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2034年8月 幕引き(期)
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「おい堀田!もっと運動能力を上げろ!」
『そういわれてもこれが限界ざんす!これ以上はまずいざんす!』
「いいからやれ!出ないと敗北するのはわかるだろ!」
一階のフロアでチープハッカーと対峙しているアカネと堀田はチープハッカーの猛攻に攻撃の機会を失っていた。
九つの首からランダムに放たれる大小の鉄の塊はその全てに必殺の一撃があるだろう。うまく回避できている理由はアカネの身体能力と堀田の操縦技術のおかげに他ならない。
攻めあぐねているこの状況の中、機体の内部から電話がかかる。堀田は乱雑にその電話を繋げると彼らにとって頼もしい人物の声が響き渡る。
『堀田大丈夫か?」
「その声は嘉祥寺ざんすか!?某は問題ないざんすけど…」
『そのまま話を聞け。奴の鉄の弾丸の理屈はこの建物を分解し、再構築したものだ。だからまずは奴の土俵で戦うな。戦うなら外で戦え。そっちのほうがお前にとっても都合いいはずだ。
その準備ももう行った』
「了解ざんす!」
通話を切ると堀田はアカネに嘉祥寺の会話の情報を共有する。するとアカネは苦笑いしつつも堀田に問いを投げる。
「おい堀田。あいつを外に引っ張りだせばいいんだよな?」
『そうざんす。でも、その方法が難しいざんす』
「そうか…」
するとアカネは覚悟を決めたような声で堀田に話かける。
「一度しか言わねえからよく聞け。
なあ、マスター。頼みがあるんだが、一緒に死んでくれないか」
普通なら一緒に死ぬという言葉を聞けば躊躇うだろう。しかし、それは一般人が聞いた限りである。その言葉を聞いた堀田はその言葉よりも大切な言葉を優先していた。
「あ、アカネたん…今、某のことをマスターと…」
「いいから!?返事は!?」
「…いいざんす!アカネのマスターとして、某は全力でアカネの策を手伝うざんす!」
すると鉄の弾丸が機体に襲い掛かる。しかし、それを難なく避けるとアカネは掛け声と同時に今まで行わなかった突進を行った。
予想外の奇襲にチープハッカーも驚きを隠せなかったのか、そのまま突進を受ける。その衝撃でチープハッカーはよろめくが、その隙があればアカネにとって充分だった。アカネは武器を使って、チープハッカーの九つの首を切り飛ばす。無論、これでは決定打にならず徐々に首は再生する。しかし、アカネの狙いはここからだった。
首を失ったチープハッカーを手に持ち、外に引きずり出そうとする。その意図が読めたチープハッカーは抵抗するかのように首無しの九つの首を使って機体を叩く。
一撃一撃が機体の装甲を変形させるその衝撃は堀田の肉体に響き、堀田は悲鳴を上げる。
「おい、大丈夫かマスター!?」
『そ、某のことはいいざんす!それよりもアカネたんはアカネたんのやることを!』
衝撃に耐え、アカネは怒声と同時にとうとうチープハッカーを外に引きずりだすことに成功する。チープハッカーは肉体を再生しようと試みるが、事前に嘉祥寺たちが準備していたその土地にはチープハッカーの肉体を再生する物質は存在していなかった。
チープハッカーは周囲の材料を使って再生することをあきらめ、自前のピコマシンによって九つの首を再生する。しかし、その代償か心なしかサイズが少し小さくなっている。
『やってくれたな。アカネ、そして堀田。
捨て身とはいえ、俺のフィールドから引きずりだすとは。だが、その肉体であとどれほど動ける?』
「は、てめぇを仕留めるにはちょうどいいハンデさ。
じゃあ、第二ラウンドだ。行くぜ!」
アカネは武器を片手にチープハッカーに突撃する。だが、先ほど言っていたチープハッカーの言葉は事実である。無理やり引きずりだす代償として機体の性能は大幅にダウンしている。こうしてうまく動けているのは悲鳴を上げながらも無理やり機体を動かしている堀田のおかげだろう。
故に、タイムリミットは堀田が気絶するまで。その時間までにチープハッカーの肉体を削り切れれば勝利。できなければチープハッカーの勝利。至極単純な勝利条件にアカネは最速でチープハッカーを仕留めようと攻撃を加える。
チープハッカーの鉄の弾丸がなくなり、多少優勢になったアカネは武器を使い、チープハッカーの肉体を削る。しかし、チープハッカーも勝利条件に気づいたのか肉体を削られる覚悟で機体に反撃をする。その結果、徐々にだが、機体がチープハッカーの反撃を受ける回数が多くなっている。
その事実に焦りを感じつつもアカネは全力でチープハッカーの攻撃する。そしてその時がやってくる。肉体を削られたチープハッカーはついに機体にダメージを与えることができなくなるほど貧弱になり、元の人型に戻る。好機を判断したアカネは即座に機体から降り、チープハッカーを蹴り上げる。
「まったく、容赦ないな…。
いいだろう、この場は俺の負けだな」
「ああ、じゃあな」
その言葉を最後にアカネはチープハッカーの脳天めがけて強烈なかかと落としをする。皮肉にもその軌道はかつてアカネを切断された時と全く同じ軌道であり、その一撃は見事チープハッカーの核を粉砕した。
核が破壊されたチープハッカーの肉体はその場で砂のように崩れる。戦いの決着がついたことを理解したアカネはすぐさま機体に乗っている己のマスターである堀田の様子を確認する。
「おい、マスターしっかりしろ!」
堀田は限界を超えていたのか、白目をむき、気を失っている。にもかかわらず操縦すためのコントローラーだけは決して離さなかった。その姿にアカネは少しだけ感服し、気を失っていることをいいことに一言伝える。
「お疲れ、マスター。かっこよかったぜ」
すると、車が一台やってくる。その車は扉を乱暴に開け、現れたのは嘉祥寺と白橋の二人だった。
戦いの状況を察した二人はアカネに労いの言葉をかける。
「お疲れ。最大の障害がこれで何とかなったのかしら?」
「そうだな。だがまずは堀田を病院に送らなければいけない。きっと無茶をして気絶しているだろうからな」
嘉祥寺は電話を取り出し、救急車を呼び出そうとした直後、地面が大きく揺れた。その揺れの現況を見るとそこには鉄の塊があった。一体何かと思った嘉祥寺は即座に直感が働き、すぐさま声をかける。
「伏せろ!」
その言葉を聞き、即座に反応した二人は嘉祥寺のいう通り、その場に伏せる。すると頭上に何かが通りすぎる。周囲を見渡すと斬撃らしきものが通過したと認識すると鉄の塊はやがて人型にへと姿を変える。
「直感がよすぎないか?まあ、俺としては別にどうでもいいがな」
「…おい、なんでてめえが生きている?」
鉄の塊から作られた人型のロボット、チープハッカーは不機嫌そうな言い方でアカネの質問に答える。
「いや見事に死んだよ。少なくとも、その肉体はだが。
いいかかと落としだった。分身体の俺ですら身が震えるほどの一撃だった。
でも、それだけだ。さっきみたいなとっておきはないが、今の君たちを殺すには充分だろう?」
直後、周囲から悲鳴が上がる。周囲を見渡すと様々なロボットが地上に現れ、人間を殺戮している。一体何が起こっているのかと白橋が問い詰めようとした直後、空を上げると大量の流れ星があった。あまりに不可解な現象に白橋は言葉を失った。
「驚いたか?あの星々全てが俺だ。千を超えたところで数えることをやめたが、戦力としてはそれなりだろう?これを世界中に散らばって人間を殺戮している」
「一体…何のために?」
「ん?必要かいそんな理由。
そうだな…強いて言えば暇つぶし。ほら、子供が虫を殺すのと同じ感覚と言えば理解できるかな?」
あっけらかんと言ったその理由に白橋とアカネは絶句する。嘉祥寺もその返答には予想外だったのか、目を開き、驚きを隠せなかった。
チープハッカーはさてとと言わんばかりに手刀を構える。
「それじゃあ、戦いの時間だ。まあ、君たちがいつまで気力が持つか見ものだけどな」
チープハッカーは手刀を振り下ろす。突如始まった戦いに気後れすることなく反応した三人はチープハッカーの手刀を避け、機体を壁にして物陰に隠れる。
チープハッカーは機体事切断しようとしたが堀田と中田の技術が組み合わさったその機体を切断することができず舌打ちをする。
その直後、アカネと白橋は同時に機体から姿を現し、チープハッカーに接近する。チープハッカーは手刀で攻撃するが、攻撃を見切られ、空振りに終わる。
「何度もあなたと戦っているから大体の攻撃の範囲はまるわかりなのよ!
そして、さっきのアカネとの闘いで大体の核の位置がわかったわ!」
そういって白橋はチープハッカーの体の中心部にめがけて拳をぶつける。想定外の速度により流動化することも許されなかったその一撃は見事チープハッカーの核を破壊する。
たった一撃で決着がついたことにアカネは唖然とするが、その表情はすぐさま焦りへと切り替わる。
周囲にはチープハッカーらしきロボットが大勢いるばかりか、人型ではないロボットも何機か現れている。その数約二十以上。すると犬型のロボットが先頭に立ち、嘉祥寺たちに宣言する。
「やはり君たちは危険だ。俺の脅威となる。
俺の野望のため、速やかに消えてくれ」
その言葉が合図となって、ロボットたちは一斉に襲い掛かる。多勢に無勢と感じた白橋はアカネに話うかける。
「ねえ、せっかくだし、倒した数を競い合いましょ」
「いいね。だけどまあ、それは生きていからの話だな!」
白橋とアカネは襲い掛かってきたロボットを一体ずつ相手にする。無論、一撃で破壊するようには心がけているが、それも体力が続く限りである。
アカネも先ほどの連戦により機体の調子がおかしくなっている。白橋は徐々にだが体力が失っていく。そして戦いを任せている嘉祥寺は周囲を見渡し、二人に指示を出す。
だが、その拮抗は長時間維持することはできなかった。最初は二十機ほどいたロボットは徐々に集い、その数は百を超えている。
白橋の体力の限界が尽き、立っているのがやっとである。アカネも肉体から火花が飛び散り、いつ壊れてもおかしくない。嘉祥寺も気力が付き、最後のブドウ飴をなめ、知恵を絞る。
「ようやくだな。東京都に集っていた俺の分身をすべて集らせたが…破壊されたのは五体だけか。
これなら殺戮を優先すべきだったか。だが念には念をだ。確実に仕留める」
チープハッカーはロボットたちに指示して徐々に距離を詰め、三人の退路を断ち、襲い掛かろうとする。嘉祥寺は何か手がないかと悩む。白橋とアカネは既に諦め、戦う意思を放棄している。
もう手がない。そう思った直後、この場に一台の車が現れる。
「…おい伊吹!お前の運転技術はひどいな!俺様以下とはどういうことだ!?」
「いや仕方ないでしょ!?君たちを拾って、急いでここに駆け付けたんだから!?
多少の乱雑さは大目に見てよ」
「って、言われたも…。
あたしもちょっと酔ったかも。ニューマンなのに不思議な気持ちだよ…」
車の中から現れたアダム、中田、伊吹の三人はふらついた状態で車を支えに深呼吸する。よほど乱雑な運転だったのだろうか、車体は原型をとどめておらず、一部のエアバックも起動している。
「あらそうかしら?わたしはかなり楽しかったわよ」
悠々と車から降りた人物、小林佐夜が現れた直後、周囲の空気が一瞬にして透き通る。先ほど追い詰めていたロボットたちが怖気づき、たった一人の人間に恐怖する。
そんな状況の中、小林はうっすらと笑い、透き通るような声で言う。
「随分と私の友達をいじめてくれたようね。
そのつけはかなり高いけど、覚悟はできているのよね?」
その言葉に反応し、一台のロボットが小林に襲い掛かる。ピコマシンの彼らは本来斬撃の攻撃は効果がない。それがこの場に集っているロボットの共通認識である。だが、例外はある。
その例外を唯一知っていたチープハッカーはそのロボットに対し停止命令を下す。
「待て!迂闊に飛び込むと…」
刹那、飛び込んだロボットに風が奔る。ロボットはきれいに切断され、その場に落ちる。再生しようとしたがうまくいかないことに困惑したが既に時遅し。切断されたロボットは更なる小林の追撃により、今度こそこま切れとなって消滅する。
「あらあら、もう終わり?
じゃあ、次は私がそっちに行くわね」
その言葉は敵対しているチープハッカーたちにとって死刑宣告に等しかった。そしてその恐怖を理解しているチープハッカーを除いた彼らはその感情をまだ経験していない。
ロボットたちは次々と小林に襲い掛かるが、そのたびに風が奔り、渦を巻き、台風へと至る。
圧倒的な破壊力に襲い掛かったロボットはわずか数分で彼女の恐怖を理解していたチープハッカーを除き、その全てが全滅する。
「ハハハ、俺なんかよりもお前のほうがよっぽど化け物じゃないか…」
その言葉を最後にチープハッカーは塵に帰る。たった一人でこの場を制圧した侠客の女王はため息を一つこぼし、刀を鞘にしまう。
「思った以上につまらなかったわ。まあ、弱者をいたぶる奴らなんて所詮この程度よね」
あっけらかんと表情で小林は宙を見上げる。未だに流れ星は流れるが、もう少しで全ての決着がつこうとしていることが彼女には理解していた。
『そういわれてもこれが限界ざんす!これ以上はまずいざんす!』
「いいからやれ!出ないと敗北するのはわかるだろ!」
一階のフロアでチープハッカーと対峙しているアカネと堀田はチープハッカーの猛攻に攻撃の機会を失っていた。
九つの首からランダムに放たれる大小の鉄の塊はその全てに必殺の一撃があるだろう。うまく回避できている理由はアカネの身体能力と堀田の操縦技術のおかげに他ならない。
攻めあぐねているこの状況の中、機体の内部から電話がかかる。堀田は乱雑にその電話を繋げると彼らにとって頼もしい人物の声が響き渡る。
『堀田大丈夫か?」
「その声は嘉祥寺ざんすか!?某は問題ないざんすけど…」
『そのまま話を聞け。奴の鉄の弾丸の理屈はこの建物を分解し、再構築したものだ。だからまずは奴の土俵で戦うな。戦うなら外で戦え。そっちのほうがお前にとっても都合いいはずだ。
その準備ももう行った』
「了解ざんす!」
通話を切ると堀田はアカネに嘉祥寺の会話の情報を共有する。するとアカネは苦笑いしつつも堀田に問いを投げる。
「おい堀田。あいつを外に引っ張りだせばいいんだよな?」
『そうざんす。でも、その方法が難しいざんす』
「そうか…」
するとアカネは覚悟を決めたような声で堀田に話かける。
「一度しか言わねえからよく聞け。
なあ、マスター。頼みがあるんだが、一緒に死んでくれないか」
普通なら一緒に死ぬという言葉を聞けば躊躇うだろう。しかし、それは一般人が聞いた限りである。その言葉を聞いた堀田はその言葉よりも大切な言葉を優先していた。
「あ、アカネたん…今、某のことをマスターと…」
「いいから!?返事は!?」
「…いいざんす!アカネのマスターとして、某は全力でアカネの策を手伝うざんす!」
すると鉄の弾丸が機体に襲い掛かる。しかし、それを難なく避けるとアカネは掛け声と同時に今まで行わなかった突進を行った。
予想外の奇襲にチープハッカーも驚きを隠せなかったのか、そのまま突進を受ける。その衝撃でチープハッカーはよろめくが、その隙があればアカネにとって充分だった。アカネは武器を使って、チープハッカーの九つの首を切り飛ばす。無論、これでは決定打にならず徐々に首は再生する。しかし、アカネの狙いはここからだった。
首を失ったチープハッカーを手に持ち、外に引きずり出そうとする。その意図が読めたチープハッカーは抵抗するかのように首無しの九つの首を使って機体を叩く。
一撃一撃が機体の装甲を変形させるその衝撃は堀田の肉体に響き、堀田は悲鳴を上げる。
「おい、大丈夫かマスター!?」
『そ、某のことはいいざんす!それよりもアカネたんはアカネたんのやることを!』
衝撃に耐え、アカネは怒声と同時にとうとうチープハッカーを外に引きずりだすことに成功する。チープハッカーは肉体を再生しようと試みるが、事前に嘉祥寺たちが準備していたその土地にはチープハッカーの肉体を再生する物質は存在していなかった。
チープハッカーは周囲の材料を使って再生することをあきらめ、自前のピコマシンによって九つの首を再生する。しかし、その代償か心なしかサイズが少し小さくなっている。
『やってくれたな。アカネ、そして堀田。
捨て身とはいえ、俺のフィールドから引きずりだすとは。だが、その肉体であとどれほど動ける?』
「は、てめぇを仕留めるにはちょうどいいハンデさ。
じゃあ、第二ラウンドだ。行くぜ!」
アカネは武器を片手にチープハッカーに突撃する。だが、先ほど言っていたチープハッカーの言葉は事実である。無理やり引きずりだす代償として機体の性能は大幅にダウンしている。こうしてうまく動けているのは悲鳴を上げながらも無理やり機体を動かしている堀田のおかげだろう。
故に、タイムリミットは堀田が気絶するまで。その時間までにチープハッカーの肉体を削り切れれば勝利。できなければチープハッカーの勝利。至極単純な勝利条件にアカネは最速でチープハッカーを仕留めようと攻撃を加える。
チープハッカーの鉄の弾丸がなくなり、多少優勢になったアカネは武器を使い、チープハッカーの肉体を削る。しかし、チープハッカーも勝利条件に気づいたのか肉体を削られる覚悟で機体に反撃をする。その結果、徐々にだが、機体がチープハッカーの反撃を受ける回数が多くなっている。
その事実に焦りを感じつつもアカネは全力でチープハッカーの攻撃する。そしてその時がやってくる。肉体を削られたチープハッカーはついに機体にダメージを与えることができなくなるほど貧弱になり、元の人型に戻る。好機を判断したアカネは即座に機体から降り、チープハッカーを蹴り上げる。
「まったく、容赦ないな…。
いいだろう、この場は俺の負けだな」
「ああ、じゃあな」
その言葉を最後にアカネはチープハッカーの脳天めがけて強烈なかかと落としをする。皮肉にもその軌道はかつてアカネを切断された時と全く同じ軌道であり、その一撃は見事チープハッカーの核を粉砕した。
核が破壊されたチープハッカーの肉体はその場で砂のように崩れる。戦いの決着がついたことを理解したアカネはすぐさま機体に乗っている己のマスターである堀田の様子を確認する。
「おい、マスターしっかりしろ!」
堀田は限界を超えていたのか、白目をむき、気を失っている。にもかかわらず操縦すためのコントローラーだけは決して離さなかった。その姿にアカネは少しだけ感服し、気を失っていることをいいことに一言伝える。
「お疲れ、マスター。かっこよかったぜ」
すると、車が一台やってくる。その車は扉を乱暴に開け、現れたのは嘉祥寺と白橋の二人だった。
戦いの状況を察した二人はアカネに労いの言葉をかける。
「お疲れ。最大の障害がこれで何とかなったのかしら?」
「そうだな。だがまずは堀田を病院に送らなければいけない。きっと無茶をして気絶しているだろうからな」
嘉祥寺は電話を取り出し、救急車を呼び出そうとした直後、地面が大きく揺れた。その揺れの現況を見るとそこには鉄の塊があった。一体何かと思った嘉祥寺は即座に直感が働き、すぐさま声をかける。
「伏せろ!」
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「直感がよすぎないか?まあ、俺としては別にどうでもいいがな」
「…おい、なんでてめえが生きている?」
鉄の塊から作られた人型のロボット、チープハッカーは不機嫌そうな言い方でアカネの質問に答える。
「いや見事に死んだよ。少なくとも、その肉体はだが。
いいかかと落としだった。分身体の俺ですら身が震えるほどの一撃だった。
でも、それだけだ。さっきみたいなとっておきはないが、今の君たちを殺すには充分だろう?」
直後、周囲から悲鳴が上がる。周囲を見渡すと様々なロボットが地上に現れ、人間を殺戮している。一体何が起こっているのかと白橋が問い詰めようとした直後、空を上げると大量の流れ星があった。あまりに不可解な現象に白橋は言葉を失った。
「驚いたか?あの星々全てが俺だ。千を超えたところで数えることをやめたが、戦力としてはそれなりだろう?これを世界中に散らばって人間を殺戮している」
「一体…何のために?」
「ん?必要かいそんな理由。
そうだな…強いて言えば暇つぶし。ほら、子供が虫を殺すのと同じ感覚と言えば理解できるかな?」
あっけらかんと言ったその理由に白橋とアカネは絶句する。嘉祥寺もその返答には予想外だったのか、目を開き、驚きを隠せなかった。
チープハッカーはさてとと言わんばかりに手刀を構える。
「それじゃあ、戦いの時間だ。まあ、君たちがいつまで気力が持つか見ものだけどな」
チープハッカーは手刀を振り下ろす。突如始まった戦いに気後れすることなく反応した三人はチープハッカーの手刀を避け、機体を壁にして物陰に隠れる。
チープハッカーは機体事切断しようとしたが堀田と中田の技術が組み合わさったその機体を切断することができず舌打ちをする。
その直後、アカネと白橋は同時に機体から姿を現し、チープハッカーに接近する。チープハッカーは手刀で攻撃するが、攻撃を見切られ、空振りに終わる。
「何度もあなたと戦っているから大体の攻撃の範囲はまるわかりなのよ!
そして、さっきのアカネとの闘いで大体の核の位置がわかったわ!」
そういって白橋はチープハッカーの体の中心部にめがけて拳をぶつける。想定外の速度により流動化することも許されなかったその一撃は見事チープハッカーの核を破壊する。
たった一撃で決着がついたことにアカネは唖然とするが、その表情はすぐさま焦りへと切り替わる。
周囲にはチープハッカーらしきロボットが大勢いるばかりか、人型ではないロボットも何機か現れている。その数約二十以上。すると犬型のロボットが先頭に立ち、嘉祥寺たちに宣言する。
「やはり君たちは危険だ。俺の脅威となる。
俺の野望のため、速やかに消えてくれ」
その言葉が合図となって、ロボットたちは一斉に襲い掛かる。多勢に無勢と感じた白橋はアカネに話うかける。
「ねえ、せっかくだし、倒した数を競い合いましょ」
「いいね。だけどまあ、それは生きていからの話だな!」
白橋とアカネは襲い掛かってきたロボットを一体ずつ相手にする。無論、一撃で破壊するようには心がけているが、それも体力が続く限りである。
アカネも先ほどの連戦により機体の調子がおかしくなっている。白橋は徐々にだが体力が失っていく。そして戦いを任せている嘉祥寺は周囲を見渡し、二人に指示を出す。
だが、その拮抗は長時間維持することはできなかった。最初は二十機ほどいたロボットは徐々に集い、その数は百を超えている。
白橋の体力の限界が尽き、立っているのがやっとである。アカネも肉体から火花が飛び散り、いつ壊れてもおかしくない。嘉祥寺も気力が付き、最後のブドウ飴をなめ、知恵を絞る。
「ようやくだな。東京都に集っていた俺の分身をすべて集らせたが…破壊されたのは五体だけか。
これなら殺戮を優先すべきだったか。だが念には念をだ。確実に仕留める」
チープハッカーはロボットたちに指示して徐々に距離を詰め、三人の退路を断ち、襲い掛かろうとする。嘉祥寺は何か手がないかと悩む。白橋とアカネは既に諦め、戦う意思を放棄している。
もう手がない。そう思った直後、この場に一台の車が現れる。
「…おい伊吹!お前の運転技術はひどいな!俺様以下とはどういうことだ!?」
「いや仕方ないでしょ!?君たちを拾って、急いでここに駆け付けたんだから!?
多少の乱雑さは大目に見てよ」
「って、言われたも…。
あたしもちょっと酔ったかも。ニューマンなのに不思議な気持ちだよ…」
車の中から現れたアダム、中田、伊吹の三人はふらついた状態で車を支えに深呼吸する。よほど乱雑な運転だったのだろうか、車体は原型をとどめておらず、一部のエアバックも起動している。
「あらそうかしら?わたしはかなり楽しかったわよ」
悠々と車から降りた人物、小林佐夜が現れた直後、周囲の空気が一瞬にして透き通る。先ほど追い詰めていたロボットたちが怖気づき、たった一人の人間に恐怖する。
そんな状況の中、小林はうっすらと笑い、透き通るような声で言う。
「随分と私の友達をいじめてくれたようね。
そのつけはかなり高いけど、覚悟はできているのよね?」
その言葉に反応し、一台のロボットが小林に襲い掛かる。ピコマシンの彼らは本来斬撃の攻撃は効果がない。それがこの場に集っているロボットの共通認識である。だが、例外はある。
その例外を唯一知っていたチープハッカーはそのロボットに対し停止命令を下す。
「待て!迂闊に飛び込むと…」
刹那、飛び込んだロボットに風が奔る。ロボットはきれいに切断され、その場に落ちる。再生しようとしたがうまくいかないことに困惑したが既に時遅し。切断されたロボットは更なる小林の追撃により、今度こそこま切れとなって消滅する。
「あらあら、もう終わり?
じゃあ、次は私がそっちに行くわね」
その言葉は敵対しているチープハッカーたちにとって死刑宣告に等しかった。そしてその恐怖を理解しているチープハッカーを除いた彼らはその感情をまだ経験していない。
ロボットたちは次々と小林に襲い掛かるが、そのたびに風が奔り、渦を巻き、台風へと至る。
圧倒的な破壊力に襲い掛かったロボットはわずか数分で彼女の恐怖を理解していたチープハッカーを除き、その全てが全滅する。
「ハハハ、俺なんかよりもお前のほうがよっぽど化け物じゃないか…」
その言葉を最後にチープハッカーは塵に帰る。たった一人でこの場を制圧した侠客の女王はため息を一つこぼし、刀を鞘にしまう。
「思った以上につまらなかったわ。まあ、弱者をいたぶる奴らなんて所詮この程度よね」
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