千切れた心臓は扉を開く

綾坂キョウ

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第二十四章 覚悟

24-1 遠い、いつかの日

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「みくちゃん」


 遠い日の、声がする。


「また、変なやつに声かけられてただろ」


 ほんの少し、怒ったような声。だから慌てて「でもね」と釈明する。


「さびしそうに、呼んでたの。あたしのこと。そう、聞こえたんだもの」

「だめ。いつも言ってるだろ。じいちゃんが、『みくちゃんは、他の子よりも見えないモノに声をかけられやすいから、ちゃんと守ってやれよ』ってうるさいんだって」


 そう言って半ば無理矢理に握ってくる手は、しかし温かい。


「ぜったい、はなすなよ。俺といれば、だいじょうぶだから」


 それは、遠い幼い日の、小さな約束。
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