陛下が悪魔と契約した理由

野中

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幕・97 戦神の御代

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今はもうすっかり、リヒトの御代だ。土台は固まった。今更もう、覆せはしない。誰にも。

即ちそれは。



もうすっかり、皆が認めているということ。









オリエス皇帝は、リヒト・オリエスただ一人だと。まるで最初からそうであったかのように。









新しい御代は、戦神とも聖君とも称えられる皇帝の下、華々しく賑やかにはじまった。

御代を覆すことなど、もう不可能だ。



悪態をついている彼らとて、本当はもうそれを認めている。



自覚があるからこそなお、鬱憤がたまるに違いない。

次代を狙う方がまだ確実だろう。チェンバレン家のように。

(ただ今回、皇后…グロリア令嬢はやり過ぎた)

なんらかの報復は免れないだろう。



(小さいけど致命的なところが妥当…リヒトが派手な報復を何かやるって言っても、まあ、リュクスなら反対するだろうし)



一応、チェンバレンはオリエス帝国の中でも重鎮。バランスを重視するリュクスなら、派手なやり方はするまい。ただ。





―――――先の宴で、ヒューゴの姿が消えた時、リュクスがグロリアに見せた態度を知っていたら、ヒューゴとてそう呑気なことは考えなかっただろう。





そんなことを何も知らないヒューゴは意識を、闇の向こうにいる貴族令息たちに向けなおした。











ただ悪口を言い合っているのなら害はない。



だが、あまりに大っぴらに不満を口にしていると、ひょんなことから陰謀に巻き込まれることもあるから注意が必要だ。











だいたい聞き覚えのある声ばかりで、頭の中で様々な顔とつながる。

あいつか、と思った内の一人が、面白そうに声を上げた。



「見てろよ、その内城下で騒ぎが起きるから」





(騒ぎが起こる…この言い方だと、『騒ぎを起こす』って言いたげだな)





言い方が引っかかり、ヒューゴは眉をひそめる。

令息の声は、少しろれつが回っていない。どうやら、酔っているようだ。



応対する者たちも、似たり寄ったりである。





「何言ってんだ、城下で騒ぐなんて、そもそもそんな隙がどこにある」





呆れたことに、仲間の不穏な物言いを咎めるどころか、それができそうにない状況を嘆く始末だ。

「城下の警備が厳しすぎると思わないか。好き勝手に飲み歩きもできやしない」



(つまり、賄賂がきかないってことか?)

ヒューゴはちょっと鼻が高くなる。



その姿勢を末端まで生き渡らせるのは難しいが、皇都の警邏隊がまず模範とならなければならないのだ。

いい傾向であった。



(昔は下町で貴族や金持ちが好き勝手してたからな。取り締まる側を取り締まる必要があって散々だった)



まだ将軍ではなかったリカルドと共に走り回った記憶はまだ新しい。ヒューゴは苦い顔になる。







「奴隷遊びはほどほどにしとけよ」







そんな言葉と同時に、下品な笑いが広がった。

「皇宮内には結界があるから如何ともし難い。城下でも騒ぎ辛い。どこかで息抜きしないとやってられないな」



「だからな、その隙ができるかもしれないって言ってんだよ」

愚痴っぽい声に割って入ったのは、最初、城下で騒ぎが起こると言った相手だ。

「なんだ? 確信のある言い方だな。何かあったのか」

さすがに不審に思ったか、一人が尋ねる。



「実はこの間、…会ったんだよ」



「思わせぶりだな、何にだ」











「『はぐれ』」











誰に聞かれているとも思っていないはずだが、令息…ボンボンたちは声を潜めた。

ヒューゴはつい、目を輝かせる。















―――――『はぐれ』。



魔塔に属さない魔法使いのことだ。

魔塔にいる魔法使いも、常識という面ではズレているが、これが『はぐれ』となれば完全に逸脱している。





異常者と言っていい。





悪魔の常識を当てはめてみれば普通だが、それだけイカれた狂人なのだ。



いると聞いて、ヒューゴの心が躍った。会ってみたいものだ、ぜひとも。















膝立ちで、トン、トン、とリヒトを突き上げる動きにも、つい、弾みが出てしまう。

中のしこりをカリに引っかけるように腰を退けば、ぷしっとリヒトの先端から、白い体液が吹き上がった。



「ぁく」



指で扱き上げているリヒト舌が痙攣するように震える。

見れば、リヒトの両手が、強制されるまでもなく自身の陰茎を弄り回していた。



トロトロと先走りと精液が交互に溢れ、混ざり、長い指はもうべとべとになっている。その間にも、ボンボン連中の話は続く。





「やりたいことがあるんだが金が要るって言うから、やった」



「それもしかして、アイツか」





一人が呆れたように言った。

「この間の奴だな、花街とスラム街の間付近で遊んでた、ヘラヘラした普通のヤツ」

普通、というところを強調。別の一人が嘲るように笑った。



「騙されたな。金欲しさに『はぐれ』なんて言ったんだろう」





『はぐれ』が何かをするなんて楽しみ…いや、不吉でしかないが、金欲しさに詐称したなら話が違ってくる。ただ、万が一。









―――――本物だったなら。









「どっちだろうと構わないさ。はした金だ。うまいこと騒ぎが起きれば、皇帝の失脚につながるかもしれないだろ」



難しいだろうなあ、とヒューゴは内心呆れた。

彼らの親はどういう教育をしたのだろうか。



「あのすました顔したいけ好かない野郎に屈辱を味わってもらおうじゃないか」





「子供にするみたいに、ケツでも叩くか?」





ゲラゲラゲラ、下品に笑う様子からして、彼らは相当酔っているらしい。

台詞もさることながら、貴族が上げる笑い声ではない。





(…皇族侮辱罪ってヤツが世の中にはあるんだけどなぁ)





ちらとリヒトを見下ろせば、聴こえているのかいないのか、自身を扱くのに夢中になっている。

きれいに爪を切り揃えた指先が、裏筋とカリの部分を執拗にいじっていた。







息を詰めて集中している。







一生懸命な様子に、ヒューゴは目を細めた。

優しげな表情を見せるなり、リヒトの動きを邪魔するように、











「―――――あっ!」



汁をこぼす先端にヒューゴは爪を立てる。

たちまち、リヒトは下腹をヒクつかせ、ばちん、と内腿を強く閉じた。





弓なりに背を撓らせ―――――射精。ぱたぱたっと精液が床に跳ねた。











それが弛緩するなり、ヒューゴは力の抜けたリヒトの舌を一度、悪戯につまみ、口から指を引き抜く。

次いで、背後からリヒトの両手を取り上げた。



また、目の前の椅子に手をつかせる。





リヒトに尻を突き出すような姿勢を取らせ、ヒューゴは膝立ちのまま、その腰骨を掴んだ。





「な、に」

姿勢が変わったことに、朦朧としながら尋ねるような声をこぼしたリヒトに、



「あいつらに聞かせてやるか?」

弾む息を無理やり殺しながら、抑えた声で、ヒューゴ。









「お尻を叩かれたリヒトが、どんな声を出すか」









「…な…」



とたん、我に返ったような声をリヒトが上げるなり。

―――――いっきに、ヒューゴが腰を突き入れた。









「あ、ん!」









バチンッ。



肉が肉を打つ音がした時には、ヒューゴが根元までリヒトの中に埋まっている。

腰砕けになったリヒトは、必死に椅子にしがみついた。

その背に、ヒューゴの呟きが落ちる。





「リヒトは、お尻、叩かれるの好きだもんなぁ?」





「好、き、なわけ、…っ」



リヒトの反論のタイミングに合わせて、ヒューゴが腰を引いた。リヒトが息を呑む。

「毎日毎晩、こうやって」

目は笑っていないのに、ヒューゴは口元に笑みを浮かべて、腰を使った。











「俺にパンパンしてもらうの、ほら、こうやって、尻振って強請るくらい」



奥を、壊さない寸前の乱暴さで突き上げられ、リヒトは訳が分からなくなる。

「ひ、あ…っ」











もう、ソコのことしか考えられなくなる刺激に、このためならなんでもするとまで思ってしまう。

腰を振るのは無意識だ。



ヒューゴが抜くのに合わせて、引いて。



突き入れるのに合わせて、押し付ける。







「涎垂らすくらい」







リヒトの性器の先端から、精液がたらたらと垂れ落ちていた。

合間に、女のような声を上げてしまったかと思うと、潮が噴きあがる。



ここまでくれば、もうずっと中でイっているような感覚に、ヒューゴのことしか考えられず、彼の声しか聞こえなくなる。











「好きだもんな?」

何を言われたか分からないまま、リヒトはがくがくと頷いた。







「なあ? お尻パンパンだーい好き、でもしてもらうのは俺じゃないとイヤって言ってみて」



「ん…!」











耳元の囁きに、もう逆らう気力もない。



それに経験上、従えば、もっといっぱいしてもらえる。

予感にうっとりしながら、リヒトは荒い息の中、必死に言葉を紡いだ。







「僕のお尻、いっぱい、虐めて、いいの…っ、ヒューゴ、だ、け…」



リヒトが、自身で自身が嫌になるくらいの、甘ったれた声だ。



だが聞いているのはヒューゴだけで、ヒューゴはと言えば、







「はあ…っ、かわいい。かわいいなあ、もうぜんぶ、食べちゃいたいくらい」







幼子を甘やかすような声で、半ば本気の台詞を口にした。



リヒトはヒューゴを求めてやまないが、同じくらい、恐ろしい。だがこういう時は。











―――――腹の底がきゅぅっと切なくなる心地と共に、本気で思う。



(そう、してくれて、いい。そうして、ほしい)

完全に一つになれたら、どんなに安心するだろう。











だがおそらく、リヒトの本音を知れば、ヒューゴは恐れるだろうし、同じくらいの勢いで泣くだろう。



そんなことを一つも知らないヒューゴは、獣の気配も露に飴玉をしゃぶりつくす態度でリヒトを甘やかす。

「さ、もっと、いっぱいイきましょうね―――――ご主人様」















自身が何を言ったのか。



後で思い出すほどの意識も残っていないリヒトの頭を撫で、髪を掻き回しながら、ヒューゴがずいぶん遅れて達した時には。







いついなくなったのか、貴族令息たちの声は聴こえなくなっていた。



















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