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新学期!!
心配無用!
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効率よく安全を確保出来る方法として、放課後に補習をやっている三年教室の隣で籠城する事は三人の賛同を得られた。狭間は最後まで放課後の予定を諦められない様子だったが、あの部室だってお世辞にもキレイとは言えないと、新たな狩り場を提供する事で今日一日はなんとか足止め出来そうだった。狭間にかかれば、あの部屋だって一時間と保たないだろうが、そこは図書室で覚醒した破壊神としての本領を定期的に立ち寄って発揮してやればいい。
「ちょっと待て、夷川」
昼休みの食堂で、放課後の段取りを皆元と相談している最中、何が癇に障ったのか目の前の男は怒りの滲む声でそれを阻んだ。
「まさかと思うが、お前……一緒に来ないつもりか?」
そのつもりだと答えると、皆元は食べていたカレーパンを机に思いきり叩きつけた。一口食べただけのカレーパンが、無残に袋の中で潰れる。
「夕べ反省室に直行するだけじゃあ飽き足らず、今朝も一人で勝手に動いたな。その上、放課後は一人で何をやる気なんだ」
皆元が食い物を自分の手で叩きつけるなんて……怒りの本気度合いにちょっと腰が浮きそうになった。
「俺は邪魔か?」
カレーパンを悔しそうな顔で見つめながら皆元は新たなパンの袋を開ける。けれど、あんドーナツっぽいそれを口に運ぶ事はせず、答えを待つように視線をこちらに向けてきた。
「邪魔な訳ねぇだろ……本音を言うと、めちゃくちゃ当てにしてた。オレが頼れるの皆元とせん、皆元しかいないし」
先輩の事を口走りそうになったが、なんとか誤魔化し、皆元をしっかり見て話す。
「興津はまともじゃあないからな。オレを追い込む為なら、無関係な身内を巻き込む事に躊躇いなんてないだろ。例え、自分が世話焼いてる後輩が相手だろうと、さ」
何が一番辛いかって、そりゃあ自分が痛い目に遭うのも嫌だが、オレのせいで周りの奴らが酷い目に遭う事だ。それだけは何を犠牲にしても避けたい。
「狭間と由々式の事、頼めるのは皆元以外にいない」
そう言い切ると、皆元はガシガシと頭を掻きむしり「じゃあ、お前も一緒に大人しくしてろ」と吐き捨てるように言った。
「男にケツ狙われて逃げ回るなんて御免だ。あのクズぶちのめして、こんなクソみたいな状況を終わらせる」
興津には山ほど借りがある。オレの十万は……まあ……いいとしても、先輩を強請りまくっていた報いは受けさせなければ気が済まない。
「一人でか?」
憐れむような目を向けてくる。向かってくる奴を全員、それこそ一人で七十人を相手にすると考えれば、無謀を通り越してただの馬鹿だが、オレが狙うのは興津ただ一人。それなら勝算は十分にある。
「興津が一人になる瞬間を狙う。他の兵隊は隠れてやり過ごす。無茶はしない。約束する」
皆元の心配を現実のものにしない為、放課後は一秒たりとも気は抜かない。それに……先輩が心機一転して帰って来た時、オレが奴らの便所に成り果ててたなんて、そんなえげつないショックを与えたくねぇからな。
「だから、オレの事は大丈夫だ。皆元には、あいつらを守ってやって欲しい」
しっかり目を見て伝えると、皆元は表情を弛める事なく立ち上がった。怒りが冷めていないのは明らかで、オレは食堂を一人で出て行く皆元を追いかけられなかった。
「おぉ、今日は購買のパンか。いいな」
どうするべきか分からず、テーブルに残された潰れたカレーパンを頬張っていると、オレと同じく配給の弁当箱を抱えた小吉さんが声をかけてきた。目をキラキラさせて当たり前のように隣に座る小吉さん。
「…………半分いる?」
もう一つの置き土産であるあんドーナツを差し出して見せると「いいのか!」と嬉しそうに即答されてしまった。仕方ないと半分にちぎると、中にはあんではなく黄色いクリームが入っていた。
「夷川、今出て行った友だち、便所か?」
クリームかぁ~と呟き、満面の笑みで受け取った物を口に放り込んだ後、小吉さんは指先を舐めながら小声で言った。
「多分、違うと思う。オレに呆れて先に帰ったんじゃないかな」
食いかけのパンを放置するなんて、普通ならありえない事だ。皆元が飯を放棄するなんて、今まで一度もなかった。自分で言いながら、ちょっとショックを受けてしまった。迷惑かけまくって、勝手ばっかりするオレに愛想を尽かしたのかもしれない。
「じゃ、じゃじゃじゃじゃあ、お前、いぃぃぃ今一人じゃないか」
味のしないカレーパンを飲み込んで、溜め息を吐いていると、キョロキョロと周りを確かめるみたいに挙動不審になった小吉さんが声を震わせた。
「ちょっと待て、夷川」
昼休みの食堂で、放課後の段取りを皆元と相談している最中、何が癇に障ったのか目の前の男は怒りの滲む声でそれを阻んだ。
「まさかと思うが、お前……一緒に来ないつもりか?」
そのつもりだと答えると、皆元は食べていたカレーパンを机に思いきり叩きつけた。一口食べただけのカレーパンが、無残に袋の中で潰れる。
「夕べ反省室に直行するだけじゃあ飽き足らず、今朝も一人で勝手に動いたな。その上、放課後は一人で何をやる気なんだ」
皆元が食い物を自分の手で叩きつけるなんて……怒りの本気度合いにちょっと腰が浮きそうになった。
「俺は邪魔か?」
カレーパンを悔しそうな顔で見つめながら皆元は新たなパンの袋を開ける。けれど、あんドーナツっぽいそれを口に運ぶ事はせず、答えを待つように視線をこちらに向けてきた。
「邪魔な訳ねぇだろ……本音を言うと、めちゃくちゃ当てにしてた。オレが頼れるの皆元とせん、皆元しかいないし」
先輩の事を口走りそうになったが、なんとか誤魔化し、皆元をしっかり見て話す。
「興津はまともじゃあないからな。オレを追い込む為なら、無関係な身内を巻き込む事に躊躇いなんてないだろ。例え、自分が世話焼いてる後輩が相手だろうと、さ」
何が一番辛いかって、そりゃあ自分が痛い目に遭うのも嫌だが、オレのせいで周りの奴らが酷い目に遭う事だ。それだけは何を犠牲にしても避けたい。
「狭間と由々式の事、頼めるのは皆元以外にいない」
そう言い切ると、皆元はガシガシと頭を掻きむしり「じゃあ、お前も一緒に大人しくしてろ」と吐き捨てるように言った。
「男にケツ狙われて逃げ回るなんて御免だ。あのクズぶちのめして、こんなクソみたいな状況を終わらせる」
興津には山ほど借りがある。オレの十万は……まあ……いいとしても、先輩を強請りまくっていた報いは受けさせなければ気が済まない。
「一人でか?」
憐れむような目を向けてくる。向かってくる奴を全員、それこそ一人で七十人を相手にすると考えれば、無謀を通り越してただの馬鹿だが、オレが狙うのは興津ただ一人。それなら勝算は十分にある。
「興津が一人になる瞬間を狙う。他の兵隊は隠れてやり過ごす。無茶はしない。約束する」
皆元の心配を現実のものにしない為、放課後は一秒たりとも気は抜かない。それに……先輩が心機一転して帰って来た時、オレが奴らの便所に成り果ててたなんて、そんなえげつないショックを与えたくねぇからな。
「だから、オレの事は大丈夫だ。皆元には、あいつらを守ってやって欲しい」
しっかり目を見て伝えると、皆元は表情を弛める事なく立ち上がった。怒りが冷めていないのは明らかで、オレは食堂を一人で出て行く皆元を追いかけられなかった。
「おぉ、今日は購買のパンか。いいな」
どうするべきか分からず、テーブルに残された潰れたカレーパンを頬張っていると、オレと同じく配給の弁当箱を抱えた小吉さんが声をかけてきた。目をキラキラさせて当たり前のように隣に座る小吉さん。
「…………半分いる?」
もう一つの置き土産であるあんドーナツを差し出して見せると「いいのか!」と嬉しそうに即答されてしまった。仕方ないと半分にちぎると、中にはあんではなく黄色いクリームが入っていた。
「夷川、今出て行った友だち、便所か?」
クリームかぁ~と呟き、満面の笑みで受け取った物を口に放り込んだ後、小吉さんは指先を舐めながら小声で言った。
「多分、違うと思う。オレに呆れて先に帰ったんじゃないかな」
食いかけのパンを放置するなんて、普通ならありえない事だ。皆元が飯を放棄するなんて、今まで一度もなかった。自分で言いながら、ちょっとショックを受けてしまった。迷惑かけまくって、勝手ばっかりするオレに愛想を尽かしたのかもしれない。
「じゃ、じゃじゃじゃじゃあ、お前、いぃぃぃ今一人じゃないか」
味のしないカレーパンを飲み込んで、溜め息を吐いていると、キョロキョロと周りを確かめるみたいに挙動不審になった小吉さんが声を震わせた。
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