遥かなる地平線に血の雨を

寸陳ハウスのオカア・ハン

文字の大きさ
上 下
46 / 49
第四章 去りし者たちの冬

4-9 激突

しおりを挟む
 風は血を欲していた。

 ミッコは取り戻したウォーピックを握り締め、目の前だけを見た。
 いつか見たものと同じ光景──狼の紋章が、狼の刺青いれずみが、何者かを物語る。筋骨隆々なる巨躯が、それを支える馬が、並外れた武勇を物語る。極彩色の兜が、整えられた髭が、力ある身分を物語る。薄汚れた小札鎧ラメラーアーマーが、幾多の古傷が、その歴戦を物語る。切れ長の黒い目が、血塗れの偃月刀が、血に燃える意志を物語る──それが瞬きの間に近づいてくる。

 狼王の遺児フー──〈東の覇王プレスター・ジョン〉の直径氏族を名乗る豪傑、戦狼たちストレートエッジ・コサックを束ねる狂獣、王となろうとした男……──しかし今、戦い続けたその男はついに敗北し、わずか二十六騎となった騎馬軍はほとんど死に体と化している。そしてそれを迎え撃つミッコたちに恐れはない。
「死に損ないのゴミどもが! 我こそは黒騎兵オールブラックスで三度先鋒を任された毒手ヘイトブリーダーのヤリ! フーだか何だが知らねぇがとっととくたばれ!」
 先頭を駆けるヤリが弓に矢をつがえる。
「ヤリ殿! あなたは下がりなさい! 先頭は私が受け持つ!」
 ヤリを制するように、ウィルバート・ソドーが前に出ようとする。しかしそんな二人を押しのけ、ミッコは前に出た。
「俺が行く!」
「てめぇは引っ込んでろ!」
 ミッコの後ろからヤリとウィルバート・ソドーが同時に怒鳴る。が、無視してミッコは馬腹を蹴った。

 ぶつかり合う刹那の一瞬──互いの視線が交わる。互いが獲物を捉える。互いが必殺の間合いを探る。

 ミッコとフー、二人の殺意が迸り、触れ合う──ただ一撃で勝利を決める。その気概なくば、座して死を待つのみ。

 押し寄せる殺意を殺意が押し返す。そして、ミッコはウォーピックを、フーは偃月刀を振り上げ、打ち抜いた。

 一撃がぶつかり合う。風がうねり、鉄が弾ける。お互いが獲物を視界に捉えたまま、馬首を返し、即座に態勢を立て直す。ウォーピックが、偃月刀が、再び血を求め風をまとう。

 二手、三の手などは考えない。必殺の一撃をただ全力で打つ。攻めねば勝てない。攻め切らなければ負ける。負ければ死ぬ。

 すでに心は一度死んでいる。体こそこうして動くが、敗北し、心は折られた。しかしまだ二人は生きている。生きて戦い続けている。

 そうしてミッコとフーは斬り結んだ。周囲には戦いの音と血の臭いが渦巻いていたが、状況は見えなかった。後ろに続く者たちもそれぞれに戦っているようだが、二人の眼中にはなかった。

 目を離せば、意識が散れば、緊張が途切れれば、その瞬間に死ぬ。今はただ、目の前にいるこの男を殺し切るのみ──その一心で、二人は殺し合いに没頭した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...