図書室を何往復もして、徐々に上がる気温に比例する滝のような汗を流し、情けないが正午にはへばってしまった。

 軽トラに積んだ荷物を一度下山して片付けてくるというので(荷物を下ろしたり積んだりするのに男手が必要だろうと)稲継先輩を押しつけると、女神は苦笑しながら承諾し、オレにバッグを手渡した。

「弁当を二人分しか用意していなかったから、ちょうどいい。これは二人で食べなさい。私の下宿先の奥方が丹精込めて作って下さったんだ」

 受け取ったバッグはずっしり重く、多分三人で食べても問題ない量が確保されていそうだったが、遠慮無く先輩と二人で頂く事にした。午前中の作業時から女神との近すぎる距離に、オレらと同じくらい汗を掻いている稲継先輩は、今にも鼻血を噴き出しそうな顔色で助けを求めるみたいにこっちを睨みやがるので、ニヤッと笑って送り出してやった。

 変な妄想に浸って満足しないで、現実で溺れてこい。後輩の心遣いをどう思ったのかは知らないが、女神に肩を叩かれ「行こうか」と促された稲っちは、前屈みになりながらも、どこか嬉しそうに図書室を出て行った。

「セイシュン、どうしようか。部屋に戻って食べるか?」

 首にかけたタオルで汗を拭いながら先輩が聞いてくる。オレは少し考え「ここで食べよう」と答えた。

「ブルーシートが敷いてあって、なんか外で弁当食べてる感じがしていいじゃん」

 絶賛作業中である机は使えないが、床には弁当を広げられるスペースくらいはあるのだ。

「分かった。なら、飲み物を取って来るよ」

 早速、床に座り込み、弁当を取り出し始めたのを見て、先輩はそう言うや背中を向けようとしたので、オレは慌てて立ち上がった。そして、先輩の首にかかっていたタオルを抜き取る。

「これ貸して。オレも汗拭きたい」

「タオルも新しいの持って来てやるよ。それは止めとけ、汚いぞ」

「別にちょっと使うだけだから問題ないって……それより、オレ、弁当にはジュースじゃなくてお茶がいい」

 配給用のお茶缶が旧館の食堂に置いてある、それを取りに行って欲しいと言う図々しいお願いに、先輩は嫌な顔一つせず頷いて部屋を出て行った。

 図書室の扉から顔を出し、先輩の姿が見えなくなるまで確認しようとしたが、視線を感じたのか、急に振り返る先輩にドキッとさせられた。

「走らなくていいからな。ゆっくりでいいよ」

 後ろめたさを隠したくて、走る気配なんて微塵もないのに偉そうに注意すると、先輩は分かったと言うように片手を上げて階段へと、今度こそ本当に見えなくなる。

 戻って来ないか、少しだけその場に留まったが、人の目がなくなった事で抑制出来なくなってしまった。部屋の中へ引っ込むと後ろ手で扉を閉め、その場に座り込み、さっき先輩から奪い取ったタオルをギュッと抱きしめる。

「あぁ……これはヤバイ」

 夕べオレと先輩の間に境界線として置かれていた青いタオルは、今は先輩の汗をたらふく染み込ませて、鼻を埋めると生々しい先輩の感覚にオレの頭をクラクラさせる。

 特別男臭い訳じゃないのに、いつも感じる先輩の匂いの数倍は濃いように思う。オレが反応してしまうナニカが数倍は濃い。

「やべ……タオル一つで勃起してんじゃん」

 稲継先輩の事を完全に笑えなくなってしまった。先輩にしてもらった事を思い出しながらオナる時よりも、切羽詰まった感じがする。コントロール出来ない興奮に浮かされたのか、自分の口から気色の悪い笑いが漏れる。

「オレ、かんぜんに、へんたい、変態だな」

 先輩の匂いにいつまでも酔っていたいのに、同時に先輩を思いっきり汚してやりたい気もする。

 頭の中を焼き切りそうな感覚、それに身を任せると、両手で掴んで顔に押しやっていたタオルから手を離した。

 片端を口に咥えると、呼吸まであやしくなっている事にようやく気付いたが構わず、けれど苦しくて堪らないちんこを引っ張り出そうとした所で、ボタボタと落ちる唾液が手を汚し、オレはようやく正気を少しばかり取り戻す。

「こんな所でやろうとするなんて、何考えてんだオレは」

 今からここで先輩と弁当食って、また女神や稲継先輩も戻ってきて作業を再開するのに、そんな場所で一発抜いてスッキリなんて……やって良い事と悪い事がある。

「どんだけ欲求不満なんだよ、くそ」

 頭がちょっと冷静になったからと言って、下半身も右へ倣えと鎮静してくれる訳ではない。悪態吐きながらも、のそりと立ち上がり、先輩が帰ってくる前に処理してしまおうと、タオル片手に便所の個室へ籠もり、手早くシコって落ち着かせた。
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