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2033年4月 脈動する生命(上)
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冬の時期が終わり、春風と共に春がやってきた。
二号機のプロトタイプを観察して、約一か月が過ぎ、皆の研究の進捗は大きく進展した。
小林は既に二号機以降に作製されるであろうニューマンの性格を作成し終えた。流石と言えるその仕事の速さは俺もそのことを知った時、驚愕した。
他に仕事を与えようかと悩んだが、小林は元々本職を持っている上、そろそろコミケの準備をしなければいけないらしく、しばらくの間依頼は受けないと宣言した。
中田と堀田はプロトタイプの調整とアダムの育成をしている。つい最近、プロトタイプの大まかな調整が終わり、後は外装のデザインと性格を搭載することで完成らしい。
「それで、中田は教育を放置して逃げてきたと。
堀田のデザインはともかく、外装は勉強になるんじゃないのか?」
本来ならばこの場にいない人物、中田はソファーに座って嫌そうな表情でこちらを睨む。
冗談だと誤ると中田は大きな溜息をつき、愚痴を吐く。
「あの卑猥なデザインは堀田の趣味だ。
万が一、俺様と堀田と一緒にそんな作業しているところを白橋に見られてみろ。
まず、頚椎を破壊され、その後背骨が砕ける。とどめに頭蓋だ」
「まあ、容易に想像できるな」
なお、白橋は既に仕事を辞め、この会社に所属している。今は実家通いだが、その内このマンションに引っ越すつもりだろう。
最も、その本人はしばらくはラボに通い続けなければならないが。
「白橋には辛いことを押し付けてしまったな。後で何か甘いケーキでも送っておくか。
ん?まさかとは思わないが、アダムも一緒に開発しているのか?」
「そんなわけないだろ。そこは白橋がしっかりとガードしている。
一度鼻を折られたからな。まあ、ちょっかいはしないだろう」
その言葉に俺は安堵する。堀田は良くも悪くもアダムにとって影響を与える。今のアダムがその技術を学ぶのは速すぎる。ケーキ以外にもう一つ好きなものでも買ってあげようと心に留める。
「そうなると、今中田は何しているんだ?さぼっていると隣の嘉祥寺が色々いうかもしれないぞ」
「俺様がさぼるわけないだろ。
次の三号機と四号機を造っているんだ。最も、今は素材の発注待ちだがな」
「何?まだ作製すると決まったわけじゃないぞ」
「そんなことは知っている。あくまで皮だけだ。
細かい内部は堀田が満足した後アダムと一緒に作製する。
そういえば、今朝堀田から聞いた話だが白橋がテレポーターの理論と設計図を完成したらしい」
初耳で俺は驚愕する。今朝の情報だから知らなかったのは当然だが、朗報である。
これでテレポーターの開発に着手することができる。もしかして、タイムリープマシンを作成できるかもしれないと考えるが、すぐにその可能性を否定する。
あれはアスクレピオスと共に数年以上時間をかけてようやく完成した代物だ。そう簡単に再現することはできない。
「そうか。なら、近いうちに新しい仕事ができるかもしれないな」
「何故俺様を見てそういう?
そういえば聖先輩はどうするんだ?アダムの教育やデータ採取に協力はしているが、先輩だって技術者だ。そろそろその腕を見せてもらわないと困るんだが」
「そうだな…。せっかくだから早速テレポーターの開発に着手するよう後で伝えておくか」
現在、聖先輩は買い出しに行っている。無論、仕事でである。
このマンションの住人が増え、用がなくても皆がこのリビングを利用し始めてから、既にこの部屋は俺の部屋ではなく共有リビングへと変化している。
最も、個室の時点でみんなと同じ部屋の広さを持っているため、不満はない。しかし、毎朝朝食を求め、このリビングに入ってくる嘉祥寺と小林によって俺が買った食材が消え、自室よりも厨房が広いから使いたい聖先輩も足りない食材を使うことがある。(ただし、聖先輩は事前にそのことを伝えているためそこまで気にしていない)
しかし、度重なる食材の消費量は馬鹿にできず、三人には食材を使った分ちゃんと買いに行くことを命じている。そして今日は聖先輩が担当となっている。
そんなことを思い出していると、中田は重い腰を上げ、袋から立方体の何かを取り出し机の上に置く。
「さて、俺様は仕事に戻るとしようか。例のブツはそこに置いてある。
これからの作業に使うといい。
ラボにいるメンバーに何か伝えることはあるか?」
「そうだな…。近日中に聖先輩をそっちに派遣するから準備を整えてくれって白橋に。
堀田には三日後、ラボに向かうから調整を済ませておけと伝えてくれ」
無言のまま、中田はリビングを後にしようとした。ふと、数か月前疑問に感じたあの出来事について中田に質問する。
「中田、俺が見てきた未来は変わってきてると思うか?」
「知るか。俺様にそんなことを聞くな。
どんな根拠があって未来が変化したと感じるのは勝手だが、そういう相談は社長にしろ」
それだけ言って中田はリビングを後にした。
その言葉に俺は先月の出来事を思い出した。
「突然相談してきてすまないな嘉祥寺。相談があってだが…」
「未来から取り寄せたものが存在しないのか。
まあ、こうなる可能性はあるかもしれないと読んでいた」
既に真面目モードに切り替わっていた嘉祥寺は俺が遭遇した現象を既に理解していた。話が速くて助かると思いつつも、俺は今まであった出来事について嘉祥寺に伝える。
すると、嘉祥寺は考えに至ったのか一つの仮説を述べ始める。
「おそらく未来が大きく変化した可能性がある。
その影響で弁田が語る破滅の未来を救うためのアプリやメッセージが消えた可能性がある」
「なら、何故俺は消えない!?未来からの贈り物であれば俺の存在も消えるはずだ」
「いや、消えたのはあくまで未来の技術だけだ。生身を未来から過去に送られた場合も例外じゃないだろう。
ここからは仮説だが、精神は現在に存在するが、未来からやってきた精神はあくまで体験した記憶というデータだ。
つまり、今の弁田は未来で体験した経験、記憶、精神を上書きした状態だ。
故に存在を保つことが許されている」
全てを理解したわけではないが、嘉祥寺の言いたいことは理解できた。
要約すると、俺の記憶はあくまで未来で見たという情報であり、実際に味わったわけではない。だからこそ、例外的に記憶が消されずに済んだということだろう。
「となると、ここから起こる出来事は俺にも予測不可能ということか」
「察しがいいなベクター。
であるなら、今をもって、戦友の記録を黙示録に記せ。
さすれば今後のあらゆる事象に対し、対抗することが叶うだろう。
それから、そこの角砂糖を五つ所望しようか」
「わかった。覚えている範囲で書き出していく。
掻きあがったら連絡するからその時まで待っていてくれ」
「了解した。
つかぬ事を聞くが、ベクターよ、FRの情報収集はどうだ?
そろそろ寺田から連絡が来てもおかしくないが…」
「音信不通だ。最も、約束を守ったことがないからあまり信用していないがな」
「では、当面はそれを極めるといい。
我はその結果をもってこれからのことを判断しよう」
以降、俺は覚えている範囲で大きな出来事について書き出している。最も、記憶力にはあまり自身がないため、本当にあっているかどうか怪しいが。
「さてと、こんなところかな」
中田がリビングから出ていった後、俺は一か月という時間をかけて未来で何が起きたのかまとめたレポートの作成を終えた。
とはいえ、まずは2035年を乗り越えることが先決であるため、2044年以降の記録は必要ないだろうと判断し書いていない。改めて書いたそのレポートを俺は見直す。
「2035年にニューマンの発表とテレポーターの発表。そして同年に大幅な人員削減によって反乱。そして俺は気絶して以降の記憶がない。
2034年は他社と協力してニューマンの開発をしていた。
この年はそこまで大きな変革はなかったはずだ。
そして2030年から2033年はPSで働き、2033年の8月辺りに会社を辞めた後、今の会社を設立した。
この結果から考察すると、未来が大きく狂い始めたのはニューマンの開発が早まったことが原因なのか?」
俺なりに仮説を立ててみるが、実際のところ情報材料が足りなすぎる。データとしてまとめたのはいいが、これだけではまだ原因を特定できない。
だが、二つ目のレポートと見比べてやはり大きな変化があったと実感できた。
「そしてタイムリープ後の俺が体験した出来事はリープ前と大きく異なっている。
会社を辞めた時、ニューマンを開発した時、会社の設立した時。全てが約1年早まっている。
最大の違いはPSの勤めた部署とFRによる襲撃、拉致か。
…何が変わったまでは理解できたが、何がきっかけで大きく変化したのかまでは分からないか」
二つのレポートを纏め、隣の部屋に移動する。ノックを数回した後、俺は嘉祥寺の部屋に入った。最低限の日常生活品しかない殺風景な部屋は色んなものを置いている俺の部屋に比べてかなり貧相に感じる。
部屋の奥に進むと、数台のパソコンの画面と睨めっこしている嘉祥寺の姿がそこにいた。二つの画面は株価の価格を表したグラフが、もう一つの画面にはニュースを流していた。
驚くことに、その画面は他のニュースを見るため、四つに分かれ、日本、アメリカ、中国、イギリスのニュースがそれぞれ別の言語を流しながら聞いていた。
これでは話すことはできないと判断した俺は無言のままレポートを置き、嘉祥寺の部屋を後にする。
「仕事していることは知っていたが、ここまでとは…」
友人が誇らしいと思いつつもいつか倒れてしまうのではないかと不安に感じるが、ああ見えて嘉祥寺はちゃんと体調管理はしている。そうでなければ寝巻を着て、毎朝朝食を食べにリビングへ来ないはずだ。
とりあえず、嘉祥寺に提出するべきものを片付けた俺は自室に籠ると早速新たな仕事に取り掛かる。先日小林から受け取った性格プログラムを中田が持ってきたこの立方体のメモリー、ニューマンコアバージョン2に出力する作業である。
「さてと、あの二人も随分なものを開発したな。
これだけで遊んで暮らせるぞ?」
かつてアダムを搭載した際、アダムの人格プログラムをHDDとSDDの立方体のメモリー(ニューマンコアバージョン1)を搭載していたが、中田が持ってきたそれはその新型である。
開発者の堀田曰く、従来のメモリーとは異なる材質で作成された最新型のメモリーをふんだんに使った物らしい。詳しい容量は俺も知らないが、少なくと50テラバイト以上はあると言っていた。
このコアのおかげでニューマンの記憶メモリーの容量は勿論、様々な思考や演算処理が可能であるというのが理論上の計算だ。最も、その一つ一つのメモリーの値段が目を疑うほど高価なものだったが。
ちなみにアダムはこのメモリーを既に搭載しており、今まで使っていたコアはラボの貴重品を保管している棚にしまっている。
中田を疑うわけじゃないが、コアの品質を確認する。万が一故障でもしていれば後々大惨事になってしまう可能性があるからだ。しかし、その心配は杞憂に終わり、さっそく性格プログラムを搭載する。
「あとはインストールするまで待つだけか。
容量は多いが、一度に送信できる情報量は限られているからな。
全く仕方ないが、こればかりはどうしようもない」
だが、心配はしていなかった。インストールは現在進行形で順調に進み、あと十分もすればインストールは完了する。そうすれば少なくとも、コアの準備は整う。
あとはラボにおいてある二号機にこれを搭載し、実際に動けるかどうかを確認するだけだ。アダムと一緒に作成したことで若干不安があるが、あの二人がサポートしてきっと稼働するだろうと確信している。
「さてと、三日後に備えて俺も準備をしないとな」
インストールが完了するその時まで俺はパソコンを見続け、新たに完成するニューマンの名前でも考えるかと別のことを考え始めた。
二号機のプロトタイプを観察して、約一か月が過ぎ、皆の研究の進捗は大きく進展した。
小林は既に二号機以降に作製されるであろうニューマンの性格を作成し終えた。流石と言えるその仕事の速さは俺もそのことを知った時、驚愕した。
他に仕事を与えようかと悩んだが、小林は元々本職を持っている上、そろそろコミケの準備をしなければいけないらしく、しばらくの間依頼は受けないと宣言した。
中田と堀田はプロトタイプの調整とアダムの育成をしている。つい最近、プロトタイプの大まかな調整が終わり、後は外装のデザインと性格を搭載することで完成らしい。
「それで、中田は教育を放置して逃げてきたと。
堀田のデザインはともかく、外装は勉強になるんじゃないのか?」
本来ならばこの場にいない人物、中田はソファーに座って嫌そうな表情でこちらを睨む。
冗談だと誤ると中田は大きな溜息をつき、愚痴を吐く。
「あの卑猥なデザインは堀田の趣味だ。
万が一、俺様と堀田と一緒にそんな作業しているところを白橋に見られてみろ。
まず、頚椎を破壊され、その後背骨が砕ける。とどめに頭蓋だ」
「まあ、容易に想像できるな」
なお、白橋は既に仕事を辞め、この会社に所属している。今は実家通いだが、その内このマンションに引っ越すつもりだろう。
最も、その本人はしばらくはラボに通い続けなければならないが。
「白橋には辛いことを押し付けてしまったな。後で何か甘いケーキでも送っておくか。
ん?まさかとは思わないが、アダムも一緒に開発しているのか?」
「そんなわけないだろ。そこは白橋がしっかりとガードしている。
一度鼻を折られたからな。まあ、ちょっかいはしないだろう」
その言葉に俺は安堵する。堀田は良くも悪くもアダムにとって影響を与える。今のアダムがその技術を学ぶのは速すぎる。ケーキ以外にもう一つ好きなものでも買ってあげようと心に留める。
「そうなると、今中田は何しているんだ?さぼっていると隣の嘉祥寺が色々いうかもしれないぞ」
「俺様がさぼるわけないだろ。
次の三号機と四号機を造っているんだ。最も、今は素材の発注待ちだがな」
「何?まだ作製すると決まったわけじゃないぞ」
「そんなことは知っている。あくまで皮だけだ。
細かい内部は堀田が満足した後アダムと一緒に作製する。
そういえば、今朝堀田から聞いた話だが白橋がテレポーターの理論と設計図を完成したらしい」
初耳で俺は驚愕する。今朝の情報だから知らなかったのは当然だが、朗報である。
これでテレポーターの開発に着手することができる。もしかして、タイムリープマシンを作成できるかもしれないと考えるが、すぐにその可能性を否定する。
あれはアスクレピオスと共に数年以上時間をかけてようやく完成した代物だ。そう簡単に再現することはできない。
「そうか。なら、近いうちに新しい仕事ができるかもしれないな」
「何故俺様を見てそういう?
そういえば聖先輩はどうするんだ?アダムの教育やデータ採取に協力はしているが、先輩だって技術者だ。そろそろその腕を見せてもらわないと困るんだが」
「そうだな…。せっかくだから早速テレポーターの開発に着手するよう後で伝えておくか」
現在、聖先輩は買い出しに行っている。無論、仕事でである。
このマンションの住人が増え、用がなくても皆がこのリビングを利用し始めてから、既にこの部屋は俺の部屋ではなく共有リビングへと変化している。
最も、個室の時点でみんなと同じ部屋の広さを持っているため、不満はない。しかし、毎朝朝食を求め、このリビングに入ってくる嘉祥寺と小林によって俺が買った食材が消え、自室よりも厨房が広いから使いたい聖先輩も足りない食材を使うことがある。(ただし、聖先輩は事前にそのことを伝えているためそこまで気にしていない)
しかし、度重なる食材の消費量は馬鹿にできず、三人には食材を使った分ちゃんと買いに行くことを命じている。そして今日は聖先輩が担当となっている。
そんなことを思い出していると、中田は重い腰を上げ、袋から立方体の何かを取り出し机の上に置く。
「さて、俺様は仕事に戻るとしようか。例のブツはそこに置いてある。
これからの作業に使うといい。
ラボにいるメンバーに何か伝えることはあるか?」
「そうだな…。近日中に聖先輩をそっちに派遣するから準備を整えてくれって白橋に。
堀田には三日後、ラボに向かうから調整を済ませておけと伝えてくれ」
無言のまま、中田はリビングを後にしようとした。ふと、数か月前疑問に感じたあの出来事について中田に質問する。
「中田、俺が見てきた未来は変わってきてると思うか?」
「知るか。俺様にそんなことを聞くな。
どんな根拠があって未来が変化したと感じるのは勝手だが、そういう相談は社長にしろ」
それだけ言って中田はリビングを後にした。
その言葉に俺は先月の出来事を思い出した。
「突然相談してきてすまないな嘉祥寺。相談があってだが…」
「未来から取り寄せたものが存在しないのか。
まあ、こうなる可能性はあるかもしれないと読んでいた」
既に真面目モードに切り替わっていた嘉祥寺は俺が遭遇した現象を既に理解していた。話が速くて助かると思いつつも、俺は今まであった出来事について嘉祥寺に伝える。
すると、嘉祥寺は考えに至ったのか一つの仮説を述べ始める。
「おそらく未来が大きく変化した可能性がある。
その影響で弁田が語る破滅の未来を救うためのアプリやメッセージが消えた可能性がある」
「なら、何故俺は消えない!?未来からの贈り物であれば俺の存在も消えるはずだ」
「いや、消えたのはあくまで未来の技術だけだ。生身を未来から過去に送られた場合も例外じゃないだろう。
ここからは仮説だが、精神は現在に存在するが、未来からやってきた精神はあくまで体験した記憶というデータだ。
つまり、今の弁田は未来で体験した経験、記憶、精神を上書きした状態だ。
故に存在を保つことが許されている」
全てを理解したわけではないが、嘉祥寺の言いたいことは理解できた。
要約すると、俺の記憶はあくまで未来で見たという情報であり、実際に味わったわけではない。だからこそ、例外的に記憶が消されずに済んだということだろう。
「となると、ここから起こる出来事は俺にも予測不可能ということか」
「察しがいいなベクター。
であるなら、今をもって、戦友の記録を黙示録に記せ。
さすれば今後のあらゆる事象に対し、対抗することが叶うだろう。
それから、そこの角砂糖を五つ所望しようか」
「わかった。覚えている範囲で書き出していく。
掻きあがったら連絡するからその時まで待っていてくれ」
「了解した。
つかぬ事を聞くが、ベクターよ、FRの情報収集はどうだ?
そろそろ寺田から連絡が来てもおかしくないが…」
「音信不通だ。最も、約束を守ったことがないからあまり信用していないがな」
「では、当面はそれを極めるといい。
我はその結果をもってこれからのことを判断しよう」
以降、俺は覚えている範囲で大きな出来事について書き出している。最も、記憶力にはあまり自身がないため、本当にあっているかどうか怪しいが。
「さてと、こんなところかな」
中田がリビングから出ていった後、俺は一か月という時間をかけて未来で何が起きたのかまとめたレポートの作成を終えた。
とはいえ、まずは2035年を乗り越えることが先決であるため、2044年以降の記録は必要ないだろうと判断し書いていない。改めて書いたそのレポートを俺は見直す。
「2035年にニューマンの発表とテレポーターの発表。そして同年に大幅な人員削減によって反乱。そして俺は気絶して以降の記憶がない。
2034年は他社と協力してニューマンの開発をしていた。
この年はそこまで大きな変革はなかったはずだ。
そして2030年から2033年はPSで働き、2033年の8月辺りに会社を辞めた後、今の会社を設立した。
この結果から考察すると、未来が大きく狂い始めたのはニューマンの開発が早まったことが原因なのか?」
俺なりに仮説を立ててみるが、実際のところ情報材料が足りなすぎる。データとしてまとめたのはいいが、これだけではまだ原因を特定できない。
だが、二つ目のレポートと見比べてやはり大きな変化があったと実感できた。
「そしてタイムリープ後の俺が体験した出来事はリープ前と大きく異なっている。
会社を辞めた時、ニューマンを開発した時、会社の設立した時。全てが約1年早まっている。
最大の違いはPSの勤めた部署とFRによる襲撃、拉致か。
…何が変わったまでは理解できたが、何がきっかけで大きく変化したのかまでは分からないか」
二つのレポートを纏め、隣の部屋に移動する。ノックを数回した後、俺は嘉祥寺の部屋に入った。最低限の日常生活品しかない殺風景な部屋は色んなものを置いている俺の部屋に比べてかなり貧相に感じる。
部屋の奥に進むと、数台のパソコンの画面と睨めっこしている嘉祥寺の姿がそこにいた。二つの画面は株価の価格を表したグラフが、もう一つの画面にはニュースを流していた。
驚くことに、その画面は他のニュースを見るため、四つに分かれ、日本、アメリカ、中国、イギリスのニュースがそれぞれ別の言語を流しながら聞いていた。
これでは話すことはできないと判断した俺は無言のままレポートを置き、嘉祥寺の部屋を後にする。
「仕事していることは知っていたが、ここまでとは…」
友人が誇らしいと思いつつもいつか倒れてしまうのではないかと不安に感じるが、ああ見えて嘉祥寺はちゃんと体調管理はしている。そうでなければ寝巻を着て、毎朝朝食を食べにリビングへ来ないはずだ。
とりあえず、嘉祥寺に提出するべきものを片付けた俺は自室に籠ると早速新たな仕事に取り掛かる。先日小林から受け取った性格プログラムを中田が持ってきたこの立方体のメモリー、ニューマンコアバージョン2に出力する作業である。
「さてと、あの二人も随分なものを開発したな。
これだけで遊んで暮らせるぞ?」
かつてアダムを搭載した際、アダムの人格プログラムをHDDとSDDの立方体のメモリー(ニューマンコアバージョン1)を搭載していたが、中田が持ってきたそれはその新型である。
開発者の堀田曰く、従来のメモリーとは異なる材質で作成された最新型のメモリーをふんだんに使った物らしい。詳しい容量は俺も知らないが、少なくと50テラバイト以上はあると言っていた。
このコアのおかげでニューマンの記憶メモリーの容量は勿論、様々な思考や演算処理が可能であるというのが理論上の計算だ。最も、その一つ一つのメモリーの値段が目を疑うほど高価なものだったが。
ちなみにアダムはこのメモリーを既に搭載しており、今まで使っていたコアはラボの貴重品を保管している棚にしまっている。
中田を疑うわけじゃないが、コアの品質を確認する。万が一故障でもしていれば後々大惨事になってしまう可能性があるからだ。しかし、その心配は杞憂に終わり、さっそく性格プログラムを搭載する。
「あとはインストールするまで待つだけか。
容量は多いが、一度に送信できる情報量は限られているからな。
全く仕方ないが、こればかりはどうしようもない」
だが、心配はしていなかった。インストールは現在進行形で順調に進み、あと十分もすればインストールは完了する。そうすれば少なくとも、コアの準備は整う。
あとはラボにおいてある二号機にこれを搭載し、実際に動けるかどうかを確認するだけだ。アダムと一緒に作成したことで若干不安があるが、あの二人がサポートしてきっと稼働するだろうと確信している。
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