陛下が悪魔と契約した理由

野中

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幕・169 どこまで熟すか

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なのに、見上げるリヒトの顔に、動揺は一つもない。戸惑いも。

要するに、変化がなかった。





ヒューゴを信じているのか。それとも。



―――――…慣れているのか。





あまりに平然と構えたリヒトに、逆に、ヒューゴの理性が本能を危うくつなぎとめた。









ヒューゴの動きが止まる。全身で、息をついた。細く、長く、深く。



衝動の熱を逃がすように。









リヒトは不思議そうに手を伸ばした。ヒューゴの頬に。どうした、と尋ねるように。

指先が、ヒューゴに触れる、寸前。



リヒトの頬に、ぽたり、ヒューゴの汗の雫が落ちた。

頬の輪郭を伝い、それが垂れ落ちる。



雫が肌を撫でる感覚にすら心地よさを感じたか、リヒトが目を細めた。刹那。





「…ぅ、あ!」





リヒトの身体が、きれいに仰け反った。

開いたリヒトの足の間、押し入ったヒューゴが、イチモツを押し付けたからだ。乱暴と言えるほど強く。

ヒューゴの陰茎も、いつからか、すっかり勃起していた。



そのまま、強引に、陰茎で陰茎を押し揉んだ。

勃起した性器の頑丈さを比べるように。



そうしながら、ヒューゴは牙が今までになく強く疼く理由に気付く。







今までは単純に、自由になりたい、束縛から逃れたい、―――――そう、思っていた。

ヒューゴが自由になる、そのためには、リヒトがいなくなればいい。

リヒトは絶対に、ヒューゴを解放しない。



逃れたければ、リヒトを殺すしかなかったのだ。

だから、泡のように束の間心に浮かぶリヒトへの殺意は、自由を求めるヒューゴの気持ちから生じていたと言える。





だが、先日から感じる殺意は。









(本能から、きている)









ゆえに、コントロールが難しい。とはいえ、本能、とは言っても。

…どういうものかつかみにくかった。



たとえば、海に住む魚が、海とは何かを知らないように。

あって当たり前のものでも、だからこそ逆に、全体像を一度も見たことがなければ、知らなくて当たり前だ。



どうも、根が深いところから、この殺意は生じている気がした。







難しいことは一旦おいて。











視点を変え、一般的にリヒト・オリエスを評するなら。

リヒト・オリエスは悪魔にとって最悪の敵。最大の命の危機。

こうしていても、リヒトがその気にさえなれば、ヒューゴは一瞬で死ぬ。





―――――だからこそ、リヒト・オリエスは極上の獲物。





強敵であればあるほど、悪魔は相手を腹の中に収めたいと衝動的に思うのは、事実だ。



それのせいか、とも思うが、そもそもなぜ、悪魔は強敵を食いたいと思うのか。

生存本能、というだけでは説明が弱い気もする。



なにせ、強い相手と向き合えば。





当たり前だが、自身が死ぬ確率が高くなる。



ゆえに、生存本能とはまた別の何かがある気がした。











だが、これ以上、思考に沈むことは難しそうだ。







「ぁ、ん…!」







すっかり色付いた声に誘われるように視線を向ければ。

潤み切った黄金の目が、熱に浮かされた眼差しでヒューゴを見つめている。



ヒューゴの腰を挟んだ内腿ががくがく震えた。

性器への刺激があまりに強すぎたか、リヒトの腰が逃げようと動く。







逃げられたら、逆に楽しくなって、追うのが獣だ。







思わず、ヒューゴの唇に笑みが浮かぶ。

離れる寸前で、リヒトの腰を掴む。

引き寄せた。



ヒューゴの好戦的な笑みに、リヒトの目がさらにうっとりするなり。

ヒューゴは、さらに強く、自分の腰をぐりぐりリヒト自身に擦り付けた。







高貴、上品、気高い―――――そのように評されるリヒトの面立ちが、その印象をこれっぽっちも崩すことなく、そのくせ、たまらない快楽に身を跳ねさせながら、どこか上の空で訴えてくる。







「んぅっ、…だ、めだ、ひゅーご…っ、潰れ、る…!」

リヒトが、力が入らない手をヒューゴの胸につき、押しのけようとする。

だが、それは縋っただけで終わった。





は、は、と息を刻みながら、いつもは厳しい命令を下すリヒトの唇の端から、飲み下せない唾液が顎に伝い落ちる。





「潰すわけないだろ」

ヒューゴは、淫猥な動きで、イチモツを執拗に擦り合わせた。

動きに反して、ヒューゴの唇からこぼれた声は、どこか冷酷だ。



実際には、潰しにかかっているような態度。





痛みと快楽に、こんなに気持ちがいいなら、壊されてもいいと身を投げ出すような、与えるようなリヒトを見下ろし、ヒューゴは囁いた。





「ここは、こんな、甘い蜜を出すんだ」

体液で濡れ、濃い桃色に染まるリヒト自身を、ヒューゴは自身の剛直で擦り上げながら、笑みを含んだ声で囁いた。









「潰すなんて、勿体ない―――――だから毎日、もう出ないってところまで味わってるだろ」



「甘く、なん、かっ」

「甘いぞ。毎日、次第に、もっと」

視線を落とし、リヒトのそこをねっとり見つめる。









「…甘さを増していくな。どこまで熟すんだ?」









言っていることは、嘘でも冗談でもない。

本気で不思議に思っている。



そんなヒューゴの視線に、手で触れられでもしたように、びくりとリヒトの身体が跳ねた。

「…ぃ…っ」

イく、と言いかけたか、その短い言葉を放つことすらできず、リヒトは目を見開く。



声なく仰け反った。全身を硬直させる。とたん。







びゅぅっと陰茎の先端から噴きあがった精子が、リヒトの胸元まで飛んだ。







射精は、一度では終わらない。



「あ、く…ぁあっ、また…ぁ!」



リヒトは射精のたびに、腰を跳ねあがらせた。陶然と背を反らせる。

リヒトの陰茎がはち切れんばかりに膨らみ、ヒューゴのそこに媚びるように踊る。



浮いた腰が、強請るように悶えたと思った時には、とうとう、強くそこをヒューゴに押し付けてきた。

足を開き、完全に、男に屈服した動きだ。



言うなりになるから、代わりに快楽をくれとせがんでいる。



超然としている皇帝のリヒトも目を離し難いが、夜に見せるリヒトの姿も、淫らでありながらずっと見ていたいと思わせる。



うっとり見惚れながら溢れ出るリヒトの精子を指に絡ませ、







「そんで―――――もっと、ごちそう、して?」







ヒューゴは口に含んだ。

他の精子と何の違いもないはずなのに、本当に、―――――リヒトの体液はひどくあまい。



(コレは格別に甘いかもな)



行為のたびに、ヒューゴがリヒトの足の間のモノを、アイスキャンディーでも舐めるようにぺろぺろしたくなるのも、仕方がない。

(ん…いつもより、濃い、か?)

指をちゅうちゅう吸いながら、味を確認していれば、気付いたか、







「ぃ、いやだ…味わったり、する、な…!」







心底嫌がる声を上げた。

いや、恥ずかしがって、いる?

リヒトは、耳から首まで真っ赤に染まっていた。



なんとなく、半眼になるヒューゴ。







こうまでしておいて、未だにヒューゴはリヒトの羞恥心が何に反応するのか、理解できない。なんにしろ。













―――――いじめたくなる反応だ。















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