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日誌・110 置き去りの問題(R15)
しおりを挟むよって、あの犬たちは、御子柴に害を与えるものは敏感にかぎ取り、容赦しない。
人間よりよほどあてになる騎士たちである。
まあ、そんなことを言っては、黒服の側近たちに悪いから、口に出しては言わないが。
つまり侵入者がここまでやってこられたのは、相当な運が必要になってくる。
それが今日とは相手もついていない。
同情する気もないが、収穫はゼロの上、奥まで立ち入った以上、報復は相応のものになるだろう。
その辺りは、雪虎の出る幕ではない。
首を横に振って、雪虎は寝間着を探した。
すぐに見つかったそれを二組取り出し、一組を、脱衣所の籠の中へ入れる。
まだ大河は風呂から出ていなかった。
サッと着替えた雪虎は、さてどうするか、と仁王立ちでベッドを見据える。
そう、ひとつ、問題が置き去りだった。
―――――どちらがベッドを使うか。
雪虎の中ではとりあえず、さっきの『ご奉仕』で、勝手に借りは清算したことにさせてもらうつもりだ。
さて、これで大河はどう出るか。
先に思い悩んだところで、大河相手に計算通りにいくわけがない。
行き当たりばったりでやるしかないな、とため息をついた時。
背後で、風呂の扉が開く音がした。
ようやく出たか、と振り向けば。
(あ)
どこか、朦朧とした顔の大河が、ふらふらとしながら、バスタオルを出してあった籠に手を伸ばすところだった。
これは完全に、のぼせている。
「いや待て、御曹司、立ったままでいろ、俺がやるから」
あのまま、湯船に入れるのは失敗だったか。
頭の位置をへたに動かせば倒れてしまいそうだ。
慌てて、大河が動くのを止める。
早足に近寄った。
言うことを聞いた大河の身体を、取り上げたバスタオルで手早く拭う。
「ひとまず、服着せるぞ。違和感あったら、あとで自分で直せよ」
気分が悪いのか、声も出せないようで、大河はちいさく頷いた。
その身体にパジャマを着せて、ベッドまで抱えるように連れて行けば、あっさりそこに倒れ込んでしまう。
どっちがベッドで寝るか、と言い争いにならなくて助かったが、これはこれで失敗だった。
大河の様子を尻目に、雪虎は踵を返した。
冷蔵庫から冷たい飲み物を取り出す。
水のペットボトルだけは数本入っていて助かった。
あとはビールの缶だけ、ずらり。つい、半眼になった。
(せっかくなんだから、食材の一つでも入れときゃいいのに)
見なかったことにして、冷蔵庫の扉を閉める。
「起き上がれるか?」
声をかけながら近寄るが、大河は顔も上げない。
ペットボトルのキャップを外し、雪虎はため息交じりに言葉を続ける。
「動きたくないのは分かった。なら、せめて仰向けになりな」
言えば、大河は、身体が重そうな動きで仰向けに転がった。
「はい、お疲れさん」
言いながら、雪虎はベッドに乗り上げる。
大河の首の後ろに手を差し込んだ。
頭を極力動かさないよう慎重に、そのまま膝を進め、背を持ち上げた。
横から上半身を抱き上げる格好だ。
「水飲ますぞ、ちゃんと口あけて、飲み込めよ」
聴こえているのかいないのか、大河はぼんやりと雪虎を見返した。
構わず、雪虎はペットボトルを自分で煽る。
水を口に含み、大河に口づけた。
さらり、と水を流し込めば、しばらくして、大河の喉が鳴る。
唇を放せば、満足そうに深く長い息を吐きだした。
雪虎は、に、と笑う。
「偉い、偉い。まだ飲むか?」
言えば、何が気に食わなかったのか、大河はきゅっと唇を微かにへの字に引き結んだ。
なんだ、と思ったが、大河は何も言わず、目を閉じる。
諦めた態度で、頷いた。
「ああ。水、飲みたいのか」
言って、何度か、口移しで水を飲ませた。
そうしているうちに。
下唇に噛みつかれる。
もういらないという意思表示だ。
「はい、わかりました、と」
唇を放し、ペットボトルをベッドヘッドの棚へ置く。
大河の頭を枕へ戻してやれば、天井の明かりが眩しそうに腕で目元を覆い、また横向きになってしまった。
しかも、雪虎に背を向ける形で。
いつもの大河だ。逆に安心した。
「部屋の明かり、自然につくけど、消すときはどうすんだ?」
「…ベッドヘッドに」
掠れた声で言いつつ、大河が、頭上を指さす。
そこには、先ほど置いたばかりのペットボトルがあった。
その時は気にも留めなかったが、見れば、その棚には、色々なものが置いてある。
「リモコンがあるでしょう」
ああ、と小さなそれを取り上げ、見下ろせば、ボタンがいくつか並んでいた。
「あ、これか」
こう言う機械は、使用者に分かりやすく作ってある、親切設計だ。
見当をつけたボタンを適当に押せば、ふ、と明かりが落ちた。
リモコンを元に戻したものの。
雪虎はしばし、動きかねた。
暗がりの中で、先ほどそこにあったものを思い出したからだ。実はその中に、
(コンドームの箱があった…)
子供にはばれない場所に置けよ、と思うなり、そう言えば今この部屋には大河しか出入りできないことを思い出した。
昨夜のディルドはさすがに目につかない場所へ置いてあるのだろう。
すぐそばに横たわる大河が、細く長く息を吐きだしたのが分かった。
悩ましい吐息だ。
ふと見下ろせば、まだ布団をかけていない、大河の腰骨のあたりが、ぎこちなく、動いている。
落ち着かないように。
そう言えば。
(まだ、最後までは、してないな)
刹那、映像の中で見た大河の表情が、脳裏に閃く。
腹の奥が切ないのだと、腰をくねらせていた媚態までも。
雪虎の中で、不完全燃焼だった熱にまた火がともる。
収まったはずが、また勢いを取り戻し始めた自分自身に、内心呆れた。
年をとっても、この性欲の強さが弱まる気配はない。
すこしコントロールできるようになっただけだ。
こうなれば、止まらない。
雪虎は、置いてあったコンドームを取り上げる。
手早く一つ取り出し、あっという間に力を取り戻した雪虎自身に被せた。
何をしているかは、向こうを向いていても、大河には分かっただろう。
だが何も言わない。向こうを向いたまま、じっとしている。
なんとも微妙な緊張感の中、雪虎は大河の後ろに寝転んだ。
その時になって初めて、
「…ぇ」
置いてけぼりを食ったような大河の声がして、振り向こうとする気配がある。
どうやらこのまま、雪虎が眠ると思ったようだ。
違う、と雪虎は苦笑しながら大河の背中にくっついた。
横向きで、後ろから抱きしめる。
「もう、…気持ち悪くないか?」
のぼせが少しでも引いていたらいいのだが。
後ろから抱きしめ、あやすように身体を小さく揺らせば、大河が少し、安心したような息を吐いた。
「へい、き、です」
「そっか、…なら、足、くの字に曲げて」
言いながら、雪虎は片手を大河のズボンのゴムに引っかける。
言われたとおり、大河が膝を前へ出すようにして、足をくの字にすれば、自然と尻を雪虎へ押し付ける形になった。
中心に当たった、雪虎の、硬いモノの感触に、はあ、と大河が全身を震わせ息を吐き出す。
雪虎は、大河のズボンを下ろし、尻をむき出しにした。
露にしたのはそこだけだ。
前はまだ下着とズボンの中にある。
後ろの雪虎は、大河と同じように足を曲げ、
「挿入れるぞ? …―――――そら」
言うなり、この体勢で? という戸惑いが大河から返った。だが。
「…ふぅ―――――…っく」
横向きに寝転がった体勢で、じわじわと後ろから挿入すれば、待ち焦がれたように腰を押し付けてくる。
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