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蜜月
品行方正少年?
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「セイシュン、今日は無理せず休まないか?」
先輩の言葉に心が折れそうになる……が『先輩のチンコで下半身やられたから休む』なんて小吉さんには言えない。
「小吉には俺が言っておくから。あ、小吉一人にするのが不安なら、俺だけでも掃除の手伝いをしてくるぞ」
「先輩はオレが一人になるのは不安じゃあないんだ」
先輩の提案に恨めしそうな声が出た。
こんな些細な事でも妬いてしまう自分が情けないが、自制心など捨て去って久しい。みっともない自分であろうと、それを笑って受け止めてくれる奴がいると人間どこまででも堕ちていける。妙な感慨にふけりそうになるが、そんな時間もなかった。
布団の中でへばっていた体に活を入れる。下半身の怠さが半端ないが、数少ない奉仕作業を二日連続でサボるのは気が引けたのだ。
「セイシュンの事は霧夜先生に頼もうと思ってたよ。食堂で大人しく本でも読んでてくれって事なんだけどな」
一応、心配はしてくれているのか。今回は初っ端から先輩たちと一緒なので、残留一年は(かなり汚い)空気みたいなものだが、まあ一人でフラフラしてたら間違いなく絡まれるだろう。
「オレが読書で楽しく一日過ごせる訳ねーじゃん。貴重な休みを無駄に使いたくない」
「勉強は好きなのに、本を読むのは嫌いなのか」
別に本を読むのは嫌いじゃあないし、勉強が好きな訳でもない。訂正してやろうかなと思ったが、下山するバスの発車時刻は迫っていたので、ちょっと無理して先輩の手を引いて部屋を出た。
働かなくても飯は出る訳で、律儀に奉仕作業に出向く必要は全くないのだが、小吉さんを一人で放っておく事に罪悪感があるのか、それとも飯を食わせてもらっている義理か、貴重な休みをタダ働きをして過ごす。
その決断を後悔したのは、部屋を出て数分後だった。バスの最悪な乗り心地のおかげで『無理したら動ける』はずだった腰が、先輩のフォローもむなしく『死ぬ気でやれば動ける』腰にクラスチェンジした。
公民館で下山組に言い渡されたのは、体育館の掃除。小さいとは言え、六人でやるには広すぎる範囲に、依頼主である村主さんも申し訳なさそうな顔で「テキトーでは困るけど、適当でいいわよ」と各人の裁量に任せてくれた。
要は監督者不在、まあ体育館のあまりの寒さに退散しただけにも思えるが、腰が死んでるオレにはありがたい。
「セイシュン、お前の分は俺が動くから、そこで大人しく座ってろ」
着ていたコートをオレに羽織らせ、どこから引っぱり出してきたのか、パイプ椅子をセッティングする先輩。
「大丈夫……モップ掛けくらい出来るから」
椅子に座って見ているだけなら、ここに来た意味がない。小吉さんに倣いオレもモップを手に取る。モップ部分が大きいタイプを引っぱり出したので、一時間もあれば掃除は終わりそうだった。
「セイシュン、いいから休んでろ……どうしてもやるって言うなら、一緒にやろう」
オレの頑固さを理解している先輩は、事前に妥協案を出してきた。
「一緒にって、どうやって?」
疑問を口にした途端、体がひょいと浮いた。先輩がオレを持ち上げやがったのだ。
「…………何がしたいの?」
オレを移動させたかっただけのようで、すぐに下ろしてくれた訳だが、何故か着地した先がモップの上だった。
「じゃあ、行くぞ。ちゃんと掴まってろよ」
オレの呆れた視線も物ともせず、先輩はゆっくりとモップを動かし始めた。オレが重しになっているというのに、違和感なく『掃除』が始まり、モップの速度は上がっていく。バランスを崩したら振り落とされると思い、モップの柄を掴むと、またまたグンと速度が上がった。
乗り物にでも乗っているような感覚に、不覚にも楽しくなってきてしまう。体育館の端っこまでモップをかけ終えると、先輩は器用に方向転換した。
「ちょっと待って、オレも向き変える」
先輩と向き合うのもいいが、どうせなら進行方向を向いていたいと思ってしまったのだ。
思った通り、往復の帰り道は、ギュンギュン進むモップの上でライダー気分を味わった。傍目にも楽しそうに見えたのだろう、小吉さんが羨ましそうな顔でこちらを見ていた。
「いいなぁ、夷川」
素直に羨ましがられると、ちょっと分けてやりたい気分になる。
「小吉さんもやってみる?」
そう声をかけてやると、小吉さんはパッと嬉しそうな顔を見せ、何故か先輩に手を差し出した。
「先にモップの上に乗ってからバランス取った方がいいよ」
小吉さんに場所を譲ろうとしたら、今度は不満そうな顔を向けられる。
「夷川が乗ってくれないと、ただの掃除になるんだぞ」
「モップの方やりたいのかよ。なんで、絶対に乗る方が楽しいって」
操縦する方が楽しそうだと言って聞かない小吉さんに、先輩はオレごとモップを手渡した。
先輩の言葉に心が折れそうになる……が『先輩のチンコで下半身やられたから休む』なんて小吉さんには言えない。
「小吉には俺が言っておくから。あ、小吉一人にするのが不安なら、俺だけでも掃除の手伝いをしてくるぞ」
「先輩はオレが一人になるのは不安じゃあないんだ」
先輩の提案に恨めしそうな声が出た。
こんな些細な事でも妬いてしまう自分が情けないが、自制心など捨て去って久しい。みっともない自分であろうと、それを笑って受け止めてくれる奴がいると人間どこまででも堕ちていける。妙な感慨にふけりそうになるが、そんな時間もなかった。
布団の中でへばっていた体に活を入れる。下半身の怠さが半端ないが、数少ない奉仕作業を二日連続でサボるのは気が引けたのだ。
「セイシュンの事は霧夜先生に頼もうと思ってたよ。食堂で大人しく本でも読んでてくれって事なんだけどな」
一応、心配はしてくれているのか。今回は初っ端から先輩たちと一緒なので、残留一年は(かなり汚い)空気みたいなものだが、まあ一人でフラフラしてたら間違いなく絡まれるだろう。
「オレが読書で楽しく一日過ごせる訳ねーじゃん。貴重な休みを無駄に使いたくない」
「勉強は好きなのに、本を読むのは嫌いなのか」
別に本を読むのは嫌いじゃあないし、勉強が好きな訳でもない。訂正してやろうかなと思ったが、下山するバスの発車時刻は迫っていたので、ちょっと無理して先輩の手を引いて部屋を出た。
働かなくても飯は出る訳で、律儀に奉仕作業に出向く必要は全くないのだが、小吉さんを一人で放っておく事に罪悪感があるのか、それとも飯を食わせてもらっている義理か、貴重な休みをタダ働きをして過ごす。
その決断を後悔したのは、部屋を出て数分後だった。バスの最悪な乗り心地のおかげで『無理したら動ける』はずだった腰が、先輩のフォローもむなしく『死ぬ気でやれば動ける』腰にクラスチェンジした。
公民館で下山組に言い渡されたのは、体育館の掃除。小さいとは言え、六人でやるには広すぎる範囲に、依頼主である村主さんも申し訳なさそうな顔で「テキトーでは困るけど、適当でいいわよ」と各人の裁量に任せてくれた。
要は監督者不在、まあ体育館のあまりの寒さに退散しただけにも思えるが、腰が死んでるオレにはありがたい。
「セイシュン、お前の分は俺が動くから、そこで大人しく座ってろ」
着ていたコートをオレに羽織らせ、どこから引っぱり出してきたのか、パイプ椅子をセッティングする先輩。
「大丈夫……モップ掛けくらい出来るから」
椅子に座って見ているだけなら、ここに来た意味がない。小吉さんに倣いオレもモップを手に取る。モップ部分が大きいタイプを引っぱり出したので、一時間もあれば掃除は終わりそうだった。
「セイシュン、いいから休んでろ……どうしてもやるって言うなら、一緒にやろう」
オレの頑固さを理解している先輩は、事前に妥協案を出してきた。
「一緒にって、どうやって?」
疑問を口にした途端、体がひょいと浮いた。先輩がオレを持ち上げやがったのだ。
「…………何がしたいの?」
オレを移動させたかっただけのようで、すぐに下ろしてくれた訳だが、何故か着地した先がモップの上だった。
「じゃあ、行くぞ。ちゃんと掴まってろよ」
オレの呆れた視線も物ともせず、先輩はゆっくりとモップを動かし始めた。オレが重しになっているというのに、違和感なく『掃除』が始まり、モップの速度は上がっていく。バランスを崩したら振り落とされると思い、モップの柄を掴むと、またまたグンと速度が上がった。
乗り物にでも乗っているような感覚に、不覚にも楽しくなってきてしまう。体育館の端っこまでモップをかけ終えると、先輩は器用に方向転換した。
「ちょっと待って、オレも向き変える」
先輩と向き合うのもいいが、どうせなら進行方向を向いていたいと思ってしまったのだ。
思った通り、往復の帰り道は、ギュンギュン進むモップの上でライダー気分を味わった。傍目にも楽しそうに見えたのだろう、小吉さんが羨ましそうな顔でこちらを見ていた。
「いいなぁ、夷川」
素直に羨ましがられると、ちょっと分けてやりたい気分になる。
「小吉さんもやってみる?」
そう声をかけてやると、小吉さんはパッと嬉しそうな顔を見せ、何故か先輩に手を差し出した。
「先にモップの上に乗ってからバランス取った方がいいよ」
小吉さんに場所を譲ろうとしたら、今度は不満そうな顔を向けられる。
「夷川が乗ってくれないと、ただの掃除になるんだぞ」
「モップの方やりたいのかよ。なんで、絶対に乗る方が楽しいって」
操縦する方が楽しそうだと言って聞かない小吉さんに、先輩はオレごとモップを手渡した。
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