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日誌・137 潰えなかった理由
しおりを挟む「トラさんは、どうやったら打ちのめされてくれるんだろうね?」
考え込むように呟く恭也。
表情は、思い通りにならない、と言いたげ。
雪虎は反射で嫌そうな顔になった。苦い声を放つ。
「どうして俺をへこませたいんだ」
恭也はあっけらかんと告げた。
「ぼくが慰めてあげようかなって」
……………………つまり。
慰めたいために、慰めたい相手を、叩きのめす、と?
理解に数秒を要したのち、雪虎はちょっと気が遠くなった。
暴論である。
ついていけない。
これに、真っ向から取っ組み合うのは愚かだ。
ただ、要するに恭也が慰めてやろうというのなら、これに対する返事は決まっている。
「慰めはいらん」
雪虎は、きっぱり。
「俺が欲しいのは、ひとつだけ―――――現状の、解決策だ」
本当に、ないのだろうか。この問題を終わらせる方法は。勿論、死ぬ以外で。とたん。
「ふぅん?」
呟いた恭也の唇が、笑みの弧を描いた。
相手の弱味をとうとう掴んだ、と言ったような、不穏な空気を感じて、雪虎はつい身構える。
対する恭也は、独り言のように言った。
「―――――言ったね?」
一見、恭也の笑みは、無邪気に見える。が、不吉さの方が大きい。
見惚れるほど美しいせいか、逆に人間味がないせいだ。
魂を爪先に引っかけた悪魔にも見える。
雪虎の中で、警戒が一瞬で膨れ上がった。
「言ったって、何をだ」
不用意な発言などなかったはずだ。
雪虎が思わず自身の言動を思い返すなり、
「欲しいって、今」
恭也は満足げに言った。
雪虎は目を瞬かせる。それが、危険な発言とは思えなかった。
「…それが、なんだ」
つい、様子を窺うように上目遣いになれば、
「トラさんは正直だけど、あれがほしいこれがほしいって、あんまり言わないじゃない? だから新鮮だし」
恭也はにっこり。
「だからできるだけ、トラさんが欲望むき出しにしたお願いは叶えてあげたいなあって」
恭也の物言いに、そういう話か、と思うと同時に。
そうだろうか、と雪虎は自分の発言を振り返った。
だが、自身の言動などあまり意識していないため、恭也の言葉が正しいか間違っているか、はっきりとしない。
構わず、恭也は雪虎の頬に、手を伸ばした。
「だったら、…そうだな、わかる範囲のことなら、教えてあげるよ」
「…分かる範囲?」
雪虎は眉根を寄せる。
「解決策を知ってるなら、まずもって、お前はここにいないだろう?」
「その考えは短絡だよ。いるかもしれないじゃない? …まあ、確かに」
恭也は肩を竦めた。
「解決策なんて知らないよ。けど、事の次第の、問題点なら、指摘できる。それがもしかすると、トラさんにとっては、解決策につながるかもしれないよ?」
問題点?
雪虎にとって、問題点というなら、この体質そのものだ。
だが、恭也が言いたいのは、体質以外の点だろう。
正直、雪虎は面食らった。
この体質を持って生まれた結果、起きることに対応するので手一杯で、それ以外の物事に焦点を合わせたことなど一度もない。
「そうだな。どこから話そうか? …まず、ぼくはね」
恭也はうっとりと雪虎の顔を両手で包み込み、顔を近づけてきた。
「『悪魔』が血に宿るようになった発祥の詳細は知らない。だけど」
間近から覗き込んでくる紺碧を、なんとはなしに雪虎は睨みつける。
「こうなった理由は、分かる気がする」
「…こうなった、ってのは?」
意識して、息を整えた。
恭也が何を言い出すつもりかは分からないが、この男の言葉に惑わされるのは危険だ。思った矢先、
「…トラさんやぼくが、伝承を、継承し続ける理由だ」
雪虎は息を呑んだ。目を瞠る。思い切り、胸の内をかき乱された。
「コレが、一代限りで潰えなかった理由」
それが、問題点、だと?
雪虎の反応に、得たり、とばかりに恭也は笑みを浮かべた。
見えたのは、そこまでだ。
恭也はいきなり、雪虎の額に額を合わせてきた。
思わず目を閉じれば、
「知りたい? ―――――ぼく個人の見解に過ぎないけど、おそらく正しいと思うよ」
なぜ恭也にそんなことが分かるのだ、と言いたいところだが。
つい先日、真っ先に気付いたのは恭也だ。
雪虎と恭也が共にいれば、互いの、周囲への影響が打ち消される、と。
その上、証明までして見せた。乱暴な、方法だったが。
そんな恭也が他にも何かに気付いているというのなら。…聞き流せる話ではない。
それでも、抵抗する気分で、雪虎は言葉を紡いだ。
「『祟り』や『悪魔』の影響力が、一代で消滅する程度の力じゃなかった、って話じゃないのか」
間近の恭也が、息だけで笑った。
「ぼくの家系はどうか知らないけど、月杜家が続いたのは、―――――千年以上」
思わず、雪虎の身が強張る。
恭也は淡々と言葉を紡いだ。
「どんなに強力な呪いであったとしても、千年も経てば、通常は受け継ぐ一族がその呪いの重さに消滅するか、もしくは、道半ばで呪いの方が自然に薄れ、消えるはずだよ」
雪虎が言葉を咀嚼する時間を置いて、恭也は言葉を続けた。
「でなくとも、普通は弱まる」
「…どうしてだ」
どこか、力ない雪虎の声とは対照的に、恭也の声は躍るようだ。
「理由? そんなの簡単だよ。誰だって、毎日実感してることだろうけど」
一度言葉を切って、恭也は声を低めた。
「気持ち・感情なんてものは、時の経過に伴って、初めの新鮮さを薄れさせてしまうものだからさ」
だが、―――――それなら。どうして。
「なのに月杜は、その影響を代々変わらず強固な状態で保持してきた」
言葉にする以上に、時の重みというものは、尋常ではない。
それに負けず、月杜は『鬼』と『祟り』の力を瑞々しいまま、持ち運んできている。
そして、永遠とも思える繁栄を、今なお誇って。
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