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門松一里

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「沈黙」という話/「東アジアの思想」という話

「東アジアの思想」という話-8

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「東アジアの思想」という話-8

【春秋時代】(紀元前770年―紀元前256年)〈東周〉(紀元前770年―紀元前403年)
洛陽に遷都した東周は衰えてしまって、十二列国(魯・衛・晋・鄭・曹・蔡・燕・斉・陳・宋・楚・秦)ができました。

春秋時代の名は、魯国の歴史書『春秋』(五経の一つ)に由来します。

【戦国時代】(紀元前403年―紀元前222年)
周の成王の弟叔虞の後裔だった晋が、韓・魏・趙(三晋)の独立を許してしまいます。ここに、戦国七雄(秦・楚・燕・斉(田斉)・趙・魏・韓)が成立します。
※戦国時代の魏は、三国時代の魏とは別の国です。

戦国時代の名前は、縦横家の『戦国策』という書に由来します。

これら二つの時代は、まとめて春秋戦国時代とも言われます。

春秋時代の末が戦国時代と重複して紀元前256年になっているのは、周王朝を基準としているためです。紀元前256年に周は、秦によって滅びます。

戦国時代も、秦の統一により戦乱の幕を閉じます。

【諸子百家】
春秋戦国時代に活躍したのが、諸子百家という多くの思想家です。諸子は、そのまま孔子や孟子など諸々の人たちです。百家は、儒家・道家・墨家・法家・名家などの学派です。一覧表にしてみましょう。

・儒家――孔子・曾子・子思・孟子・荀子
・道家――老子・列子・荘子・関尹子
・墨家――墨子・胡非子・随巣子
・法家――申不害・商鞅・慎到・韓非
・名家――公孫竜・恵施・尹文子・鄧析(とうせき)
・農家――「神農」「野老」「宰氏」
・縦横家――蘇秦・張儀
・陰陽家――騶衍(鄒衍)(すうえん)・公孫発
・兵家――孫武(孫子)・孫臏・呉起(呉子)
・小説家――鬻子(いくし)・青史子・師曠(しこう)
・雑家――呂不韋・淮南王安・東方朔
――『広辞苑 第五版CD-ROM版』(岩波書店、2000年)

これら各種の学派・思想によって、中国思想史上最も自由で多彩な論争が繰り広げられました。

墨子は知らなくても、孫子とうたわれた孫武は知っているでしょう? 荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』Part2「戦闘潮流」でジョジョと泣き虫エシディシが話しています。

雑家の秦の呂不韋(りょふい)は、多くの食客に『呂氏春秋』を作らせました。一つの学派ではなく、儒家・道家・法家など様々な思想が網羅された一種の思想の百科事典です。出来はかなりのもので、呂不韋は「一字でも添削ができれば千金を与える」とまで言ったそうです。「一字千金」の故事の由来です。

【儒学批判】
儒学は正統な周の礼を語るものです。当然、反感を買います。

〈墨子による儒学批判〉
キリスト教に似た墨子が、儒学の愛を否定します。

「天下兼ねて相愛し、人を愛すること其の身を愛するごとく」――『墨子』「兼愛」

「人の国を視ること、其の国を視るがごとくし、人の家を視ること、其の家を視るがごとくし、人の身を視ること、其の身を視るがごとくす」――『墨子』「兼愛」

墨子には差別がありません。完璧な博愛主義が「兼愛」です。そして、争いません。「非攻」です。ただし攻められたら守ります。

あまりに純粋すぎる思想は、秦の始皇帝の政治から退けられ、やがて歴史から消えてしまいます。再び注目されるのは、清朝末期のことです。

〈法家による儒学批判〉
「道徳で天下を治められるはずがない」というのが、法家の考え方です。繰り返しますが、日本は法治国家です。

「賞罰を恃(たの)まずして、自ら善なる民を恃むこと、明主は貴ばざるなり。何とならば則ち国法は失う可からずして、治むる所は一人に非ざればなり。故に術有るの君は、適然の善に随わずして、必然の道を行う」――『韓非子』「顕学」

「適然」とは、偶然です。「ラッキーでは天下を治められませんよ」という痛烈な批判です。

ただし、この法家の「法」というのは、上から目線の「法」です。

近代の「法」は、私たち国民が決めたものだから、私たち国民は守れるよね? 私たち国民はきちんと守っていこうという「法」です。

歴史を考えるときに、こうした現代の考え方そのままで当時を考察するのは、とても危険です。かならず何層ものレイヤーがあることを意識しないと、すぐに誤解してしまいますから、要注意です。

何度も繰り返しますが、私たちは「デカルトの申し子」です。歴史を知るにはレイヤーが必要です。逆に、レイヤーがあるからこそ、安全に知ることができます。レイヤーを取っ払って、過去の思想をそのまま現代に活かそうとするような危険なことは避けましょう。
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