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第十一章 カガチの社
11-1 胸を張って
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玄関で靴をはいていると、通りかかった母親が「あら」と驚いた顔をした。
「どこか行くの?」
「うん。モモと、神社行ってくる」
モモが、頭をぺこりを下げる。母親は一瞬、眉をひくりと動かしたが「そう」とだけ頷き、「いってらっしい」と微笑んだ。
「天気良いねぇ」
玄関から出るなり、モモが大きくのびをした。言葉につられ、美邑も空を見上げた。まっさらな空は、昨日独りで見たときには嫌味さすら感じたのに。モモと一緒に見上げる今は、ただただ清々しい。
「――ミクちゃんが、初めて朱金丸を見かけたの。神社の階段って言ってたもんね」
歩きながら話しかけてくるモモに、美邑は「うん」と返事した。背筋を伸ばしスタスタと歩くモモに追いすがるように、ぱたぱたとやや駆け足になる。身長はほぼ同じなのに、どうしてこうも差が出るのかと、美邑は首を傾げた。
「待ってよ、モモ」
「ミクちゃんはね、ちまちま小股で歩くから遅いの。もっと胸張って、骨盤の上あたりから足が生えてる感じで歩かないと」
その話自体は、テレビで観たことがあゆような気がする。首を傾げながらも、美邑は言われた通り意識してみることにした。
胸を張る、足は上の方から動かす――モモが堪えきれないように吹き出すのに、そう時間はかからなかった。
「ミクちゃん、それじゃロボットか、軍人さんの行進みたい」
モモに言われるまでもなく、美邑もなにかおかしいとは感じていた。背筋を伸ばすことを意識しすぎて、手足までピンと、針金が通ったようになってしまう。
口を尖らし、美邑は普通の姿勢に戻った。
「難しいんだもん。それに、モモだって普段、そんな早歩きしないじゃん」
「だって、ナメられたら困るし」
胸を必要以上に反らし、モモがきっぱりと言った。
「誰に?」
「ミクちゃんを狙う、化け物」
「こういうのは気合いが大事なの」と、訳知り顔だ。「心霊番組とかで、よく言うじゃん」と。
「あたしを狙う、化け物って」
「だから、えっと。ナラズ、だよね? そういうのが、また襲ってくるかもしんないじゃん」
ぎくりと、身体が強張るのが自分でも分かった。
「……目、もう普通だし。見えなくなったんじゃないかな」
「でも、昨日帰ってから外出るの、これが初めてなんでしょ? 目の見た目が普通だからって、また見ないとは限らないし」
ハキハキと、モモは淀みなく続けた。「忘れるだけじゃ駄目だ」と啖呵をきった美邑よりも、ずっといろいろな可能性を考えてくれている。
「大丈夫だよ、ミクちゃん」
隣に並んだモモが、ぽんと背中を軽く叩いてきた。
「もしものときは、わたしが守ってあげるからさ。怖がんないで」
「……うん」
頷きながらも、「モモはあの化け物を、見ていないから」と思ってしまう。「モモはなにも、知らないから」と。
(あたしって……嫌なヤツ)
心配して、連れ出してくれた友達に。そんなことを思うなんて。
だが怖いのだ。また、アレに追いかけられたらと思うと。
身体を固くする美邑の手を、モモが取って握った。
「ほら。行こ」
にこりと笑うモモに、美邑も手を握り返し、頷く。二人並び、残りの道のりを――少しだけ胸を張って――急いだ。
「どこか行くの?」
「うん。モモと、神社行ってくる」
モモが、頭をぺこりを下げる。母親は一瞬、眉をひくりと動かしたが「そう」とだけ頷き、「いってらっしい」と微笑んだ。
「天気良いねぇ」
玄関から出るなり、モモが大きくのびをした。言葉につられ、美邑も空を見上げた。まっさらな空は、昨日独りで見たときには嫌味さすら感じたのに。モモと一緒に見上げる今は、ただただ清々しい。
「――ミクちゃんが、初めて朱金丸を見かけたの。神社の階段って言ってたもんね」
歩きながら話しかけてくるモモに、美邑は「うん」と返事した。背筋を伸ばしスタスタと歩くモモに追いすがるように、ぱたぱたとやや駆け足になる。身長はほぼ同じなのに、どうしてこうも差が出るのかと、美邑は首を傾げた。
「待ってよ、モモ」
「ミクちゃんはね、ちまちま小股で歩くから遅いの。もっと胸張って、骨盤の上あたりから足が生えてる感じで歩かないと」
その話自体は、テレビで観たことがあゆような気がする。首を傾げながらも、美邑は言われた通り意識してみることにした。
胸を張る、足は上の方から動かす――モモが堪えきれないように吹き出すのに、そう時間はかからなかった。
「ミクちゃん、それじゃロボットか、軍人さんの行進みたい」
モモに言われるまでもなく、美邑もなにかおかしいとは感じていた。背筋を伸ばすことを意識しすぎて、手足までピンと、針金が通ったようになってしまう。
口を尖らし、美邑は普通の姿勢に戻った。
「難しいんだもん。それに、モモだって普段、そんな早歩きしないじゃん」
「だって、ナメられたら困るし」
胸を必要以上に反らし、モモがきっぱりと言った。
「誰に?」
「ミクちゃんを狙う、化け物」
「こういうのは気合いが大事なの」と、訳知り顔だ。「心霊番組とかで、よく言うじゃん」と。
「あたしを狙う、化け物って」
「だから、えっと。ナラズ、だよね? そういうのが、また襲ってくるかもしんないじゃん」
ぎくりと、身体が強張るのが自分でも分かった。
「……目、もう普通だし。見えなくなったんじゃないかな」
「でも、昨日帰ってから外出るの、これが初めてなんでしょ? 目の見た目が普通だからって、また見ないとは限らないし」
ハキハキと、モモは淀みなく続けた。「忘れるだけじゃ駄目だ」と啖呵をきった美邑よりも、ずっといろいろな可能性を考えてくれている。
「大丈夫だよ、ミクちゃん」
隣に並んだモモが、ぽんと背中を軽く叩いてきた。
「もしものときは、わたしが守ってあげるからさ。怖がんないで」
「……うん」
頷きながらも、「モモはあの化け物を、見ていないから」と思ってしまう。「モモはなにも、知らないから」と。
(あたしって……嫌なヤツ)
心配して、連れ出してくれた友達に。そんなことを思うなんて。
だが怖いのだ。また、アレに追いかけられたらと思うと。
身体を固くする美邑の手を、モモが取って握った。
「ほら。行こ」
にこりと笑うモモに、美邑も手を握り返し、頷く。二人並び、残りの道のりを――少しだけ胸を張って――急いだ。
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