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第四話 焼かれた玉座の先を望む男
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騎士の兜から噴き出る鮮血を、玉座から降り注ぐ炎が燃やす。
目を潰され泣き喚く〈鉄の騎士〉が血に伏し、やがて動かなくなったのを確認すると、〈王の公吏〉は鎧通しの血を拭って鞘にしまった。
〈鉄の騎士〉は強く、そして強靭だった。だからこそ、幾度殺されても立ち上がり、そして無数の王たちを屠ってきた〈簒奪の王〉を打ち倒し、復讐の誓願をここに果たした。
焼かれた細身の男は、血の雨を降らせる空を見上げた。
今回連れてきた他の三人もよく戦った。そのあどけない顔面を無残にも潰された〈幼い老魔女〉は、偉大な魔術をもって〈祝福の火〉に抗った。両腕をもがれた〈雷神の子〉は、その闘剣に熱き雷光を奔らせ、神秘の武勇の片鱗を見せつけた。そして狂ったような笑みを浮かべた肉塊と化した〈山犬〉の女は、文字通り狂ったように暴れ回り、〈簒奪の王〉を翻弄した。
そして三人の犠牲を踏み越え、〈鉄の騎士〉のグレートメイスが〈簒奪の王〉を捉え、叩き潰した。だがその彼もまた炎に焼かれ、いつものように力尽きた。
「ようやく終わったのね」
燃える玉座を眺めながら、〈影の女王〉が感慨深そうに呟く。
〈王の公吏〉は恭しく一礼したのちその手をとると、焼かれた玉座に導くように歩き出した。
「これまでよくぞ耐え忍ばれました。偽りの王である〈簒奪の王〉は死に、これより貴女が、真の玉座に座るときが来たのです」
〈王の公吏〉が微笑むと、〈影の女王〉も黒いローブの奥から微笑みを返す。血の雨が、赤い涙となってその頬を伝う。
「さぁ、玉座に手を添えて下さい。〈祝福の火〉を、その身にまとうのです」
〈王の公吏〉の言葉に促され、普段はほとんど感情を見せない〈影の女王〉が、喜色を浮かべながら玉座に手を添える。
火が女王の指先を伝い、黒いローブを燃やす。火はあっという間に全身に燃え広がり、〈簒奪の王〉と同じように〈影の女王〉を焼き始める。しかし〈祝福の火〉に身を包まれた〈影の女王〉は、笑ってはいなかった。
「待って! 熱い! 熱い! こんなの違う! 助けて!」
火が喉を焼いたのか、〈影の女王〉は獣のように唸った。悶え喚き、必死に縋ろうとする女王を見下ろしながら、〈王の公吏〉は微笑んだ。
「我が〈影の女王〉。美しく、そして愚かな私の女王よ……。私が愛した者はただ独り……。それは間違いなく貴女です。ですが私が愛した物は、この玉座なのです。死してなお繰り返される玉座の争い、生前より繰り返される玉座の物語こそが、私の望みなのです」
そして縋りつこうとする手を払い退け、その顔面を蹴り飛ばした。
「〈祝福の火〉よ。我が女王の影となり燃え盛られよ。そして血の雨よ。〈呪いの火〉を沈めたまえ。我らの炎の罪を洗い清めたまえ」
玉座の前に跪く〈王の公吏〉が、手を合わせ唱える。その横で〈影の女王〉の断末魔が炎の片隅に哭き、やがて〈祝福の火〉は〈影の女王〉を焼きながら、血の雨に打たれ消えていった。
〈王の公吏〉は燃え滓となった〈影の女王〉が動かないのを確認すると、玉座に目をやった。火が消えた玉座はその形こそ保っていたが、ほとんど燃え尽きた灰も同然だった。
もはや灰となった玉座に腰かけながら、〈王の公吏〉は微笑み、そして焼かれた玉座の先に血の雨を見る。
足元に広がる夥しい死の上に築かれた玉座。火に焼かれる以前から奪い奪われ、火に焼かれてもなお死を撒き散らし、血を求める玉座。
その玉座は、生きている。
目を潰され泣き喚く〈鉄の騎士〉が血に伏し、やがて動かなくなったのを確認すると、〈王の公吏〉は鎧通しの血を拭って鞘にしまった。
〈鉄の騎士〉は強く、そして強靭だった。だからこそ、幾度殺されても立ち上がり、そして無数の王たちを屠ってきた〈簒奪の王〉を打ち倒し、復讐の誓願をここに果たした。
焼かれた細身の男は、血の雨を降らせる空を見上げた。
今回連れてきた他の三人もよく戦った。そのあどけない顔面を無残にも潰された〈幼い老魔女〉は、偉大な魔術をもって〈祝福の火〉に抗った。両腕をもがれた〈雷神の子〉は、その闘剣に熱き雷光を奔らせ、神秘の武勇の片鱗を見せつけた。そして狂ったような笑みを浮かべた肉塊と化した〈山犬〉の女は、文字通り狂ったように暴れ回り、〈簒奪の王〉を翻弄した。
そして三人の犠牲を踏み越え、〈鉄の騎士〉のグレートメイスが〈簒奪の王〉を捉え、叩き潰した。だがその彼もまた炎に焼かれ、いつものように力尽きた。
「ようやく終わったのね」
燃える玉座を眺めながら、〈影の女王〉が感慨深そうに呟く。
〈王の公吏〉は恭しく一礼したのちその手をとると、焼かれた玉座に導くように歩き出した。
「これまでよくぞ耐え忍ばれました。偽りの王である〈簒奪の王〉は死に、これより貴女が、真の玉座に座るときが来たのです」
〈王の公吏〉が微笑むと、〈影の女王〉も黒いローブの奥から微笑みを返す。血の雨が、赤い涙となってその頬を伝う。
「さぁ、玉座に手を添えて下さい。〈祝福の火〉を、その身にまとうのです」
〈王の公吏〉の言葉に促され、普段はほとんど感情を見せない〈影の女王〉が、喜色を浮かべながら玉座に手を添える。
火が女王の指先を伝い、黒いローブを燃やす。火はあっという間に全身に燃え広がり、〈簒奪の王〉と同じように〈影の女王〉を焼き始める。しかし〈祝福の火〉に身を包まれた〈影の女王〉は、笑ってはいなかった。
「待って! 熱い! 熱い! こんなの違う! 助けて!」
火が喉を焼いたのか、〈影の女王〉は獣のように唸った。悶え喚き、必死に縋ろうとする女王を見下ろしながら、〈王の公吏〉は微笑んだ。
「我が〈影の女王〉。美しく、そして愚かな私の女王よ……。私が愛した者はただ独り……。それは間違いなく貴女です。ですが私が愛した物は、この玉座なのです。死してなお繰り返される玉座の争い、生前より繰り返される玉座の物語こそが、私の望みなのです」
そして縋りつこうとする手を払い退け、その顔面を蹴り飛ばした。
「〈祝福の火〉よ。我が女王の影となり燃え盛られよ。そして血の雨よ。〈呪いの火〉を沈めたまえ。我らの炎の罪を洗い清めたまえ」
玉座の前に跪く〈王の公吏〉が、手を合わせ唱える。その横で〈影の女王〉の断末魔が炎の片隅に哭き、やがて〈祝福の火〉は〈影の女王〉を焼きながら、血の雨に打たれ消えていった。
〈王の公吏〉は燃え滓となった〈影の女王〉が動かないのを確認すると、玉座に目をやった。火が消えた玉座はその形こそ保っていたが、ほとんど燃え尽きた灰も同然だった。
もはや灰となった玉座に腰かけながら、〈王の公吏〉は微笑み、そして焼かれた玉座の先に血の雨を見る。
足元に広がる夥しい死の上に築かれた玉座。火に焼かれる以前から奪い奪われ、火に焼かれてもなお死を撒き散らし、血を求める玉座。
その玉座は、生きている。
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