千切れた心臓は扉を開く

綾坂キョウ

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第三章 バケモノ

3-2 バス

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「おはよう、川渡さん……」


 バスで名前を呼ばれ、美邑は慌てて顔を上げた。目に残る眠気を擦って追い払うと、中途半端な笑顔の少女が、こちらを見ていた。


「あ……澤口さん。おはよう」


 同じクラスの澤口みえ。更に言えば、小学生の頃にも、同じクラスだったことがある。つまりは、彼女も一角地域に住む顔馴染みだ。

 澤口は巻いた毛先を弄りながら、半笑いのようなものを浮かべている。おそらく、自分も似たような顔をしているのだろうと、美邑は自覚していた。


「今日、数学で小テストやるって言ってたよね。ちょっとユウウツなんだけど」


 澤口の言葉に、「分かる」と頷く。ちらりと、前回の授業の範囲を思い出しながら、なにを言うべきか考えながら口を開いた。


「因数分解も、もうこれ以上公式覚えらんないっていうか」

「だよねー。教科書見てやっちゃダメかなぁ」


 先程よりも幾分リラックスした表情で相槌を打ってきた澤口は、しかしバスが次のバス停に停まった途端、きょろきょろとしだした。その顔が、友人を見つけパッと明るいものになる。


「あ、おはよ!」

「みえちゃん、おはよー。川渡さんも」


 彼女も、クラスメイトの一人だ。自然な様子で近づいてくる澤口に挨拶した彼女は、少し離れた位置から美邑にも手を振ってきた。それに手を振り返し、再び動き出した外の景色を眺める。

 窓に反射した自分の顔は、やはり今の澤口と似たような表情を浮かべていた。
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