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2032年11月 記憶の追走(下)
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メールを受け取った俺は後日、俺の自宅に来て話し合うことを約束した。
自宅にした理由は些細な理由だが、拉致されたばかりでしばらくはお店などの外で話し合うということを避けたかったという精神的な理由だ。
余談だが、強盗が襲撃した後日、嘉祥寺がさらに警備システムを一新したため、同じ手では侵入することはできないとのことだ。
数日後、一階のフロントで聖が来るのを待っていると玄関先のインターフォンが鳴り、ようやく慣れた手つきで俺は鍵を解除して聖を中に入れる。俺を見かけると聖は朗らかに挨拶する。
「こんにちは!この前は突然メールで頼み込んでごめんね!本当に助かったね!」
「気にする必要はありませんよ。元々うちの会社に入る約束でしたし。
時期が少し早まったと考えればプラスです」
「そういってもらえるとわたしとしてもありがたいね。とはいっても、まさかわたしがリストラされるなんて思いもしなかったね」
そう、聖はリストラされたのだ。昨晩のニュースでPSが脱税や不正取引などを行っていたとして、会社は解体。上層部の殆どが逮捕されるという大事件に発展したのだ。最も、真の理由であるFRのことは流石にFBIによって情報操作されていたのかニュースの話題にすら一切上がらなかった。
そんな状況で聖たちが所属している研究部も当然その影響を受けた。研究部は解体され、PSは大企業から中小企業にまで尾羽打ち枯らした。結果、聖たち研究職は新たに研究所を探さなければならなかったのだ。しかし、研究部に所属していたほとんどは既に新しい職場を見つけたらしいので路頭に迷うことはなかったらしい
聖先輩も例外ではなく、数多の企業から勧誘を受けていた。そんな状況で俺たちの会社を選んだのだから他の勧誘していた会社から見れば沙汰の限りである。
「今更ですが、本当にいいのですか。
話を聞く限り、勧誘している会社の対応は相当な地位らしいですが…」
「わたしはここで働きたいね。確かに、この会社は他の会社と比べて月給が若干低かったけど、顔見知りが一番多いし、一番技術を学ぶことができるからね。
それにその証拠も証明されているしね」
聖は俺の後ろに立っているアダムに視線を向ける。確かに、まだ世間には発表していないが、これほどまでに完成度が高いAIロボットはまだこの世にないだろう。好奇心を隠せていない聖は今すぐにでもアダムと一緒に話したいとうずうずしていた。
「わかりました。これ以上聞くのは野暮ですし。後で嘉祥寺、仲間の一人に連絡します。」
「ありがとう!あ、そうだ。二つお願いしてもいいね?」
「アダムを一日中持っていくとかはやめてくださいよ。
バッテリーの問題で今は長時間外出することができませんから」
「うぐ。まさか一つ目を当てるとは…。弁田君は本当によくわかっているね」
「アダムは俺たちの会社の最新技術の塊ですから。俺も技術者だからそういう考えには至りますよ。それで二つ目は?」
「わたしはもともとどこに住んでいるかわかるかね?」
「確か実家はドイツでしたっけ?
現住所は流石に知りませんが…」
「会社に勤めていた時は会社の寮に住んでいたね。
でも、ほら、わたし会社からリストラされてね、今はホテルで何とか生活しているね。
今のところは大丈夫なんだけど、そろそろ新しい家を見つけないといけないのね。
図々しいと思うけど、ここに住まわせてほしいね。
あ、もちろん、家賃もちゃんと払うつもりだね」
お願い!っと聖先輩は頼み込む。話を聞く限り、今の聖先輩の生活状況はあまり芳しくないだろう。住ませることは簡単だが、あの事件があってからだと時期が悪い。
「確認したいから少し待ってくれないか?」
流石に俺の独断で住まわせるわけにはいかないと判断し、俺は嘉祥寺に連絡を取る。ワンコール直後、すぐにあの喧しい声がスマホ越しに響き渡る。
「どうした我が戦友。
何かあったのか?」
「ちょっとした相談なんだが、今時間は大丈夫か?」
「構わん。
奴らは今は停戦状態で大きな予兆はないからな。
それで相談とは?」
「前に会ったことがあるかもしれないが、七瀬聖さんっていただろ?
PSの事件で住処も職も失ってここで働きたいって言っているんだが」
「構わん。
技術者は多いことに越したことはない。
で、他はなんだ?」
「やけにあっさりだな。
まあ、次が本題なんだが、その聖さんが俺のマンションに住みたいと言っているんだが、嘉祥寺的に問題ないか?」
「そんなことか。
案ずるが良い。我の判断ではセイクリットは白だ。
住まわす分、何も問題ない」
予想外な回答に俺は目を丸くする。あの事件があってから嘉祥寺の警戒度はかなり上がっていた為、ひと悶着すると思っていたが、あっさりと許可を出すとは思わなかったからだ。
「やけにあっさりと許可を出すな。
何か根拠でもあるのか?」
「我にそんな当然なことを聞くのか?
まあ、いいだろう。
あの騒ぎにて、多くの役人やら重役やらが逮捕された。
しかし、我が戦友曰く、その騒動にはかのFBIが関わっているのだろう。
なら、そのほとんどはかの組織に関するメンバーだろう。
であるなら、この場にいるセイクリットはほぼ白だ。
無論、逃れた可能性はあるが、FBIはそこまで間抜けじゃない。
故に現状は白だと考えられる」
「そうか。じゃあ、部屋とか家賃とかは後で嘉祥寺が相談するか?」
「そうさせてもらおう。
それは我の管轄故な」
ありがとうと俺は一言伝え、電話を切る。聖先輩は結果を待つ受験生のように緊張しながら待っていた。俺は口角をあげ、その結果を伝えた。
「問題ないとのことです。
ただ、部屋の場所とか家賃については後日相談するとのことです」
「ありがとうね!
そういえば、電話越しにちょっとだけ聞こえていたけど、セイクリットって、わたしのこと?」
「…多分、そうだと思います。
嘉祥寺は他人を変わったあだ名で呼ぶ癖がありますから。不満でしたか?」
「ううん!そんなことはないけど、ちょっと初めてのあだ名でなれないなーって思っただけ」
「そうですか。時間があるなら、部屋を案内しましょうか?
嘉祥寺のことですから、おそらく九階に聖先輩の部屋を用意するでしょうから」
「本当!?それはとてもありがたいね!」
「せっかくだし、アダムに案内を任せるか。アダム、行けるか?」
するとアダムは元気のいい返事をした後、聖先輩の手を握ってエレベーターへと向かって行く。若干戸惑っていた聖先輩だったが、アダムの明るい性格の影響によって普段通りの聖先輩に戻った。
後日、嘉祥寺と聖先輩は家賃や部屋の場所について話し合い、近日中に引っ越すことが決まった。その際、俺の私情で聖先輩の家賃を少しだけ安くしてくれと嘉祥寺に頼んだのは秘密である。
そして聖先輩の引っ越しに日程が決まった数日後、俺の秘密を伝えるべく、必要なメンバーがそろったことを確信し、先日嘉祥寺に言われた通りに皆で集まることを一斉メールで伝えた。
俺の秘密を伝えるため、地下ラボにて皆が集合している。
辺りを見渡すと、白橋、聖先輩、佐夜、アダム、中田、堀田そして嘉祥寺と全員揃っている。欠員はいない。
俺が話す前にニューマンについて盛り上がっていたせいか、空気は若干盛り上がっている。この状態を一度打ち切るのは少し痛ましいが、このままでは話すら始まらないため俺は手を叩き、注目を集めた。
「それじゃあ、改めて集まってくれてありがとう。
今日集まった要件はメールに記載していた通り、聖先輩が新たにメンバーに入ったこと。そしてもう一つは今から発表する」
「重要なことと言っていたが、くだらないことだったら俺様はすぐに研究に戻るぞ」
「じゃあ、単刀直入に言おう。俺はとある組織に命を狙われている」
「…くだらないなら俺様は研究に戻るといったよな?
それを踏まえてのその発言が。妄言が過ぎるぞ」
その一言に俺はただ沈黙する。冗談でもない。本気である。しかし、それを証明する手段が今は提示できない。その証明は覚悟を持った人間だけが見るべきものだ。嘘だと思い、席を外すならそれもよし。そうすれば少なくともこれ以上関与することはないからだ。
事実、堀田は興味なさそうに明後日の方向を見ているし、白橋に至っては情報が追い付いていないように見える。既に事実を知っている嘉祥寺はともかく、他のメンバーも似たような反応だった。
「言っておくがこの事実を知っているのはこの中では嘉祥寺だけだ。そして嘉祥寺は既に了承済みだ。だがこれだけは言っておく。話を聞きたくなかったらこの場から出てっても構わない。ここからは俺の秘密と皆の命に係わる問題だからだ」
「じゃあ、某はもう退出するざんす。ぶっちゃけ興味ないざんす。余計なことは全部皆に任せるざんす。話が終わったら呼びに来てほしいざんす」
そういって一番に部屋を出て行ったのは堀田だった。聞く態度から元々話に興味がなかったため、あっさりと部屋から出て行った。堀田らしいと言えばらしい。次に部屋から出て行ったのは佐夜だった。部屋を去る時に「ちょっと席を外しておくね」と呟いていた。元々働いているのはこちらではないため、当然の考え方だと割り切っていた為想定内である。
残っているのは嘉祥寺、白橋、中田、アダムそして聖の五人だけだ。嘉祥寺とアダムは情報を共有しているため、聞く必要はないが、それ以外の三人は選択する必要がある。このまま話を聞くか、それとも退出するか。俺は彼らの決断を待った。すると間もないうちに白橋が発言する。
「弁田君。一つ尋ねていい?なんで私には何も言わなかったの?」
「巻き込みたくなかったというのが主な理由だな」
「ふざけてるの?私は友達でしょ?なのになんで私だけ除け者扱いされているのかしら?」
「怒っているのか?」
「当然。命が狙われているなんて初めて聞いたし、何よりそれを秘密にしていたあんたが一番むかつく。なんで頼らないの?そんなに私たちのこと信頼できない?」
「信頼できないわけじゃない。ただ、余計なことを言って危うくなってほしくないから」
すると白橋の怒りのボルテージがマックスになったのか突然胸倉を掴む。俺より身長が若干小さいが、スポーツをやっていた分筋肉量は白橋のほうが多かったため俺の体は簡単に持ち上がる。流石にその対応に周りも止めようと動いた瞬間、白橋は怒髪冠を衝く勢いで声を荒げた。
「あんたは、いつもいつも隠し事ばかりして、秘密が多すぎるのよ!助けを求めるときには既に手遅れなんてことになってほしくないのよ。
わかる!?あんたがしばらく姿を消している間皆がすごく心配していたことを!?嘉祥寺を直接殴って聞きだしたても私は心配で心配でしょうがなかった。
というか、あのメールは何!?大事な話があるって!?今更なのよ!!あんたが私たちのことをどう思っているのかわからないけど、あんたがなんかやばい組織に追われていることぐらい、聖さん以外知っているんだから!!」
その事実を聞き、俺は驚愕する。俺の秘密を知っているのは嘉祥寺だけだ。俺は嘉祥寺に視線を向ける。
「嘉祥寺、どういうことだ。迂闊に話すなといったはずだ」
俺は嘉祥寺を睨んだが嘉祥寺は明後日の方向を見ながらぼそぼそとばつが悪そうな顔で話し始めた。
「だって…。
戦友が攫われてキョウカンが我に質問してきたのだ。
誤魔化そうとしたら、我、キョウカンのジャブをニ十発以上受けたんだぜ。
キョウカンが趣味でボクシングジムに通っている故にアレは度し難い苦痛だった。
我の強固な玄関口はキョウカンの圧倒的な暴力に!?」
「うるさいわよ!
これ以上余計なことを付け足すならまた人間サンドバッグをもう一回やる?」
「す、すみませんでした。あ、ちなみに、今回の件も元々は白橋が提案したものだぞ」
白橋の目に映らない華麗な五連続ジャブを嘉祥寺に食らわせ、強制的にダウンさせ土下座する姿を見て、流石に同情する。これは誰だって口を割る。あの拷問よりも質が悪いだろう。
「じゃあ、なんだ。中田も知っているのか?」
「愚問だな。
だが、ここまで弁田が仲間に頼らない愚か者だったとは俺様も思いもよらなかったぞ。
そんなことを理解できなかったのか、馬鹿め」
「ちょっと口悪くないか?」
「当たり前だ。何ならもっと酷くいってやろうかくずが」
だんだんエスカレートしていく中田の悪口に徐々に怒りを蓄積してきたが、今まで相談しなかった自業自得である。だが、これ以上聞いていればつい手を出しそうになるためすぐに話題を切り替える。
「それじゃあ、俺のもう一つの秘密も知っているのか?」
「それは知らん。隠し事があれば今吐け。そうすれば、全員から一発で済ませてやる。
まあ、その前に二人を呼んでくるがな」
中田は堀田と佐夜を呼びに一度退出する。俺は大きく溜息をつき、嘉祥寺と白橋を正面から見る。今まで気づかなかったがよく見ると口元に治りかけの傷跡がある。しかし嘉祥寺の表情は覚醒している時と同等に真剣に見つめている。白橋も同様だ。だが、これ以上秘密を隠しているならすぐに手を出しそうな勢いであるが。そんな中、立った一人話についてこれない人物がいた。
「あのー。敵とかよくわからないけど、一体どういう状況だね?」
「そういえば、聖さんは数日前に入ったばかりだから知らないか。
せっかくだし、弁田君が説明してよ」
疑問符を浮かべている聖は今の状況を理解できないだろう。故に俺は一つ目の秘密を聖に全てを話し始めた。
かつて米沢が開発したコードが偶然FRと呼ばれる組織の重要ファイルを解読する鍵を持っていること。その結果、FRに命を狙われていること。そして数日前、その組織に拉致されPSの秘密の地下室で監禁と拷問を受け続けていたこと。
全てを話し終えた俺は少しだけスッキリしたが、対照的に聖の顔色はかなり悪くなっていた。あまりにもスケールが大きすぎる話のため未だに理解できないところもあるだろう。すると白橋が椅子を持ってきて聖を座らせる。
「まさか…私が勤めていた会社がそこまでやばかったなんて思いもよらなかったね」
「ショックか?」
「ショックだね。まさか鮫島部長も関わっていたのかね?」
「いや、鮫島部長はPSに潜むFRを調査するために潜入していたFBIだ。
事件には関わっていたけど、犯罪には関わっていないはずだ」
すると聖は少し安心した表情になる。お世話になった人物が悪人であったならばその精神的なダメージは計り知れないだろう。事実、俺も木野田部長が敵であったことを知ったときは何かが心を抉り出されるような痛みを感じた。
すると扉が開かれ堀田たちを連れてきた中田が戻ってくる。
「遅くなった。堀田が集中して全然声をかけても反応しなかったからな」
「よし、じゃあ改めて話を続けるぞ。
みんなの反応を見る限り、一つ目の秘密は知っているらしいが、もう一つの秘密は知らなかったからな。…単刀直入に言おう。俺は2045年の未来からやってきた」
その言葉に驚愕する者、興味を持つもの、反応は様々だが共通して嘉祥寺以外は知らないと見えた。俺はそのままこれから起こるであろう未来の出来事を語り始める。
その全てを語り終えると皆が沈黙する。無理もない。十年後には人類が滅亡しているなどとは思いもよらないだろう。そんな中、一人俺に質問する人物がいた。
「マスター。その未来の世界ではあたしは存在していたの?」
「していなかった。ニューマンの設計図は俺、嘉祥寺、白橋で書いていたが肝心な技術はなかったから二つの機体以外は他の会社と共同してニューマンを量産していた。その結果が人類とニューマンの戦争に繋がってしまったからな」
だが、と俺は親身にアダムへ話を続ける。
「それは俺にとっては過去の話だ。
今の俺にとって大切なニューマンはお前と亡き息子しかいない」
「息子って?私の前にマスターが一から作ったニューマンがいたの?」
俺は再び溜息をつき、息子との思い出を思い出す。
稼働し一緒に働いていた時間は僅かだったがそれでも唯一、誰の手を借りずに作成した息子は特別である。
「ああ、息子の名はアスクレピオス。
俺が一から開発して、おそらく俺が今まで見てきたニューマンの中で究極にして最高傑作の新人類だ」
その名を口にした瞬間、かつてのアスクレピオスの声が耳元でささやくように聞こえた。反射的に振り返るが誰もいない。気のせいかと思い、俺は最後に皆に向かって対話する。
「俺の秘密は全て話した。何か質問とかあれば言ってくれ」
誰も解答しない。俺はそれを最後の確認として捉え、改めて宣言する。
「じゃあ、最後にしめの一言。新たなAIロボット『ニューマン』を創るために。FRに対抗するために。そして荒廃した未来を変えるために。協力してくれ。…じゃあ、ここからは聖の歓迎会とする。湿った空気はここまでにして存分に楽しむぞ」
すると先ほどの空気とは一変し、今度は明るい空気に包まれる。この切り替えの早さはある意味俺たちの長所であると考えている。全く仕方ないが、俺もそれに習い今日は一緒に歓迎会を楽しむのであった。
2032年12月末。黒色の上着を着こなした人物は、猛吹雪の中とある山小屋へ向かっていた。
降り積もる雪によって足跡が残っているがそれもこの猛吹雪ならば数時間後に消滅するだろう。その確信をもってその人物は山小屋へと向かっていた。
「はぁ~。PS支部が潰されて後始末をした後、今度は山小屋に派遣か。ペナルティとはいえ、結構ハードワークじゃないか?まあ、派閥のパワーバランスが崩れたことは俺にとっても都合がいいが…。お、ようやく到着かな?」
吹雪の中、うっすらと映る山小屋はその人物に安心感を与える。迷わずその山小屋へ進もうとするが、その直前に障害が立ちふさがる。
「オイオイ、お目覚めにしてはずいぶんと早起きじゃないか?」
目の前に現れた巨大なヒグマはその人物を餌と判断したのか襲い掛かる。だが、その人物は焦ることなくすれ違い様に手刀でヒグマの首を切る。するとヒグマの首はその場に落ち、大きな音を立ててその場に崩れ落ちる。手に染み付いた獣の血を舐め、何事もなかったかのようにその人物は前へと進み始め、山小屋に到着した。
「コンバンワ。って、誰もいないじゃん。
全く。こんなところに資料を隠すなんて正気とは思えないな」
人物は早速山小屋の中を探り部屋中を探し始める。すると一冊のファイルを見つめた。その内容を読むとその人物はすぐに電話を手に取りとある人物に連絡を始めた。
「もしもし、オレオレ。あ?新手の詐欺だって?ちょっと待てよ。せっかく苦労して山小屋に到着したんだからちょっとぐらい雑談に付き合ってもいいと思うんだが。
…って、待て待て切るなって。
目的物を見つけた。モノホンかどうか、判別するためのキーを教えてくれ」
ファイルをめくり、その内容物が本物なのか確認を始める。しばらくして電話越しに信憑性が高いと判断され再び上司ともいえる人物に命令を下される。
「オーケー。ああ、そうそう。熊って好きかい?さっき仕留めて…って、もう切ってやがる。
全く、せっかちな男は嫌われるぞ」
電話をしまったその人物は目的のファイルを手にして床中に油を敷き始めた。ある程度巻き終えたことを確認すると山小屋を後にしてマッチで火をつけた。これで任務は完了した。後はこの場から立ち去るのみである。
「これでこっちの問題は解決だな。後はあっちにも連絡しておくか」
その人物は先ほどの携帯とは別の機種で誰かと連絡を始めた。
「上官?元気?おっと、切らないでくれよ。任務についてなんだが、既に手が回っていた。
小屋は炎上しちまってる。というわけで後処理を頼んだよ」
それだけ伝えすぐに電話を切った。全ての要件を済ませたその人物は大きく溜息を吐きやれやれと呟いた。
「にしても、教授も用心深いな。
まあ、このファイルを届ければ文句はないか」
その人物は『DC計画』と書かれたファイルを片手にその場から速やかに撤退するのであった。
自宅にした理由は些細な理由だが、拉致されたばかりでしばらくはお店などの外で話し合うということを避けたかったという精神的な理由だ。
余談だが、強盗が襲撃した後日、嘉祥寺がさらに警備システムを一新したため、同じ手では侵入することはできないとのことだ。
数日後、一階のフロントで聖が来るのを待っていると玄関先のインターフォンが鳴り、ようやく慣れた手つきで俺は鍵を解除して聖を中に入れる。俺を見かけると聖は朗らかに挨拶する。
「こんにちは!この前は突然メールで頼み込んでごめんね!本当に助かったね!」
「気にする必要はありませんよ。元々うちの会社に入る約束でしたし。
時期が少し早まったと考えればプラスです」
「そういってもらえるとわたしとしてもありがたいね。とはいっても、まさかわたしがリストラされるなんて思いもしなかったね」
そう、聖はリストラされたのだ。昨晩のニュースでPSが脱税や不正取引などを行っていたとして、会社は解体。上層部の殆どが逮捕されるという大事件に発展したのだ。最も、真の理由であるFRのことは流石にFBIによって情報操作されていたのかニュースの話題にすら一切上がらなかった。
そんな状況で聖たちが所属している研究部も当然その影響を受けた。研究部は解体され、PSは大企業から中小企業にまで尾羽打ち枯らした。結果、聖たち研究職は新たに研究所を探さなければならなかったのだ。しかし、研究部に所属していたほとんどは既に新しい職場を見つけたらしいので路頭に迷うことはなかったらしい
聖先輩も例外ではなく、数多の企業から勧誘を受けていた。そんな状況で俺たちの会社を選んだのだから他の勧誘していた会社から見れば沙汰の限りである。
「今更ですが、本当にいいのですか。
話を聞く限り、勧誘している会社の対応は相当な地位らしいですが…」
「わたしはここで働きたいね。確かに、この会社は他の会社と比べて月給が若干低かったけど、顔見知りが一番多いし、一番技術を学ぶことができるからね。
それにその証拠も証明されているしね」
聖は俺の後ろに立っているアダムに視線を向ける。確かに、まだ世間には発表していないが、これほどまでに完成度が高いAIロボットはまだこの世にないだろう。好奇心を隠せていない聖は今すぐにでもアダムと一緒に話したいとうずうずしていた。
「わかりました。これ以上聞くのは野暮ですし。後で嘉祥寺、仲間の一人に連絡します。」
「ありがとう!あ、そうだ。二つお願いしてもいいね?」
「アダムを一日中持っていくとかはやめてくださいよ。
バッテリーの問題で今は長時間外出することができませんから」
「うぐ。まさか一つ目を当てるとは…。弁田君は本当によくわかっているね」
「アダムは俺たちの会社の最新技術の塊ですから。俺も技術者だからそういう考えには至りますよ。それで二つ目は?」
「わたしはもともとどこに住んでいるかわかるかね?」
「確か実家はドイツでしたっけ?
現住所は流石に知りませんが…」
「会社に勤めていた時は会社の寮に住んでいたね。
でも、ほら、わたし会社からリストラされてね、今はホテルで何とか生活しているね。
今のところは大丈夫なんだけど、そろそろ新しい家を見つけないといけないのね。
図々しいと思うけど、ここに住まわせてほしいね。
あ、もちろん、家賃もちゃんと払うつもりだね」
お願い!っと聖先輩は頼み込む。話を聞く限り、今の聖先輩の生活状況はあまり芳しくないだろう。住ませることは簡単だが、あの事件があってからだと時期が悪い。
「確認したいから少し待ってくれないか?」
流石に俺の独断で住まわせるわけにはいかないと判断し、俺は嘉祥寺に連絡を取る。ワンコール直後、すぐにあの喧しい声がスマホ越しに響き渡る。
「どうした我が戦友。
何かあったのか?」
「ちょっとした相談なんだが、今時間は大丈夫か?」
「構わん。
奴らは今は停戦状態で大きな予兆はないからな。
それで相談とは?」
「前に会ったことがあるかもしれないが、七瀬聖さんっていただろ?
PSの事件で住処も職も失ってここで働きたいって言っているんだが」
「構わん。
技術者は多いことに越したことはない。
で、他はなんだ?」
「やけにあっさりだな。
まあ、次が本題なんだが、その聖さんが俺のマンションに住みたいと言っているんだが、嘉祥寺的に問題ないか?」
「そんなことか。
案ずるが良い。我の判断ではセイクリットは白だ。
住まわす分、何も問題ない」
予想外な回答に俺は目を丸くする。あの事件があってから嘉祥寺の警戒度はかなり上がっていた為、ひと悶着すると思っていたが、あっさりと許可を出すとは思わなかったからだ。
「やけにあっさりと許可を出すな。
何か根拠でもあるのか?」
「我にそんな当然なことを聞くのか?
まあ、いいだろう。
あの騒ぎにて、多くの役人やら重役やらが逮捕された。
しかし、我が戦友曰く、その騒動にはかのFBIが関わっているのだろう。
なら、そのほとんどはかの組織に関するメンバーだろう。
であるなら、この場にいるセイクリットはほぼ白だ。
無論、逃れた可能性はあるが、FBIはそこまで間抜けじゃない。
故に現状は白だと考えられる」
「そうか。じゃあ、部屋とか家賃とかは後で嘉祥寺が相談するか?」
「そうさせてもらおう。
それは我の管轄故な」
ありがとうと俺は一言伝え、電話を切る。聖先輩は結果を待つ受験生のように緊張しながら待っていた。俺は口角をあげ、その結果を伝えた。
「問題ないとのことです。
ただ、部屋の場所とか家賃については後日相談するとのことです」
「ありがとうね!
そういえば、電話越しにちょっとだけ聞こえていたけど、セイクリットって、わたしのこと?」
「…多分、そうだと思います。
嘉祥寺は他人を変わったあだ名で呼ぶ癖がありますから。不満でしたか?」
「ううん!そんなことはないけど、ちょっと初めてのあだ名でなれないなーって思っただけ」
「そうですか。時間があるなら、部屋を案内しましょうか?
嘉祥寺のことですから、おそらく九階に聖先輩の部屋を用意するでしょうから」
「本当!?それはとてもありがたいね!」
「せっかくだし、アダムに案内を任せるか。アダム、行けるか?」
するとアダムは元気のいい返事をした後、聖先輩の手を握ってエレベーターへと向かって行く。若干戸惑っていた聖先輩だったが、アダムの明るい性格の影響によって普段通りの聖先輩に戻った。
後日、嘉祥寺と聖先輩は家賃や部屋の場所について話し合い、近日中に引っ越すことが決まった。その際、俺の私情で聖先輩の家賃を少しだけ安くしてくれと嘉祥寺に頼んだのは秘密である。
そして聖先輩の引っ越しに日程が決まった数日後、俺の秘密を伝えるべく、必要なメンバーがそろったことを確信し、先日嘉祥寺に言われた通りに皆で集まることを一斉メールで伝えた。
俺の秘密を伝えるため、地下ラボにて皆が集合している。
辺りを見渡すと、白橋、聖先輩、佐夜、アダム、中田、堀田そして嘉祥寺と全員揃っている。欠員はいない。
俺が話す前にニューマンについて盛り上がっていたせいか、空気は若干盛り上がっている。この状態を一度打ち切るのは少し痛ましいが、このままでは話すら始まらないため俺は手を叩き、注目を集めた。
「それじゃあ、改めて集まってくれてありがとう。
今日集まった要件はメールに記載していた通り、聖先輩が新たにメンバーに入ったこと。そしてもう一つは今から発表する」
「重要なことと言っていたが、くだらないことだったら俺様はすぐに研究に戻るぞ」
「じゃあ、単刀直入に言おう。俺はとある組織に命を狙われている」
「…くだらないなら俺様は研究に戻るといったよな?
それを踏まえてのその発言が。妄言が過ぎるぞ」
その一言に俺はただ沈黙する。冗談でもない。本気である。しかし、それを証明する手段が今は提示できない。その証明は覚悟を持った人間だけが見るべきものだ。嘘だと思い、席を外すならそれもよし。そうすれば少なくともこれ以上関与することはないからだ。
事実、堀田は興味なさそうに明後日の方向を見ているし、白橋に至っては情報が追い付いていないように見える。既に事実を知っている嘉祥寺はともかく、他のメンバーも似たような反応だった。
「言っておくがこの事実を知っているのはこの中では嘉祥寺だけだ。そして嘉祥寺は既に了承済みだ。だがこれだけは言っておく。話を聞きたくなかったらこの場から出てっても構わない。ここからは俺の秘密と皆の命に係わる問題だからだ」
「じゃあ、某はもう退出するざんす。ぶっちゃけ興味ないざんす。余計なことは全部皆に任せるざんす。話が終わったら呼びに来てほしいざんす」
そういって一番に部屋を出て行ったのは堀田だった。聞く態度から元々話に興味がなかったため、あっさりと部屋から出て行った。堀田らしいと言えばらしい。次に部屋から出て行ったのは佐夜だった。部屋を去る時に「ちょっと席を外しておくね」と呟いていた。元々働いているのはこちらではないため、当然の考え方だと割り切っていた為想定内である。
残っているのは嘉祥寺、白橋、中田、アダムそして聖の五人だけだ。嘉祥寺とアダムは情報を共有しているため、聞く必要はないが、それ以外の三人は選択する必要がある。このまま話を聞くか、それとも退出するか。俺は彼らの決断を待った。すると間もないうちに白橋が発言する。
「弁田君。一つ尋ねていい?なんで私には何も言わなかったの?」
「巻き込みたくなかったというのが主な理由だな」
「ふざけてるの?私は友達でしょ?なのになんで私だけ除け者扱いされているのかしら?」
「怒っているのか?」
「当然。命が狙われているなんて初めて聞いたし、何よりそれを秘密にしていたあんたが一番むかつく。なんで頼らないの?そんなに私たちのこと信頼できない?」
「信頼できないわけじゃない。ただ、余計なことを言って危うくなってほしくないから」
すると白橋の怒りのボルテージがマックスになったのか突然胸倉を掴む。俺より身長が若干小さいが、スポーツをやっていた分筋肉量は白橋のほうが多かったため俺の体は簡単に持ち上がる。流石にその対応に周りも止めようと動いた瞬間、白橋は怒髪冠を衝く勢いで声を荒げた。
「あんたは、いつもいつも隠し事ばかりして、秘密が多すぎるのよ!助けを求めるときには既に手遅れなんてことになってほしくないのよ。
わかる!?あんたがしばらく姿を消している間皆がすごく心配していたことを!?嘉祥寺を直接殴って聞きだしたても私は心配で心配でしょうがなかった。
というか、あのメールは何!?大事な話があるって!?今更なのよ!!あんたが私たちのことをどう思っているのかわからないけど、あんたがなんかやばい組織に追われていることぐらい、聖さん以外知っているんだから!!」
その事実を聞き、俺は驚愕する。俺の秘密を知っているのは嘉祥寺だけだ。俺は嘉祥寺に視線を向ける。
「嘉祥寺、どういうことだ。迂闊に話すなといったはずだ」
俺は嘉祥寺を睨んだが嘉祥寺は明後日の方向を見ながらぼそぼそとばつが悪そうな顔で話し始めた。
「だって…。
戦友が攫われてキョウカンが我に質問してきたのだ。
誤魔化そうとしたら、我、キョウカンのジャブをニ十発以上受けたんだぜ。
キョウカンが趣味でボクシングジムに通っている故にアレは度し難い苦痛だった。
我の強固な玄関口はキョウカンの圧倒的な暴力に!?」
「うるさいわよ!
これ以上余計なことを付け足すならまた人間サンドバッグをもう一回やる?」
「す、すみませんでした。あ、ちなみに、今回の件も元々は白橋が提案したものだぞ」
白橋の目に映らない華麗な五連続ジャブを嘉祥寺に食らわせ、強制的にダウンさせ土下座する姿を見て、流石に同情する。これは誰だって口を割る。あの拷問よりも質が悪いだろう。
「じゃあ、なんだ。中田も知っているのか?」
「愚問だな。
だが、ここまで弁田が仲間に頼らない愚か者だったとは俺様も思いもよらなかったぞ。
そんなことを理解できなかったのか、馬鹿め」
「ちょっと口悪くないか?」
「当たり前だ。何ならもっと酷くいってやろうかくずが」
だんだんエスカレートしていく中田の悪口に徐々に怒りを蓄積してきたが、今まで相談しなかった自業自得である。だが、これ以上聞いていればつい手を出しそうになるためすぐに話題を切り替える。
「それじゃあ、俺のもう一つの秘密も知っているのか?」
「それは知らん。隠し事があれば今吐け。そうすれば、全員から一発で済ませてやる。
まあ、その前に二人を呼んでくるがな」
中田は堀田と佐夜を呼びに一度退出する。俺は大きく溜息をつき、嘉祥寺と白橋を正面から見る。今まで気づかなかったがよく見ると口元に治りかけの傷跡がある。しかし嘉祥寺の表情は覚醒している時と同等に真剣に見つめている。白橋も同様だ。だが、これ以上秘密を隠しているならすぐに手を出しそうな勢いであるが。そんな中、立った一人話についてこれない人物がいた。
「あのー。敵とかよくわからないけど、一体どういう状況だね?」
「そういえば、聖さんは数日前に入ったばかりだから知らないか。
せっかくだし、弁田君が説明してよ」
疑問符を浮かべている聖は今の状況を理解できないだろう。故に俺は一つ目の秘密を聖に全てを話し始めた。
かつて米沢が開発したコードが偶然FRと呼ばれる組織の重要ファイルを解読する鍵を持っていること。その結果、FRに命を狙われていること。そして数日前、その組織に拉致されPSの秘密の地下室で監禁と拷問を受け続けていたこと。
全てを話し終えた俺は少しだけスッキリしたが、対照的に聖の顔色はかなり悪くなっていた。あまりにもスケールが大きすぎる話のため未だに理解できないところもあるだろう。すると白橋が椅子を持ってきて聖を座らせる。
「まさか…私が勤めていた会社がそこまでやばかったなんて思いもよらなかったね」
「ショックか?」
「ショックだね。まさか鮫島部長も関わっていたのかね?」
「いや、鮫島部長はPSに潜むFRを調査するために潜入していたFBIだ。
事件には関わっていたけど、犯罪には関わっていないはずだ」
すると聖は少し安心した表情になる。お世話になった人物が悪人であったならばその精神的なダメージは計り知れないだろう。事実、俺も木野田部長が敵であったことを知ったときは何かが心を抉り出されるような痛みを感じた。
すると扉が開かれ堀田たちを連れてきた中田が戻ってくる。
「遅くなった。堀田が集中して全然声をかけても反応しなかったからな」
「よし、じゃあ改めて話を続けるぞ。
みんなの反応を見る限り、一つ目の秘密は知っているらしいが、もう一つの秘密は知らなかったからな。…単刀直入に言おう。俺は2045年の未来からやってきた」
その言葉に驚愕する者、興味を持つもの、反応は様々だが共通して嘉祥寺以外は知らないと見えた。俺はそのままこれから起こるであろう未来の出来事を語り始める。
その全てを語り終えると皆が沈黙する。無理もない。十年後には人類が滅亡しているなどとは思いもよらないだろう。そんな中、一人俺に質問する人物がいた。
「マスター。その未来の世界ではあたしは存在していたの?」
「していなかった。ニューマンの設計図は俺、嘉祥寺、白橋で書いていたが肝心な技術はなかったから二つの機体以外は他の会社と共同してニューマンを量産していた。その結果が人類とニューマンの戦争に繋がってしまったからな」
だが、と俺は親身にアダムへ話を続ける。
「それは俺にとっては過去の話だ。
今の俺にとって大切なニューマンはお前と亡き息子しかいない」
「息子って?私の前にマスターが一から作ったニューマンがいたの?」
俺は再び溜息をつき、息子との思い出を思い出す。
稼働し一緒に働いていた時間は僅かだったがそれでも唯一、誰の手を借りずに作成した息子は特別である。
「ああ、息子の名はアスクレピオス。
俺が一から開発して、おそらく俺が今まで見てきたニューマンの中で究極にして最高傑作の新人類だ」
その名を口にした瞬間、かつてのアスクレピオスの声が耳元でささやくように聞こえた。反射的に振り返るが誰もいない。気のせいかと思い、俺は最後に皆に向かって対話する。
「俺の秘密は全て話した。何か質問とかあれば言ってくれ」
誰も解答しない。俺はそれを最後の確認として捉え、改めて宣言する。
「じゃあ、最後にしめの一言。新たなAIロボット『ニューマン』を創るために。FRに対抗するために。そして荒廃した未来を変えるために。協力してくれ。…じゃあ、ここからは聖の歓迎会とする。湿った空気はここまでにして存分に楽しむぞ」
すると先ほどの空気とは一変し、今度は明るい空気に包まれる。この切り替えの早さはある意味俺たちの長所であると考えている。全く仕方ないが、俺もそれに習い今日は一緒に歓迎会を楽しむのであった。
2032年12月末。黒色の上着を着こなした人物は、猛吹雪の中とある山小屋へ向かっていた。
降り積もる雪によって足跡が残っているがそれもこの猛吹雪ならば数時間後に消滅するだろう。その確信をもってその人物は山小屋へと向かっていた。
「はぁ~。PS支部が潰されて後始末をした後、今度は山小屋に派遣か。ペナルティとはいえ、結構ハードワークじゃないか?まあ、派閥のパワーバランスが崩れたことは俺にとっても都合がいいが…。お、ようやく到着かな?」
吹雪の中、うっすらと映る山小屋はその人物に安心感を与える。迷わずその山小屋へ進もうとするが、その直前に障害が立ちふさがる。
「オイオイ、お目覚めにしてはずいぶんと早起きじゃないか?」
目の前に現れた巨大なヒグマはその人物を餌と判断したのか襲い掛かる。だが、その人物は焦ることなくすれ違い様に手刀でヒグマの首を切る。するとヒグマの首はその場に落ち、大きな音を立ててその場に崩れ落ちる。手に染み付いた獣の血を舐め、何事もなかったかのようにその人物は前へと進み始め、山小屋に到着した。
「コンバンワ。って、誰もいないじゃん。
全く。こんなところに資料を隠すなんて正気とは思えないな」
人物は早速山小屋の中を探り部屋中を探し始める。すると一冊のファイルを見つめた。その内容を読むとその人物はすぐに電話を手に取りとある人物に連絡を始めた。
「もしもし、オレオレ。あ?新手の詐欺だって?ちょっと待てよ。せっかく苦労して山小屋に到着したんだからちょっとぐらい雑談に付き合ってもいいと思うんだが。
…って、待て待て切るなって。
目的物を見つけた。モノホンかどうか、判別するためのキーを教えてくれ」
ファイルをめくり、その内容物が本物なのか確認を始める。しばらくして電話越しに信憑性が高いと判断され再び上司ともいえる人物に命令を下される。
「オーケー。ああ、そうそう。熊って好きかい?さっき仕留めて…って、もう切ってやがる。
全く、せっかちな男は嫌われるぞ」
電話をしまったその人物は目的のファイルを手にして床中に油を敷き始めた。ある程度巻き終えたことを確認すると山小屋を後にしてマッチで火をつけた。これで任務は完了した。後はこの場から立ち去るのみである。
「これでこっちの問題は解決だな。後はあっちにも連絡しておくか」
その人物は先ほどの携帯とは別の機種で誰かと連絡を始めた。
「上官?元気?おっと、切らないでくれよ。任務についてなんだが、既に手が回っていた。
小屋は炎上しちまってる。というわけで後処理を頼んだよ」
それだけ伝えすぐに電話を切った。全ての要件を済ませたその人物は大きく溜息を吐きやれやれと呟いた。
「にしても、教授も用心深いな。
まあ、このファイルを届ければ文句はないか」
その人物は『DC計画』と書かれたファイルを片手にその場から速やかに撤退するのであった。
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