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蜜月
新年会
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丸一日を校内デート(という名のただの散歩)に費やしてもよかったのだが、寒さに負けコタツが恋しくなったので、オレらは校舎に戻った。
先輩の部屋やキャンプ場には立ち寄らず、真っ直ぐ冷蔵庫へ向かう。すると、目的地からだろう、実に正月らしい琴の音色が漏れ聞こえてきた。
「あの一角だけテレビで見るような正月やってんなぁ」
呆れ半分ではあるが、何やってるのか興味はある……ちょっとだけ新年会に期待してしまっているが、ホストにそれが伝わると面倒なので、気合いを入れて普段通り軽く挨拶する体で行く。土産のおせちを小吉さんにも食べさせてやりたいので、そのついでだと思えばいい。
そんな感じで出向いたというのに、見慣れているはずの冷蔵庫の扉にデンと飾られた物を見て、思わず身構えてしまう。
「おぉ、なんか立派なのがあるな」
昔……父親の実家へ行かされた時に見た、玄関を思い出してしまった。由緒があるのか無駄に立派な家で、中に入る前から威圧されている感じがして恐かったのを覚えている。
「セイシュン?」
正月にロクな記憶なんてないのに、感傷みたいなのが無意識に湧き上がってくる直前、先輩の声が今に引き戻してくれた。
「これ、しめ縄だっけ? 確か家の中に飾る物じゃあないだろ。玄関とか外に面してる場所に飾るやつだよ」
強ばっていた体から力が抜ける。改めて見れば扉のど真ん中に一番大きい物が飾られているのだが、それだけでは物足りなかったのか、小さい物も上下左右に置かれ、ちょっとした儀式のように(もちろん神聖なやつじゃあなく、もっと禍々しい感じのやつだ)なっていた。
本当に去年までは、こんな所で正月を迎えるとは想像もしなかった。こんなふうに思うのも何度目だろう。自然と笑えてくるから可笑しい。
中ではどんな馬鹿騒ぎをやっているのか、不本意ながら混ざるのもやぶさかでは無い。飛び込むつもりで扉に手をかけたのだが、中から予想しない音が聞こえてきて、思わず手を引っ込めてしまう。
聞こえるはずのない、女の笑い声。きゃっきゃと複数の楽しげな声が聞こえてきた。
「まさか山センの奴、正月早々、校内に女連れ込んでんのか」
圏ガクは山奥の男子校とは言え、女人禁制ではない。あのがさつな女神も一応女だしな。しかし、生徒が勝手に女を連れ込んでもいい……訳が無い。
「いくら山本でも、さすがにそれはないだろ」
先輩はオレの心配を笑いながら、普通に扉を開け放ってしまった。
「あ! 金城先輩と夷川だ。明けましておめでとうございます!」
扉の先には、山セン自慢のハーレムが展開されているのかと思ったが、先輩の言う通り、さすがにそれはなかった。部屋の中は正月仕様だったが、揃っていたのは見慣れたメンツだった。
聞こえてきた女の声もいつも通り、テレビから流れていた。
「セイシュンは少し廊下で待ってろ」
中に入ろうとしたら、先輩に肩を掴まれ廊下に押し戻された。ぴしゃりと扉も閉じられ一人取り残されたのだが、中から先輩と山センのやり取りが聞こえてきたので、とりあえず廊下から様子を窺う。
「金城! 勝手にコンセントを抜くな! せっかくのビデオレターをみんなに鑑賞させてやろうというオレの心遣いをなんだと思ってるんだ!」
「正月でめでたい気持ちなのは分かるが、少しは自重しろ。正気でないのはお前だけだ。他の奴らの目はみたか? 疲れ切ってるだろうが」
「かわいい女が体張って楽しまそうとしてるんだから、男なら誰だって消耗はするさ。これほど心地良い疲れが他にあるか! いいや、ないね! って、喋ってる最中にコンセントを抜くな! 金城!」
テレビのコンセントを抜いたり差したりしながら、先輩と山センは口論をしているようだ。まあ、二人に混ざろうとは思わないが、廊下で待つのも馬鹿らしいので部屋に入った。
「明けましておめでとーございます」
いつも通りのテンションで予定通り軽めの挨拶をすると、テレビ戦争に巻き込まれたくない三人が各々反応をくれた。
「おー、ご丁寧にどうも」
何故か畏まって頭を下げてくる小吉さんと顎で座れと勧めてくる矢野君、あとは完全に無視しやがる稲継先輩。いつも通り、後輩に冷たいブレない先輩に敬意を払いつつ、コタツの定位置につく。
「ビデオレターって何? いつものエロ動画じゃないの?」
山センが必死に見せようとして、先輩が断固阻止しようとしているモノについて尋ねてみた。一瞬見えたのは、派手な着物で着飾った女が乳やケツを放り出して、正月っぽい遊びをしている所だったと思うのだが……。
「山センの彼女たちが、この正月一式と一緒にビデオを送ってきたらしくて、お前らも見ろって……ずっと見せられてた」
小吉さんが目を虚ろにしながら答えてくれる。山センの彼女か……どおりで、出てる女の質がヤバイはずだ。妖怪としか形容出来ないのが何人か紛れ込んでいたからな。
先輩の部屋やキャンプ場には立ち寄らず、真っ直ぐ冷蔵庫へ向かう。すると、目的地からだろう、実に正月らしい琴の音色が漏れ聞こえてきた。
「あの一角だけテレビで見るような正月やってんなぁ」
呆れ半分ではあるが、何やってるのか興味はある……ちょっとだけ新年会に期待してしまっているが、ホストにそれが伝わると面倒なので、気合いを入れて普段通り軽く挨拶する体で行く。土産のおせちを小吉さんにも食べさせてやりたいので、そのついでだと思えばいい。
そんな感じで出向いたというのに、見慣れているはずの冷蔵庫の扉にデンと飾られた物を見て、思わず身構えてしまう。
「おぉ、なんか立派なのがあるな」
昔……父親の実家へ行かされた時に見た、玄関を思い出してしまった。由緒があるのか無駄に立派な家で、中に入る前から威圧されている感じがして恐かったのを覚えている。
「セイシュン?」
正月にロクな記憶なんてないのに、感傷みたいなのが無意識に湧き上がってくる直前、先輩の声が今に引き戻してくれた。
「これ、しめ縄だっけ? 確か家の中に飾る物じゃあないだろ。玄関とか外に面してる場所に飾るやつだよ」
強ばっていた体から力が抜ける。改めて見れば扉のど真ん中に一番大きい物が飾られているのだが、それだけでは物足りなかったのか、小さい物も上下左右に置かれ、ちょっとした儀式のように(もちろん神聖なやつじゃあなく、もっと禍々しい感じのやつだ)なっていた。
本当に去年までは、こんな所で正月を迎えるとは想像もしなかった。こんなふうに思うのも何度目だろう。自然と笑えてくるから可笑しい。
中ではどんな馬鹿騒ぎをやっているのか、不本意ながら混ざるのもやぶさかでは無い。飛び込むつもりで扉に手をかけたのだが、中から予想しない音が聞こえてきて、思わず手を引っ込めてしまう。
聞こえるはずのない、女の笑い声。きゃっきゃと複数の楽しげな声が聞こえてきた。
「まさか山センの奴、正月早々、校内に女連れ込んでんのか」
圏ガクは山奥の男子校とは言え、女人禁制ではない。あのがさつな女神も一応女だしな。しかし、生徒が勝手に女を連れ込んでもいい……訳が無い。
「いくら山本でも、さすがにそれはないだろ」
先輩はオレの心配を笑いながら、普通に扉を開け放ってしまった。
「あ! 金城先輩と夷川だ。明けましておめでとうございます!」
扉の先には、山セン自慢のハーレムが展開されているのかと思ったが、先輩の言う通り、さすがにそれはなかった。部屋の中は正月仕様だったが、揃っていたのは見慣れたメンツだった。
聞こえてきた女の声もいつも通り、テレビから流れていた。
「セイシュンは少し廊下で待ってろ」
中に入ろうとしたら、先輩に肩を掴まれ廊下に押し戻された。ぴしゃりと扉も閉じられ一人取り残されたのだが、中から先輩と山センのやり取りが聞こえてきたので、とりあえず廊下から様子を窺う。
「金城! 勝手にコンセントを抜くな! せっかくのビデオレターをみんなに鑑賞させてやろうというオレの心遣いをなんだと思ってるんだ!」
「正月でめでたい気持ちなのは分かるが、少しは自重しろ。正気でないのはお前だけだ。他の奴らの目はみたか? 疲れ切ってるだろうが」
「かわいい女が体張って楽しまそうとしてるんだから、男なら誰だって消耗はするさ。これほど心地良い疲れが他にあるか! いいや、ないね! って、喋ってる最中にコンセントを抜くな! 金城!」
テレビのコンセントを抜いたり差したりしながら、先輩と山センは口論をしているようだ。まあ、二人に混ざろうとは思わないが、廊下で待つのも馬鹿らしいので部屋に入った。
「明けましておめでとーございます」
いつも通りのテンションで予定通り軽めの挨拶をすると、テレビ戦争に巻き込まれたくない三人が各々反応をくれた。
「おー、ご丁寧にどうも」
何故か畏まって頭を下げてくる小吉さんと顎で座れと勧めてくる矢野君、あとは完全に無視しやがる稲継先輩。いつも通り、後輩に冷たいブレない先輩に敬意を払いつつ、コタツの定位置につく。
「ビデオレターって何? いつものエロ動画じゃないの?」
山センが必死に見せようとして、先輩が断固阻止しようとしているモノについて尋ねてみた。一瞬見えたのは、派手な着物で着飾った女が乳やケツを放り出して、正月っぽい遊びをしている所だったと思うのだが……。
「山センの彼女たちが、この正月一式と一緒にビデオを送ってきたらしくて、お前らも見ろって……ずっと見せられてた」
小吉さんが目を虚ろにしながら答えてくれる。山センの彼女か……どおりで、出てる女の質がヤバイはずだ。妖怪としか形容出来ないのが何人か紛れ込んでいたからな。
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