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蜜月
矯正中
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手渡されたタブレットを受け取り、由々式の言う『普通』のマンガを読む。
「…………」
ちょっと胸はでかめだが普通にかわいい女が普通に好きな奴と普通にセックスする普通にエロいマンガがそこにはあった。
「こ、これが……ふつう……!?」
そこには自分を便所として気軽に使ってくれと言う女は存在しなかった……!
「こんな荒廃した学校でも、真に求めているものは純愛なんじゃよ。まあ陵辱系は夷川みたく上級者か真性の変態向けじゃ」
「オレみたいな上級者?」
メンタルが崩れ落ちそうになりながらも、由々式の言いたい事を思考が追いかける。オレの手からタブレットを奪い、何かの作業をしているのだろう、指先を高速で動かしながら由々式は答えた。
「さっき見せたようなマンガは、夷川みたいにリアルで遊びまくってた奴らにはヌルい内容じゃろ。あくまでエロマンガ教を運営してきた半年で培ったワシの体感じゃがな」
それじゃあ、オレが貰ったこういうのは、普通の感性を持った奴からしたら……。
「酷い悪趣味じゃな。もちろんエロだけを見れば最高なんじゃがのう」
オレはその場に倒れ込んだ。メンタルが爆発して砕け散った音がした。
「まさかと思うが、昔こんなアブノーマルなプレイばかりさせてたんか?」
つい昨日やらかしたとは口が裂けても言えない。
「まあ、させる方もそうじゃが、する方も頭おかしいからのう。そんな女とは別れて正解じゃろ」
由々式の言葉はどれも致命傷で、立ち上がって反論する気すら起きなかった。
「オレ……まともになりたい」
満身創痍のオレの中に残った最後の一欠片。それを由々式は事もなげに拾ってくれる。
「なら、学べばいいべ。健全なエロを既刊から勉強するべ。神殿も大歓迎してくれるはずじゃ。エロマンガの扉は誰にでも開かれておるでな」
メンタルの崩壊したオレは、見事に勧誘された。むしろ、自分から望んで、その扉を開けに行った。
翌日からオレはエロを学ぶ為にエロマンガ教に入信。モデルになるなら入信料もお布施もゼロ円でいいとの事だったので快諾し、呉須はエロマンガを読みふけるオレの絵を何枚も描いていて申し訳なかったが、先輩に別れようと切り出される前に倫理観を矯正するべく毎日通った。
「そうか……こういうのは基本的に多人数プレイなんだな。だから、惚れた奴にはさせたくないのか。そりゃそうだな、うん」
由々式がオレに勧めてきたマンガの内容がそもそもの原因な訳だが(てか由々式の中のオレのイメージが酷い。甚だ心外だ)一冊のマンガを鵜呑みにした自分の馬鹿さ加減を反省し、呉須の描いたマンガを全て読み込んだ。
「好きな子には、自分を大事にして欲しいよな……うん」
今更ながら、先輩の心遣いが沁みて、エロマンガを読みながら号泣するという異常事態だった。
ポンと肩に手が置かれる。小さくてプクプクと白く、冗談のようなペンダコのある呉須の手だ。
涙を拭いながら振り返ると、清潔そうな無地のハンカチを渡される。ありがたく受け取ると、その目が「いい絵が描けた。今度は悔し泣きをお願いします」と語り、キラキラ輝いていた。オレはハンカチで鼻を噛んで、丁重にお断りをする。
「悪い……大切な用事があるから、モデルの続きはまたな」
ハンカチを返すと、呉須のドングリのような目が見開かれプルプル震えだしたので、隙をついて部屋を出た。ほんと、ごめん。
心の中で詫び、また後日フォローに行く事を同じく心の中で約束して、オレは先輩の部屋へと向かう。
踊り場でたむろしている二年をどう蹴散らそうか悩んだが、当たって砕けろの精神で向かうと、ありがたい事に矢野君がいてくれたので、事情を話して通して貰った。先輩の名前を出すと、矢野君は途端に甘くなる。お前は先輩の何なんだと問いたくもなるが、そこはどう聞こうが「後輩」なんだろうな。
ダッシュで階段を駆け抜け、先輩の部屋へとたどり着く。
深呼吸を一つ。走ったせいか、緊張のせいか、心臓が激しく鳴っている。あれから数日、先輩とは話していない。顔も合わせられなかった。昼食も先輩が来てくれない可能性が怖くて部屋には戻れなかった。そんなチキンなオレなのに、先輩はちゃんと昼飯の約束に旧館へ来てくれた。心の準備が出来てなくて、声をかけられなかったけど……それを用意して今ここに立っている。
「……先輩、いますか?」
扉を叩いて声をかける。すると、中からガタンバタンと大きな音がして「せ、セイシュンか?」と慌てた先輩の声が返ってきた。
「今、話せる?」
室内の音が更に激しくなる。大きなものが転がり回っているような……てか、先輩が部屋の中で転けたのかもしれない。大丈夫かと声をかけると、少しひっくり返った声で「大丈夫だ」と聞こえてきた。取り込み中か? と不安になる。誰かいるんだろうか……不安が加速しそうになるのを両頬を叩いて止める。
「……セイシュン……」
ゆっくりと扉が開かれた。先輩はすごく疲れた顔をしていた。
「いきなり押し掛けてごめん。先週の事を謝りたくて来たんだ。聞いてくれる?」
用件を告げると、先輩は部屋の中へ入れてくれる。
「…………」
ちょっと胸はでかめだが普通にかわいい女が普通に好きな奴と普通にセックスする普通にエロいマンガがそこにはあった。
「こ、これが……ふつう……!?」
そこには自分を便所として気軽に使ってくれと言う女は存在しなかった……!
「こんな荒廃した学校でも、真に求めているものは純愛なんじゃよ。まあ陵辱系は夷川みたく上級者か真性の変態向けじゃ」
「オレみたいな上級者?」
メンタルが崩れ落ちそうになりながらも、由々式の言いたい事を思考が追いかける。オレの手からタブレットを奪い、何かの作業をしているのだろう、指先を高速で動かしながら由々式は答えた。
「さっき見せたようなマンガは、夷川みたいにリアルで遊びまくってた奴らにはヌルい内容じゃろ。あくまでエロマンガ教を運営してきた半年で培ったワシの体感じゃがな」
それじゃあ、オレが貰ったこういうのは、普通の感性を持った奴からしたら……。
「酷い悪趣味じゃな。もちろんエロだけを見れば最高なんじゃがのう」
オレはその場に倒れ込んだ。メンタルが爆発して砕け散った音がした。
「まさかと思うが、昔こんなアブノーマルなプレイばかりさせてたんか?」
つい昨日やらかしたとは口が裂けても言えない。
「まあ、させる方もそうじゃが、する方も頭おかしいからのう。そんな女とは別れて正解じゃろ」
由々式の言葉はどれも致命傷で、立ち上がって反論する気すら起きなかった。
「オレ……まともになりたい」
満身創痍のオレの中に残った最後の一欠片。それを由々式は事もなげに拾ってくれる。
「なら、学べばいいべ。健全なエロを既刊から勉強するべ。神殿も大歓迎してくれるはずじゃ。エロマンガの扉は誰にでも開かれておるでな」
メンタルの崩壊したオレは、見事に勧誘された。むしろ、自分から望んで、その扉を開けに行った。
翌日からオレはエロを学ぶ為にエロマンガ教に入信。モデルになるなら入信料もお布施もゼロ円でいいとの事だったので快諾し、呉須はエロマンガを読みふけるオレの絵を何枚も描いていて申し訳なかったが、先輩に別れようと切り出される前に倫理観を矯正するべく毎日通った。
「そうか……こういうのは基本的に多人数プレイなんだな。だから、惚れた奴にはさせたくないのか。そりゃそうだな、うん」
由々式がオレに勧めてきたマンガの内容がそもそもの原因な訳だが(てか由々式の中のオレのイメージが酷い。甚だ心外だ)一冊のマンガを鵜呑みにした自分の馬鹿さ加減を反省し、呉須の描いたマンガを全て読み込んだ。
「好きな子には、自分を大事にして欲しいよな……うん」
今更ながら、先輩の心遣いが沁みて、エロマンガを読みながら号泣するという異常事態だった。
ポンと肩に手が置かれる。小さくてプクプクと白く、冗談のようなペンダコのある呉須の手だ。
涙を拭いながら振り返ると、清潔そうな無地のハンカチを渡される。ありがたく受け取ると、その目が「いい絵が描けた。今度は悔し泣きをお願いします」と語り、キラキラ輝いていた。オレはハンカチで鼻を噛んで、丁重にお断りをする。
「悪い……大切な用事があるから、モデルの続きはまたな」
ハンカチを返すと、呉須のドングリのような目が見開かれプルプル震えだしたので、隙をついて部屋を出た。ほんと、ごめん。
心の中で詫び、また後日フォローに行く事を同じく心の中で約束して、オレは先輩の部屋へと向かう。
踊り場でたむろしている二年をどう蹴散らそうか悩んだが、当たって砕けろの精神で向かうと、ありがたい事に矢野君がいてくれたので、事情を話して通して貰った。先輩の名前を出すと、矢野君は途端に甘くなる。お前は先輩の何なんだと問いたくもなるが、そこはどう聞こうが「後輩」なんだろうな。
ダッシュで階段を駆け抜け、先輩の部屋へとたどり着く。
深呼吸を一つ。走ったせいか、緊張のせいか、心臓が激しく鳴っている。あれから数日、先輩とは話していない。顔も合わせられなかった。昼食も先輩が来てくれない可能性が怖くて部屋には戻れなかった。そんなチキンなオレなのに、先輩はちゃんと昼飯の約束に旧館へ来てくれた。心の準備が出来てなくて、声をかけられなかったけど……それを用意して今ここに立っている。
「……先輩、いますか?」
扉を叩いて声をかける。すると、中からガタンバタンと大きな音がして「せ、セイシュンか?」と慌てた先輩の声が返ってきた。
「今、話せる?」
室内の音が更に激しくなる。大きなものが転がり回っているような……てか、先輩が部屋の中で転けたのかもしれない。大丈夫かと声をかけると、少しひっくり返った声で「大丈夫だ」と聞こえてきた。取り込み中か? と不安になる。誰かいるんだろうか……不安が加速しそうになるのを両頬を叩いて止める。
「……セイシュン……」
ゆっくりと扉が開かれた。先輩はすごく疲れた顔をしていた。
「いきなり押し掛けてごめん。先週の事を謝りたくて来たんだ。聞いてくれる?」
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