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Note 8 町の外と農協
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〈BATiS〉福島実験都市の中はあらかた探索が終わった。国防軍の戦闘前後は一時的に人の出入りも増えたが、それももうなくなり、町は以前のように静かになった。
〈BATiS〉の実験棟、オフィス、食堂、研究施設、倉庫などで使えそうな物はもうなかった。町の外でも、駅ビル、ホームセンター、スーパーなど、目ぼしい施設はほぼ空っぽであり、国防軍の野戦陣地も多くは燃やされていた。
A.I.R.のマッピングシステムなら住宅の一軒一軒、アパートの一部屋一部屋までマッピングが可能だが、全てをしらみ潰しに調べる気にはなれなかった。
人の家は好きではなかった。最初こそ人の人生を漁ることは面白かったが、やがて虚しくなった。
人の人生など無意味だ。どいつもこいつも同じような人生ばかりで面白味など何もなかった。
最近は町の外まで探索範囲を広げた。
どこにでもある無個性な日本の地方都市、その成れの果てとなった廃墟の向こうには緑色の農地がひたすらに広がっていた。
「作物は放射能に汚染されている」とA.I.R.は言ったが、見る限り普通の水田にしか見えなかった。唯一、戦前と違う風景は、トラクターや軽トラを乗り回す年老いた農家が軒並み重武装化していることだった。そいつらは国防軍の戦場跡を散々漁っても手に入らなかった国防軍の新型アサルトライフルを持っていた。トラクターには対戦車砲が、軽トラにはマシンガンが搭載されていた。連中は全ての面で明らかに国防軍より質がよかった。
この世界の認識では、農協=農家だった。元々低かった食料自給率を賄う農家は戦後日本の食糧生産と供給を牛耳り、やがて農協というヤクザめいた武装組織となり、今では最上位の略奪者である国防軍さえ頭の上がらない勢力に拡大しているようだった。
農家が最強組織とは正直驚いたが、しかし農協が最強の組織というわけではなく、現時点では漁協が戦後日本の最強組織らしかった。漁協は外国からのエネルギー資源を牛耳る密輸業者であり、さらに密輸に留まらず民間商船や外国軍への海賊行為までする連中は倭寇と呼ばれているらしかった。ただし、「まだ沿岸部ではないので危険はない」とA.I.R.は言った。
とはいえ、農協も明らかにヤバイ連中なのは間違いなかった。農地の空にはドローンが飛び、夜には火が焚かれた。外部に積極的に干渉することはないが、自衛意識は凄まじく高かった。部外者と思われる人間は捕えられ田んぼのカカシにされていた。
まずは空き家を探した。農協の最大の弱点は絶対数が少ないことだった。
剥げたコンクリートの道を辿って山の中に入ると、ぽつんとした一軒家を見つけた。門も、平屋建ての日本家屋も、庭も、駐車場も、離れも、倉庫も、何もかもがデカかった。
銃を構えたまま家の中を漁った。人がいる気配はないが、中はそれなりに整理されていた。核戦争で人が消えたというよりは、それ以前からゆっくりと朽ちつつあるといった様子だった。食料やバッテリーなど使えそうな物はあまりなかったが、寝泊りには問題なかった。
縁側に座り、外を眺めた。静かな風の音が気持ちよかった。
いつもの廃墟ではなく、朽ちた山々の緑に映るA.I.R.の姿は新鮮だった。
なぜだろうか、ここに来てからというものA.I.R.の口数は少なかった。その姿は少し寂しそうにも見えた。バッテリーが少なくなってきているのかとも思ったが、そういうわけではなかった。
とりあえず予備バッテリーをアイウェアに繋いで充電を始めた。その間に銃のメンテナンスをし、食事を済ませた。
第二の拠点ができた。
実験棟からここまで歩いて来るのはさすがに疲れる。町の外を探索するときはここを拠点にしよう。
〈BATiS〉の実験棟、オフィス、食堂、研究施設、倉庫などで使えそうな物はもうなかった。町の外でも、駅ビル、ホームセンター、スーパーなど、目ぼしい施設はほぼ空っぽであり、国防軍の野戦陣地も多くは燃やされていた。
A.I.R.のマッピングシステムなら住宅の一軒一軒、アパートの一部屋一部屋までマッピングが可能だが、全てをしらみ潰しに調べる気にはなれなかった。
人の家は好きではなかった。最初こそ人の人生を漁ることは面白かったが、やがて虚しくなった。
人の人生など無意味だ。どいつもこいつも同じような人生ばかりで面白味など何もなかった。
最近は町の外まで探索範囲を広げた。
どこにでもある無個性な日本の地方都市、その成れの果てとなった廃墟の向こうには緑色の農地がひたすらに広がっていた。
「作物は放射能に汚染されている」とA.I.R.は言ったが、見る限り普通の水田にしか見えなかった。唯一、戦前と違う風景は、トラクターや軽トラを乗り回す年老いた農家が軒並み重武装化していることだった。そいつらは国防軍の戦場跡を散々漁っても手に入らなかった国防軍の新型アサルトライフルを持っていた。トラクターには対戦車砲が、軽トラにはマシンガンが搭載されていた。連中は全ての面で明らかに国防軍より質がよかった。
この世界の認識では、農協=農家だった。元々低かった食料自給率を賄う農家は戦後日本の食糧生産と供給を牛耳り、やがて農協というヤクザめいた武装組織となり、今では最上位の略奪者である国防軍さえ頭の上がらない勢力に拡大しているようだった。
農家が最強組織とは正直驚いたが、しかし農協が最強の組織というわけではなく、現時点では漁協が戦後日本の最強組織らしかった。漁協は外国からのエネルギー資源を牛耳る密輸業者であり、さらに密輸に留まらず民間商船や外国軍への海賊行為までする連中は倭寇と呼ばれているらしかった。ただし、「まだ沿岸部ではないので危険はない」とA.I.R.は言った。
とはいえ、農協も明らかにヤバイ連中なのは間違いなかった。農地の空にはドローンが飛び、夜には火が焚かれた。外部に積極的に干渉することはないが、自衛意識は凄まじく高かった。部外者と思われる人間は捕えられ田んぼのカカシにされていた。
まずは空き家を探した。農協の最大の弱点は絶対数が少ないことだった。
剥げたコンクリートの道を辿って山の中に入ると、ぽつんとした一軒家を見つけた。門も、平屋建ての日本家屋も、庭も、駐車場も、離れも、倉庫も、何もかもがデカかった。
銃を構えたまま家の中を漁った。人がいる気配はないが、中はそれなりに整理されていた。核戦争で人が消えたというよりは、それ以前からゆっくりと朽ちつつあるといった様子だった。食料やバッテリーなど使えそうな物はあまりなかったが、寝泊りには問題なかった。
縁側に座り、外を眺めた。静かな風の音が気持ちよかった。
いつもの廃墟ではなく、朽ちた山々の緑に映るA.I.R.の姿は新鮮だった。
なぜだろうか、ここに来てからというものA.I.R.の口数は少なかった。その姿は少し寂しそうにも見えた。バッテリーが少なくなってきているのかとも思ったが、そういうわけではなかった。
とりあえず予備バッテリーをアイウェアに繋いで充電を始めた。その間に銃のメンテナンスをし、食事を済ませた。
第二の拠点ができた。
実験棟からここまで歩いて来るのはさすがに疲れる。町の外を探索するときはここを拠点にしよう。
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