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蜜月
園芸部グループ
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夏休みの経験上、割り当てられる仕事の内容は予想出来る。いわゆる『誰にでも出来る』地味にしんどい雑用。リーダーを引き受けた奴だけに降りかかる重責なんてものもないだろう。
「やれるやれる」
気楽にいけと、肩を叩いてやったが、よほど緊張しているのか、全くの無反応だった。あまりに微動だにしないので、視線の先にあったパンに手を伸ばしてみるが、やはり反応はない。
「…………」
久し振りに口にした総菜パンは、無駄に美味しかったので、余剰分も余裕で腹におさまりそうだ。
「こら」
ありがたく頂くかと、封を開けようとしたら、頭に先輩の手刀を食らった。しかし、いつもならある丸太が脳天をぶち抜くような衝撃も痛みもない。これはアレだ……正確に言うなら、食らったのは手刀ではなく寸止めの手刀だな。先輩の甘さに顔がにやける。素直に総菜パンを持ち主に返すと『よく出来ました』と言わんばかりに別のパンが手渡された。
「欲しいなら俺のをやる。小吉もシャキッとしろ」
オレ越しに小吉さんにも活を入れる先輩。
「は、はいッ! よろしくお願いします!」
オレの言葉には無反応だったくせに、先輩には律儀に返事をするグループリーダーは、立ち上がり勢いよく頭を下げ、机に額を打ちつけた。
結成直後から息の合った園芸部グループは、リーダーの気合いの入った挨拶を察し、全てのスープを机から避難させる周到さを見せ、その無駄な結束力を村主さんにアピールし、全力の苦笑を頂いた。
朝食が終わると村主さんは、小吉さんに本日の仕事場所を伝え、公民館での雑用に回されるらしい三馬鹿の監視へ向かった。なら、オレたちの監視は担任かと思ったが「失礼のないようにな……特に夷川」とオレにだけ釘を刺して、そそくさと車で(買い出しだろうか)出て行ってしまう。
「どっかの空き地で草でもむしるの?」
なんとなく思った事を口にして『それはなさそうだな』と小吉さんの返事より先に答えを出す。夏場と違って、多少は生き残っている奴らもいるが、気になるほどの雑草はどこにもない。
「今日は佐藤さんの大掃除の手伝いに行くぞ」
佐藤さんって誰だよ。
「小吉は顔見知りなのか? その、佐藤さんって人と」
「はい! 家の場所も覚えてるので大丈夫です!」
先輩の疑問に元気よく答える小吉さんは、どこかちょっと誇らしそうだ。そんな姿を見てしまうと、どうでもいい他人の家の大掃除もテキトーに済ませる訳にはいかないなと、オレは軽く溜め息を吐いた。
公民館から歩いて十五分のところにある本日の現場へ到着すると、佐藤さん老夫婦はオレらの来訪を歓迎してくれた。爺さん婆さんに手放しで喜ばれるのは予想外すぎて面食らったが、小吉さんの人となりを知っているらしく、その姿は絵に描いたような『孫の顔を見て喜ぶ、じいちゃんばあちゃん』だった。
小吉さんの人柄がフォローしてくれたおかげか、無愛想なオレにもよくしてくれる人たちで、行って早々に温かいお茶と菓子をご馳走になった。ただ、先輩の事だけは、サイズが規格外なせいか、何度か誤解を解こうとしたが、ずっと「先生」と呼ばせてしまった。
「生徒だけなのは、不安にさせるかもしれないしな……」
困ったように笑い誤解を受け入れる先輩が妙にいじらしくて、頭を撫でてやりたくなる。そんな事をしたら、先輩の頑張りが無駄になってしまうので我慢したが、自分の中にある先輩を『かわいい』と思ってしまう部分が、どんどん大きくなっているのを自覚した。
昼飯と午前と午後にそれぞれ茶菓子タイムを挟みつつ、佐藤さん家の大掃除を手伝った訳だが、なかなかにハードだった。爺さん婆さんがオレらをこき使った……訳ではなく、自主的にアレコレと動き回ったせいなのだが。
高い場所の掃除や重い物の移動、でかいゴミを捨てに行くのやら、探せば山ほど仕事はあった。「ぼちぼちやるから無理しなくていいよ」と言ってくれるのだが、爺さん婆さんが無理してやるより、オレらがやった方が早いし安全だと思ってしまうと、今日中に片付けようと無駄に張り切ってしまったのだ。
その成果でもあるポケットの中身に触れる。ひんやり冷たい五百円硬貨。
「少ないけど、これでジュースでも買ってちょうだいね」
帰り際、小吉さんとオレの手に婆さんが握らせてくれた物だ。「先生には内緒よ」と、先生だと誤解されている先輩には当たらなかった。
「夷川、さっき貰ったお金な、貰ったら駄目だから村主さんに渡さないと駄目なんだ」
こういう事がよくあるのか(園芸部の課外活動と称して、休みの日に似たような事をしているらしい)小吉さんは申し訳なさそうに、でもリーダーらしくはっきりと『駄目』と二回言った。たかが五百円、されど五百円。自由に使える金が一銭もない配給民としては「これくらい、いいじゃん」と言ってしまいそうになるが、素直に硬貨を小吉さんに手渡す。
あ、なんか先輩が頭を撫でたそうな顔でオレらを見てやがる。小吉さんに手ぇ出したら、腕に齧りついてやる。
「やれるやれる」
気楽にいけと、肩を叩いてやったが、よほど緊張しているのか、全くの無反応だった。あまりに微動だにしないので、視線の先にあったパンに手を伸ばしてみるが、やはり反応はない。
「…………」
久し振りに口にした総菜パンは、無駄に美味しかったので、余剰分も余裕で腹におさまりそうだ。
「こら」
ありがたく頂くかと、封を開けようとしたら、頭に先輩の手刀を食らった。しかし、いつもならある丸太が脳天をぶち抜くような衝撃も痛みもない。これはアレだ……正確に言うなら、食らったのは手刀ではなく寸止めの手刀だな。先輩の甘さに顔がにやける。素直に総菜パンを持ち主に返すと『よく出来ました』と言わんばかりに別のパンが手渡された。
「欲しいなら俺のをやる。小吉もシャキッとしろ」
オレ越しに小吉さんにも活を入れる先輩。
「は、はいッ! よろしくお願いします!」
オレの言葉には無反応だったくせに、先輩には律儀に返事をするグループリーダーは、立ち上がり勢いよく頭を下げ、机に額を打ちつけた。
結成直後から息の合った園芸部グループは、リーダーの気合いの入った挨拶を察し、全てのスープを机から避難させる周到さを見せ、その無駄な結束力を村主さんにアピールし、全力の苦笑を頂いた。
朝食が終わると村主さんは、小吉さんに本日の仕事場所を伝え、公民館での雑用に回されるらしい三馬鹿の監視へ向かった。なら、オレたちの監視は担任かと思ったが「失礼のないようにな……特に夷川」とオレにだけ釘を刺して、そそくさと車で(買い出しだろうか)出て行ってしまう。
「どっかの空き地で草でもむしるの?」
なんとなく思った事を口にして『それはなさそうだな』と小吉さんの返事より先に答えを出す。夏場と違って、多少は生き残っている奴らもいるが、気になるほどの雑草はどこにもない。
「今日は佐藤さんの大掃除の手伝いに行くぞ」
佐藤さんって誰だよ。
「小吉は顔見知りなのか? その、佐藤さんって人と」
「はい! 家の場所も覚えてるので大丈夫です!」
先輩の疑問に元気よく答える小吉さんは、どこかちょっと誇らしそうだ。そんな姿を見てしまうと、どうでもいい他人の家の大掃除もテキトーに済ませる訳にはいかないなと、オレは軽く溜め息を吐いた。
公民館から歩いて十五分のところにある本日の現場へ到着すると、佐藤さん老夫婦はオレらの来訪を歓迎してくれた。爺さん婆さんに手放しで喜ばれるのは予想外すぎて面食らったが、小吉さんの人となりを知っているらしく、その姿は絵に描いたような『孫の顔を見て喜ぶ、じいちゃんばあちゃん』だった。
小吉さんの人柄がフォローしてくれたおかげか、無愛想なオレにもよくしてくれる人たちで、行って早々に温かいお茶と菓子をご馳走になった。ただ、先輩の事だけは、サイズが規格外なせいか、何度か誤解を解こうとしたが、ずっと「先生」と呼ばせてしまった。
「生徒だけなのは、不安にさせるかもしれないしな……」
困ったように笑い誤解を受け入れる先輩が妙にいじらしくて、頭を撫でてやりたくなる。そんな事をしたら、先輩の頑張りが無駄になってしまうので我慢したが、自分の中にある先輩を『かわいい』と思ってしまう部分が、どんどん大きくなっているのを自覚した。
昼飯と午前と午後にそれぞれ茶菓子タイムを挟みつつ、佐藤さん家の大掃除を手伝った訳だが、なかなかにハードだった。爺さん婆さんがオレらをこき使った……訳ではなく、自主的にアレコレと動き回ったせいなのだが。
高い場所の掃除や重い物の移動、でかいゴミを捨てに行くのやら、探せば山ほど仕事はあった。「ぼちぼちやるから無理しなくていいよ」と言ってくれるのだが、爺さん婆さんが無理してやるより、オレらがやった方が早いし安全だと思ってしまうと、今日中に片付けようと無駄に張り切ってしまったのだ。
その成果でもあるポケットの中身に触れる。ひんやり冷たい五百円硬貨。
「少ないけど、これでジュースでも買ってちょうだいね」
帰り際、小吉さんとオレの手に婆さんが握らせてくれた物だ。「先生には内緒よ」と、先生だと誤解されている先輩には当たらなかった。
「夷川、さっき貰ったお金な、貰ったら駄目だから村主さんに渡さないと駄目なんだ」
こういう事がよくあるのか(園芸部の課外活動と称して、休みの日に似たような事をしているらしい)小吉さんは申し訳なさそうに、でもリーダーらしくはっきりと『駄目』と二回言った。たかが五百円、されど五百円。自由に使える金が一銭もない配給民としては「これくらい、いいじゃん」と言ってしまいそうになるが、素直に硬貨を小吉さんに手渡す。
あ、なんか先輩が頭を撫でたそうな顔でオレらを見てやがる。小吉さんに手ぇ出したら、腕に齧りついてやる。
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