Another Dystopia

PIERO

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2032年10月 秘匿者の感情(下)

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未来から来た。その言葉に俺は一瞬思考を停止しそうになった。しかし咄嗟に反論する。もしテレポーターが存在するならば嘉祥寺はその可能性を考えて俺にそう問いかけたのだろう。だが今の時代にテレポーターというものが存在しない。故に何故そんな質問をされるのか理解できなかった。

「何言ってんだ嘉祥寺。そんなことできるわけないじゃないか。
大体タイムマシーンなんてあるはずが…」

「より正確にはタイムリープマシンか?まあ、この際機械の名前なんてどうでもいい。
認めないなら俺の話を聞け。それから納得しろ」

 俺は驚きを隠せなかった。何故ノーヒントからタイムリープマシンの存在を的確に当てたのか。その理由も嘉祥寺の話を聞けばわかるかもしれない。俺は生唾を飲み嘉祥寺の話を聞く態勢になる。

「最初に疑問に思ったのは俺がVelu言語を開発して弁田に渡した時からだ。弁田が妙に理解度が早くて最初は覚えが早いなとしか感じなかったが、今考えればこう考えられる。『あの時弁田はVelu言語の存在を知っているのではないか』と」

 嘉祥寺の言う通り、それは言語を理解していたからだ。流石に早すぎる開発に疑問を持ってしまったのだろう。そして嘉祥寺の話はまだ続く。

「そしてそのファイルだ。弁田の焦り用からかなりやばい代物であることは理解できるが、何故これがやばい代物であると確信できる?」

「いや、それは襲われたからだろ」

「ああ、襲われたことは聞いている。
そしてそれの理由がこのファイルであることも理解できる。だが同時に一つの疑問も生じる。
弁田が襲われたときはこのファイルの中身を見る前ではなく、ファイルのプログラムを解読した時のはずだ。それなのに何故やばいものだと判断できる?まあ、それは別に根拠にならないからいいだろう」

「いや、ならないのかよ」

「話を続けるが、ここで二つ目の疑問だ。何故ニューマンが開発した直後ではなく、ある程度数を量産してからなのか。一体でも世界的に発信すれば、それなりの資金援助が可能になるはずなのにだ。理由はいくつか考えたが一番考えれる妥当な理由はニューマンを発表した時、それが弁田の命が狙われる日だ。当たってるか?」

「まあな。だが、どれも根拠だろ。確信じゃない」

「そしてこれが最後に疑問だが、お前のその態度だ。
大学時代、最後にニューマンについて話し合った時、お前の態度が明らかに変わっていた。当時は疑問にすら思っていなかったがな。あの日以降気づいていないと思うが、お前はこの二年間一切笑っていなかった。まるでこれから起こりうる未来に対して怯えているかのように常に警戒しているように見えた」

 その指摘に俺はゾッとする。嘉祥寺の指摘は間違っていない。あの未来は最悪だ。現代と違い、何もない空虚な世界。荒廃した風情。俺以外誰もいないニューマンだけとなった世界。分かち合える仲間すら存在せず敵だけの世界など、絶望以外何もない。しかし、だからこそその未来を嘉祥寺たちに伝えることができない。これ以上、何か変わった要素が加わればその未来が変わってしまう可能性がある。

「だが、それらは全て疑問だ。根拠ではない。だがそれらを踏まえて確信がある。前に弁田のパソコンをいじったときに確認したが『アスクレピオスからの動画』というものがあった」

「…あれを見たのか?」

「いや、見るべきではないと判断した。だが、あの厳重に保管しているところから重要なものであることは理解できる。だが、アスクレピオスという名は理解できる。その由来は覚えているか?」

 忘れるわけがない。俺はその質問の意図を理解して嘉祥寺の質問を答えた。

「覚えていないわけないだろ。
中坊の頃、俺と嘉祥寺と二人で考えた自立学習を可能として最も人間に近いAIロボット。だろ」

「そうだ。その動画はおかしなことに未来の年号を示していた。
そしてもう一つの確信。やけに早いニューマンの完成速度。俺の見積もりではあと数年はかかると考えていたが、既に八割がた完成させている。機能だけならほぼ完成と言っていい。
それを理解した瞬間、俺は全ての疑問を仮説としてこう考えられる。弁田、お前は学生最後のあの日からタイムリープしてきて未来の技術を用いて何かをしようとしているということを。いや、既に未来で何かが起こったから未来を変えようとしているのだと」

 嘉祥寺は完全に確信をもってこちらを見ている。もう言い訳は通用しない。それに大切な友人をこれ以上騙すのは俺の良心もかなり痛む。俺は大きく溜息を吐き覚悟して口を開く。

「大した奴だよお前は。
お前の言葉を借りるなら流石我が戦友といったところか?」

「その言い方だと、俺の考察は全て事実と捉えて構わないか?」

「ああ、そうだ。俺は未来から来た。
だが嘉祥寺これから話すことは他言無用で頼む。それよりブドウ糖は大丈夫か?」

「そうだな。そろそろ手持ちのブドウ糖がなくなりそうになる。
悪いが弁田の部屋にあるか?」

「あるからちょっと待ってろ。
確かキッチンに置いてあったはずだ。あと、コーヒーのおかわりはいるか?」

「もらっておこう」

 真剣な話をしながら俺はお湯を温めつつもブドウ糖を嘉祥寺に手渡す。俺と嘉祥寺は椅子に座っ
てパソコンを起動後、俺が未来で体験したことを話し始めた。
 全ての話を聞き終わった時、嘉祥寺はゆっくり立ち上がり、俺の肩をポンと叩く。

「そんな世界でよく孤独で戦ってきた。弁田がいなかったらこれからを真剣に考えることができなかっただろう。早速だがそのアプリとやらを開いてくれ。俺もそれをよく確認しておきたい」

「せっかちだな。
まあ、嘉祥寺のタイムリミットも考えてすぐに行動したいが、体調は問題ないのか?」

「今のところはな。
だが、そろそろ頭痛が起きてもおかしくない。手っ取り早くすましてくれ」

 俺は最速でパソコンを操作し、『The・LostWorld』のアプリを立ち上げる。表示されている数値を確認すると同時に俺は驚きを隠せなかった。

「これは一体何が起きている?」

「どうした?」

「数値が今まで以上に低下している。マイナスを下回ることは前までよくあったが…ここまで下がったことは見たことがない」

 俺は画面に表示されている-五百九十八という値を見て恐怖する。ここまで数値が極端に下がったことはまずない。可能性を挙げるならば二つ。一つは嘉祥寺に未来から来たことを言ってしまったことによる変動。これならばまだ巻き返せる可能性がある。だが問題はもう一つの可能性、突発的な特異点の発生である。
 俺は咄嗟にアダムに接続する。だが、返事がない。俺は嫌な予感を感じ取り、急いでリビングから俺の自室へ向かう。
 乱暴に扉を開けるとそこには見知らぬ人物が作業を行っていた。服装は作業着のような汚れた服装で、見た目は四十代前半ぐらいの男性だった。その侵入者は俺に気づくと作業を中断しこの場から逃げ出そうと入口に向かっていく。
 俺は咄嗟にその人物を抑えようとしたが、侵入者は俺の手を簡単に振りほどくとそのまま廊下へ走っていく。

「嘉祥寺!誰かがそっちに行ったぞ!」

 すると誰かのうめき声が廊下に響く。俺は咄嗟に廊下に向かって走る。もしかして嘉祥寺もやられたのかと思い急いで廊下に向かう。
 だが、廊下で起きた現象は俺が想像していたのとは真逆で見知らぬ侵入者が嘉祥寺によって取り押さえらえている状況だった。
 侵入者は暴れて何とかこの場から逃げようと体を動かしていたが、暴れれば暴れるほど逆に嘉祥寺の拘束が強くなっていった。

「嘉祥寺、お前武術でも習っていたのか?」

「いや、前に暇つぶし程度に見ていた護身術動画の見様見真似だ。
だが、こうもうまくいくとは俺も思っていなかった」

 嘉祥寺の才能に俺はただ茫然としていたが、すぐに警察に連絡をしなければと思い電話を手に取る。警察に連絡した後、俺は侵入者が何をしていたのか確認するため、自室のアダムの調子を確認する。
 しかし、パソコンにはアダムの姿がなかった。今回の特異点の原因を特定した俺はすぐさま先ほど捕縛した侵入者に問い詰める。

「アダムをどこへやった」

 しかし、俺の質問に対して一切答えなかった。すると嘉祥寺は締め付けをより強力にしたのか、侵入者はうめき声をあげたところでようやく質問に答える。

「お、俺のベルトの中だ。調べれば隠しポケットがある」

「ずいぶんあっさりと答えるんだな。それで、本当は?」

「ほ、本当だ!俺は金で雇われただけだ。見たところすごいAIだとは思ったが、それだけだ!」

 侵入者の必死ぶりに俺は本心からの言葉だと判断し、ベルトのポケットを確認する。中にはUSBが隠されており、俺はその中身を確認するためパソコンに接続する。侵入者の言う通り、USBの中にはアダムが保管されており、俺はすぐに自身のパソコンに移動させ、アダムを起動させた。

「アダム、聞こえるか?」

『マイマスター。聞こえております。申し訳ありません。侵入者に不覚を取りました』

「よかった。何か不調とかはないか?」

『今のところは何もありません。
私の方でも確認しますが、マイマスターの方でも確認をお願いします』

 そこで俺とアダムの会話を終了する。アダムのメンテナンスを行う前にまず、色々とやらなければならないことがある。初めにあの侵入者が何者なのか。金で雇われたと言っていたが、それ以外何も知らない。警察が来る前に聞くべきことを聞かなければならない。
 廊下に出るとリビングの部屋へと引きずった後が残っている。俺はリビングに入ると既にロープとガムテープでがっちりと捕縛されている侵入者がそこにいた。何かを言いたげそうにもごもごといっているがガムテープで口を押えられているためかよく聞き取れない。

「嘉祥寺、ちょっとやりすぎじゃないか?」

「これぐらいがちょうどいい。後、もう寝る。限界だ」

 そういって嘉祥寺は仰向けになって倒れたと同時に熟睡する。余程神経を使っていたのかちょっとやそっとでは起きそうにない。だが、幸いである。俺は侵入者の口につけられたガムテープをはがし、話せるようにした。

「ゴホッゴホッ!てめぇの友人は容赦がないな」

「まあ、あいつは徹底的にやるからな。
さて、お前は金に雇われたと言っていたが、雇い主は誰だ?」

「さあな。使い捨てのメールでやり取りしていたからな。顔すら知らねえよ」

「メールの履歴を辿っても無駄か。
まあいい。敵は大体理解している。質問を変えよう。どうやって侵入してきたかだ」

「んなの屋上からに決まっているだろ。正直、目立つし、着地が失敗したら死ぬからあんまりやりたくなかったがな」

「…後で屋上のセキュリティーを強化するか。
それじゃあ本題だ。人類守護派って知っているか?」

 おそらく俺が調査している派閥の人間による攻撃だと推測している。それ以外の派閥に攻撃されるようなことはしていないし、そんな理由もない。
 すると何か面白そうに侵入者は笑い始めた。何かおかしいのかと思い、俺は問い詰める。

「いや、面白そうに考察してやがる。依頼主の言ったとおりの人物像だなと思っただけだ」

「どういうことだ?依頼主は俺のことを知っているのか?」

「さあな。それはてめぇが考えることだ。
だが、会ってみて分かった。てめぇ、おそらく俺たち寄りの考えを持っているな?」

 侵入者の言葉に俺は戸惑いを覚える。その言葉は挑発なのか。あるいは別の意味が含まれているのか。どちらにせよ情報が乏しい。

「言っておくが、俺は本当にも知らねぇぜ。俺が依頼されたことは一生遊べる大金と引き換えにてめぇが持っているAIを盗めっていうことだけだから」

「そうか。なら、警察が来るまで大人しくするんだな」

「そうさせてもらうぜ。ここに侵入できただけでも奇跡ってもんだぜ。
もう俺ができることはないからな」

 その後、あっけなく侵入者は警察に引き渡され、俺と嘉祥寺は事情聴取ということで警察署へ向かった。解放されたのが深夜すぎであり、体力的にも限界だった嘉祥寺を仕方なく俺の寝室に寝かせ、俺はリビングで寝た。
 翌朝も続きの事情聴取をするために俺は警察署に向かったが、嘉祥寺はマンションの状態を確認するために本来の仕事をほっといて調査をしていた。後日わかったことだが、屋上は屋外プールとなっていた為、嘉祥寺は盲点だったと叫んでいた。
 そしてその日の事情聴取が終えることによって今回の騒動は収束していった。

「さて、嘉祥寺はマンションの調査中だっけな。本来の仕事に戻ってほしいから帰ったら交代しな
いとな。…あいつが言っていたことも気になるな」

 侵入者曰く、俺の思考が相手と同じ思考をしている。不思議と嫌悪感はなかったが、意図がまるで分らない。嘉祥寺が起きていればまだ理解できたかもしれないが、長時間嘉祥寺の脳を無理やり起こし続けるのは嘉祥寺の危険が伴うだろう。

「しばらくはあのファイルの解読とDC計画の正体を掴むことが先決だな」

 これからやることを定めた俺は自宅に帰還しようと歩みを進める。願わくば、これ以上襲撃がないことを願った。



 十月に入った頃、俺は佐夜からアダムの性格の設定が完成したと連絡が入り、俺は堀田と一緒に彼女の自宅に向かっていた。

「どんな性格が出来上がったんだろうな。堀田は知っているか?」

「知っているわけないざんす。でもその分どんな性格なのか楽しみざんす。
ところでなんで某を呼んだざんす?性格のデータを受け取るなら一人でも充分ざんすよね」

「恥ずかしい話だが、性格とかそういう詳しいことは俺はよく知らないんだ。そういうのは堀田とか嘉祥寺辺りが詳しいだろ?一応、世間的にどうかを判断してほしい」

「了解したざんす」

 最も、本心は嘉祥寺と堀田の二人を比べてどっちがまともなのか判断した結果、堀田を連れてきたことは秘密である。そろそろ佐夜の自宅に到着しそうであったため、近くの駐車場に車を止め、俺と堀田は徒歩に切り替える。
 歩くこと数分後、俺と堀田は佐夜の自宅に到着した。彼女のアパートの前でノックして声をかけると何かが崩れる音と同時に何かにぶつかった音が響く。
 大丈夫なのかと心配したが、すぐに扉が開かれ、服装が乱れた佐夜が現れる。一体どんな生活をしているのか気になったが、これ以上はプライバシーに関わるので推測をやめる。

「お、おはよう二人とも…痛ッ」

「あ、ああ。おはよう」

 もう昼時だぜという突っ込みは飲み込み、早速本題に入る。

「昨日連絡をもらったから来たわけだけど、堀田に確認してもいいか?」

「ジョー君に?まあ、別にいいけど。パソコン持ってくるからちょっと待ってて」

 佐夜は一度家に戻り、パソコンを取りに戻った佐夜は完成した性格の設定を俺と堀田に見せる。正直、俺は性格の設定などはよく理解できない。前もって堀田には真面目に判断してくれと頼んでいるため、人前に出したらまずいと判断すれば即座に却下するだろう。
 しばらく堀田はその設定集を閲覧し、全て確認が終わったのかパソコンを佐夜に手渡した。

「全然問題ないざんすよ。性格も悪人というわけじゃないざんす。
あと、某的には好感がもてるざんす」

「そうか。じゃあそのデータを参考に人格プログラムに搭載する。ありがとな佐夜」

 すると佐夜はそっぽを向いて長い髪をいじりながら小言で呟いていた。しかし、すぐに佐夜はその仕草をやめ、唐突に思い出したかのように話しかける。

「完成したらさ、わたしもそのニューマン?って見てもいい?新しい創作意欲になるかもしれないし、あと、わたしが作った人格がどんな反応するか見てみたい!それに、話しかけてみたい!」

「わかった!わかったから!日時は後で知らせるから期待して待っていろ」

 ちょっと鬱陶しくなった佐夜を振りほどき、俺は堀田と一緒に佐夜の自宅を後にする。佐夜は俺たちの姿が見えなくなるまで大声で約束忘れないでよー!と叫んでいた。
 帰り道、俺は次にやるべきことを考えていた。アダムの調整は既に完了しており、ある程度の常識も教えておいた。この性格の設定を入力すればニューマンの完成である。

「弁田氏。相談があるざんす」

 突如、堀田に話しかけられ俺は立ち止まる。俺は振り返りどうしたと尋ねた。

「その性格の設定プログラムを一度某に渡してもらえないでざんすか?」

「何故?理由を聞いてもいいか?」

「その性格から外見を想像したいざんす。例えばざんすけど、女性口調なのに容姿が渋いおっさんのロボットなんて流石に弁田氏も嫌じゃないざんすか?」

「あー、嫌だな。それはないわ」

 その言葉をイメージしてしまった俺はちょっとだけ顔が青く染まる。
 確かに性格と容姿は大切だ。先ほどの例もごく一部の人には受けるだろうが、大勢の人間は拒否反応を出てもおかしくない。

「なら、いったんこのデータは堀田に預けておくよ。見た感じ、ちょっと入力してインストールすればすぐに性格の設定は完了できそうだ。ついでに自宅まで送ろうか?」

「自宅じゃなくてラボでいいざんすか?このままラボに戻ってさっさと作成したいざんす」

 こうして俺は堀田をラボに送った後、自宅に戻っていった。そしてその三日後、俺が思っていた以上に早くロボットが完成したと連絡が入り、嘉祥寺や白橋、佐夜に連絡を入れみんなが集まれる日にニューマン試運転を行うことにした。
 そして十月に入ろうとしたその時、ようやくみんなの予定が整ったため俺は一足早くラボに向かって性格の設定を入力していた。

「俺様達が完成したと連絡してからずっと音沙汰なしだったからな。怠けていたのか弁田?」

「俺が来ても門前払いした馬鹿は誰だよ?おかげさまで直前になっちまったじゃないか暴君?」

 中田の暴言に俺はちょっとだけ怒りを感じつつも目の前の作業を行っていた。皆が来るまであと一時間弱。性格を入力するのにそこまで時間はかからないとはいえ、周囲の人間環境的にあまりいい気分とは言えなかった。

「弁田。話は変わるが、最近鮫島部長にあったぞ?」

「ふーん。………まじで?どこで会ったんだ?」

「秋葉の駅前のジャンクパーツが売ってる場所だ。たまたまパーツを買いに来た時にあったんだ」

「へー。偶然ってあるんだねぇ~」

「鮫島部長の真似のつもりか?だったらやめとけ。お前には絶対に似合わない。そういうのは真夏の暑い日に涼しくするためにやってくれ」

「要するに凍えるほど滑ってるってことだろ。よし、これで完了だ」

 アダムに性格を入力し終え、俺はニューマンのプログラムを一度切る。これで次に立ち上げたときは佐夜が設定してくれた性格のままに話しかけてくれるはずだ。だが、その前にやらなければならないことがある。

「それじゃあ、中田。あれを貸してくれ」

「わかった。わかっていると思うが絶対に壊すなよ?」

 中田から手渡されたのは立方体に組み立てられたSSDとHDDの塊だった。
 中田と堀田が作成したこの立方体方の装置はアダムの核、あるいは心臓ともいえるパーツである。中田曰く、この装置は六面のSSDをRIDO5に分散させ、そのデータをまとめてHDDにミラーリングしている。データの要領も通常のHDDと比べて多いと自慢げに語っていた。
 他にも色んな機能が搭載されている。また、近日中に新たなものを用意するといっていたが、ロボットやハードを専門としていない俺にとってはとうてい理解できる内容ではなかった。

 アダムの性格プログラムのダウンロードを完了してオレはそのキューブを中田に返却する。

「こいつをニューマンの頭部に入れてくれ。
入れた後はおそらく自動的にプログラムが更新されるはずだ」

「更新された後、アダムは自動的に動くのか?」

「何も不備がなければな。
完成していればアダム自身の意思で動かすことが可能だ」

「そうか。なら、さっさとこれを搭載するとしよう」

 そう言って中田はシーツで隠されたスペースへ入っていき、ガチャガチャと操作をしていた。この奥にニューマンがいると思われる。実物はまだ見ていないので俺も楽しみだ。だが、この気持ちはすぐになんとも言えない感情になってしまう。
 時間になり、ニューマンに関わったメンバーが全員揃い、中田はマイクを持って堂々と宣言する。

「待たせたな。時間になったので公開させてもらう。これが俺たちの集大成。そして俺たちの希望だ。来い!アダム!」

 するとシーツの奥からコツコツと足音を鳴らしてこちらに向かってくる人物、否、ロボットが現れた。性別は女性だろうか。おそらく佐夜の設定した性格が女性だったからだろうか。だがそんなことはどうでもいいぐらいにその姿に目を奪われていた。
 かつて見たプロトタイプとは違い、中田と堀田の情熱の全てが注ぎ込んだロボットは人間と遜色ない。むしろ、ロボットのほうが美しいと思われる。流れるようなセミロングの黒髪は果たして誰を参考にしたのか。この場にいる女性陣を含めて最も美しいだろう。人工皮膚も透き通るように艶やかな肌色である。
 容姿も堀田の会心の出来のおかげか、美人、可憐、おしとやか。そのどれもが当てはまらない。強いて言えば端麗という言葉がふさわしいだろう。
 外見はパーフェクトだ。ではロボットとしての機能はどうか。一歩、一歩とこちらに近づくアダムにメカメカしい音は聞こえない。パソコンを起動している独特のファンの音すらも聞こえない。所見では同じ人間のように思えるだろう。

 完成だ。そう叫びたくなった矢先にアダムが口を開く。

「こんにちわ!!マスターは元気かな?あたしはすごく元気だよ!調子はかなりいいよ!
ところで口調はこんな感じでいいのかな?」

 前言撤回。にこやかな笑顔で笑うアダムはどうやら致命的なダメージを受けたようだ。
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