74 / 105
2034年8月 目的のために(中)
しおりを挟む
次の日、俺は中田の手伝いをしながら嘉祥寺の帰還を待っていた。
既に嘉祥寺の役目は終え、この宿に向かっている。もうそろそろで到着するだろう。中田は集めたデータを資料としてまとめている。鮫島さんにその資料を渡せば中田の仕事も完了する。
それが終われば鮫島さんと連絡をとって合流し、FRのアジトへ突撃する。もうすぐ目的が達成できそう。着実に進んでいる実感を感じる。
だが、安堵はしていられない。この場所がいつFRにばれてもおかしくない。速やかに合流しなければと焦ってしまう。
「中田。データの資料かはまだか?」
「焦るな弁田。いくら俺様が頑張ってもこのパソコンの機能にも限度っていうものがある。
後十分ぐらいで完了するから少し待て」
そうか。と俺は呟くが内心かなり焦っている。
理由は分からない。だが俺の防衛本能なのかあるいは直感というべきか何かを感じ取っている。確信して一つ言えるのはただ一つ。このままここにいたら何か危ういということだ。
「やっぱりなんかやばい。
中田、一度この場から離れるべきだ。でないと…」
大変なことになる。そう言おうとした時、突然窓ガラスが砕ける音が聞こえた。何事かと思い振り向くと何かが投げ込まれていた。一体何がと思った刹那、視界が真っ白になり、何も聞こえなくなった。
「…!!」
正常に判断できなくなった空間で俺は何者かに取り押さえられた。視界が潰された状況で何もわからない。一体何が起きたのかそれを理解したのはある程度聴力が回復してからだった。
『対象を確保。これより移動する。
もう一人の方はどうしますか?…は!承知致しました。では速やかに処分します』
フラッシュバンを使い、わざわざ変声機を使って会話するほどの用心深さ。この時期に襲い掛かってくる該当者は一つだけだ。こいつらは間違いなくFRの関係者だとすぐに理解した。
直後、一人の男が銃口を中田に向ける。変声機使ったまま、中田に話す。
『運が悪かったとあの世で恨むんだな』
ドイツ語が分からない中田にはその言葉の意味が一切わからないだろう。だが、殺そうとしていることだけは理解できたようだ。必死にもがいているが、流石に相手が悪すぎる。最悪の事態になってしまう。そう思った時、割れた窓から突入してくる影が現れる。
銃声が二回鳴り響く。すると中田を撃とうとしていた人物が苦悶の表情を浮かべる。どうやら銃を持った手と足を撃ち抜かれたようだ。
「まにあってよかったよぉ~」
のんびりとした声で登場してきた人物、鮫島さんは銃口を他のFRの関係者に向ける。FRの関係者は一人だけで突入してきたと思ったが、鮫島さんの顔を見てすぐに表情を引き締める。直後、俺を引っ張り上げ、盾にする。
『貴様は鮫島穂希だな』
「おお~、しっているのかい?」
『我々のリストでは最危険人物で有名人だな。FBIの分際で我らの主要拠点を何ヵ所も潰した極悪人。
今日こそ我らの派閥のために死んでもらうぞ』
俺を立てにして引き金を引こうとする。しかし、鮫島さんは余裕そうな表情で彼らに話しかける。
「ずいぶんとよゆうがあるねぇ~。
でも、ぼくばっかりちゅういしていると…すくわれるよぉ~?」
ドンドンっと、背後から銃声が鳴り響く。すると俺を盾にしていたFRの関係者が倒れる。直後、どたどたと一斉に突入が始まり、残りのメンバーをあっという間に制圧してしまった。
まさに一瞬の出来事に俺は情報の整理がつかなかった。
「おい、日本人。ちょっとどけ」
その声で正常な意識を取り戻し振り向くとそこには巨大なヒグマがいた。身長は二メートルを超え、どこもかしこもでかい。ヘルメットをしているため、髪型や顔は分からないが、かなりの強面だろう。
俺はそそくさと部屋の隅に移動した後、鮫島さんに近寄り、ヘルメットを外す。どうやら髪型はモヒカンのようだが、顔までは見えなかった。
「鮫島さん。こいつらはどうしますか?」
「じょうほうをききだしてほしいねぇ~。とくにかれはおそらくゆうようなじょうほうをもっているとおもうよぉ~」
「了解です。おら、ついてこい」
巨漢の男はヘルメットを再び装着した後、手足を撃たれたFRの関係者を軽々と持ち上げ、どこかに連れていかれる。あまりに自然な流れで運び去られる様子を見ていた俺は思い出したかのように中田の安否を確認する。
「中田、大丈夫か?」
「俺様は大丈夫だ。だが、資料の方は無事じゃなさそうだ」
惜しむ表情で中田は弾丸が貫かれたノートパソコンを見る。マザーボードやハードまで破壊され、修復は完全に不可能だろう。
余程悔しかったのか、中田は拳を床にぶつける。無言だが、せっかく手に入れたデータを全て台無しにされたことに関してかなり憤りを感じているようだった。
しばらくして中田はスッと立ち上がりどこかに行こうとしていた。
「中田どこに行くんだ?」
「どこだっていいだろう!ちょっと気持ちを整理してくる!」
乱暴に扉を閉め、中田はどこかに向かってしまった。まあ、中田の性格ならば作戦に支障が出ない程度には帰還するだろう。
俺は改めて鮫島さんに振り返りお礼を言う。
「助けていただき、ありがとうございます」
「いや~。あやまるひつようなんてないよぉ~。むしろ、きみたちをえさにしておびきだしていたからねぇ~。あやまるのはこっちのせりふだよぉ~」
「…囮だったということですか。FRの情報が足りない今、いっそのこと囮を使っておびき出す。
俺を聞き込み調査にしたのもそれが理由ですか」
「そうだねぇ~。弁田くんはぼくとおなじくらいFRにとってゆうめいだからねぇ~。
そこをりようさせてもらったよぉ~。
まあ、それだけじゃないけどねぇ~」
鮫島さんは椅子に座り、何をしてきたのか語り始めた。
「あらためてぼくがやっていたやくめについてだけど、たんじゅんなせんりょくぞうかをしていたんだよねぇ~。
いくらなんでも、よにんであじとにとつにゅうはむぼうだからねぇ~。くわえて、FBIにはFRがまざっているかのうせいがある。
だからここでせんりょくをあつめるしかなかったんだよねぇ~」
「つまり、先ほどの人たちがその戦力というわけですか」
「どいつのうらせかいじゃあ、かなりのゆうめいなようへいだよぉ~。
ひとりひとりのれべるはたかいし、なによりぼくにとってしんらいあるゆうじんもいる。
もっとも、ちょっとたかくついたけどねぇ~」
苦笑いしつつも鮫島さんは笑顔で答える。だが、正直に言って俺はあまり信用できない。傭兵とは金次第では味方になったり、敵に寝返りする連中だ。
だからこそ、俺は鮫島さんにこの問いをしなければならなかった。
「信用できますか?彼らを」
「できる。かれらはかねよりもけいやくをゆうせんするからねぇ~。それに、ぼくとけいやくをたがえればぁ~いたいめにあうっていうことはよくしっているからねぇ~」
瞬間、鮫島さんの周辺の空気が重くなった。どうやら鮫島さんはあの傭兵についてかなり知っているようだ。であれば、何も問題はないだろう。
刹那の危機が訪れたが、何とか乗り越えた俺は落ち着いた時間を過ごすため、一息つく。
「ただいま諸君!
我はここに帰還した!
さあ、栄誉ある凱旋をしようではないか!」
だが、その時間は一瞬だった。全ての空気をぶち壊した嘉祥寺は元気よく部屋に戻ってきた。
普段ならともかく、今回ばかりは流石に間が悪かった。現に鮫島さんは銃口を嘉祥寺に向けていた。
「ミスターシャークよ。
我の勘だが、かなり間が悪かったのか?」
「そうだねぇ~。まあ、きみらしくていいんじゃないかなぁ~」
「それじゃあ、ぜんいんがそろったからさくせんをかくにんしようかぁ~。
中田さん。あじとのばしょについて、せつめいをおねがいねぇ~」
すると中田はスクリーン映し出された画面を操作して、先ほどの資料を開く。それを確認すると中田は淡々とFRのアジトの所在について説明を始める。
スクリーンに表示されているのはデータのバックアップから復元したものだ。完成したデータは先の襲撃によってパソコン事破壊されてしまい、復元は不可能だったが、中田が持っていたバックアップ用のUSBだけは無事だったため、説明するだけならば問題ない。
最も、突き止めたFRのアジトもわからなくなってしまったことは非常に痛手だが。
「まず、FRのアジトの場所についてだが、さっきの襲撃で完成したデータが破壊されてしまった。
だが、その直前まで絞り込んだ候補はここに映し出されている三拠点にあると考えている。
そしてその三つのポイントの共通点。それは観光地でもないのにここ最近人が多く出入りしているという点だ」
スクリーンに映し出されている三つのフラグはいずれも険しい山奥だったり、人が決して入ることがない場所だったりと未開の地だらけだった。
地元の人でも土地勘がなければ遭難してもおかしくない場所ばかりである。余談だが、嘉祥寺は勘でそのフラグのポイント歩きまわっていたらしい。
「せつめいありがとうねぇ~。
それじゃあ、こんかいのもくてきだけどぉ~、FRのそうししゃであるじんぶつのかくほ。そして、とらわれている七瀬聖をきゅうしゅつすること。
このにてんをたっせいしだい、そくざにてったいするよぉ~」
「鮫島さん。発言いいか?」
流暢な日本語で発言しながら手を挙げた大柄な人物、傭兵のリーダーは鮫島さんの反応を伺う。すると、鮫島さんはどうぞという感じに頷いた後、大柄の人物は口を開く。
「今回に依頼が救出と拉致ということは理解できた。
だが、ターゲットの顔がわからなければ我々の動きにも支障が出る。顔写真とかないのか?」
「そうだねぇ~。FRのそうししゃにかんしては、ぼくもしらないからねぇ~。
ただ、七瀬聖のしゃしんなら、弁田くんがもっているんじゃないかねぇ~」
ふと、視線が俺の方に集まる。のっそのっそと大柄な人物は手を差しだす。
「悪いが、その七瀬聖という人物の写真を俺たちに共有してくれ。嫌ならそれでもかまわないが、誤射する可能性があるからな」
「わかってますよ。少し待ってください。メールで画像を送信しますので…」
俺は去年の夏でみんなと旅行に行ったときに撮った集合写真を聖にだけ焦点を合わせて大柄の人物に見せようとする。すると、そのスマホを大柄な人物は奪い取り、彼自身のスマホでその画像を撮る。
一瞬の出来事だったため、不快感を感じる間もなかった。だが、どうでもいいことだが、一つだけ気になったことがある。
大柄な人物の手が非常に大きいのだ。スマホがまるで小さなメモ帳に見えてしまうぐらい大きいのだ。そんなどうでもいいことを考えている間に画像を撮ったことを確認した大柄な人物はスマホを俺に投げ返し、気さくに笑う。
「悪いな。一般人が傭兵の連絡を取れるなんてことになったらいけないからな」
「先に言ってください。少しびっくりしましたよ」
「悪かったな。それじゃあ、鮫島さん。作戦の続きを頼む」
確認したかったことが完了すると、先ほどの気さくな表情から冷酷な表情へと切り替わる。流石傭兵と思いつつも、俺も作戦の話を聞き続ける。
「さくせんはいたってたんじゅん。
あすの12じにさんきょてんどうじにとつげきするよぉ~。
めんばーにかんしてはぼくがわりふったから、それにしたがってねぇ~」
そういって鮫島さんは中田が使っていたパソコンからチーム分けしたものをスクリーンに映し出す。そのメンバーを見て、俺は少し腑に落ちなかったが、鮫島さんが考えたものならば問題ないと考える。
「チームわけにもんだいなさそうだねぇ~。
それじゃあ、あしたはよろしくたのむよぉ~」
そこで作戦会議は一度終了となる。俺は明日同じチームで行動を共にする人たちと話し合いをするため、この場から去り、チームとしての作戦会議を始めるのであった。
既に嘉祥寺の役目は終え、この宿に向かっている。もうそろそろで到着するだろう。中田は集めたデータを資料としてまとめている。鮫島さんにその資料を渡せば中田の仕事も完了する。
それが終われば鮫島さんと連絡をとって合流し、FRのアジトへ突撃する。もうすぐ目的が達成できそう。着実に進んでいる実感を感じる。
だが、安堵はしていられない。この場所がいつFRにばれてもおかしくない。速やかに合流しなければと焦ってしまう。
「中田。データの資料かはまだか?」
「焦るな弁田。いくら俺様が頑張ってもこのパソコンの機能にも限度っていうものがある。
後十分ぐらいで完了するから少し待て」
そうか。と俺は呟くが内心かなり焦っている。
理由は分からない。だが俺の防衛本能なのかあるいは直感というべきか何かを感じ取っている。確信して一つ言えるのはただ一つ。このままここにいたら何か危ういということだ。
「やっぱりなんかやばい。
中田、一度この場から離れるべきだ。でないと…」
大変なことになる。そう言おうとした時、突然窓ガラスが砕ける音が聞こえた。何事かと思い振り向くと何かが投げ込まれていた。一体何がと思った刹那、視界が真っ白になり、何も聞こえなくなった。
「…!!」
正常に判断できなくなった空間で俺は何者かに取り押さえられた。視界が潰された状況で何もわからない。一体何が起きたのかそれを理解したのはある程度聴力が回復してからだった。
『対象を確保。これより移動する。
もう一人の方はどうしますか?…は!承知致しました。では速やかに処分します』
フラッシュバンを使い、わざわざ変声機を使って会話するほどの用心深さ。この時期に襲い掛かってくる該当者は一つだけだ。こいつらは間違いなくFRの関係者だとすぐに理解した。
直後、一人の男が銃口を中田に向ける。変声機使ったまま、中田に話す。
『運が悪かったとあの世で恨むんだな』
ドイツ語が分からない中田にはその言葉の意味が一切わからないだろう。だが、殺そうとしていることだけは理解できたようだ。必死にもがいているが、流石に相手が悪すぎる。最悪の事態になってしまう。そう思った時、割れた窓から突入してくる影が現れる。
銃声が二回鳴り響く。すると中田を撃とうとしていた人物が苦悶の表情を浮かべる。どうやら銃を持った手と足を撃ち抜かれたようだ。
「まにあってよかったよぉ~」
のんびりとした声で登場してきた人物、鮫島さんは銃口を他のFRの関係者に向ける。FRの関係者は一人だけで突入してきたと思ったが、鮫島さんの顔を見てすぐに表情を引き締める。直後、俺を引っ張り上げ、盾にする。
『貴様は鮫島穂希だな』
「おお~、しっているのかい?」
『我々のリストでは最危険人物で有名人だな。FBIの分際で我らの主要拠点を何ヵ所も潰した極悪人。
今日こそ我らの派閥のために死んでもらうぞ』
俺を立てにして引き金を引こうとする。しかし、鮫島さんは余裕そうな表情で彼らに話しかける。
「ずいぶんとよゆうがあるねぇ~。
でも、ぼくばっかりちゅういしていると…すくわれるよぉ~?」
ドンドンっと、背後から銃声が鳴り響く。すると俺を盾にしていたFRの関係者が倒れる。直後、どたどたと一斉に突入が始まり、残りのメンバーをあっという間に制圧してしまった。
まさに一瞬の出来事に俺は情報の整理がつかなかった。
「おい、日本人。ちょっとどけ」
その声で正常な意識を取り戻し振り向くとそこには巨大なヒグマがいた。身長は二メートルを超え、どこもかしこもでかい。ヘルメットをしているため、髪型や顔は分からないが、かなりの強面だろう。
俺はそそくさと部屋の隅に移動した後、鮫島さんに近寄り、ヘルメットを外す。どうやら髪型はモヒカンのようだが、顔までは見えなかった。
「鮫島さん。こいつらはどうしますか?」
「じょうほうをききだしてほしいねぇ~。とくにかれはおそらくゆうようなじょうほうをもっているとおもうよぉ~」
「了解です。おら、ついてこい」
巨漢の男はヘルメットを再び装着した後、手足を撃たれたFRの関係者を軽々と持ち上げ、どこかに連れていかれる。あまりに自然な流れで運び去られる様子を見ていた俺は思い出したかのように中田の安否を確認する。
「中田、大丈夫か?」
「俺様は大丈夫だ。だが、資料の方は無事じゃなさそうだ」
惜しむ表情で中田は弾丸が貫かれたノートパソコンを見る。マザーボードやハードまで破壊され、修復は完全に不可能だろう。
余程悔しかったのか、中田は拳を床にぶつける。無言だが、せっかく手に入れたデータを全て台無しにされたことに関してかなり憤りを感じているようだった。
しばらくして中田はスッと立ち上がりどこかに行こうとしていた。
「中田どこに行くんだ?」
「どこだっていいだろう!ちょっと気持ちを整理してくる!」
乱暴に扉を閉め、中田はどこかに向かってしまった。まあ、中田の性格ならば作戦に支障が出ない程度には帰還するだろう。
俺は改めて鮫島さんに振り返りお礼を言う。
「助けていただき、ありがとうございます」
「いや~。あやまるひつようなんてないよぉ~。むしろ、きみたちをえさにしておびきだしていたからねぇ~。あやまるのはこっちのせりふだよぉ~」
「…囮だったということですか。FRの情報が足りない今、いっそのこと囮を使っておびき出す。
俺を聞き込み調査にしたのもそれが理由ですか」
「そうだねぇ~。弁田くんはぼくとおなじくらいFRにとってゆうめいだからねぇ~。
そこをりようさせてもらったよぉ~。
まあ、それだけじゃないけどねぇ~」
鮫島さんは椅子に座り、何をしてきたのか語り始めた。
「あらためてぼくがやっていたやくめについてだけど、たんじゅんなせんりょくぞうかをしていたんだよねぇ~。
いくらなんでも、よにんであじとにとつにゅうはむぼうだからねぇ~。くわえて、FBIにはFRがまざっているかのうせいがある。
だからここでせんりょくをあつめるしかなかったんだよねぇ~」
「つまり、先ほどの人たちがその戦力というわけですか」
「どいつのうらせかいじゃあ、かなりのゆうめいなようへいだよぉ~。
ひとりひとりのれべるはたかいし、なによりぼくにとってしんらいあるゆうじんもいる。
もっとも、ちょっとたかくついたけどねぇ~」
苦笑いしつつも鮫島さんは笑顔で答える。だが、正直に言って俺はあまり信用できない。傭兵とは金次第では味方になったり、敵に寝返りする連中だ。
だからこそ、俺は鮫島さんにこの問いをしなければならなかった。
「信用できますか?彼らを」
「できる。かれらはかねよりもけいやくをゆうせんするからねぇ~。それに、ぼくとけいやくをたがえればぁ~いたいめにあうっていうことはよくしっているからねぇ~」
瞬間、鮫島さんの周辺の空気が重くなった。どうやら鮫島さんはあの傭兵についてかなり知っているようだ。であれば、何も問題はないだろう。
刹那の危機が訪れたが、何とか乗り越えた俺は落ち着いた時間を過ごすため、一息つく。
「ただいま諸君!
我はここに帰還した!
さあ、栄誉ある凱旋をしようではないか!」
だが、その時間は一瞬だった。全ての空気をぶち壊した嘉祥寺は元気よく部屋に戻ってきた。
普段ならともかく、今回ばかりは流石に間が悪かった。現に鮫島さんは銃口を嘉祥寺に向けていた。
「ミスターシャークよ。
我の勘だが、かなり間が悪かったのか?」
「そうだねぇ~。まあ、きみらしくていいんじゃないかなぁ~」
「それじゃあ、ぜんいんがそろったからさくせんをかくにんしようかぁ~。
中田さん。あじとのばしょについて、せつめいをおねがいねぇ~」
すると中田はスクリーン映し出された画面を操作して、先ほどの資料を開く。それを確認すると中田は淡々とFRのアジトの所在について説明を始める。
スクリーンに表示されているのはデータのバックアップから復元したものだ。完成したデータは先の襲撃によってパソコン事破壊されてしまい、復元は不可能だったが、中田が持っていたバックアップ用のUSBだけは無事だったため、説明するだけならば問題ない。
最も、突き止めたFRのアジトもわからなくなってしまったことは非常に痛手だが。
「まず、FRのアジトの場所についてだが、さっきの襲撃で完成したデータが破壊されてしまった。
だが、その直前まで絞り込んだ候補はここに映し出されている三拠点にあると考えている。
そしてその三つのポイントの共通点。それは観光地でもないのにここ最近人が多く出入りしているという点だ」
スクリーンに映し出されている三つのフラグはいずれも険しい山奥だったり、人が決して入ることがない場所だったりと未開の地だらけだった。
地元の人でも土地勘がなければ遭難してもおかしくない場所ばかりである。余談だが、嘉祥寺は勘でそのフラグのポイント歩きまわっていたらしい。
「せつめいありがとうねぇ~。
それじゃあ、こんかいのもくてきだけどぉ~、FRのそうししゃであるじんぶつのかくほ。そして、とらわれている七瀬聖をきゅうしゅつすること。
このにてんをたっせいしだい、そくざにてったいするよぉ~」
「鮫島さん。発言いいか?」
流暢な日本語で発言しながら手を挙げた大柄な人物、傭兵のリーダーは鮫島さんの反応を伺う。すると、鮫島さんはどうぞという感じに頷いた後、大柄の人物は口を開く。
「今回に依頼が救出と拉致ということは理解できた。
だが、ターゲットの顔がわからなければ我々の動きにも支障が出る。顔写真とかないのか?」
「そうだねぇ~。FRのそうししゃにかんしては、ぼくもしらないからねぇ~。
ただ、七瀬聖のしゃしんなら、弁田くんがもっているんじゃないかねぇ~」
ふと、視線が俺の方に集まる。のっそのっそと大柄な人物は手を差しだす。
「悪いが、その七瀬聖という人物の写真を俺たちに共有してくれ。嫌ならそれでもかまわないが、誤射する可能性があるからな」
「わかってますよ。少し待ってください。メールで画像を送信しますので…」
俺は去年の夏でみんなと旅行に行ったときに撮った集合写真を聖にだけ焦点を合わせて大柄の人物に見せようとする。すると、そのスマホを大柄な人物は奪い取り、彼自身のスマホでその画像を撮る。
一瞬の出来事だったため、不快感を感じる間もなかった。だが、どうでもいいことだが、一つだけ気になったことがある。
大柄な人物の手が非常に大きいのだ。スマホがまるで小さなメモ帳に見えてしまうぐらい大きいのだ。そんなどうでもいいことを考えている間に画像を撮ったことを確認した大柄な人物はスマホを俺に投げ返し、気さくに笑う。
「悪いな。一般人が傭兵の連絡を取れるなんてことになったらいけないからな」
「先に言ってください。少しびっくりしましたよ」
「悪かったな。それじゃあ、鮫島さん。作戦の続きを頼む」
確認したかったことが完了すると、先ほどの気さくな表情から冷酷な表情へと切り替わる。流石傭兵と思いつつも、俺も作戦の話を聞き続ける。
「さくせんはいたってたんじゅん。
あすの12じにさんきょてんどうじにとつげきするよぉ~。
めんばーにかんしてはぼくがわりふったから、それにしたがってねぇ~」
そういって鮫島さんは中田が使っていたパソコンからチーム分けしたものをスクリーンに映し出す。そのメンバーを見て、俺は少し腑に落ちなかったが、鮫島さんが考えたものならば問題ないと考える。
「チームわけにもんだいなさそうだねぇ~。
それじゃあ、あしたはよろしくたのむよぉ~」
そこで作戦会議は一度終了となる。俺は明日同じチームで行動を共にする人たちと話し合いをするため、この場から去り、チームとしての作戦会議を始めるのであった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる