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日誌・41 罰(R18)
しおりを挟む―――――バチン!
これで、何度目だろう。
肉を打つ音が、ホテルの一室に響いた。
いっとき、過去に飛んでいた大河の思考が、現在に戻る。
ここは先ほど、騒動が起きたのと同じホテルの、別の一室だ。
大河の尻が、ジンと痛む。
いや、もうほとんど、痛みは痺れに変わっていた。
大河は今、ベッドの上で、四つん這いになっている。
頭を下げ。
尻を突き出し。
同じベッドに腰掛けた雪虎の腿が、大河の腹の下にくる姿勢だ。
子供のように、尻を叩かれる格好と言うわけだ。
しかも、着衣のままの雪虎に対して、大河ときたら。
ズボンの下だけを、下着ごと、膝まで下ろし、尻を丸出しにした格好だ。
逆を言えば、上はしっかり着込んでいる。
その、上で。
淫らな孔が、アナルプラグを食んでいた。
普段の大河を知る人物なら、まさか彼がそんな屈辱を素直に受けるはずがない、と取り合わず、信じないはずだ。
実際、今、大河の顔だけ見れば、浮かぶのは、屈辱をこらえる表情だ。とはいえ。
叩かれた拍子に、尻に飲み込んだアナルプラグを締め上げ、
「ふ、ぁっ」
厳しい表情を陶然と緩ませ、身をよじってしまう。知ってか知らずか、
「あぁ、いーい色に染まってきた」
言いながら、雪虎が大河の尻肉を宥めるように撫でた。
引き締まった肉を、あえてゆらすように。
次いで、わざとらしく深刻な声色で告げる。
「俺だって、ここまでしたくないんだけどな」
ただし、声の底に、隠しきれない愉悦が這っていた。
だいたい、大河はおとなしく雪虎の指示に従わなくても構わないわけだ。
ただ、言葉での取引で終わらせることも、大河の話術なら可能だったろう。それでも。
どうしても、―――――雪虎に命じられたら、大河は逆らえない。
ベッドに腰掛けた雪虎に、じゃあ罰に尻叩きな、と言われた時、軽蔑の目を向けながらも、大河は言うなりになった。
―――――雪虎の怒りの矛先を引っ込めてもらう代わりに、自身を玩具にしろと言ったのは、そもそも、大河自身だ。
そんなことを求めながら、雪虎は真っ先に。
大河の後孔をほぐした。じっくり、時間をかけて。その上で。
―――――淫具をはめ込み、そこでようやく。
罰を開始した。
とはいえ、そうした道具はどこにあったかと言えば。
大河の荷物の中にあった。潤滑剤もだ。
誰が入れたか。
犯人は、一人しかいない。
彼女が、大河を生贄にするつもりなのは察していたが、これはないと思う。
雪虎は何かを残念がるように、首を横に振った。
「ある程度以上はやらないと、お前も懲りないだろ。お姫さんと一緒で、さ」
ちょっと疲れたわ、と右手首を軽く回す。
叩かれる方もたまったものではないが、叩く方も、確かに疲れるだろう。
しかも、道具を使うならともかく、手での打擲だ。
「俺を利用する程度なら、いいさ。好きにしろ。けどな」
言いながら、雪虎の指が、埋まったアナルプラグに触れる。
微かに引き抜くように動かされ、
「…く」
大河は、掌の下のシーツを強く掴みしめた。
「俺の大事な身内まで利用しようとすんな。…な?」
声は、子供にでも言い聞かせるように、優しげだ。
ただ、手の動きは容赦なく淫靡。
ゆっくりと、中途半端にプラグを引き抜いた、かと思えば、今度は一気に根元まで埋めた。
大河が、衝撃に、息を詰めるなり。
「―――――あぁっ」
パァン、と尻肉が震えるほど叩かれる。それも、巧妙な力加減で。
雪虎が、戦慄く大河の背を辿り、頭に手を伸ばす。
幼子を可愛がるような優しさで、頭をなでた。
「ほら、返事は」
く、と大河は歯を食いしばる。それは一瞬で、ふ、と息を吐きだし、
「…ませ、ん」
「聴こえない」
―――――パァンっ。
「っ、もう、しませ、ん」
そうは言っても、今回のことは、さやかが勝手にやったことだ。
大河は関係ない。
とはいえ、有効と知ったなら、大河はどんな手段でも取る。
いつか、やったかもしれない。
それも、さやかよりもっと、ひどい手段で。大河から見れば、この程度で雪虎が腹を立てるというのが、理解できない。
だが、雪虎が嫌だと言うのなら。
いくら、それが有効な手段とはいえ、選んではならない。
自然とそう考えてしまう。
雪虎の言葉を、…聞かずには、いられない。
「よーしよし、いい子だ、―――――な」
また叩かれ、拍子に。
アナルプラグが大河の中で、一番いいところを、容赦なく抉った。
頭が真っ白になる。
どのような声を出したかも自覚しないままに、大河は尻を突き出すようにして、震えながら達した。
雪虎に大河が逆らえないのは、彼が、月杜に連なる者だからだろうか。
片田舎から決して出てこない月杜家は、それでも古くから、政財界に深く強い影響力を持つ。
不可思議な御伽噺を祖の物語として根にもつ彼の家同様、御子柴にも伝承があった。
裕福な里があったという山奥の地が、御子柴家の発祥の地だ。
今は鬱蒼たる木々に阻まれ、かつてそこに人里があったとも知れないその場所には、地元で神とも崇められた小さな妖が棲んでいたという。
人間とは一線を画していたようだが、場に存在するだけで周囲に幸をもたらしたという、善なる存在だ。
たまに人の近くに現れては、思わぬ幸福を相手が得るのを眺め、手を叩いて喜ぶような無邪気な子供めいた妖だったらしい。
そう、本当に。
愛らしい妖だった。それが。
ある日、里を訪れた僧侶が連れ去ってしまう。妖は妖であり、いずれ必ず人間に害をもたらす、と。
妖がいなくなって、数日後。
里は盗賊に襲われ、皆殺しにされ、財貨すべてを奪われた。
全く救われない話だが、この御子柴家のはじまりの物語としては、相応しいのかもしれなかった。
果たして、僧侶と盗賊はつながっていたのか。
はたまた、単純に、僧侶が妖を見初めたか。
想像はいくらでもできる。
ただ、残された物語が残酷さで終わるあたりから、誰がその話を残したか、そう考えれば何かが形になる気がする。
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