Another Dystopia

PIERO

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2031年 託された思い(下)

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仕事を終え、定時になった俺は速やかに帰宅した。親が住んでいる実家からの通勤も考えたが、一人暮らしのほうが色々と都合がいいため、現在は新宿駅から離れたマンションに住んでいる。幸いにも裕福な家庭で育った俺は多少の我儘も聞いてもらえる。とはいえ、家賃は基本的に自分が払うし、無職になれば親はすぐにこのマンションを売るつもりでもある。

 カードキーの玄関ドアを開け、俺はノートパソコンを開き、アスクレピオスが送ってきたファイルを確認する。一つは一週間前に読んだ概要書。そしてもう一つは平行世界を観測するアプリだ。このアプリの開発時期を調べてみると、『9ヒa5\%m』と文字化けしていた。このパソコンが未来の技術に対応していないのか、あるいはそれ以前の問題なのかは理解できなかったが。

「さてと、このアプリを使いこなさないとな」

 俺はあらかじめダウンロードしていた自宅のデスクパソコンで『The・LostWorld』を起動する。インストールするのに四十八時間以上かかってしまったために開くことができなかったこのアプリだがようやく開くことができる。(あとで容量を確認したところ、このデスクパソコンの残りのメモリーの七割近くの容量を食っていた)

 デスク画面には巨大な折れ線グラフが常時稼働している。概要書でも確認したことだが、この折れ線グラフこそ、このアプリの価値を表している。折れ線グラフが表している数値は今の世界線がどこを示しているのかを証明している。特定の数値になると折れ線の色が変化し、0以下の値を表す世界線は赤色に、1~100までの値を表す世界線は緑、100以上の世界線は青色で区分されている。
 現在の値は0を下回っており、線色は赤。つまりあの破滅の未来が未だに待ち受けているということである。

「ふぅー。全く仕方ないが、このアプリを完全に理解するためにはかなり時間がかかるな。
だが、なんとなくわかってきたな」

 俺はX軸の先をスクロールすると紫色に変色した四つの点を発見する。俺はその点について調べようと概要書を読み漁る。
 どうやらこの四つの点があの破滅の未来を確定しうる大きな要因、特異点であることを示しているらしい。その概要は『弁田の意識不明』、『人類とニューマンの戦争』、『人類全滅』、『%ka禪#1\;禱』の四種類である。そしてこの特異点の最大の特徴は表示されている限り必ず発生し、連鎖的に残りの特異点も発動してしまうということだ。

「ニューマンの開発は特異点にならないのか。
もしニューマンの開発が特異点だったら嘉祥寺たちになんて説明すればよかったか」

 安堵の溜息を吐き、俺は椅子に深く座りながらもしもの可能性を想像する。ニューマンの開発そのものを中止するという選択肢も一瞬よぎったがそれでは嘉祥寺と白橋は絶対に納得しないだろう。それにニューマン開発は俺の夢でもある。ニューマンと人間を救うために過去に来たのにニューマンの開発をしないというのは本末転倒だろう。
 何より、特異点の一つである「人類とニューマンの戦争」という項目がある以上、世界のどこかでニューマンが開発されることは約束されている。

「しかし、この特異点には謎が多いな。
発生条件や時期は前の世界で何となくわかったが、この最後の文字化けしている特異点。これが一体何を意味しているのか…」

 考えれば考えるほど迷宮の深みに入っていきそうな感覚だった。情報が少なく、結論をつけることができないと速やかに判断した俺は再びアプリを詳しく分析しようとしたが、既に時刻は十一時を過ぎていた。このままでは明日の仕事に影響が出てしまうと判断した俺はアプリを閉じ、シャットダウンさせた後、明日の準備をして床に就くのであった。



 本社の仕事も今日で最終日になり、依頼されていたプログラムの更新も順調に進めていた俺は手を休め少し休憩していた。今は軽く画面を見て間違いがないか軽く確認しているが、このペースだとあと十五分もしないうちに全ての工程が終了するだろう。
 気合を入れなおし、俺は再びキーボードを叩こうとした直後、出鼻をくじかれるように突如メールの着信音が鳴る。メールを開くと相手は白橋からだ。
 要件は先日言っていた食事会の件についてである。既に詳しい詳細は送られてきたのだが、今回のメールの内容は時間に間に合うかどうかの確認であった。俺は時間に間に合うと返信して、改めて最後の仕上げに取り掛かった。

「よし。あとはこのプログラムを木野田部長に提出するだけだな」

 予定通り十五分程度で仕事を終わらせた俺は社内メールでプログラムのメンテナンスと更新が完了したことを木野田部長にメールで送信する。返信が帰ってくるまで俺は事前に自販機で購入していたコーヒーを口にする。コーヒー特有の苦みと香ばしさは疲弊した俺の精神を回復してくれる麻薬だ。加えてコーヒーと一緒に含まれるミルクは砂糖や甘味料と違った甘さを引き出し、さらに飲みたいという誘惑を引き出される。結果、コーヒーはあっという間に飲み干してしまった。

 もう少し味わえばよかったという後悔とおいしかったという満足感を味わっているとデスク画面から木野田部長からの返信が届いた。内容は後日、先日来た渚さんと一緒にプログラムを確認し、不備があった場合はもう一度調整をお願いし、そうでなければそのまま実装するという内容だ。
 この文章を見て、俺の今日の仕事は終わったと判断し荷物をまとめる。定時は若干過ぎていたが、後日調整すればいい。荷物を纏めながら俺はこのオフィスを眺めた。もしタイムリープした後でも同じ道を辿っていたのであれば、おそらくこのオフィスで俺は働いていただろう。また何かやらかして鮫島部長の指示がない限り、再び本社に戻ってくることはないが少しだけ名残惜しく感じつつも俺はオフィスを後にした。建物から出た後はそのまま渋谷駅に向かい、電車に乗る。電車に揺らされ数分後、俺は大崎駅から降り集合場所へ向かった。そこには懐かしき友人が一人待っていた。

「悪い。待たせたか?」

「我が友ベクターよ。
悠久の時より再び相まみえたこと、この運命に感謝する。
さあ、狂宴の始まりは近い。
いざヴァルハラへ行かん!」

 黒革ジャンに黒ブーツと中二病全開の服装に俺は少しだけ笑いそうになり堪える。この服装は大学時代にもよく見慣れていたが、いつまでたってもこの絶望的にずれたファッションセンスにはなれない。
 嘉祥寺がオーバーなアクションと中二病丸出しのセリフを交えながら普段のテンションで俺に話しかけるその姿は服装も相まって周囲の人から見ればさぞ滑稽に思うだろう。
 俺は嘉祥寺の独特の表現方法で表した意味不明な言葉を一つずつ脳内で翻訳しながら嘉祥寺に一つの疑問を問いかける。

「なるほど、要は予約の時間が近いわけだな。
あとベクターは恥ずかしいからポーズだけはやめろ。ところで白橋は?あいつの名義で予約しているはずだから今行ってもお店に入れないか?」

「フっ、案ずることはない。
既に我がグゥレートティーチャーは既にヴァルハラへ向かった。
あとは我が戦友の帰還を待つだけだったが、それも達成された」

「わかった。なら行こうか。白橋を待たせるわけにはいかないからな」

 俺と嘉祥寺は早速白橋が待っているお店に向かった。道中、嘉祥寺は今の会社はどんな感じなのか、我々の計画は進捗なのかなど、雑談を交えて会話していた。

「そういえば、大学を卒業して嘉祥寺は今は何をしているんだ?」

「我は現在最も資金を調達できる職に就いている。
そう、株やFXといったローリスクハイリターンの戦場だ。
常人ならあっという間に飲まれ、闇に落ちるだろうが、我はそんな軟弱な奴らとは違う。
最も、しばらくは戦場は大きく変動しないがな」

 なんて会話をしているうちに目的のお店に辿り着いた。白橋が予約した居酒屋は駅付近のビル内にある個室居酒屋である。エレベーターから降りると受付の他に個室で仕切られている部屋がいくつも並んでいた。俺は受付で名乗ろうとしている嘉祥寺を抑えながら予約した名前を言った。受付は俺たちを案内すると、目的の部屋に辿り着いた。靴箱に靴を入れ、個室の中に入ると見慣れた仲間がそこに座っていた。

「久しぶり白橋。って言っても前に会ったのは一週間前ぐらいだっけ?」

「そうよ。まさか担当のプログラマーが弁田君だったとは思いもよらなかったけど。
先に飲み物の注文は済ませたけど、ビールでよかったわよね?」

「大丈夫だ。そこのハンガーを二つとってくれないか?」

 白橋から受け取ったハンガーを使って上着をかけた後、そのまま嘉祥寺と一緒に個室の中に入る。個室は四畳半の掘りごたつであり中央に大きなテーブルが置いてあるシンプルな個室だった。広いとは思わなかったが意外にも狭いとも感じない丁度いい広さだった。荷物を置いたところで先ほど白橋が注文していた飲み物が届き、俺たちは飲み物にあった器を持つ。

「では、この我が口上を述べよう。
我が戦友たちよ。
戦士となって数多の戦場を駆け巡ったのだろう。
しかし我はそんな戦友を見て「とりあえずかんぱーい!!」ってキョウカンよ!まだ口上すら述べていないのだが!?」

 このまま嘉祥寺に付き合えばビールも冷えてしまう可能性があったのか白橋は強引に乾杯をした。嘉祥寺はやや不満に思ったが「いや、神酒を前にして待てというのが酷な話しか…」といって納得したようだった。
 飲み物を飲みつつ俺たちは最近の調子や何かあったのかなど雑談する。先ほどの嘉祥寺が何をしているのかという質問や、白橋の勤めている会社にはドラマのような派閥が存在したのか、俺が速攻異動になり、研究室送りになったことなど、酒に合う話題はかなり豊富だったため、話が詰まることはなかった。

「嘉祥寺。さっきは路上で聞くべきじゃないと思って言わなかったんだが、生々しい話、大学で稼いでいた時に比べていくら稼いだんだ?」

「我が所持していたのはスズメの落涙程度だったが、現在は大海の如く枯れることは決してない」

「答えになってねぇよ…。まあ、金額は言うわけないとは思っていたから別にいいけどさ。
それに、恰好を見ればうまくいってることは予想がつく」

 俺は嘉祥寺が身に着けているブランド品の時計やアクセサリーを見て稼ぎには成功していることは見て分かった。中でも時計はブランド品の知識が疎い俺でも一目で相当な代物であることは予想できた。白橋に至っては驚きのあまり言葉を失っている。
 すると嘉祥寺は何か思い出したかのようにカバンから一つのUSBを取り出し俺に渡した。

「そうだ我が戦友よ。
貴様にこれを授けよう」

「USBか。一体何が入っているんだ?」

「フフフ、我もコンピューターというものに少し興味を持った。
片手間程度の時間だったが、我は多彩な才能を持っていることに改めて実感した。
天は才能を一つだけでなく二つもこの我に与えてしまったことにきっと後悔しているに違いない…」

「自画自賛も程々にしなさいよ。話が進まないじゃない。
それで、結局これは何なのよ?弁田君も困っているわけだから早く詳細を言いなさいよ」

 嘉祥寺が自分の世界に入ろうとしたところを白橋が引き留める。そこでさらに嘉祥寺が暴走し、さらに世界を展開し続け、最終的に白橋の拳によって幕引きとなる。タイムリープして以降、久しぶりに見たこのやり取りに俺は懐かしいと思ってしまう。だが、このままでは話が続かない。俺はノートパソコンを取り出し、早速USBの中身を除いた。
 USBの中身はPDFで書かれた説明書と嘉祥寺が独学で作り上げたプログラムがあった。独学でプラグラムを作ったことは驚きだが、それ以上に、そのプログラムの名前に俺は背筋が凍った。

「…おい嘉祥寺。お前は一体何を作ったんだ?」

「何だベクター。
我が好奇心にあらがえずそれを見てしまったのだなぁ!!
パンドラの箱を!
しかし残念ながらその程度のスペックではパンドラの箱を完全に理解することはできないだろう」

「だからこそ聞いている。嘉祥寺の口から聞きたい。一体何を作ったんだ」

 俺は真剣に嘉祥寺に問いただす。その態度に流石の嘉祥寺も言葉が詰まり口が止まった。白橋も俺の態度に驚いていたのか空気が一瞬凍り付いた。すると嘉祥寺はコホンと咳払いした後、ようやくUSBの中身について説明を始めた。

「では説明しよう。
我が株取引で資金を稼いでいる合間にプログラム言語について解析していたのだ。
一年かかったが、ほとんどのプログラム言語の仕組みを解読して我なりにアレンジかつ現存するプログラム言語でできないこともできるように言語を開発したのだ」

「ちょっと待って?今なんて言ったの。嘉祥寺、あんた今『プログラム言語の開発』って言わなかった?」

「その通りだキョウカンよ。
しかし、我ではプログラム言語を開発するだけでそれを使いこなしかつプログラミングすることはできない。
故にこのプログラム言語は我が戦友である弁田に預けようと思っている。
使い方はPDFに記載している。
願わくばその言語を使いこなせるようになってほしい」

 俺は驚愕と同時に嫌な予感を感じた。嘉祥寺が言語を開発したのはもっと未来の話だ。俺がタイムリープして本来の職場が異なってしまったために既に異変が起きたのだろうかと考えてしまう。俺は記憶が正しければ間違いなく知っているそのプログラム言語を嘉祥寺に確認する。

「その言語の名前は決まっているのか?」

「では聞くがよい!
この言語の名は『Velu言語』。
名前に意味はないが語呂が良かったから決めた。
故に名の由来を聞くのは禁忌である」



 嘉祥寺の衝撃的な発表が終え、俺と白橋はVelu言語について質問をし続けていた。しかし、過去にVelu言語に携わっていた俺でも天才の領域に足を踏み込んでいる嘉祥寺の説明を聞いたところで全てを理解することは不可能だった。一通り質問を終えた俺はこの集まりが何のために集まったのか思い出す。「この集まりって俺たちの会社の設立について話す予定じゃなかったか?」と。俺はその言葉を二人に伝えた所で話題を変え、会社について話し合うことにした。

「さてと、資金調達とインフラ、取締役社長は嘉祥寺が。経理とか仕事を持ってくるのが白橋。俺がプログラミングとその設計図を担当っていうのがあの時決めていた役目だったな」

「そうね。でもいくつか問題点があるからそこを指摘していいかしら?」

「奇遇だなキョウカン。
我も同じ所存だ」

「まあ、学生時代に作った計画だからな。変更の一つや二つぐらいは想定内だ。
それじゃあ、白橋から意見を聞いていいか?」

「それじゃあ、この資料を見てほしんだけど…」

 白橋は鞄の中にあらかじめ用意していた資料を俺たちに渡した。その内容は将来会社を創設するに至って必要最低限のものを訴えるものであった。ほとんどの項目はその条件をクリアしていたが、たった一つだけ項目がクリアできていないものがあった。その文字を見て俺は白橋が言いたいことが理解できた。

「なるほど。人材か」

「うん。少なくとも三人で会社を回すのはほぼ不可能よ。
ましてや社内だけで仕事をするならなおさらね。だからせめてあと十人は欲しいと思っているわ」

「十人か…。打倒の人数だな。嘉祥寺、会社の資金だと何人までなら余裕があるんだ?」

 嘉祥寺は一考しながらぶつぶつと呟く始めたが、しばらくすると考えが纏まったのか嘉祥寺の考えを俺たちに伝えた。

「我が会社が設立したとして、売り上げにもよるが支配下におけるのは我々を除いて最大十二人までだな。
それ以上支配下に置けばやがて革命が起き、我が資金は一気に底をつくだろう」

「要は倒産ってわけね。ていうか、なんで私たちは除いているの?」

「愚問だな。
最悪我らはサビ残すればいいのだ。
そうすれば支配力の低下は免れる」

「馬鹿なの?ねえ?本当に馬鹿なの?いくら何でも私たちがサビ残する時点で会社としては終わってるわよ!」

 白橋と嘉祥寺は言い争っている間に俺は白橋の考えをまとめた。要は人材を十人程度欲しいのだ。幸い、資金の都合上最大十二人までなら問題ない。しかし、肝心な当てがない。白橋はともかく、俺や嘉祥寺はその伝手はほぼ皆無と言っていいだろう。だが、これで一つ目の方針が決まった。

「人手の制限は問題ないと思うが、問題は誰が会社に入るかだな。
生憎、俺は職場で孤立気味だからそう簡単に人は集まらないと思う。嘉祥寺も然りだ。そうなると後は白橋の伝手を頼ることになるが…」

「多分無理かもしれないわ。
私のこの業界って、それ相応の目標と覚悟を決めて入社してる体育会連中だから。私みたいな人は多分いないわよ」

 少しだけ期待していた分、少々落ち込む。まあ、わかっていたことだが、まずは他に会社に入社してきてくれそうな人物をスカウトすることから始めなければならないようだ。とりあえず、その結論に至った俺は白橋にスカウトできそうな人物がいれば是非誘ってくれと伝える。

「それじゃあ、次は嘉祥寺の番だが、一体何を心配しているんだ?」

 俺と白橋は嘉祥寺に注目を集める。すると嘉祥寺はその視線に負けず堂々と高らかに己の意見を言い始めた。

「我々の拠点と研究所。
つまりは会社とラァヴォについてだが、場所や規模はどうする?
それ以前に、会社は一体どこに建築するつもりなのかぁ?
それによって俺のやる気が非常に変わるのだが?」

「…深く考えたことはなかったわね。
会社を立てるとは言ったけど、それはビルを借りるのか、それとも一から建築するのかまでは一切決めていなかったわ」

 白橋の言う通り、とりあえず会社を創るということは目標として活動してきたが、そういったことまでは詳しく考えていなかった。前の世界では一室の小さな小部屋から始まったわけだが、そのせいで研究が充実しなかったことは苦い思い出だ。

 本当なら、色々設備について口出ししたいところだが、あくまで購入やそういった面倒な手続きは嘉祥寺がやってくれるのだ。ならば先に彼の意見を尊重しようと考える。

「資金を自由にする権利は嘉祥寺が持っているわけだからどこに建てるかは嘉祥寺の自由だが、ここがいいとかこだわりはあるのか?」

「無論。
都内かつ、温泉旅館さらに屋上プール。
そして研究を集中できる最新鋭の設備が付き、バーに食事が可能。
なによりも高台から愚民を眺める最高の景色を所望する」

「うん。がんばれ。それがお前の目標なら自力で頑張れ」

 嘉祥寺には申し訳ないが、そんな建物はおそらく自力で建築しない限りは実現不可能だろう。とりあえず建物に関しては嘉祥寺に任せておそらく大丈夫だろう。念のために何回かは話しておく必要はあるが。

「こう高らかに宣言しないと我の真の力が目覚めないのでな」

「はいはい。とりあえず、建築関連は嘉祥寺に任せるわ」

「同感だ。さっきも言ったがほとんどの資金は嘉祥寺のものだからな。建物や設備ぐらい、自由にするさ」

 そこで俺たちは問題点についての相談を終え、最後に俺はこれからやるべきことを二人と話し合うことにした。その内容はどうやって人を集めるのかとその基準である。

「さて、どうやって人を集めるか。それがこれからの課題だな」

「私の会社、世間では有名なホワイト企業として知られているし、福利厚生もしっかりしているからそう簡単にやめることはないわね。引き抜きとかはまず無理ね」

「なら我の力で大学時代の下僕を招集しよう。彼らは選りすぐりのスーパーエリートだ」

「冗談じゃないわよ!
あんたが集める人材は大半はまともな人間じゃないからお断りよ」

 白橋の意見に俺は半分だけ同意する。大学時代、嘉祥寺が所属していた二次元三次元研究サークル『HOME』のメンツは何度か顔を合わせたことがあるがあまりにも濃すぎる。『中二病末期症状嘉祥寺』を筆頭に『立っているだけでHENTAI記者寺田』、『1/1スケール天才造形師(しかし、18禁限定)堀田』、『名実大学で最も危険な美人小林』の四人で構成されているが、彼らの問題っぷりは大学理事会に何度も話題に出たと風の噂で聞いたことがある。過去に一度、HOMEのメンツが全員ろくでもないという理由でサークルそのものが潰されかけたことがあったらしいが、嘉祥寺が説得したおかげでサークルが生存したのは当時の伝説である。余談だが、その被害者が白橋であったため彼女はHOMEに所属している元凶となったその物を心底嫌っている。

 だが、本心ではそれも悪くないと考えてしまう。確かに性格や態度といった面では最悪一歩手前の彼らだが、一点に特化したその技術と実力は嘉祥寺と同等かそれ以上にずば抜けている。しかし、そんなメンツが一カ所に集まった会社など、地獄絵図になるのは目に見えている。俺はすぐにその考えを否定し、すぐに代案を二人に提示する。

「なら、会社でこの人ならいけるという感じでスカウトしてみたらどうだ?
最終的には当人たちの自己判断になってしまうが、それなら人材もすぐに集まると思う」

「わかったわ。とりあえず、現状はそうしていきましょう。嘉祥寺も問題ないわね?」

「無論だ。
しかし、彼らも我と同じ天才集団なんだが…」

「…馬鹿なの?ほんっっっっとうに馬鹿なの!?あんなメンツが入ってきたら会社は一気に終わるわよ!?」

 再び嘉祥寺と白橋の言い争いが始まり、俺は閉まらないこの会議にやれやれと思いつつ、その二人の様子を肴にして酒を飲んでいた。できればこんな日常がずっと続き、会社を立ち上げた後でこのような日常が続いている。そんな未来に乾杯して俺はグラスを空にした。
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