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新学期!!
保険の付き合い方
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用済みになった本をその日の内に図書室へ返却に行くと、上級生からの理不尽な説教を一身に受けグッタリした自称図書委員に八つ当たりとしか思えない勢いで怒られた。
腹が立ったので、図書室の本を読みたくなった時は、今後も無断で持ち出して知らぬ間に返却してやろうと心に誓う。キレやすい図書委員は、返却期限を一日でも過ぎたら取り立てに家探しとか強行しそうだしな。知られなければ、穏便に図書室を利用出来る。
「えべっさん、ちょっといい?」
稲っちを出し抜く算段をしながら旧館に戻る途中、待ち伏せでもしていたのか、人気のない校舎の出入り口に陣取ったコウスケに引き止められた。
スバルや他の奴らがいない事を確認してコウスケに向き合うと、殺気とまではいかないが友好的な雰囲気ではないのがすぐに分かった。
「今じゃないと駄目なのか? もうすぐ飯の時間だぞ」
相手に合わせず、軽い調子で答えてやると「すぐに済むよ」とコウスケは校舎の中に入り、付いて来いと視線で促した。
出入り口から一番近い便所にコウスケは入ると、個室の扉を全て開き、誰もいない事を確認し始める。そして完全な無人の便所へ容赦なくオレを引きずり込んだ。
「えべっさん話違うじゃん! どーして、もっさん連れて来ちゃうんだよ! もっさん居たらスバル怯えちゃって布団から出て来ないじゃない! そんな子相手にどうやって遊ぶの! てか、もっさん居たら遊べないよね! 前に相談したこと全部ナイショって言ったよね!?」
壁際にオレを追い詰めて、コウスケは連日の放課後の状況について鼻息荒く抗議してきた。皆元の前で出来ない事をオレの前でやろうとしてる奴に憤りを覚える……が、その前に顔にかかる鼻息が不快だったので、遠慮なく顔面を掴んで引き剥がそうとしたが、相手も引く気はないらしくオレらは妙な姿勢で睨み合う。
「お前がド変態だって事は誰にも言ってねぇよ。皆元の前でならスバルだって、しおらしいだろ。スバルと遊びたいなら、その方が好都合だろが! てか皆元本人は爆睡してて、隣でお前らが乳繰り合ってたって気付かねぇよ! オレは今日みたいに勝手に出てくから気にせず一人で盛ってろッ」
渾身の力で突き放すと、コウスケは個室の扉にぶつかり派手な音を立てた。
「…………それじゃあさぁ……約束が違うよね。『バルちんと遊べるようにする』って言ったの忘れちゃった?」
勢いだけの言葉は途切れ、不穏な気配がコウスケの声に滲み出す。本気でキレる秒読み段階、経験からそれを悟り、逃げる事を諦め変態と向き合った。
「えべっさんが捜してた奴って、先代の闇市なんだって? そいつで遊ぼうかなぁ。殴ったらチャリンチャリン音しそうじゃん。えべっさんが逃がしたポチクロ捕まえに行ってもいいなぁ……ほら、なんせ暇になっちゃったからさぁ」
念の為、闇市に関しても手を出すなと、一応納得させたのだが、それが裏目に出た。オレがあいつらを擁護するなんて可笑しい通り越して、本気で涙が出そうだ。好きにしろと丸投げしたい。でも、コウスケの言う『遊び』は後味悪すぎて、その片棒を担ぐのは嫌だった。
「分かったよ……お前が暇しないように、秘密基地にはオレ一人で行く」
観念してそう言うと、コウスケは雰囲気を一変させ明るい顔を見せる。
「さすがえべっさん! 一度した約束は守らないと、人間じゃないよね~」
調子の良い変態を睨み付け「お前も守れよ」と釘を刺しておく。すると思わず殴りたくなるような満面の笑みで「うん!」と返事をしやがった。
本気でなんでオレは、興津やポチクロなんぞの為にこんな状況になってんだ! と何度も胸中で叫んだが、それを放り投げる事も出来ず仕方なく、コウスケとスバルが平和に付き合える策を考えるという不毛なタスクを抱えた。
スバルとコウスケが楽しく遊ぶ方法。コウスケの性癖をスバルの楽しいにどう結びつけるのか……考えようと試みると、自己防衛なのか頭がにぶく痛んだ。更にそこへ自分という捨て身の要素を組み込まなければならないとか、とんでもない罰ゲームだ。
安易な解決法は根本的な解決には至らず、厄介な状況を更に悪化させる事を身を以て知った。
全力の後悔を胸に、放課後の準備を整えたオレは、馬鹿デカイ溜め息を吐きながら、迎えが来るのを待つ。
「せんぱい……ちゃんと飯食ってるかな」
窓の外に視線をやり、つい習慣で先輩の姿がないか捜してしまう。大抵は徒労に終わるのだが、タイミング悪く先輩を見つけてしまい慌てて机の下に潜り込んだ。
いつもならオレの存在に気付いて欲しくて念を送るのだが、今日はそれをせずとも先輩がこちらを向いてしまったのだ。その視線から逃れるべく奇行に走ったのだが、判断が早かったおかげか、なんとか自制が出来た。
「髭め……」
改めて窓から外を覗くと、先輩は髭と話しながら特別棟へ入って行った。八つ当たり気味に髭への恨み言を言ってしまったが、思い切り突き放して側に居てやれないオレとしては、誰かが先輩の隣に居る事に少しだけホッとする。
「……おのれ、髭めぇ」
けれど仲良さそうに並んで歩く背中から、先輩の髭への信頼を嫌と言う程感じて、八つ当たりに油を注いでしまった。自分の情けなさを重しに追いかけそうになる体を必死で繋ぎ止めていると「えべっさん、用意出来た?」ニヤニヤしたコウスケからお呼びが掛かってしまった。
準備していた物を手早くまとめ、廊下に出ると、オレの手元を覗き込んで「それ何?」とコウスケが聞いてきた。
「お前とスバルの温度差を埋める物だよ」
今説明するのも面倒なので、簡潔にそれだけ答える。何に対する温度差なのか、分かっていないのだろう、コウスケは首を傾げていたが無視して秘密基地へと足を向けた。
皆元には事前に外してくれるよう頼んである。オレがやろうとしている事を説明すると、かなり嫌そうな顔をされてしまったのだ。一緒にやるかと誘ってもみたが「断る」と即答された。コウスケに半ば脅されている手前、断られる前提での提案だったのだが、それで大丈夫なのかと逆に心配になった。
快適な昼寝場所に未練はありそうだったが、快眠を貪りすぎて夜中の寝付きが悪くなったらしく、今日は由々式の所でマンガを読んで過ごすと言っていた。心底、羨ましい。
腹が立ったので、図書室の本を読みたくなった時は、今後も無断で持ち出して知らぬ間に返却してやろうと心に誓う。キレやすい図書委員は、返却期限を一日でも過ぎたら取り立てに家探しとか強行しそうだしな。知られなければ、穏便に図書室を利用出来る。
「えべっさん、ちょっといい?」
稲っちを出し抜く算段をしながら旧館に戻る途中、待ち伏せでもしていたのか、人気のない校舎の出入り口に陣取ったコウスケに引き止められた。
スバルや他の奴らがいない事を確認してコウスケに向き合うと、殺気とまではいかないが友好的な雰囲気ではないのがすぐに分かった。
「今じゃないと駄目なのか? もうすぐ飯の時間だぞ」
相手に合わせず、軽い調子で答えてやると「すぐに済むよ」とコウスケは校舎の中に入り、付いて来いと視線で促した。
出入り口から一番近い便所にコウスケは入ると、個室の扉を全て開き、誰もいない事を確認し始める。そして完全な無人の便所へ容赦なくオレを引きずり込んだ。
「えべっさん話違うじゃん! どーして、もっさん連れて来ちゃうんだよ! もっさん居たらスバル怯えちゃって布団から出て来ないじゃない! そんな子相手にどうやって遊ぶの! てか、もっさん居たら遊べないよね! 前に相談したこと全部ナイショって言ったよね!?」
壁際にオレを追い詰めて、コウスケは連日の放課後の状況について鼻息荒く抗議してきた。皆元の前で出来ない事をオレの前でやろうとしてる奴に憤りを覚える……が、その前に顔にかかる鼻息が不快だったので、遠慮なく顔面を掴んで引き剥がそうとしたが、相手も引く気はないらしくオレらは妙な姿勢で睨み合う。
「お前がド変態だって事は誰にも言ってねぇよ。皆元の前でならスバルだって、しおらしいだろ。スバルと遊びたいなら、その方が好都合だろが! てか皆元本人は爆睡してて、隣でお前らが乳繰り合ってたって気付かねぇよ! オレは今日みたいに勝手に出てくから気にせず一人で盛ってろッ」
渾身の力で突き放すと、コウスケは個室の扉にぶつかり派手な音を立てた。
「…………それじゃあさぁ……約束が違うよね。『バルちんと遊べるようにする』って言ったの忘れちゃった?」
勢いだけの言葉は途切れ、不穏な気配がコウスケの声に滲み出す。本気でキレる秒読み段階、経験からそれを悟り、逃げる事を諦め変態と向き合った。
「えべっさんが捜してた奴って、先代の闇市なんだって? そいつで遊ぼうかなぁ。殴ったらチャリンチャリン音しそうじゃん。えべっさんが逃がしたポチクロ捕まえに行ってもいいなぁ……ほら、なんせ暇になっちゃったからさぁ」
念の為、闇市に関しても手を出すなと、一応納得させたのだが、それが裏目に出た。オレがあいつらを擁護するなんて可笑しい通り越して、本気で涙が出そうだ。好きにしろと丸投げしたい。でも、コウスケの言う『遊び』は後味悪すぎて、その片棒を担ぐのは嫌だった。
「分かったよ……お前が暇しないように、秘密基地にはオレ一人で行く」
観念してそう言うと、コウスケは雰囲気を一変させ明るい顔を見せる。
「さすがえべっさん! 一度した約束は守らないと、人間じゃないよね~」
調子の良い変態を睨み付け「お前も守れよ」と釘を刺しておく。すると思わず殴りたくなるような満面の笑みで「うん!」と返事をしやがった。
本気でなんでオレは、興津やポチクロなんぞの為にこんな状況になってんだ! と何度も胸中で叫んだが、それを放り投げる事も出来ず仕方なく、コウスケとスバルが平和に付き合える策を考えるという不毛なタスクを抱えた。
スバルとコウスケが楽しく遊ぶ方法。コウスケの性癖をスバルの楽しいにどう結びつけるのか……考えようと試みると、自己防衛なのか頭がにぶく痛んだ。更にそこへ自分という捨て身の要素を組み込まなければならないとか、とんでもない罰ゲームだ。
安易な解決法は根本的な解決には至らず、厄介な状況を更に悪化させる事を身を以て知った。
全力の後悔を胸に、放課後の準備を整えたオレは、馬鹿デカイ溜め息を吐きながら、迎えが来るのを待つ。
「せんぱい……ちゃんと飯食ってるかな」
窓の外に視線をやり、つい習慣で先輩の姿がないか捜してしまう。大抵は徒労に終わるのだが、タイミング悪く先輩を見つけてしまい慌てて机の下に潜り込んだ。
いつもならオレの存在に気付いて欲しくて念を送るのだが、今日はそれをせずとも先輩がこちらを向いてしまったのだ。その視線から逃れるべく奇行に走ったのだが、判断が早かったおかげか、なんとか自制が出来た。
「髭め……」
改めて窓から外を覗くと、先輩は髭と話しながら特別棟へ入って行った。八つ当たり気味に髭への恨み言を言ってしまったが、思い切り突き放して側に居てやれないオレとしては、誰かが先輩の隣に居る事に少しだけホッとする。
「……おのれ、髭めぇ」
けれど仲良さそうに並んで歩く背中から、先輩の髭への信頼を嫌と言う程感じて、八つ当たりに油を注いでしまった。自分の情けなさを重しに追いかけそうになる体を必死で繋ぎ止めていると「えべっさん、用意出来た?」ニヤニヤしたコウスケからお呼びが掛かってしまった。
準備していた物を手早くまとめ、廊下に出ると、オレの手元を覗き込んで「それ何?」とコウスケが聞いてきた。
「お前とスバルの温度差を埋める物だよ」
今説明するのも面倒なので、簡潔にそれだけ答える。何に対する温度差なのか、分かっていないのだろう、コウスケは首を傾げていたが無視して秘密基地へと足を向けた。
皆元には事前に外してくれるよう頼んである。オレがやろうとしている事を説明すると、かなり嫌そうな顔をされてしまったのだ。一緒にやるかと誘ってもみたが「断る」と即答された。コウスケに半ば脅されている手前、断られる前提での提案だったのだが、それで大丈夫なのかと逆に心配になった。
快適な昼寝場所に未練はありそうだったが、快眠を貪りすぎて夜中の寝付きが悪くなったらしく、今日は由々式の所でマンガを読んで過ごすと言っていた。心底、羨ましい。
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