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新学期!!
少しだけの平穏
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全力で気を張って過ごした放課後から解放され自室に戻ると、先に帰っていた三人が出迎えてくれる。そして、興津がタブレット端末を持って訪ねて来た事を教えてくれた。
「これじゃ。闇市先輩が、わしにも確認するよう言われたんで先に見せてもろたべ。ほれ、こんな感じで完全に初期化されとるよ。中身は空っぽじゃ」
見せてくれた端末を受け取り、写真の保存場所も確認してみたが、由々式の言う通り、画像は何一つ残っていなかった。少しホッとして、十分だと由々式に端末を返すと、複雑そうな顔をされてしまった。
「夷川、悪いがコレにあんまり意味はないべ。ここには何も残っとらんが、データのバックアップは取られとると考えた方がいいべ」
興津自身も言ってたな、元はネットで拾った物だったとか……それを性悪は知っているんだろうか。本当にお節介だと思うが、忠告しておいた方がよさそうだ。由々式に「分かった」と頷き、その流れで夕べの興津とのやりとりを三人にザックリと説明した。
皆元には全力で睨まれたが、狭間が間に入ってくれたので、オレの頭は守られた。
「確認しておくが、夷川は闇市先輩に危害は加えとらんのじゃな」
「……直接オレが手を出した訳じゃあないが、呼び出しに使った奴と意思疎通が出来てなくて、一発は絶対に殴ってると思う」
オレが悪い訳じゃあないのに、相手が下手に出て来たせいで罪悪感が半端ない。
「あーそうじゃのうて、夷川が殴ったり蹴ったりはしとらんのかと言う話じゃ。執念深い人じゃから、手を出したら間違いなく末代まで祟るべ」
興津の顔を思い出すと、由々式の言葉に寒気が走る。不気味な薄ら笑いと、音も立てずに擦り寄ってくる所が、どうにも蛇のような印象と結びつき『末代まで祟る』という部分に妙な説得力がある。ちょっとビビりつつも、自制出来た自分を褒めてやりながら「オレ自身は手を出してない」と改めて断言した。
「なら、もう大丈夫じゃろ。やり口はえげつないが、しっかり筋は通す人じゃ。夷川が誠意を見せたなら、闇市先輩も大人しく引くと思うべ」
普段から興津と深く関わっている由々式が太鼓判を押したので、オレらの厳戒態勢は本日をもって解除される事になった。
たった数日とは言え、オレのせいで振り回した事を詫びると、三人が三人共『何を今更』と呆れた顔を返されてしまった。さっきは回避出来た皆元の拳骨が、ゴツンとオレの頭を横へ揺らす。威力のない皆元の拳は、ただただ心強かった。
身内のありがたさを実感して、色々と言いたい言葉もあったのだが、どうにも照れ臭くて小さく頷きそれぞれを一瞥だけすると、失笑された後いつもの空気に戻った。
降って湧いた災難が一段落し、平穏な日常が戻って来た……とは言えなかった。ケツと童貞を狙われる不快な状況は全く変わっていないので、平穏とは程遠い。ただ、同室の奴らの放課後を不自由にせず済むというのは、気持ち的にとても楽でありがたかった。
狭間の『数日休んだ掃除を取り戻す』と放課後に有無を言わせぬ真剣な顔で旧館へ向かう姿や、由々式の『今回は修羅場じゃ』と就寝後に栄養ドリンク片手に校舎に忍び込む姿を見てしまうと、多少強引だったがコウスケたちに手を借りてよかったと切実に思った。
皆元には引き続きスバルたちの秘密基地に同行してもらっているが、今回は誰が攻め込んでくる心配もないので、昼寝場所が変更になる程度の認識で遠慮なく誘えた。まあ、皆元にビビりまくるスバルを宥めるのに苦労する……と言うか、多分コウスケからクレームは来そうなので一時しのぎだが、前言撤回して平穏と呼んでもよかった。
そう平穏なのだ。必要以上に気を張る事なく生活が送れてしまう。今のオレにはそれのありがたさは全く感じられなかった。
「これじゃ。闇市先輩が、わしにも確認するよう言われたんで先に見せてもろたべ。ほれ、こんな感じで完全に初期化されとるよ。中身は空っぽじゃ」
見せてくれた端末を受け取り、写真の保存場所も確認してみたが、由々式の言う通り、画像は何一つ残っていなかった。少しホッとして、十分だと由々式に端末を返すと、複雑そうな顔をされてしまった。
「夷川、悪いがコレにあんまり意味はないべ。ここには何も残っとらんが、データのバックアップは取られとると考えた方がいいべ」
興津自身も言ってたな、元はネットで拾った物だったとか……それを性悪は知っているんだろうか。本当にお節介だと思うが、忠告しておいた方がよさそうだ。由々式に「分かった」と頷き、その流れで夕べの興津とのやりとりを三人にザックリと説明した。
皆元には全力で睨まれたが、狭間が間に入ってくれたので、オレの頭は守られた。
「確認しておくが、夷川は闇市先輩に危害は加えとらんのじゃな」
「……直接オレが手を出した訳じゃあないが、呼び出しに使った奴と意思疎通が出来てなくて、一発は絶対に殴ってると思う」
オレが悪い訳じゃあないのに、相手が下手に出て来たせいで罪悪感が半端ない。
「あーそうじゃのうて、夷川が殴ったり蹴ったりはしとらんのかと言う話じゃ。執念深い人じゃから、手を出したら間違いなく末代まで祟るべ」
興津の顔を思い出すと、由々式の言葉に寒気が走る。不気味な薄ら笑いと、音も立てずに擦り寄ってくる所が、どうにも蛇のような印象と結びつき『末代まで祟る』という部分に妙な説得力がある。ちょっとビビりつつも、自制出来た自分を褒めてやりながら「オレ自身は手を出してない」と改めて断言した。
「なら、もう大丈夫じゃろ。やり口はえげつないが、しっかり筋は通す人じゃ。夷川が誠意を見せたなら、闇市先輩も大人しく引くと思うべ」
普段から興津と深く関わっている由々式が太鼓判を押したので、オレらの厳戒態勢は本日をもって解除される事になった。
たった数日とは言え、オレのせいで振り回した事を詫びると、三人が三人共『何を今更』と呆れた顔を返されてしまった。さっきは回避出来た皆元の拳骨が、ゴツンとオレの頭を横へ揺らす。威力のない皆元の拳は、ただただ心強かった。
身内のありがたさを実感して、色々と言いたい言葉もあったのだが、どうにも照れ臭くて小さく頷きそれぞれを一瞥だけすると、失笑された後いつもの空気に戻った。
降って湧いた災難が一段落し、平穏な日常が戻って来た……とは言えなかった。ケツと童貞を狙われる不快な状況は全く変わっていないので、平穏とは程遠い。ただ、同室の奴らの放課後を不自由にせず済むというのは、気持ち的にとても楽でありがたかった。
狭間の『数日休んだ掃除を取り戻す』と放課後に有無を言わせぬ真剣な顔で旧館へ向かう姿や、由々式の『今回は修羅場じゃ』と就寝後に栄養ドリンク片手に校舎に忍び込む姿を見てしまうと、多少強引だったがコウスケたちに手を借りてよかったと切実に思った。
皆元には引き続きスバルたちの秘密基地に同行してもらっているが、今回は誰が攻め込んでくる心配もないので、昼寝場所が変更になる程度の認識で遠慮なく誘えた。まあ、皆元にビビりまくるスバルを宥めるのに苦労する……と言うか、多分コウスケからクレームは来そうなので一時しのぎだが、前言撤回して平穏と呼んでもよかった。
そう平穏なのだ。必要以上に気を張る事なく生活が送れてしまう。今のオレにはそれのありがたさは全く感じられなかった。
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