圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

ネオおせち爆誕

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 料理の心得を持たない三人が、寄って集って詰めたおせちが、見本の写真通りに完成するはずもなく、前衛的なネオおせちが出来上がってしまった。

 他の二人と比べれば自信を持ってマシだと言えるが、オレの不器用さもなかなかに酷かったのだ。

「うむ、やはりお前たちに手を貸してもらったのは正解だったな。これなら、先生もさぞお喜びになるだろう」

「いや、セイシュンのおかげです。こんな立派な弁当は初めて見た」

 こいつらの感覚はどうなっているんだと思わざるを得ない。屈託のない顔どころか、誇らしげにぐちゃっとなっている重箱を見つめながら、こんな事を言えるのは何故だ。それとも、絶望感や疲労感しか覚えないオレがおかしいのか。

「さっそく先生の元へ運んでくれないか。私は先生お手製の雑煮を準備するのでな」

「せっかくのおせちを落としたら大変なので、一緒に運んで下さい」

 女神が新たな被害を生み出そうとするので阻止する。霧夜氏も悲惨なおせちの状況を目の当たりにすれば、今後教え子を厨房に入れるという愚行は見逃さないだろう。

 ちょうど三段あった重箱を一つずつ手に持ち、オレらは食堂へと向かった。

「お待たせしました。見て下さい、先生。見事な物でしょう」

 両手で大事そうに重箱を抱えたオレらの先頭で、女神は厨房の扉を華麗に足で開けた。稲継先輩は知っているのだろうか……この女、なかなかに行儀が悪い。

「明けましておめでとうございます。二人とも、ご苦労様でしたね」

 女神に続き食堂へ入ると、珍しく本を手に持っていない状態の霧夜氏が出迎えてくれた。どうやら、おせちと格闘する厨房の音が漏れ聞こえていたらしい。霧夜氏の初笑いを無意識に奪ってしまっていた。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 机におせちを並べた後、先輩と一緒に霧夜氏に挨拶をする。すると、女神が再び厨房へと戻ろうとしやがった。

「では、私は雑煮を準備してきます」

「はい。ケガだけはしないよう、気を付けて下さい」

 このおせちを見て雑煮を任せられる霧夜氏の胆力がえげつない。食べる奴が気にしないなら問題ないかと一瞬考えてしまったが、女神が足で蹴破ったのかと思うような勢いで元来た扉を開けやがったので、見ていられずオレも軽く会釈だけして厨房へと戻る決心をした。

「金城君はもうすぐ卒業ですね」

 先輩もオレに付いて来ようとしたが、霧夜氏が声をかけたので、大人しくその場で「はい」と返事する声が聞こえた。

 何を話すのかなと、少し気になったが「何故だ! 火がつかない!」と大女が騒ぎ出したので、後ろ髪を引かれながらも厨房に走った。

 開けっ放しの扉から入ると、そこは既にガスの異臭が漂っており、その中でコンロを着火させようとしている馬鹿を発見。もう敬語とか使う意味が分からず「止めろ!」と叫びながら、女神を取り押さえた。

 ガスに引火したらどうするんだという、オレの真っ当な説教に大袈裟なと文句言いたげな女神。山火事になるぞと脅しながら雑煮の準備を手伝う。

「手伝うだけというのも味気ないだろう」

 オレらは挨拶も済んだので、校舎へ帰ろうと思っていたのだが、一緒に食べていけと問答無用でオレらの分も用意させられた。

 霧夜氏のお手製らしい雑煮は、ジャンクフードに慣れたオレの舌には優しすぎる味で、腹は膨れても物足りなさを感じてしまった。目の前に嫌がらせのように鎮座するネオおせちも勧められたが、教師陣の食料を生徒が食い荒らす訳にはいかないので(先輩が)丁重に断った。

 そして雑煮の礼を言い、部屋へ戻ろうとしたのだが、何故か女神が玄関先まで見送りに出て来た。

「帰る前に……台所を軽く片付けておいてくれないか? ゴミをまとめておいてくれるだけでいい。捨てるのは私が責任を持ってやっておくから」

 霧夜氏の目がない所で、しっかり生徒をこき使おうとする女神。稲っちなら大喜びでやるんだろうが、まともな感覚を持っているオレとしては、あの悲惨な現場の当事者であるお前も一緒に片付けろと言いたくなる。

「余分に入っていた料理はどうしたらいいですか?」

「そうだな……先生方の箱には十分な量を詰め込んだから、残っている分は君らの好きにするといい」

 まるで自分が用意した物のように誇らしげな顔で女神は言いやがった。

 そんな訳で、ネオおせちが爆誕した現場の残骸を片付ける役目を引き受ける事になった。そんな気はしてたんだよ。あの女神、圏ガクの空気によく馴染んでたからな。

「どうしたんだ?」

 厨房の惨状を目の当たりにして、思わず盛大に溜め息を吐いていると、ゴミ箱を抱えた先輩が声をかけてくる。

「家畜に休日なんて上等なものはないんだなって実感してた」

 正月早々、掃除するとは本気で思わなかった。午前中は丸ごと厨房の掃除で潰れそうだ。

「……ん、そうだ。一度帰って戻って来るのも面倒だ。他の先生たちが揃うまで待つか」

 先輩はそう言うと、ゴミ箱を少し離れた位置に置き、蛇口で手を洗った。「実は箱詰めしてる時から気になってたんだ」と嬉しそうな顔で、海老の皮を剥き始める。

「セイシュン、口開けろ」

 言われるまま阿呆みたいに口を開けると、大ぶりの海老が飛び込んで来た。遠慮無く咀嚼してやると、プリプリとした食感が実に生意気で、目の前の光景がそう悲惨なものではないと知る。
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