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第五章 強き北風の再起
5-2 背中の傷① ……オッリ
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何をしていても、背中の傷は疼き、治まらなかった。
「あぁー、クソッ。調子悪ぃー」
幕舎の外で吹き荒れる雪が激しさを増す中、独りぼやきながら、オッリは少女を犯した。
ボルボ平原の戦いで、第六聖女親衛隊を襲った際に奪い取った少女は、思った通り好みの女だった──子供ながらに肉づきの良い、いかにも上流階級のうら若き乙女──男を知らなかったその体を、気の向くままにオッリは犯した。
腰を打ちつけるたび、手枷を嵌めた少女が悶え、すすり泣く。あどけない横顔を苦痛に歪め、必死に身を捩り、逃げ出そうとする。
その抵抗は無意味だが、煩わしかった。暴れぬよう、喉元を掴み、羽交い締めにする。それで少しは犯しやすくなった。
それでも、隙間風が背中の傷に沁みた。
この女も、背中の傷も、その傷の原因も、何もかもが気に入らない──衝動に突き動かされるまま、オッリは腰を振り続けた。
*****
ボルボ平原の戦いのあと、オッリはしばらく眠っていた。
目覚めたとき、極彩色の馬賊はほとんど出払っていた。息子のヤンネを含め、部隊は同じ第三軍団騎兵隊の上官であるマクシミリアン・ストロムブラードの指揮下に入っており、残っていたのは直属部隊の二百騎だけだった。
目覚めは悪かった。背中の傷は治療されていたが、ずっと疼いていた。
とりあえず、捕らえた少女を犯した。犯しながら、肉を食った。ウォーピックを研ぎ、革鎧の傷を補修し、弓の弦を張り直した。部下を相手に打ち合いの稽古をし、得物と馬に体を馴染ませた。
それでも、すぐにやることはなくなってしまった。
あまりに暇なので、第三軍団の野営地を出て、駆けた。
しばらくして、同じ〈東の王〉の末裔である森の兄弟団の連中と出会った。斥候や哨戒を担う彼らから、前線の場所を聞き、そこまで駆けた。
頬を打つ粉雪に混じり、血の臭いが漂ってきた。その臭いに、久しぶりに胸が高まった。
そして、血の舞い踊る雪原で、再び月盾の騎士と出会った。
面白い偶然だった。オッリは馬に拍車を入れ、手始めに、向かってきた深海の玉座の軍旗に挨拶した。騎射と白兵戦で数人殺すと、そいつらは守りを固め動かなくなった。
次に、本命の獲物に向かった。背中に傷をつけた、月盾の騎士。誰でもいい、そいつらを殺そうと、オッリは丁寧に挨拶した。
しかし、月盾の騎士たちは動かなかった。人面甲の大男だけは見るからに闘志を燃やしていたが、ロートリンゲン家の金髪のガキや他の奴らに止められ、向かってこなかった。
怖気づきやがって──騎士様らしくないその姿に苛立ち、オッリは嫌がらせをした。
矢を放ち、軍旗を貫くと、騎士たちは途端に殺気立った。
それでこそ誇り高き騎士様だ──オッリはいつでもかかって来いと胸襟を開いたが、しかし返ってきたのは、こちらが放った矢だけだった。
騎士らしくない、小賢しい返答だった。オッリは矢を返してきた小汚い男を睨んだが、そいつは薄ら笑いを浮かべるだけで、取り合おうとしなかった。
どうにも噛み合わず、オッリは毒気を抜かれてしまった。
背後では、友軍が退却の鐘を鳴らしていた。兵力で明らかに劣っている以上、一騎打ちができないのならば、どうしようもなかった。何もかもが気に入らなかったが、オッリは雪原に唾を吐き、踵を返した。
自陣に帰還すると、マクシミリアンに「ここから出るな」と釘を刺され、幕舎に押し込められた。怒っていたようにも見えたし、呆れていたようにも見えた。話そうとしたが、会話は拒絶された。
また暇になったので、腹いせに少女を抱いた。そして、今に至る。
*****
背中の傷が疼く。
目覚めてからの出来事は、何度思い出しても、不愉快なことばかりだった。
衝動に突き動かされるまま、オッリは少女を犯した。
犯すたび、背中の傷に血が滲むたび、傷口から目まぐるしく揺れ動く感情が溢れ出し、そして体中の古傷が夜に哭く。
犯しながら、ひとしきり咆哮すると、とりあえず体の熱は冷めた。胸元に抱く虜囚の少女は、気を失っていた。
だがしかし、背中の傷の疼きは収まっていない。それらの熱の根源は、未だ燻っている。そしてそれは、背中の傷を舐め、オッリの心中を煽り、嘲笑う。
隙間風が背中の傷に沁みる──第六聖女を逃した口惜しさ。小生意気な月盾の騎士の一閃。背中に傷を負ったという事実。
傷が思い出させる──あの一閃、月盾の騎士が全身全霊を注いだであろう、純粋なまでに無慈悲な、致命の一撃。
背中の傷が、戦士としての本能を呼び覚まし、オッリの体を熱くする──まだ戦い足りない。もっと戦いたい。背中に傷をつけたあの月盾の騎士と、もう一度刃を交えたい。そして、蹂躙し、叩きのめし、殺したい。
怒り、苛立ち、戦いへの熱情──やり場のない感情がない交ぜになり、身を焦がし、体の中で暴れ狂う。
オッリは軽く酒を煽ると、気を失った少女を背中に担ぎ、幕舎を出た。
冬の夜は、荒れていた。風は白く、煌々と焚かれる篝火さえもが、その炎を歪ませている。
オッリは吹き荒ぶ雪を蹴り、前に進んだ。
冬の夜に、自らの心に、オッリは何度も誓った──月盾の騎士ども、そしてそれを率いるロートリンゲン家のガキを屠ったうえで、第六聖女を捕らえ凌辱する。狩りの邪魔をする奴は、誰であろうと皆殺しにする。
「あぁー、クソッ。調子悪ぃー」
幕舎の外で吹き荒れる雪が激しさを増す中、独りぼやきながら、オッリは少女を犯した。
ボルボ平原の戦いで、第六聖女親衛隊を襲った際に奪い取った少女は、思った通り好みの女だった──子供ながらに肉づきの良い、いかにも上流階級のうら若き乙女──男を知らなかったその体を、気の向くままにオッリは犯した。
腰を打ちつけるたび、手枷を嵌めた少女が悶え、すすり泣く。あどけない横顔を苦痛に歪め、必死に身を捩り、逃げ出そうとする。
その抵抗は無意味だが、煩わしかった。暴れぬよう、喉元を掴み、羽交い締めにする。それで少しは犯しやすくなった。
それでも、隙間風が背中の傷に沁みた。
この女も、背中の傷も、その傷の原因も、何もかもが気に入らない──衝動に突き動かされるまま、オッリは腰を振り続けた。
*****
ボルボ平原の戦いのあと、オッリはしばらく眠っていた。
目覚めたとき、極彩色の馬賊はほとんど出払っていた。息子のヤンネを含め、部隊は同じ第三軍団騎兵隊の上官であるマクシミリアン・ストロムブラードの指揮下に入っており、残っていたのは直属部隊の二百騎だけだった。
目覚めは悪かった。背中の傷は治療されていたが、ずっと疼いていた。
とりあえず、捕らえた少女を犯した。犯しながら、肉を食った。ウォーピックを研ぎ、革鎧の傷を補修し、弓の弦を張り直した。部下を相手に打ち合いの稽古をし、得物と馬に体を馴染ませた。
それでも、すぐにやることはなくなってしまった。
あまりに暇なので、第三軍団の野営地を出て、駆けた。
しばらくして、同じ〈東の王〉の末裔である森の兄弟団の連中と出会った。斥候や哨戒を担う彼らから、前線の場所を聞き、そこまで駆けた。
頬を打つ粉雪に混じり、血の臭いが漂ってきた。その臭いに、久しぶりに胸が高まった。
そして、血の舞い踊る雪原で、再び月盾の騎士と出会った。
面白い偶然だった。オッリは馬に拍車を入れ、手始めに、向かってきた深海の玉座の軍旗に挨拶した。騎射と白兵戦で数人殺すと、そいつらは守りを固め動かなくなった。
次に、本命の獲物に向かった。背中に傷をつけた、月盾の騎士。誰でもいい、そいつらを殺そうと、オッリは丁寧に挨拶した。
しかし、月盾の騎士たちは動かなかった。人面甲の大男だけは見るからに闘志を燃やしていたが、ロートリンゲン家の金髪のガキや他の奴らに止められ、向かってこなかった。
怖気づきやがって──騎士様らしくないその姿に苛立ち、オッリは嫌がらせをした。
矢を放ち、軍旗を貫くと、騎士たちは途端に殺気立った。
それでこそ誇り高き騎士様だ──オッリはいつでもかかって来いと胸襟を開いたが、しかし返ってきたのは、こちらが放った矢だけだった。
騎士らしくない、小賢しい返答だった。オッリは矢を返してきた小汚い男を睨んだが、そいつは薄ら笑いを浮かべるだけで、取り合おうとしなかった。
どうにも噛み合わず、オッリは毒気を抜かれてしまった。
背後では、友軍が退却の鐘を鳴らしていた。兵力で明らかに劣っている以上、一騎打ちができないのならば、どうしようもなかった。何もかもが気に入らなかったが、オッリは雪原に唾を吐き、踵を返した。
自陣に帰還すると、マクシミリアンに「ここから出るな」と釘を刺され、幕舎に押し込められた。怒っていたようにも見えたし、呆れていたようにも見えた。話そうとしたが、会話は拒絶された。
また暇になったので、腹いせに少女を抱いた。そして、今に至る。
*****
背中の傷が疼く。
目覚めてからの出来事は、何度思い出しても、不愉快なことばかりだった。
衝動に突き動かされるまま、オッリは少女を犯した。
犯すたび、背中の傷に血が滲むたび、傷口から目まぐるしく揺れ動く感情が溢れ出し、そして体中の古傷が夜に哭く。
犯しながら、ひとしきり咆哮すると、とりあえず体の熱は冷めた。胸元に抱く虜囚の少女は、気を失っていた。
だがしかし、背中の傷の疼きは収まっていない。それらの熱の根源は、未だ燻っている。そしてそれは、背中の傷を舐め、オッリの心中を煽り、嘲笑う。
隙間風が背中の傷に沁みる──第六聖女を逃した口惜しさ。小生意気な月盾の騎士の一閃。背中に傷を負ったという事実。
傷が思い出させる──あの一閃、月盾の騎士が全身全霊を注いだであろう、純粋なまでに無慈悲な、致命の一撃。
背中の傷が、戦士としての本能を呼び覚まし、オッリの体を熱くする──まだ戦い足りない。もっと戦いたい。背中に傷をつけたあの月盾の騎士と、もう一度刃を交えたい。そして、蹂躙し、叩きのめし、殺したい。
怒り、苛立ち、戦いへの熱情──やり場のない感情がない交ぜになり、身を焦がし、体の中で暴れ狂う。
オッリは軽く酒を煽ると、気を失った少女を背中に担ぎ、幕舎を出た。
冬の夜は、荒れていた。風は白く、煌々と焚かれる篝火さえもが、その炎を歪ませている。
オッリは吹き荒ぶ雪を蹴り、前に進んだ。
冬の夜に、自らの心に、オッリは何度も誓った──月盾の騎士ども、そしてそれを率いるロートリンゲン家のガキを屠ったうえで、第六聖女を捕らえ凌辱する。狩りの邪魔をする奴は、誰であろうと皆殺しにする。
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