圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

山センのおもてなし

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「矢野君は見たかったりする?」

 小吉さんは見せられていた訳だが、山センのハーレムに耐性のある矢野君は、もしかしたら楽しんでいたのかもしれないと親切に聞けば「んな訳あるか」と拳を振り上げられた。

「視界に入れて良いモノと悪いモノがあんだよ。混ぜたら、ただのゲテモノだろが」

 相変わらず酷い言いようだが、そのゲテモノ相手でも目を瞑ればセックス出来るってのは生物として尊敬するべきなんだろうか。

「お前、まさかとは思うが、今まで寝てたのか? 俺らが正月早々耐えがたい苦痛を味わっている時に」

 ゲテモノの裸踊りを一晩中見ていたらしい矢野君は、本気で怒っているような雰囲気で、しっかり睨み付けてきた。

「いつもよりかは遅いけど、ちゃんと午前中に起きたよ。先生たちに挨拶しに行ったら、女神におせち詰めるの手伝えって言われて、こっち寄るの遅くなったんだ」

 持って来た土産を矢野君に手渡そうとしたら、横から物凄い勢いで引ったくられた。食事も与えられてなかったのかと、小吉さんの猛獣っぷりに驚いたが、引ったくりは小吉さんではなく逆の方向に出現していた。

「た、橘さんが、俺の為に……!」

 後輩の挨拶には無反応を貫き通した奴が目の色を変えて、土産の入った袋に頬擦りしていた。

「残念だけど女神は関係ねぇから。教師用に村主さんからおせち貰っただろ。それの残りをオレと先輩が詰めたやつだよ」

 丁寧に誤解を解いてやったと言うのに、今度は敵意剥き出しで詰め寄って来る稲っち。

「テメェ、一年の分際で馴れ馴れしく女神に近づいていいと思ってんのか?」

 近づきたくて近づいてねーし! お前と一緒にすんな文芸部!

「てか、馴れ馴れしくしたいなら、旧館の食堂へ行って来いよ。多分、女神一人じゃあ片付けとか無理そうだし、手伝いに行ってやれば?」

 放って置いてもいいのだが、風呂入りに行った時、片付け要員として当てにされても面倒なので、先手を打って労働力を派遣しておく。皿洗いは圏ガクの生徒ならば誰でも習得しているスキルの一つだ。それを存分に発揮してもらおう。

「なんでそれを先に言わねぇんだ!」

 オレのテキトーな言葉に稲っちは面白いくらい予想通りの反応をした。それは一大事だと、嬉嬉として冷蔵庫を飛び出そうとする。

「おせちは向こうにもあるから、弁当持参しなくても大丈夫だよ」

 土産を持ち去られないよう声をかけると、ボールのようにポイと投げて寄越しやがった。

「それもおせちなのか?」

 土産をビニールから取り出すと、小吉さんが不思議な事を言う。ここにもおせちがあるのかと聞けば、小吉さんは元気よく「うん」と頷いた。

「これだけ『正月』やってて、食い物なかったら詐欺だろ」

 矢野君が部屋を見回しながら苦笑する。オレも矢野君に倣い、改めて冷蔵庫の中を見渡す。

 壁や窓に紅白の幕が張られ、小さいながらも門松や鏡餅が飾られている。凧や駒、それに羽子板って言うのかな、ちょっと遊べそうな物も色々あった。それから、見るからに正月という訳ではないが、普段見かけない物もいくつか発見する。

 どこかで見た事のある電子レンジに山積みの段ボール。段ボールの中身を確認しようと近づくと、小吉さんが慌ててオレの前へと立ちはだかった。

「おせちは冷蔵庫の中だぞ。こ、こここ、これはお前ら一年が触ったら駄目な奴なんだ」

 触るなと言われると、とりあえず触ってみたくなる。オレの興味が段ボールにしっかり向いた時、タイミングが良いのか悪いのか、山センと先輩のテレビ戦争が終結した。

「こんなしょぼいモン持って来るなんて、いい度胸だな、夷川!」

 オレが持って来た土産を覗き込み、ハッと鼻で笑いながら、どうやって着たのか謎だが、正月らしく着物に袴姿の山センが絡んできた。

「正月から残飯食うなんてお前らが可哀想すぎるから、約束通りオレが美味いもん食わせてやるよ!」

 残飯と言われても仕方のない土産なので、全く以て反論出来ないのだが、やはり面白くはない。なので気持ちだけでも仕方なく、山センの言う『美味いもん』とやらをご馳走されてやろう。

 冷蔵庫(本物の)へ走る小吉さんに付いて行く。冷蔵庫の前で待っていてくれたので、一緒に扉を開けると

「うわ……すげぇ」「うん」

 何故か無駄にデカイ冷蔵庫なのだが、その中に食い物がぎっしり詰め込まれていた。

 食堂で見た物より派手で、三段どころか五段もある重箱が四つ。何が入っているのか分からない箱が更に四つ。大きめのタッパーには色とりどりの果物が詰められ、その横には寿と熨斗のされた鯛が寝そべっている。

「どうだ、すごいだろ。しょぼい金の事なんざ吹っ飛ぶくらいの贅沢、思う存分味わわせてやるんだから、ありがたーく思え」

 山センの物言いが気にならないくらい、オレらは目の前の物に集中していた。重箱を一つ引っぱり出し蓋を開けると「おぉぉ」と自然に声が出てしまう。
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